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最後の1日  作者: hyo
第3章
15/16

16

電話を切った春奈は、もう一度ワンズのホームページを見た。

ライブの日付は今日だ、間違いない。


会場は名前を見ただけでわかった。

前に1度ライブで使ったことがある。

場所も覚えている。


せっかく最後の日だからと、用事もないのにしっかりメイクしておいてよかった。

春奈は素早く着替え、小さなカバンにスマホを放り込んで家を飛び出した。

駐輪場から自分のママチャリを引っ張り出し、立ち漕ぎで勢いをつける。


住宅街を抜け駅前に出ても、街はガランとしていた。

店はほとんどシャッターを閉め、車もバスもタクシーも走っていない。

歩いている人もほとんどいない。

みんな最後の日くらい、家でゆっくり過ごすのだろう。


ライブはもう始まっている時間だ。

会場までは少なくとも1時間はかかってしまう。

俊たちは何時間くらい歌うだろう。


頬が冷たく感じて、春奈は自分が泣いているんだと気がついた。

涙が風に触れて、ひんやりとしている。


ばかだばかだばかだ。


誰もいない道を駆けながら、春奈は叫んだ。


旅立つ少し前に、由美は春奈にだけ打ち明けていた。

自分が病気なことも。この先が短いかもしれないことも。



私ね、アメリカに行く。

ドナーが見つかったかもって。

ううん、まだわからないんだ。

実際に手術できるかは、向こうで検査してみて初めて分かるんだって。



怖いと言う由美の声は、いつもより少し小さかった。



難しいんだって。

手術できたとしても、成功する確率は半分とか、もしかしたらもっと少ないかも。



ワンズの姿に自分を重ねているんだと、彼女は笑った。



初めて見た時から、そんな気がしてたの。

ごめんね、こんなのと一緒にするなよって言うかもしれないけど。

ライブの出来栄えとかお客さんの反応で一喜一憂して、まるで私が検査結果をみるみたいで。


少しずつ勢いが出てきたみんなを見て、すっごい勇気もらえてたんだ。

もしかしたら私もって。


そしたら、先に私にこんな機会が来た。

いや、周りはチャンスだって励ましてくれるけど、正直チャンスなんかじゃない。

だって失敗したら、全部終わっちゃうんだよ。

死んじゃうんだ。


でも、行くって決めた。

逃げないって決めた。

みんなが歌ってる姿みて、自分一人だけウジウジしてる場合じゃないなって。



生きたい。



あの日。

俊が辞めると言ったあの日。

怖かった。

私にとってワンズが無くなることは、由美の死と同じだったから。


そうして私は現実から目をそらすようにあの場から逃げ出した。


記憶に蓋をして、奥底にしまい込んだ。

しまったまま、忘れてしまっていた。



みんなは覚えてた。

覚えてくれていた。



もしかしたらね。

ワンズが活動を辞めちゃったらさ、みんなバラバラになっちゃうかもって。

でもこの約束があったらさ、いやでも10年後に再会するでしょ?

そしたらもう大丈夫。

きっとみんなはこの先も、ずっと繋がっていられる。


そこに私も一緒に入れたらいいなぁ。

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