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待ち合わせ10分前、指定された喫茶店はちょうどランチのタイミングが重なって、外にまで列ができるほどになっていた。
他にライバル店も少ないから、この時間はどこの店もこんな感じだろう。
もう少し違う時間にすれば良かったか。
集合時間にはまだ早いが、もしかしたらもう来てるかもしれない。
そんな予想は、店の中に入ってすぐ、答えとなった。
電話で聞いていたのとそっくりな声が、混み合った店内に響き渡ったのだ。
「小田切君、こっちこっち!」
この混雑した店内で、1人で4人がけのテーブルを占領した男が、両手を高く上げてブンブン振っている。
ぽっちゃりとしたまん丸の顔、おかっぱ頭に銀縁の丸眼鏡がよく似合っている。
まさにあの声のイメージ通りだ。
俊は集まった周りの視線を振り切るように、長瀬と向き合う位置に素早く腰を下ろした。
「いやーこんなに早く会えるとは思わなかったよ!ささ、まずは何か頼まないとね。」
テーブルには既に長瀬の飲み物が置いてある。しばらく時間が経っているのか、グラスの外についた水滴が落ちて水たまりのようになってしまっている。
長瀬はテキパキと俊のアイスコーヒーを注文すると、胸ポケットから名刺入れを取り出した。
「ちゃんと自己紹介しないとね。長瀬と言います。よろしくね。」
わざわざ立ち上がって名刺を渡そうとする長瀬から、俊は急いで受け取る。
この人といると目立ってしょうがない。
長瀬浩二。
名刺にはヘビーサウンズの社名、役職はチーフマネージャー。
念の為事前に会社の住所と代表電話の番号は覚えてきていたが、その通りに書いてあった。こんなところを偽ることもないかと思いつつ、俊は目線を長瀬の顔に戻す。
長瀬は俊の名刺チェックの間、黙って待っていたが、チェックが済んだとわかると早速話し出した。