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最後の1日  作者: hyo
第2章
12/16

13

「解散って。細々とでも続けて行こうって話したばっかりじゃん。急に、何で?」


春奈の顔は、怒りと困惑が混ざりあって、見たことも無い表情になっていた。

ワンズのメンバーとは既に話を付けていた。

春奈を最後に選んだのは、中途半端な決意では春奈を説得できないとわかっていたからだ。

その証拠に、今にも泣き出しそうな春奈の目を見て、俊の心は早くも折れそうになっている。


「私が東京に行くから?」


春奈は就職先を東京に決めていた。

内定が取れたときは大喜びで、東京の文化をワンズに取り込むんだなんて言っていたっけ。

違うと、俊ははっきりと言った。

春奈が東京に移る話はもう1年も前に聞いて、解決したことだ。


「事務所に所属しようと思う。声がかかったんだ。新しいバンドを組んで、もう一回ちゃんと音楽活動したい。」


俊が説明する間、春奈は口を挟まなかった。

誰もいない部屋の中で、俊の耳に入るのは時折春奈が鼻をすする音だけだ。

俯いてしまい、表情もよく見えない。


「約束は?」


かき消えそうな声を、俊は飲み込むまで時間がかかってしまった。

春奈が顔を上げる。


「約束は?由美との約束。どんな形でも、由美が帰ってきたときに迎えられるように歌い続けるんだって、みんなで誓った約束。俊だけが歌ってればいいの?由美は私たちの、ワンズの音楽をって言ってくれたんじゃないの?」


今度は俊が俯く番だ。


「何が夢を追いかけるよ。たった一人の大事な想いを捨てて追いかける夢なんて、そんなの叶いっこない。叶いっこないよ。」


すぐに消えてしまう水蒸気のような声を残して、春奈は部屋を出て行ってしまった。


「あーあ、盛大にやっちゃったな。」


春奈と入れ違いに、大輔が部屋に入ってきた。


「聞いてたの?」


大輔は首を横に振る。


「でも、準備はしてたよ。何を喋ってどうなったかは聞かなくても大体わかるし。宏樹と剛は今春奈の方に行ってる。」


ヘロヘロと、俊は机に寄りかかる。

準備の良さに思わず笑ってしまった。


「情けない顔すんなよ。俺らは俺らで、お前を後押ししたんだ。由美にも春奈にも謝るのはお前だけじゃない。俺らもなんだからな。」


そのためには、と言いながら、大輔は俊の肩を思いっきり叩いた。


「一発でも二発でも、でっかく当てて有名になってもらわないとな!送り出した俺らにはちゃんと見る目があるんだってさ!そんで、」


あと何年だっけと聞く大輔に、俊は指を折って数える。


「36年だから、あと8年かな。」


先は長いなと、大輔は笑った。


「8年後、どんなことがあっても、ワンズでライブやろう。」

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