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会場には思ったよりも多くお客さんが入っていた。
舞台上から見れば、後ろの方まで満遍なく埋まっているように見える。
ただ実際は一人一人の間にかなりの隙間があるから、会場のキャパシティでみると半分くらいの埋まりぐらいだろうか。
皆がワンズのファンというわけでは決してない。
俊が見える範囲では、知った顔はほとんどいなかった。
宣伝なんてホームページに乗せた程度だし、電車も動いていないのだ。
きっと会場近くに住む人が、動きのない毎日に飽き飽きして観に来たのだろう。
それでもよかった。
多ければ多いほどよかった。
その方が由美に、春奈に届くような気がするのだ。
今や今やとウズウズする観客に一度背を向け、俊はメンバーを振り返った。
宏樹は緊張で貧乏揺りを隠せていない。
剛が持つドラムのスティックは、俊が見てもわかるほど小刻みに震えている。
大輔は堂々と立っているものの、顔にへばりつけた笑顔はへの字に引きつっている。
これだけの人の前に立つなんて、みんな久しぶりなのだ。
3人の視線が、俊に集中する。
スタートの合図を送るのは、俊の役目だ。
「いくぞ。」
俊の合図に、剛がスティックを振り下ろす。
観客の大きな声援が舞台上に、俊の耳に届く。
俊はくるりと観客に向き直り、叫んだ。
「最後の1日、盛り上がっていくぞ!」