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報告と混乱

「処理を頼む、ゴートン」

「は。……この者はいかが致しましょうか」

「あー、ミナに預けろ。きっと可愛がってくれるだろ」

「承知いたしました」

「…………」


 項垂れたまま沈黙を続ける勇者に、ベルゼはとんでもない裁決を言い渡す。


 というのも、ナズルはその重みを全く理解しておらず、そもそも逃げ出す気力すら失せているのだが。


 ベルゼの言う「ミナ」という人物(魔物)は、青髪の女性である。種族はデーモン。下級種のデビルを従える、悪魔の王だ。


 彼女は実験大好きな科学女で、その成功例はキメラ種の開発、魔像(ガーゴイル)の精製まで数しれず。ベルゼの部下内では一番の功労者かもしれない。

 だが、彼女の実験には色々と問題があった。


 まず人体実験。今回のように捉えた人間をキメラ種との合成が可能なのかなどの実験や、どのくらいダメージを与えれば死に、どの程度の経験値を得られるのか等等。

 魔物からすれば日常茶飯事であっても、人間側からすれば大迷惑な科学者である。


 ……魔物を手にかけることもあるミナに関しては全く油断ならないのだが。


 ベルゼはミナと出会った時、その特異性から実験をされかけた。作業台を【ミラクルパンチ】で叩き壊してなければ今頃はキメラの仲間入りをしていたかもしれない。


「死ぬより辛いだろうなぁ、奴の実験材料になるのは」

「全くでございます」


 不敗にして不滅の魔王すら寒気を感じる悪魔の元へ、縛られた勇者を運んでいくゴートン。その背を見送りながら、ベルゼは次の仕事へと移る。


「ガゼル」

「ここに」


 魔王城の影から生えた(・・・)人影に、ベルゼは命令を下す。


「人間の国へ通達。勇者が敗れた旨を伝えろ。同時もしくは後でもいいが……」

「彼らにも伝えるんですね?」

「ああ。体裁上、な」

「かしこまりました」


 闇に溶け込んでいくガゼル。彼はこの魔王城きっての暗部で、種族はシャドウ。影に潜み、影をもって攻撃する、人間的には厄介な魔物だ。


 その分経験値も高めで、影対策をしたハンターに乱獲された時期があった。

 今となってはガゼルを筆頭に、対ハンター戦闘のエキスパート育成が行き届いており、簡単には倒されなくなった。

 ベルゼがガゼルを拾ってから実に20年。彼はよく働いていると思う。


 そんなガゼルに依頼したのは、勇者の吉報を心待ちにしているであろう人間の国への死亡通告と、近隣の……ベルゼとは別の特異個体。

 観測されていて、意思疎通のできる特異個体はベルゼ含め7体。

 ミナよりも癖の強い奴らで、ベルゼが一撃必殺・対人特化であるならば、彼らは基本的に殲滅を好む。

 燃やす、凍らす、生やす、落とす等等。今はまだ人間に手を出してはいないが、中にはベルゼのようにコンタクトを取ろうとする個体もいる。


 そして、もちろん彼らはサンタンなどという、どこにでもいる低級種族ではない。それぞれが単騎で厄災なのだが……

 困ったことに、全員女性である。

 ベルゼ及びサンタンに性別はないので、特に困ることもないのだが、「心は男」をモットーにしているベルゼは肩身が狭いのだ。なので、取り敢えず一報入れておく。


 ──『勇者一行、殺っちゃった☆』


 と。


 ◆


 その日、人間に残された10の国に激震が走る。

 あれだけ強かった、勇者ナズル及び『スターナイツ』のメンバーの死が告げられたのだ。

 朝起きた国王の枕元に、とても合成とは思えない念写が添えられていたので間違いない。


 すぐに連盟会議が開かれ、この事実をどう受け止めるのかを話し合った。


「だから!国民を不安にさせるような発言は控えるべきです!」

「それでどうするのだ!バレるのは時間の問題だぞ!」

「しかし!」


 一向にまとまらない会議。集まった10ヶ国の王はただ黙って聞いていた。


「王よ、どのように致しますか?」

「……国民には真実を話した方がいいだろう。後腐れなく物事が進む」


 少しの間があったのは、彼ら全員がどうしていいか分からなかったからだ。内心冷や汗は止まらないし、得体の知れない相手に対しての恐怖心が拭えない。

 元々彼らは戦闘要員ではなく、むしろ駆け出しのハンターにすら劣る。そんな彼らでも危険だとわかるほどの、怪物。


 国民に存在を明かし、対策を練るのが一番いい方法だと思ったのだ。


「……他に、意見はあるか」

「ない」

「私もそれに賛成だ」

「そうするしかあるまいよ」


 気楽なものだと、発言した王は思った。

 自分で案を出せば、その責任を負わされる。もし仮に失敗した場合、そのツケが全て跳ね返ってくるのだ。

 それを恐れた臆病者共が、おえつら向きに出された船に図々しく乗ってきたのだ。


 ……いいや、言っていても始まらない。

 魔物の被害がなければ外交問題、果ては戦争まで辞さない心境だが、今は皆で手を取り合い、未知の敵に立ち向かうのだ。


 会議はまとまり始め、けっきょく公表することになった。

 国民は勇者一行の凱旋を期待していたため、大いに失望した。そして同時に、絶望したのだった。


 あんなに功績のあった勇者たちでも勝てない。そして、厳重な警備の敷かれた王城にいとも簡単に侵入し、王の枕元に念写を置いていく何者かの存在。

 この世に安全な夜などないと暗示されているようで、不眠症と精神病の国民が増加。治療院はパンクし、医者は患者の癇癪を買って辞職した。


 たった4人の死。

 国を内側から腐らせるには、それだけで十分だった。

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