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最後の1日  作者: hyo
第1章
4/16

04

何曲か流れたのちCDの再生は終わったが、春奈の過去への旅はまだまだ続いていた。


半年もかかったバンドメンバー集め、何とかこぎつけた自分たちの卒業式での初ライブ、何度も何度も行った路上ライブ。

春奈は目を開けると、CDを発掘した棚へ再び手を伸ばした。

このCDがここにしまってあるということは、もう一つ思い出の品が眠っているはずだった。


「あったあった。やっぱり。」


取り出したのは、ボロボロの青い大学ノートだった。

表紙には黒のマジックで、「ワンズ」と書き殴られている。

CDに書いてあった日付と同じ筆跡に見える。


多分、俊の字だ。


春奈は再びソファーへ座り、ゆっくりと表紙をめくった。


「2020年5月18日

ようやくこのノートを使う時が来ました!俊、宏樹、大輔、剛、そしてマネージャーの春奈。このノートはこのバンドの活動記録として、私が付けていきます。目指せ武道館!ワンズ、発足!!」


最後に加入した剛が加入時に放った一言「つまんなかったら1年で辞める」から付いたこのバンド名が、実に7年もの付き合いとなるとは、発足当初は考えもしなかった。

売れたら改名するといって、とりあえず仮で付けた名前だったからだ。



最初のページにあったように、このノートはワンズの活動記録だ。

毎日書いていたわけではない。

路上ライブや公演、メンバーの誕生日パーティーの様子など、何か特別なことがあった時に付けていたものだ。

ライブ中のお客さんの表情や曲の評判、感触など、真面目なことも沢山書き綴られている。

高校の卒業ライブ、取り立ての免許で車を出した東京遠征、初のライブハウス。

追っかけとまではいかないが、ライブをすれば毎回顔を出してくれるファンのこと、我ながらよくまとまっていた。


ノートも後半に差し掛かった頃、春奈はとあるページでページをめくる手を止めた。

この日の記録は、いつもと雰囲気が違っていた。

「2026年8月15日

東京遠征。お盆にかかっているからか、今日はお客さんは少なめ。


10年後、東京でライブ。」


「10年後。なんだっけ、これ。」


10年後の部分は春奈の字ではない。これもおそらく俊の字だろう。

私が書き途中のところを横から引ったくったのか、ライブの記録もまともに書かれていない。


「26年の10年後、今年だ。」


なんて偶然と呟きながら、春奈はネットを繋いだ。

ワンズのホームページを見てみよう。

当時はみんなネットに疎かったため、手探りでなんとか完成させたホームページ。

ライブなどの活動予定を全てアップするのも春奈の仕事だった。


「ホームページ自体消した記憶は無いけど、まだ残ってるかな。解散してからもう何年だっけ。」


『ワンズ』と入れて検索してみると、全く関係のないページが画面いっぱいに広がった。

絞り込むにも都合のいい言葉が思い浮かばず、しょうがなく上からスクロールしていく。

当時は閲覧数もそこそこあり検索しても最初の方で引っかかっていたが、解散してから8年の内に滅多に閲覧されなくなったホームページは、4ページ目の中頃で埋もれるまでになってしまっていた。

とりあえずトップページへのリンクを押してみる。


突然、携帯の着信音が部屋中に鳴り響いた。

何かの警報かと身構えたが、ただの電話だとわかり番号を確認すると、見たこともない数字が並んでいた。


「なんだろこの番号、海外?」


災害時に、混乱に乗じて悪質な電話を掛けてくるような騒動も聞いたことがあり春奈も身構えたが、それにしてもあまり見たこともない番号のパターンだ。

どうせ最後の1日だと、意を決して恐る恐る通話ボタンを押す。

どんな荒々しい言葉が飛んでくるかと思えば、電話から聞こえてきたのは言葉遣いの優しい男性の声だった。

それとほぼ同時に、読み込みが終わったワンズのホームページが画面に表示される。


「いきなりお電話を致しまして申し訳ありません。春奈さんのお電話で間違いありませんでしょうか。」


春奈は思わず携帯を落としそうになった。

ワンズのホームページには、まさに今日、東京でライブが行われる告知がデカデカと掲載されていた。

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