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お尻の縫い目が破れたら  作者: 二蝶いずみ
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第三話 N香のお節介

 リュックのファスナーが全開になっている人

 ストッキングが伝線している人

 パーカーのフードが裏返しになっている人


 そういう人を見かけると、黙っていられない。

 N香はそういう質の人間だ。

 

 近頃は、バラエティー番組にゲスト出演している女優の脇汗なんかも気になるところだが、テレビ局に電話する程のことでもない。


 ターミナル駅の通行人を見下ろせる、駅ビル五階のカフェで、本日の日替わりランチ、ミックスフライセットをつついているのは、四十六歳バツイチ独身のN香。


「みーんな、どこいくんだろう」


 今日は有給休暇を取り、最近駅前にできたファッションビルの偵察に来てみたが、予想どおり、十代から二十代の客層をターゲットにした店が多い。

 この年齢になると、いかにも流行というアイテムを身に着けると、他人の目には、少々イタイ人という風に映るらしい。

 いやいや、私は自分のスタイルを貫きたいから、人の目なんて関係ないわ! 私は、自分の好きな服を着ているだけ! ……なーんてキャラには程遠いN香は結局、近所のショッピングモールでも見かけるようなファストファッション系の店で、無難なデザインのニットを一着買ったのだった。


 いやしかし、こないだ手首を捻挫して病院へ行ったとき、待合で見た光景は、またなんとも言えないものだった。

 紳士が上質そうなコートを脱いだニット姿の背中に、カイロが貼られているのが露出したときの、あの物悲しさは、何なのだろう。


 例によって、とんとんと肩を叩き、本人にコソっと伝えた。


 あ、ありがとうございます

って、少し恥ずかしそうにお礼を言ってくれる人が半分くらい。


 あ、わかってるんでほっといてください

的な反応が三割くらい。


 は?なにこのおばさん、と言わんばかりの表情で、無言であしらわれることも、しばしば……


 でも、言わずにおれないのだ。

 なぜなら、N香自身がまだうら若きOL時代、タイトスカートのファスナー全開で出勤するという、苦い経験をしているからだ。

 誰しも一度や二度、似たような経験があるだろう。

 しかしN香の場合、どうしても許せなかった。

 誰も教えてくれなかったということを。 

 見てみぬふりするなんて、酷い。

 早く教えてくれていたら、こんなに恥ずかしい思いをせずにすんだのに……。


 病院の待合の紳士の反応。

 それは、しかし、N香の予想を上回るものだった。


「何だね、ニットにカイロを貼っちゃいけないのかね。

 君にそんなことを指摘されなきゃいけない義務がワシにあるのかね。

 カイロはニットの下のアンダーシャツに貼れと定めた法律でもあるのかね。

 そもそも、カイロは人に見られたら恥ずかしい物なのかね。

 ワシが君に何か迷惑をかけたとでもいうのかね。」


 N香はしばし固まった。


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