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最後の1日  作者: hyo
第3章
16/16

17

会場がしんと静まる。

視線は自然と真ん中に立つ俊に集まっている。


もう1時間以上、歌い続けてきた。

もとからワンズを知っているお客さんは、やはりほとんどいなかった。

昔はよくやっていたコールアンドレスポンスもほとんど返ってこない。


それでもワンズの歌と会場の雰囲気に慣れてくると、お客さんは徐々に乗り、声も出てくるようになってきた。


気付けば残すはあと1曲。

あっという間だった。


このライブはいつから始まっていたのだろう。

俊はふと考える。


1時間前、ライブを始めた時。

数時間前、会場に着いた時。

3日前、東京へ向けて出発した時。

7日前、地球滅亡が発表された時。



私ね、アメリカに行く。



10年前、由美が言ったその言葉が、不意に脳内に再生される。


夏の、よく晴れた暑い日だった。

普段は見ているこっちが暑くなるほど厚手の服を着ている彼女が、珍しく薄手のワンピースだったのをよく覚えている。

簡単に折れてしまいそうなほど細い手足。

心なしか、顔もやつれて見えた。


彼女は何も打ち明けず、約束だけを置いて、旅立ってしまった。

その旅立ちの意味を、俊も、みんなも、何となく察していたと思う。

誰も口に出さなかったけれど。

春奈は、静かに泣いていたっけ。



「僕らの歌は、皆さんに届きましたか。」


声が少しだけ震えている。


「僕らの声は、音は、皆さんに届きましたか。」


怖いのだ。

この時間が終わってしまうのが。

約束が、終わってしまうのが。



「10年後、東京でライブしてよ。」


アメリカに行くと行った彼女は、そう続けた。


「いやもちろんさ、その頃にはこっちでライブするのが当たり前になってるかもしれないしけど。10年後、私のためにライブして。1回でいいから、お願い!」


なぜ10年後なのかは、最後まで教えてくれなかった。



「僕らには、とある友人と結んだ大事な約束があります。約束を結んだあの日から、10年後にライブをすること。今日がその、約束のライブです。」


俊の言葉に、会場が1つになるのを感じた。

メンバーが、お客さんが、俊の言葉を逃さぬよう、静かに聞き耳を立てている。


「バンドが解散して8年。俺が歌うことを辞めて6年。気付けばみんなバラバラで、ろくに連絡も取らなくなって。きっとバレてたんだと思います。だから10年後なんて設定して、無理やりにでも再結成させたんだろうなって。」


確かにと言う大輔の声は、叫びすぎて掠れている。


「今日こうして歌ってみて、思い出しました。俺は6人で歌っていた、あの頃の音楽が好きだったんだなって。」


やっぱりと、俊はメンバーの方へ振り返った。


「俺、ここで終わりにしたくない。もっともっと歌っていきたい。春奈と由美も入れて、ちゃんと6人で。ダメかな」


誰も答えない。

しかし表情をみれば、返事なんていらないことは明らかだった。


「でもさ、今日地球最終日だ、、」


大輔の声を遮るように、バタンとドアが開く大きな音がした。

俊は思わず視線をドアの方へ投げる。

誰なのかは、すぐにわかった。


彼女は持っていた携帯電話を、俊たちに見せるように高く上にあげた。

何が写っているかは分からない。

ただ彼女の、彼女たちの思いは伝わった。



歌って。



俊は頷き、マイクを握った。


「今日最後の曲です!これからもワンズをよろしくお願いします!」


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