第二章 マジックアイテム
そこから何分立っただろうか。本当にミッツが言ってた通りに、読み入ってしまった。しかし、本当に感動した。まだ序盤だから、告白なんて、とためらっているところだ。凜のかわいさに、俺は心を奪われ好きになった。しかし、好きという感情が何なのかわからなくなってしまった。若くして、すごい疑問を抱いてしまった。俺はこの本にならその答えが載っている気がした。時計を見ると、時刻は6時。俺が返ってきたのは4時半。一時間半も読んでいたと思うと、自分でもびっくりした。
「ラノベっておもしろいな。」
俺はラノベの面白さに気づいてしまったのかもしれない。そっと、独り言をこぼした。夕飯まで少し時間があるが、途中で止まるのは嫌なので、スマホをいじっていた。俺は、ミッツに
{俺のたった一人の好きな人 っておもしろいね。}
とメールすると、数分後に、
{初めて読むのにその作品はいいかもしれないね。}
と返ってきた。俺は嫌だと思っていたアニメというか、ラノベというかそういうものに興味を持ち始めた。しかし、たくさん買うことができない。それは、まだ第三者目線から見たところで、気持ち悪い。という感情が芽生えてしまう。ミッツならば、そんなことはないのだろう。あいつならこういいそうだな。
{は?何言ってんの?まずそう言う君たちに一つ質問なんだけれども、オタクの定義はどこからかな。}
とか言いそうだ。その域に達するにはまだまだな俺は、本を隠す場所を探していた。
「ここだとばれる。いやいや、ここでもばれる。無難に布団の下?さすがにだめだ。あーー。」
「れんー。夕飯の用意できたから降りてらっしゃい。」
(あーーーー焦ったー。心臓に悪いよぉ。本当に焦ったー。)少し浮いた。たまにびっくりすると、体を跳ねさせることがある。それが今なった。一旦、本は机の上に置き、食卓へ向かった。親にばれないようにふるまった。普段よりも早くご飯を食べ終え、隠す場所を考えていた。
俺は天才的な隠し場所を思いついた。本棚の後ろに隠すことに決めた。少し汚いため、軽くふき掃除をして、他の荷物を置き直接的に見えないようにした。一安心した俺は、ベットの上に寝転がりスマホを開いた。動画サイトから面白そうな動画を見つけ閲覧していた。数十分して、階段を上る音が聞こえた。おそらくお母さんが上に来ているのだと推測した俺は、スマホを閉じて、いかにも勉強をし始めようとしてました感を、出していた。
「コンコン。れん。入るわよ。」
母が俺の部屋に侵入してきた。すると、
「あなた。何か隠してることない?」
本当に急な質問だった。(え、もうばれてた?やばいやばいやばい。この場は一旦、乗り過ごさなきゃ。)俺は、もちろん嘘をついた。
「え?逆に何か隠してることあった?」
「あるでしょ?ほら。早く渡しなさい。」
(はい。完全にばれてますね。ここは、もう一回とぼけるという戦法を使うか。)
「え?本当にわからないんだけど?」
「ほら。早く今日もらった保護者会のプリント渡しなさい。」
(ええええええええええええええええええ。そんなことかよ。おいおい。本気でばれたかと思ったじゃねえかよ。うおおおおおおおぉお。)完全に興奮状態に陥った俺は、ふと我に返り、冷静さを取り戻した。
「あ、そういえば学校でもらったわ。はい。」
「はい。ありがと!。勉強するのよ?ばいばい。」
そう言って部屋から立ち去った。なぜ、母が今日もらったプリントを知っているのかというと、学級単位で、メールのグループが作られ、今日配布されたものや、予定などが先生から送られる。従って、テストや、成績表がどんなに悪くても母親に見せなければならないのだ。俺にとっては不便母にとっては便利だ。とはいえ、ばれていなかったことだけでも良かったと、そっと胸をなでおろした。俺の視線は再びスマホに移った。スマホ使用の内訳票でも作ったら、一割目覚まし 八割動画サイト閲覧 一割その他 という円グラフができそうなくらい、動画を見ている。自分ではできないことをやってくれる。それによって笑顔が生まれたりする。動画職人はすごいと思っていた。将来は人を笑顔にする職業に就きたいとすら思っていた。唐突に、ラノベの続きが読みたくなった。俺は、本棚の裏に手を伸ばし、本を回収した。
それから何時間たっただろうか。風呂に行く時間はおろか、トイレに行く暇さえ忘れ、没頭していた。
その時の俺の心情は動画サイトと同じものがあった。
ふと時計を見ると、10時になっていた。俺は風呂に入ることを思い出し、急いで向かった。俺の頭の中には、ラノベのことしかなかった。
頭を洗い、体を洗った俺は、ぬるくなった風呂浸かった。俺の脳内にはやはりラノベしかなかった。
「あそこのあの展開は本当に泣きそうになったわ。」
独り言を漏らした。ここから、タイムリミット一年となる。俺と同じ状況に陥る。ここからが本番だと思った。風呂から上がった俺は、歯磨きを済ませ、再び自分の部屋へ戻った。(今日は早く寝て明日早く起きよう。朝ならさすがに誰も入ってこないだろう。)そう考えた俺はすぐに布団にもぐった。
(寝れねぇ寝れねぇ寝れねぇ。)いつもより早く布団に入ったからか眠気が一切感じられなかった。最終手段として羊を数え始めた。すると間もなく睡魔に襲われ夢の世界に行った。俺は基本的に夢を見ない。夢を見ない。いや、覚えていないというのは深い眠りについている、いい睡眠をとっている。一度寝たらなかなか起きない俺は、普段から、目覚ましを二個使って起きている。それほど起きないやつだ。
「ジリジリジリジリジリジリジリジリジリ」
「リンリンリンリンリンリンリンリン」
目覚ましが一斉になった。もちろん俺はすぐには目覚めない。五分ほどしてやっと目が覚めた。まだ頭はボーっとしている。なにも考えずに机を見た。
{早起きして本を読む}
その文字を見た瞬間に眠気が飛び、頭が働き始めた。「えっと、どこに隠したっけ?」
俺はあちこち探した。しかしどこにもない。はっと思い出し、本棚の裏を探すと、きれいに収納されていた。俺は手を伸ばし本を回収した。本にはしっかりしおりを挟んでいたため読み始めるところがわかりやすく助かった。今の時刻は6時ちょうど。朝ご飯の支度ができる時間は平均して六時四十分ほどだ。その四十分間を本を読んですごすことに決めた。作品はちょうど、あらすじにもあった女の子が事故にあってしまうシーン。
「ヒック、ヒック。ずるずる。」
俺は泣いてしまった。ただただ泣いてしまった。親にばれないように何とかしなきゃいけないのに。俺は様々な言い訳を考えた。しかしどれも今の俺の状況には適していない。鏡を見てみると、目が真っ赤だった。泣いたとしか考えられない目の色をしていた。ふと、名案がうかんだ。それは、目にゴミが入った、早く起きちゃって全然寝れなかったの、二択になった。その二択を俺は二つとも使うことを考えた。
(作戦実行だ!!!!)さっそく俺の脳内で描いたシナリオ通りに行動を始めた。
「おはよう。母さん。」
「あら!早起きなんて珍し………………なに!その目!真っ赤じゃない!」
母は俺の顔を手で包み込むように触り覗いた。
「怖い夢でも見たの?大丈夫??」
母はかなりの心配性なのだ。小さい時から、少しのけがで無駄に多めの絆創膏だったり、傷薬を処置として使われた。その時の俺は相当恥ずかしかったと思う。
「なんか夜に急に目覚めちゃって、寝れなくなって。その時に目にゴミが入ったんだと思う。めっちゃかゆかったもん。」
「掻いちゃだめじゃない。あと、急に目が覚めちゃうのって、ストレスとか、過労だよ?大丈夫?」
「うん。顔洗ってくる。」
(よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!やり過ごせた!!!!とりあえず顔洗うか。)久々の朝の洗顔。洗面所で水を出すと、まぁ冷たいこと。春だからだと思うが、本当に冷たかった。ちょっとだけ濡らしすぐに顔を吹いた。すると、再び母親が駆け寄ってきた。
「れん?大丈夫?ゴミ取れた?」
「うん。かゆくなくなったよ。」
「ほんとうに?しんぱいだわ。もう。」
イライラするくらいの心配性だ。無視して部屋に戻った。時計を見るともう6時半だった。きりが良かったため、そこにしおりを挟んで再び本棚の後ろに封印した。そこで俺は、{どうか、見つからないように、}と願った。そして机の上に置いてあった、紙を何回か破りごみ箱に捨てた。そして、日課の動画サイトを見始めた。すると間もなくして
「ご飯できたから降りてらっしゃい。」
見始めたときにいわれると、少しイラっと来る。そんなイライラを抑えながら、一階の食卓へ向かった。
その後は特に、目のことは言われなくなった。すぐに朝食を済ませ、再びだらけ始めた。さっきの続きの動画を見始めた。普段の俺の登校時間は、8時。登校時間まであと、一時間もあった。暇を持て余した俺は動画サイトすらも、見飽きてしまった。そんな俺は、いったん寝ることにした。しっかり目覚ましは二個かけて。
「Zzzzz」
「ジリジリジリジリジリジリジリジリジリ」
「リンリンリンリンリンリンリンリン」
「Zzzzz」
「ジリジリジリジリジリジリジリジリジリ」
「リンリンリンリンリンリンリンリン」
「はっ!!!!!!今何時だ?」
俺は時計を確認した。時計の針は8時5分を指していた。(あ、遅刻する。やばいわ。)俺は急いで身支度を済ませ、家を飛び出た。
「遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻」
そういいながら、走った。しゃべらないほうが楽だと思うのだが……
「よし!校門が見えてきた。ハァハァ間に合う!」
独り言を漏らしながら、ただただ走った。時間内に学校に入ることができた。そこから、教室まで間に合うかが、本当の勝負である。息を切らしながらただただ猛ダッシュで教室へ向かった。
「ガラッ」
大きな音を立てながら勢いよくドアを開けた。教室にいた何人かがこちらを向いた。
「あれ?おれ、ちこく、しそうで、え?」
俺はとっさに時計を見ていた。時計は7時50分を指していた。
「は?」
うすうす気づき始めた。(あああああああああああああああああああああああああああああああああああ。時計を読みお間違えたというのか。やらかしたやらかした。)何が起きたのかわからないが。俺は時計を読み間違えた。何かの手違いで時計の時間が過ぎてしまったのだろう。(あの、走りは何だったんだよ。)俺は深いため息をついた。そして自分の席に着いた。そして腕を枕にして、寝た。 数十分して先にミッツが到着した。
「おい。れん。あの作品どうだっ………。おまえ、ラノベ読んでオールしたのw」
「…………………………………」
俺は寝ているから、反応をしなかった。その時にかなり大きな誤解を生んでしまった。
「おまえ、一日でラノベハマりすぎだよ。」
そう言ってミッツも自分の席へ着いた。「ヒロヒロ!ちょ、こっち来て!」
「なんだ?お主まさか、魔法が……………………………」
「ちがうちがう。あのさ、あのれんが、ラノベに超大ハマりしてるっぽい。昨日メール来たんだけど、面白いって言ってたし、しかも今寝てるってことは……」
「オールをしたと。」
「いいね。冴え冴えじゃん!」
そう。今ここで俺はとんでもない勘違いをされた。まだ、ハマったわけではないし、そもそもオールなんてしてない。相当なガチ勢だと勘違いされてしまった。なぜ寝ているのか。それは、遅刻だと思い全力疾走し、ぎりぎりだと思ったら、時計を読み間違え、普通の時刻に来てしまったことに対する脱力感から、俺を睡魔が襲ったのだ。
キーンコーンカーンコーン
読書開始のチャイムが鳴った。それと同時に俺も起きた。俺は体を起こすと。みんなが本を読んでいることに気づき、急いで鞄から本を出した。読み始めるとすぐに異変に気付いた。(あれ?前呼んだところと内容がちが……… うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやってしまった。一番避けたかったことやっちゃったよ。)そう。俺は、学校に {俺のたった一人の好きな人}を持ってきてしまったのだ。しかしどうすることもできない。いつも読んでいる本は家に置いてきてしまったし、本を隠せるものなんてない。終わった。そう思っていた。隠しながら読んでいた。こういう状況で本を読んでいてもつまらないと思ったのか、最初から読み返していた。
「えー。じゃあホームルーム、えーはじめるぞ。」
その合図があた瞬間、いや刹那にも満たない時間で鞄の奥のほうにそのラノベを入れた。一安心しながらホームルームを聞いていた。
「えー。今日の伝達事項は、えー、え、えー特にないな。よし。ホームルーム終わろう。」
教室のあちこちから{っし}という声が聞こえた。この先生のホームルームが短いなんて天平地位が起きてもおかしくないくらいのできごとだ。おそらくだが、昨日の出来事から少し反省したのかもしれない。俺は少し感心した。言われたことはしっかり直せる大人は。かっこいいと思っている。そんな先生を少し線形している俺がいた。そんないいことを考えていると、すぐに勘違いという名の地獄が待っていた。
「な、なぁ。れん。」
「どうした?」
「あの本どうだった?」
「まだ途中だけど、感動したわ。」
{え?オールしたのに、まだ途中?は!まさかあいつ、他にも何冊買って同時並行で進ませてるんだ。初心者じゃ到底できないこの高等技術、俺でお最近できるようになったというのに、}ミッツの勘違いが再び膨らんだ。
「そうなんだ!」
そういったミッツは、俺の前に座っているヒロに耳打ちで何かを言っている。(なになになになになになになに?)言い終わったとほぼ同時にヒロはミッツの顔を伺いゆっくりと、俺の顔を見てきた。震えながら、目が合うと、再び前を向いてしまった。俺は身だしなみのチェックをした。(汚れとか、シャツが出てたりなどはしていないし、まさか、顔に何かついてる?)一生懸命顔をこすった。そして俺は意を決して
「ねぇ。なんでふるえてるの?」
「え、えええ、え、え、ええええ、」
中二病がここまで震えるのは珍しい。
「だっだだだだだっだって、い、いいいい、」
「お前、一回落ち着け。はい。深呼吸。 すーはーすーはー」
「お主一日で何冊も読むなんて速読魔法でも使えるのか?」
「は?」
「みっつが、言っていたが…………………………」
「おいミッツ。どゆこと?」
「いや、お前が、朝寝てたから、一日でラノベ読んで、え?そんで、まだ途中って言ってたから、何冊も読んでると思ったのだけれども間違ってる?」
今世紀史上最も大きなため息といっても過言ではないほどの大きなため息をした。
「お前ら。よーく聞けよ。多分とんでもない勘違いを君たちはしている。ラノベを買った。これは事実。問題はそこから。朝寝ていたのは、時計読み間違えて早く学校に来て脱力したから。だから、昨日の夜はちゃんと寝た。あと、何冊も読んでるってのがどこから出てきたのかわからないけど、一冊しか読んでない。」
俺と、ヒロの視線はミッツのほうに向かった。
「まことに!申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ‼‼‼‼‼‼‼‼私光岡は、とんでもない勘違いをしていましたぁぁ。やってしまったー。有罪判決なら無期懲役クラスだぁぁぁぁぁぁぁ。」
完全に反省していないミッツに対し俺は
「おう。勘違いするのは人だからしょうがないけど、間違った情報を人に伝えるのは今後やめような。」
俺は優しく言った。コクリとうなずいた。それ以降これといったこともなく、ホームルームが決して長かったわけでもなく、下校した。
それ以降こんな日が何日も続いた。そして俺の中二人生を左右するであろう出来事が起きた。
「えー。今日の休みは、お!泉か。珍しいな。」
みんなも少し動揺していた。
「あの、凜ちゃんが、」
「どこが悪いのかな?」
「後でお見舞い行ってあげよ。」
そんな声が多数聞こえてきた。さすが、クラスから愛される女だなと思った。もし、俺が休んだとしても心配するのは、せいぜいミッツとヒロだけだ。俺にとって凜は本当に高根の花だとつくづく思った。驚いたのはこれからだった。
「えー。今日配布のプリント、締め切りが近いから今日中に泉には渡しておきたいのだけど、」
「はいはいはいはいはいはい!私が持ってきます!」
「俺が持ってくー。」
「そうだな。家が一番近いのは?あ、山里か。よし。お前もってけ。」
「は?」
そう言い残し、先生は教室を出て行った。みんなの視線が俺に寄せられた。俺は、この状況をやり過ごすために、鞄から本を取り出した。
「あ。」
思い出してほしい。俺が今日持ってきた本が何だったか。そう。書店で購入したラノベだった。俺は終わった。と確信した。その時だった。
「え~山崎君」
(やめろやめろ。終わったわ。このキャラ定着しちゃうし、)俺は崩れるように、机にもたれかかった。
「その本持ってるの?まだ途中?」
「え?」
期待外れの回答が来た。それも、一人や二人ではなかった。たちまち、俺の席の周りはみんなでいっぱいになった。
「いまどこらへん?」
「お前もそういうの読むんだな。」
「感動するから私三回も読み直しちゃった。」
(ありがとう。ミッツ。)俺は心の中でミッツに感謝した。本当に感謝した。ミッツのおかげで俺はここまでになった。しかし一つ疑問が残る。果たして凜はこういう文学が好きなのかどうか。もちろん聞くのは今日と決めた。
「まだ途中だよ。ほかにお勧めの本とかあるの?」
さりげなく聞くことによって、これから学校に持ってきやすくなるのと同時に親に見つかった時のための完璧な言い訳が作れると思いみんなに質問した。
「空白の三分」
「修羅場の中の決闘」
「初めての引きこもり。」
候補がいくつか上がった。俺はそれを紙にメモし鞄の中にしまった。
時は下校時間に飛ぶ。
「えー。今日配布するのはこのプリントな。山里のところ二枚な。」
完全に俺は忘れていた。ラノベのことで頭がいっぱいになっていた。手紙が回り、折れないように丁重に鞄の中にしまった。
「足りないとこあるか?」
その一言で帰りのホームルームは終わった。俺は、いつもの数倍速く下駄箱へ向かい、靴を履き替え校門を出た。なぜかわからないが、俺は泉の家を知っていた。その場所へ行くと途轍もなく大きな家が建っていた。それが、泉の家だ。泉はお嬢様で甘やかされ育てられたのかと、最初は思った。しかし、違った。金持ちだからと言って、甘やかさず、しっかりと自分の意見は言える、常識的な子に育った。そこから、俺とはかけ離れていた。俺はインターホンを鳴らした。
「ピーンポーン」
「はいー。どちら様でしょうか。」
「あ、え。泉さんと、同じクラスの山里連と、申します。今日学校で配布されたプリントを届けに来たのですが。」
「あら。ご迷惑おかけしてすみません。今開けますね。」
ガチャリと大きな音を立てて重そうな扉が開いた。
「どうもありがとうございます。」
「いえいえ。」
「さ。上がってください。」
そういわれ俺は家にお邪魔することにした。家の中はとてもきれいだった。すると俺は、さっそく凜の部屋に招かれた。コンコンと、ノックし
「りん?起きてる?山里と君がプリント届けに来てくれたから開けるわよ。」
と、凜のお母さんが言った。それと同時に俺は凜の部屋に入った。ピンクを基調とした部屋で、学校での性格とかけ離れているほどの部屋だった。
「じゃ、お母さん出てくから、仲良くしてちょうだいね。」
そういって姿を消してしまった。
しばらくの沈黙のあと、俺は口を開けた。
「きょ……………………」
「なん……………」
まさかの話すタイミングがかぶってしまった。お互い恥ずかしそうに目線をしてに向けた。泉のほうから手をこちらに向け先に話すように促した。
「今日学校で配布されたプリントを持って来たんだけど、提出期限が短いから気をつけてね。」
「そう。ありがとう。今日、何か変わったことはあった?」
「変わったこと。んーあ!」
「どうしたの。」
「先生のホームルームが短くなった。」
「でしょうね。私があそこまで言ったんだもん」
俺はここで一か八かの勝負に出た。
「それと……」
「それと?」
俺はおもむろに鞄からラノベを取り出した。
「最近、この小説がクラスで流行ってるんだけど知ってる?」
「あ、それね。ちょっとついてらっしゃい。」
「あ、え?って、体は大丈夫なのかよ?」
「ええ。一日休めば元気になるわよ。」
そういって、扉を開け、奥のほうへ進んでいった。ガチャリと、再び重そうな扉を開けると、図書館と見間違えるほどに本が大量に置いてあった。
「ここは?」
「ここは、書籍?にしては大きすぎるかしら。あ、さっき見せてくれたのってこれでしょ。」
凜の手には俺のたった一人の好きな人があった。
「お前、ラノベ好きなの?」
「ん~お前って言い方は、いやだね。これからは、りんって呼んでちょうだい。」
「わかった。」
「あ、そうね。好きか嫌いかっていえば、好きかな。」
俺は驚いた。凜は、学校では純文学しか読まないのに意外とそういうところもあるなんてな。と思った。すると俺は、
「一つ頼みたいことがあるんだけれど、」
「何かしら。」
「明日から、泉の家に通っていい?」
爆弾発言をしてしまった。毎日通っていい?なんて馬鹿なことを言ってるんだよ。おいおいおいおい。そう思っていた。
「いいわよ。だけど、この書斎、本を読むところがないからどうしようかしら。」
「いいの!?」
「そうねー。一つ余ってる部屋があったからそこ使って。お母さんにはあとで言っておくから。」
「あ、ありがとう…ございます。」
まさかの、OKをもらってしまった俺はワクワクが収まらなかった。明日からの生活が楽しみで仕方がなかった。すると、凜はポケットからスマホをとりだし、
「メルアドおしえて、」
「お、おう。えっとー」
「ありがとう。」
なんと俺は凜の連絡先まで入手してしまった。俺はうれしさのあまりスマホを投げそうになるという謎の衝動に押されそうになったが、何とか踏みとどまった。
「じゃあ、明日、学校で。」
「そうね。詳細は明日話すわ。また明日」
別れの挨拶を済ませ俺は玄関に、玄関に、向かおうとしたのだが………。
「玄関なら、そっちの突き当りを右に曲がって、三番目の角を右よ。」
「ありがとう」
泉の家は本当に広い。広いなんてもんじゃないくらい広い。俺は一瞬迷子になりかけたのだから。
帰り道で、さっき言ったことを思い返してみていたのだが、やはり自分でも恐ろしいことを言ったなと実感した。好きな人の家に毎日通うことができる俺は幸せ者だとつくづく痛感した。そして俺は再び大きな決断をする。それは、クラスのみんなを使って、ラノベを堂々と、本棚に置いていいのかという承認を得るというものだった。先のことまで見据え、俺は様々なことを考えていた。
「みんながやっているからって、あなたも読んでいいわけではありません。」
「金の無駄よ無駄。」
「自分から何かを発信すればいいじゃない。」
この三つが、恐らく言われると推測した俺は、それぞれに合う完璧な言い訳を考えては忘れ考えては、忘れ。を繰り返していた。そしていつしか、家の目の前についてしまった。ひとまず家の中に入り、自分の部屋に入った。そして、珍しく机に向かっていた。もちろん作戦会議の一環としてだが。紙に一つ一つ作戦事項を書いていった。
{ラノベ置きましょ大作戦}
ネーミングセンスのかけらもないよう題名。恥ずかしさしか覚えなかった。重要なのは、作戦の内容だ。
{①言ってきたことには、全力で対応。
②暗記
③最悪のケースとして、無理だった場合、さりげなく置いておく。}
こんなしょうもないことをいちいち紙に書いていた。
「れん!ご飯できたから降りてらっしゃい。」
夕飯の支度ができたらしく下から呼んできた。それと同時に作戦が始まった。
「ね、ねぇ。お母さん。一つ頼みたいことがあるんだけど。」
「あら何かしら?」
「あ、あの!」
一瞬躊躇してしまい、言葉が出てこなかった。もう一度仕切り直して、
「あ、あの、最近学校でこういう本が流行ってるんだけど、」
俺は本を片手に説明した。
「これからも買ってもいい?」
「それ、どこに置くの?」
「あ、俺の部屋の棚に置こうかと…………」
「そう。お小遣いは、考えて使いなさいよ。」
(え?それって、OKってこと?まじで?)俺は今までで一番脱力した。本当に力が入らなくなった。もしダメと言われていたらと思うと、死んでたかもしれない。
「そっか。ありがと!」
俺は感謝しておいた。
「さ、冷めないうちに召し上がって頂戴。」
俺と、お母さんと、おばあちゃんが席に着き、いただきますと、声をそろえて言った。俺は今までで一番幸せな日だった。好きな人の家に毎日行けることになり、お母さんにはラノベが許可される。本当に幸福だった。その日の夕飯も俺が大好きなエビフライ。何もかもついていた。
一番に食べ終わった俺は、食器を流し台におき、自分の部屋に戻った。すると、あろうことか、俺のスマホのランプが青く点滅していたのだ。それが意味することは、誰かからメールが来ているということだ。
俺は恐る恐る、スマホの電源を付けた。すると、送信者:泉 凜 と書いてあった。俺は、メールBOXを確認すると、
-------------------
送信者:泉 凜
件名:本日の件に関して
本文:
部屋の確保は済んだから、
自由に使ってちょうだい。
自分の部屋だと思ってくれ
て構わないわ。
--------------------
(あ、はい。)としか言えなかった。自由に使っていいとか、流石金持ちだなと思った。そして、しっかりと返信した。
-------------------
送信者:れん
件名:ありがとうございます!
本文:こんな僕のために
そこまで用意をしていただき
誠にありがとうございます。
流石に、常識的に、ではありますが、
使わさせていただきます!
--------------------
と、俺は送った。何回も見直し、間違いがないことを確認して、だ。しかし謎に敬語になってしまった。まもなく返信が来た。
-------------------
送信者:泉 凜
件名:(怒)
本文:返信遅すぎ。あと、
敬語なのがものすごく
うざい!!!
ため口でいいし………
あと、明日からは一緒に
帰りましょ!
--------------------
どうやったらそんなに早く返信ができるのかってくらいに、早く来た。俺は最後まで読むと、不意に立ち上がり、右手を天に突き上げ、
「っしゃ きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「れん!うるさい!」
「あ、ごめん。ガチャでいいのが出たから……」
あまりの嬉しさに叫んでしまった。おかげで、お母さんに怒られてしまった。しかし俺は嘘をつくのがうまくなったと思った。あんなとっさにいい言い訳を思いつく自分の脳に感謝した。それはやはり、ラノベを置くための交渉のために考えていた結果が出たのだ。
落ち着きを取り戻すために入れは風呂に向かった。途中、お母さんにあった。すごく気まずい雰囲気だった。俺は急いで風呂場に向かった。
衣類を脱ぎ、バスルームに入った。頭を洗いながらも、俺は興奮が抑えられなかった。うれしい!やったー!などの興奮を表す言葉では表せないくらいに興奮していた。
体も洗い、熱い湯船に入った。
「だはぁー。癒されるわー。」
俺は、ついつい、独り言を漏らしてしまった。おもむろに、恥ずかしくなり俺は湯船に顔を沈め、バブリングをしていた。
苦しくなってきたのか、顔を上にあげ、荒い呼吸を整えた。
そこから俺は真剣に泉について考えていた。(まず、あいつの家に毎日行けることになったっていうのは非常に素晴らしいことだ。それは自分でもいいと思う。しかぁぁぁし。俺は毎日泉と帰るという特権を手にしてしまったのだ。俺は、泉のことが好きだからいいが、あいつは俺のことをどう思っているんだ?もし 普通 という感情で、そんなことをしていたら、周りから勘違いされてしまうし、あいつに迷惑をかけちゃう)俺は、恐らく答えのない問いをしばらく考えていた。
風呂から上がり、体を拭きドライヤーで、髪を乾かした。その時も泉のことを考えていた。今の俺の脳には泉しか考えられなかった。自分の部屋に戻りスマホを取り出した。通知は来ていなかった。少し期待していたところもあり、テンションが下がった。
「そういえば!」
俺は大声を出してしまった。慌てて口を押えた。何を思い出したのか。それは、あの、ラノベのことだった。まだ俺にとって、ラノベというのはまだまだそんなものだった。鞄からラノベを取り出し、ネットに寝転がりながら読み始めた。
数時間すると、唐突に睡魔に襲われ、本を開いたまま寝てしまった。
─────────夢の世界────────
「ん?ここは?」
俺はよくわからないが今は夢の世界にいる。たまに、こういうことになる………ということではないのだ。初めての経験で俺も何をすればいいのかわからない。ひとまず俺は、自分のいる場所を確認した。しかし、見たことがないものでいっぱいの大きな部屋だった。熊の人形や、ウサギの人形など、可愛い人形で囲まれていた。俺は少し怖くなったからか、部屋を飛び出していった。
「え、っちょ、ここどこ?」
部屋を飛び出すとそこにはとんでもなく広い廊下があった。等間隔で部屋もある。しかし俺は妙な違和感を感じていた。なぜかわからないが、この風景に見覚えがあるのだ。しかし、思い出せることもなく再び探検を続けた。そして俺は驚愕の事実を知ることになる。
とんとんとんとんとんとんとん
何かを包丁で切っている音が聞こえた。俺は、音のしたほうへ行くとそこは、泉のお母さんがご飯の支度をしていた。俺は慌てて身を隠した。そして脳内の整理をした。
(ねぇ。まってよ。ってかなんで俺泉の家にいるんだ?)俺はとんでもないことを考えてしまった。すぐに最初にいた部屋に行き、鏡を探した。しかし、知らない部屋での捜索活動は全然うまくいかない。がむしゃらに引き出しを開け閉めしていると、やっとお目当てのものが見つかった。そして俺は、その鏡覗き込んでみた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
なんと顔が泉 凜 になっていたのだ。この叫び声を聞きつけた泉のお母さんがすごい心配をしてきた。
「りん?大丈夫?なにかあった?」
「え、あ、えっと、ごみと、虫を見間違えちゃった…………………」
「ほんと、ドジっ子さんね。気を付けなさいよ。」
「はーい…………」
俺は(私は?)本当に言い訳がうまくなったと思う。しかし驚いた。もしかしたら今世紀で一番驚いたかもしれない。そう言っても過言でないほどに驚いた。なんていったって、俺が、泉になっていたのだから。見た目は泉、中身は、山里。その名も……………みたいな感じだった。しかし、本当にたとえようがなかった。
「りん!ご飯だから、こっちきなさい。」
俺は泉の母親に呼ばれてしまった。泉の家の間取りなんて一切知らない俺は困惑していた。そして俺は、先ほど言った場所のキッチンのところに行ってみた。そこで顔を少しだけのぞかせてみていると、
「りん?大丈夫?早くこっち来なさい?」
奇跡的にあっていた。なぜかわからないが野生の勘が働いたらしい。ひとまず席に着いた。目の前に出されたものはありったけのジャム?だった。すると、そのあとからこんがりと焼いてある食パンが机の上に置かれた。泉の母親は何も疑問に思わず、食パンにジャムを塗り始めた。(え?まてまて、泉って意外と庶民的な食べ物も食べるんだな。はっ!まさかこのパンはとんでもない高級品なのか?はっ!まさかこのジャムがとんでもない高級品なのか?)俺は何もかも高級品に見える錯覚に陥ってしまった。
ひとまず俺はパンを一枚とり、ブドウ味のジャムを塗り始めた。そこで俺は気づいた。いや、確信した。
(なんだ。この塗った時から香ってくる芳醇な香りは………ま、まさか、このジャムがこんなにも高級感あふれるにおいを放っているのか!!!)俺はけたたましく感動した。こんなおいしそうな食べ物は生まれて初めてだったからだ。一口かじってみた。
「サクッ」
いい音だった。それはたとえようのない、サクッという音だった。CMで使っても問題のないほどのいいほどだった。一回噛んでみた。口の中に広がる甘味、もう一回噛むと再び違う旨味が口の中をいっぱいにした。食べた瞬間に口の中でうまみのビックバンが起きているのかと錯覚するほどのものだった。
あっという間に三枚食べ終わってしまった。本当においしかった。それ以外の何物でもなかった。
朝ご飯を食べ終わった俺は部屋に戻り学校の制服に着替えようとしていた。しかし俺はめちゃくちゃ戸惑っていた。事実上俺は泉凛になっている。従って、制服は女の子用を着なければならない。羞恥心で死にそうになっていた。俺は感情をゼロにして、服を着た。そして俺は再び恐ろしい事実を目の当たりにしてしまった。見てる分には興奮してしまう短いスカート丈。しかし、履いている側になってみると、見られる、見える、という恐怖心が出てきてしまう。それは今の俺にしかわからない。もしかしたら女子たちはこの服装に慣れてしまったのかもしれない。しかし、最初はこういう感情だったかもしれない。そう考えると俺はクラスの女子をそういう目線で見れなくなってしまった。いや、そういう目線で見てねぇけど。時刻は七時四十分。俺は学校へ向かうために、玄関に向かった。なんとか、昨日の記憶を頼りに廊下をたどり、玄関に着いた。靴を履き替え、扉を開けた。
「いってきます!」
なぜかわからないが自然と声が出た。そして、普段通りを装い学校へ向かった。途中、山里連と会った。そう、そいつは俺夢の中の俺と出くわしたのだ。しかし何かが変だった。(ドクドク、ドクドク。)俺の鼓動がどんどん早くなっていく。俺は泉の脳を使って、本気で考えた。そして一つの答えにたどり着いた。
それは泉凛が俺のことを好きなこと。
その答えが、思いついた瞬間に、俺は目が覚め、夢の世界から現実世界に戻ってしまった。
寝ぼけている頭で必死に考えた。(なんで俺は泉が好きという答えを導いたのだろうか。それは恐らく、鼓動が早くなった点でそう推測したとしても、その答えを導いた瞬間に目が覚める需要なんてあるのだろうか。もし、それが真実で気づいていけないことだとしたら………)俺の脳内では寝起きとは思えないほどに目まぐるしい速さで物事を考えていた。結論として、泉は俺のことが好き。ということになった。
時計を確認すると、五時ちょうど。泉が俺のことを好きと分かった俺は、枕元にあるラブコメを取り、読み始めた。一度その世界に入ると、なかなか抜け出せないのが俺だった。三十分して、ようやくこの本の半分に到達した。作品はここから、スパートをかけていくところだ。主人公が、好きな女の子に近づいていき、地道にアタックしていくところだ。その展開が今の俺に必要だと感じた。なぜなら、泉が俺のことを好きと分かった今は事実上、両想いになっている。そこで俺が猛アタックし、告白をする。あわよくば、付き合っちゃう。そんな展開を必要としていた。そこで俺はお決まりの紙に書いていく方法をとった。昔から作戦などは、紙に書いて残しておいてある。俺はそこからいつも失敗したときに原因、こうすればよかったなどと、考察をしている。その集大成を見せる時が、とうとう来てしまったというわけだ。俺は、いらないノートにこう綴った。
{俺は泉と付き合って見せる。}
一ページ目に三行ほど使って大きく書いた。今回は今までの作戦の計画とは、一味も二味も違う何かがあった。俺は作品を読み進める。気づけばもう一時間半が経過していた。一階のほうで、何かを切っている音がうかがえる。おそらく朝食の支度をしているのだろう。俺は気が散ってしまい、本を読むのをやめた。今現在メモしてあるページは、一ページ。そこには、主人公がしたことをメモしてあった。俺は、それを実行するための、覚悟を決めていた。しかし、どうにもこうにもできず慌てていた。
「れんー!ご飯だよ!」
母親に呼ばれ、食卓へ向かった。特に何も考えず、朝ご飯を食べ進めた。なぜかわからないが味が感じられなかった。何も考えていないと思っているだけで、実は泉のことを考えてしまっていたのかもしれない。そう思っていた。すぐに食べ終わらせ、自分の部屋に戻った。そこで再び、ラノベを読み始めた。もちろん近くにはノートと鉛筆が置いてある。少し読んではノートに書き、また少し読んではノートに書く。この作業を何回も何回も繰り返していた。登校時間が迫り、俺は急いで身支度をし始めた。毎日やっているからか、慣れていまい、恐ろしい速さで着替えられるようになった。もしかしたら、制服派や着替え選手権で優勝できるかもしれない。そのぐらい早かった。
玄関に向かい、靴を履こうとした瞬間に、俺の脳内に、一つの記憶がよみがえってきた。それは、泉が俺のことが好き。ということだった。俺は気づいていなかったが、好きと分かっている今、接し方が変わってしまうのが、一番怖かった。相手に気づかれないようにすることが今後、非常に重要になってくることである。俺はなるべく普段のような接し方でいようと、心に誓い、ドアを開けた。
いつも通りのように、通学路に沿って学校へ向った。そして泉の家の前を通ろうとしたその時、ばったり泉と会ってしまったのだ。俺はもちろん普段どおりに…………
「りん。おはよ。ぉはよ。ぉはよ。」
何回かエコーしているんじゃないかというくらいに格好つけて言った。泉は、少し照れくさそうに
「あ、お、おはよ。れんくん。」
何気ないひと時の会話なのに、俺はとんでもない量の汗をかいていた。(こいつ好きなんだよな?やべぇ、向こうは知らなくても、俺は知ってる、この感情の複雑さ。やべぇぇぇぇ)俺はおそろしく興奮していた。それと同時に、半信半疑にもなり始めた。夢で見たことが現実になるなんて、どこぞのアニメだよ。と。しかし、さっきの挨拶のあたり、少しだけだが、その疑いは晴れつつあった。とはいえ、状況が状況なゆえに俺は感情を表情に出さないようにすることで必死だった。
もう少しで学校に着くころ、俺は背中を何者かによって押され、転びそうになった。
「ってーなぁ。おま…………」
そこに立っていたのはヒロだった。ヒロはそんなことをする奴ではないと勝手に妄想していた。なぜなら、ヒロは、中二病で、魔法系しか使わないと思っていたのだ。今までにこんな実害をしたことがなかった。あらゆる観点から少し、変だなと思った。
「れんよ。お主、氷の女王、泉様とそのような関係だったとは………」
すると、泉はゆでだこのように顔を赤らめ、プシューという音を出しながら、頭に湯気が立ち込めていた。俺はこの状況を弁解すべくヒロに近寄り、耳打ちで答えた。
「おい。ヒロ。まず、なんで一緒に来てるかっつーとな、朝たまたまあったし、別に逃げる理由もなかったからさ。」
すると、ヒロは逆に耳打ちをしてきた。
「お主もしかして、泉に好印象を抱いてるのか?」
再び立場が入れ替わり、
「お前、まじめな上に、なかなか鋭いこと言ってくるね。絶対誰にも言うなよ。俺、実は泉のことが好きなんだ。」
それを聞いた、ヒロは瞳孔をパッと開きゆっくりと、まるで以前勘違いされた時のように見られた。その目は何というか、軽蔑されたような目だった。すると、ヒロは一目散に走って学校へ行ってしまった。
「ちょ、」
振り返ると、上目遣いでこちらを見ている。かわいい。そして俺は優しく、
「ごめん。じゃっ学校行こ。」
コクリと、うなずきそのまま歩き始めた。
俺はその時に気づいた。
ラノベが持っていた本当の力を。
俺は一時期好きという感情が何かわからなくなってしまった。
しかし、ラノベを読み始めた時から感情の変化がたくさん起きた。
たかが本だ。しかしその一冊に込められた何かがある。
笑い、泣き、ドキドキし。
本。ラノベには絶大的な何かがある。俺はそう思った。
実際、俺がラノベに出会っていなければ泉とは出会っていない。
俺の脳内にはおそろしく深い考えが巡りにめぐっていた。自分が自分ではないみたいに。本当に自分なのかすら危うくなってきた。
気づくと、もう校門を抜けていた。俺と泉は自然に距離ができていった。やはり、学校では距離ができてしまう。もちろん告白して正式に彼女になったわけではないのだからしょうがないが、これからの距離が縮んで」で行くことを考えると、俺の心はワクワクでいっぱいだった。
下駄箱で靴を履き替えた時にはもう、泉の姿はなくなっていた。俺はゆっくりと教室へ向かった。
教室の扉を開けると、いたって普通の雰囲気だった、が、俺の席の近くにいる二人からは異様なオーラが放たれていた。しかもそれは俺にしか伝わってこない、殺気に近いような何かだった。「お、おはよ。」
俺は引きつった笑顔で殺気が感じられる二人………ヒロとミッツに挨拶をした。想像通り返事は来なかった。向こうには見下して見えてしまったのか、殺気がより多くなっていくのを感じられた。すると、ミッツが固く閉ざされた口を開いた。
「おい。れん。お前ちょっとこっち来い。」
クラスのムードをぶち壊した。しーんとなる教室に俺はとんでもなく気まずくなった。
クラスは再び、陽気さを取り戻し、俺は少しほっとした。しかし、問題が解決したわけではない。
俺は一歩一歩ミッツのもとへ歩んで行った。だがしかし、俺の足が思うように動かない。たかが数メートルなのに、なん十キロにも感じた。重い足取りだが少しづつ着実にミッツのもとへ寄って行った。何を言われるかなんてわかっている。どうせ、泉のことだ。俺はありのままのことを言うつもりでいた。
ついに俺はミッツの前に来てしまった。俺の席に堂々と座っていたミッツが、立ち上がった。
「お前、彼女できたんだな。」
「おい。ヒロ。俺お前に言うときなんて言ったか覚えてるか?」
それを言ったとたんに、吹けもしない口笛をし始めた。ヒューヒューと、ただただ口を息が通過しているだけの音。行ってしまえば、呼吸と同じだ。俺も子供ではないから、言われたものはしょうがないと腹をくくった。そして俺はミッツの問いかけに答えた。
「彼女がいるっていうのは嘘だ。だけれども、一つ。これだけは言っておく。俺は好きな人がいる。」
そういうと、ミッツは疑った目で俺を見てきた。じっくりと見つめ、何かを確認し終わったのか、普通の口調になり、
「で、好きな人は誰?」
「言うわけないだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
二人のこの会話を聞きつけたクラスのみんなが俺のほうに視線を寄せてきた。俺は
「いや、言わねぇよ。」
みんなの視線にツッコミを入れた。俺は、たとえみんなに期待されようとも、それを裏切る覚悟は持っているのだ。ほかのことでは全然、小心者になってしまうのだが…………変なところに自信を持っている俺、実はそんなところが自分でも好きだったりするのだ。
みんなにツッコミを入れると、なぜかわからないのだが、{いわねぇのかよ。}{期待だけさせといて、ないわー。}俺は、ボロクソに言われた。まだ懲りてなかったのか、ミッツが
「誰にも言わないからさ。ねっお願い!ヒントだけでもいいからさ。」
俺は、ミッツの圧倒的な熱意に飲まれてしまい、答えてしまったのだ。
「じゃ、じゃあ、一つだけな。このクラス。」
「えーーーーそれだけ?お願い。もう一つだけー!」
「俺に奉仕したらいいよ。」
「ポロっと、恐ろしいこと言うなよ。」
そんな明るい会話で俺はなんとか好きな人をばらすことなくいい雰囲気のままやり過ごせた。
「あ。」
唐突に俺は声を出してしまった。急に俺は気になったことがあったのだ。
「よーし。まずは読書を始めよう!」
もはや、{えー}すらも言わなくなってしまった先生。俺は、少しどころではない違和感を抱いていた。
読書が始まってしまったため、俺は大人しくその気になっていたことを、一人二役脳内で、やることに決めた。非常にしょうもないと、わかっていつつも。
────────俺の脳内───────
「なーヒロー。」
「なんだよ!れん!」
「お前さ、ミッツにさっきのことについて、どうやって言った?」
「えーそれは……………」
問題はこの後だ。この後がどうなるかによって、俺の今後の生活を大きく左右されてしまう。
<省略>
「えーそれは、あいつに、{なぁ。ミッツよ。お主、情報の伝達が、長けているわけではないのなら、この情報はしらまい。なんと、れんには、彼女がいるらしいぞ。}」
「そう。これなら俺はまだ、許容範囲なのだ。なぜならば、{彼女がいる。}それは、誰だかわからない状態なのだ。したがって、ばれるまでにかなりの時間がある。それに代わって、最悪の場合。」
<省略>
「えーそれは、あいつに、{なぁ。ミッツよ。お主、情報の伝達が、長けているわけではないのなら、この情報はしらまい。なんと、れんは、あの泉と付き合ってるらしいぞ。}
「そう。これは完全にアウトのやつだ。名前を出してしまっている。ということは、完全にミッツにばれているといいうわけだ。あいつがばかじゃない限り。」
話は、今の読書中の時間に戻る。
俺は脳内で考えたことがどちらに転がるか。それを考え続けていた。結局のところ、ヒロ次第なのだが、そういうことを考えるのが俺は嫌いでは無かったのだ。
「キーンコーンカーンコーン」
「はい!えー今日の連絡はー…………」
手帳をめくる先生。俺は今すぐにでもヒロに聞きたかった。気を抜いたら、飛んでいきそうなくらい俺は全力でこらえていた。
「特になし!一時間目の用意しろ。」
(ラッキー!!)俺はおもわずガッツポーズをしてしまった。先生がいなくなった瞬間に、俺はヒロの背中をたたいた。ヒロは振り向き
「なんだ?」
と、なかなかに低いトーンで言ってきた。それにビビってしまった俺は、数秒間固まってしまった。
我に返り、質問を始めた。
「なぁ。ヒロ。お前がミッツにばらしたことは許すにしても、なんて言ってミッツに伝えたんだ?」
「ほう。そのようなことが気になるか。試しに俺の心を読み取る 心情読込を使ってみよ。」
「そういうのいらないから。」
食い気味で、ヒロに行った。答えてほしい時に答えてくれないのが俺がもっともむかつくことだ。
おかげで今、少しイライラしている。
「で、なんて言ったの?」
「それはだな。 {なぁ。ミッツよ。お主、情報の伝達が、長けているわけではないのなら、この情報はしらまい。なんと、れんに彼女がいるぞ。}」
俺は少しほっとした。{泉}という名前を出された時点で俺は殴りに行こうかと思っていた。少しは、情報をうまく隠せてくれたことに感謝した。
「そ、そうか。ありがと。」
そう言って俺は席を立ち、一時間目の用意をし始めようとした。その時だった。
「へ~~泉さん。その本読んでるんだ!」
それは馴染みのある声が泉と絡んでいる声が聞こえた。見ると、なんとそこには泉とミッツが、仲良く?いや違う。泉は少し引き気味になっているがなんとか相手に伝わらないように隠している。そんな情景が俺の目に映った。瞬間的に俺の脳裏にとんでもなく嫌なことがよぎった。ヒロのもとへ向かい服を引っ張って、教室の端まで連れて行った。
「どうした?れん。」
「気きたいことがある。正直に答えてくれ。」
「うん、それで?」
俺はなるべく言葉を選びながら話すつもりだったが、あまりにも急なことで脳内処理が全然追い付いていなかった。
「お前、もしかしてミッツが泉を好きなことを知ってた?」
「なぜそのことを知っている。これは我とミッツだけの封印された話だったんだぞ。おまえまさ……………」
「そういうの良いから。やっぱりそうだったか。詳細は一時間目に話す。」
「了解。」
その会話を済ませ、俺は再び一時間目の準備というか、支度というか、着替えが入っているロッカーへ向かった。途中、横目でミッツと泉を見ながら……
一時間目の支度もある泉は、話を中断したのか俺が教室に戻ってきたときにはいなかった。体育館でバレーボールをやる予定だったため、三人で体育館へ向かった。
そこで俺はなかなかに大きな賭けをした。
「な、なぁ。ミッツ。答えたくなかったら答えなくていいんだけど……………」
「なんだよ。」
「えっとー、その。」
「はっきり言えよ!」
「お前、ぶっちゃけ泉のこと好きでしょ。」
俺は言ってしまった。その時の俺はどうかしていたと、いつ考えても思う。返事が返ってくるのはそこまで遅くなかった。
「そうだよな。お前も彼女がいるって言ってたし。この三人で、隠し事はよくないよな。そう。俺は泉のことが好きだ。年内に告白しようと考えている。」
「そうなんだ。」
(おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。俺と全く同じじゃねぇかよ。これが、同じ人を好きになってしまった気持ちか。)心の中で勝手に感心していた。なぜ俺がそこで驚かなかったか。それは、ラノベの展開と同じだったからだ。読んでいるところがちょうどそこで、この先の展開はまだわからなかった。ひとまず俺は冷静になり話題を変えてみた。
「俺さ、バレーボール全然できないんだけど、どうやったら、うまくできるかな?」
「それ、俺見てから言ってよ。わかる?俺のあの悲惨な姿。サーブ打って入ったら、謎におおおおおおだよ?まじでみんな馬鹿にしすぎ。」
うまく俺は話題を変えることに成功した。この会話は体育館につくまで話し続けられた。体育館に着くと、ミッツは体育係だから、バレーボールのネットを張る用意を始めた。俺と、ヒロは会話を続けていた。もちろん内容は再びミッツについてに戻った。
「お前さ、知っててあいつに{彼女がいるって}っていってくれたのか?」
「当たり前だろ。今後もこの関係を保つにはこの方法しかない。そう思ったんだ。」
ヒロは本当にいいやつだ。今回の件もそう。まじめな話をするときは中二病を封印してくれる。もし{泉が好きらしいよ。}なんて言っていた時のミッツの対応なんて怖くて想像できない。俺は感謝した。しかしよくよく考えてみると、恐ろしいことに気づいてしまった。
(俺は、泉が好き。あいつも、泉が好き。ということは、泉に、告白して付き合えるのはどちらか一人。
交友関係上、付き合えた奴と、付き合えなかった奴、俺と、ミッツは今後の関係が危うくなってしまう。)これからのことは、どうなるのかわからないがなるべく俺が好きなことは隠しておこうと、心に誓い、そのことをヒロにも伝えた。ヒロも納得してくれたみたいだった。
「キーンコーンカーンコーン」
授業が始まり、体操を始めた。俺はその時あることで悩んでいた。それは、今日泉の家に行くか行かないかだった。万が一家に入る瞬間をミッツに見られてしまったら何も言い返すことができない。ましてや、好きと分かっているにもかかわらず手を出した。と、いちゃもんを付けられるかもしれないからだ。本当に俺はただただそれだけが怖かった。
体操が終わり、先生が今日のバレーボールのチームの組合わせを言い渡した。
「今日は、クラスの班でやろう。はい、縦に並んで。」
みんなはぞろぞろと動き始めた。俺とヒロは同じチーム、ミッツだけは離れていた。ミッツのほうを見ると、視線が泉のほうを向いていた。(おいおいどんだけ泉のこと好きなんだよ。)そこで俺はいいことを思いついた。(いや、待てよ。これをうまく利用すれば……………)何を考えていたのか。それは、泉に今のミッツの気持ちを伝え、知ってもらったうえで振ってもらうなり、嫌うそぶりをしてと、言えば自然にミッツと泉を離せる。そう考えたのだ。我ながらよい提案だと思った。
「そうだなー最初の試合は……それじゃあ、こことここから初めて、こう回っていこう。」
先生は、俺のほうと、ミッツのほうを指さしながら言った。すぐにみんなは動き始めた。俺も重い足取りで、自分のチームのもとへ向かった。
試合は始まり、順調に点数を取っていった。ちょうど俺にサーブの番が回ってきたとき嫌なものがよぎった。さっき俺が道中で話したことは、ほぼほぼ嘘に等しい。俺は結構バレーボールだけは得意なほうだった。もちろん狙うところは、ミッツのいるところただ一点だった。俺はふぅーっと、一息つきボールを高くあげ、ジャンプフローターサーブを打つ構えをとった。そして思い切りジャンプをし、体をそらしてボールに俺の全身全霊のパワーを込めて、撃った。本来なら{打った}こちらが正解であろう。しかしその時の俺が打ったサーブは中学生だとは思えないほどの威力に加え恐ろしい回転量。ボールはネットすれすれを超えミッツのもとへ飛んで行った。ミッツは、挙動不審になりながら全力でレシーブをした。もちろんうまくいくはずもなく、ボールはサーブの勢いのまま、後ろに飛んで行った。俺は、それを見て
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
思い切りガッツポーズをとりながら叫んだ。チームメイトからは、ナイス!もう一本。と励ましの言葉をもらった。その勢いのまま俺はもう一度サーブを打つ体勢に入った。一呼吸置く。俺はこれをしないと入らない。いわば、ルーティンのようなものだろう。それをすましボールを高く上げた。今度は、ドライブ回転ではなく横回転をかけた。放った瞬間はミッツのいる場所とは、大きく外れた場所に飛んで行った。しかし、そこから大きく曲がり、ミッツのもとへ飛んで行った。完全に油断していたミッツは、驚きながら急いでレシーブの形をとった。が、間に合わずボールは床に落ちてしまった。向こうのチームメイトからはブーイングの嵐。俺は、少しかわいそうだなと思い、今度は違う場所に打とう思った。
ボールを空高く上げ、今度は無回転で、ボールを打った。予測不能な動きに相手チームはすこしとまどっていた。あろうことか、ボールはミッツのほうに行ってしまった。
「やべっ」
無意識に声が出てしまった。しかし、ミッツのところに、他の人が生き、きれいにレシーブされてしまった。俺は少しだけほっとした。そのポイントはしっかりとり、ゲームセットとなった。俺はすぐにミッツのもとに駆け寄り、謝った。
「ミッツーごめーん」
「お前、めちゃくちゃうまいじゃん」
「昨日見た動画の真似したらなんかわからないけどうまくできちゃった。狙ってなかったから。」
「ほんとにー?チームメイトにめちゃくちゃ言われたからな。」
「ごめんなー」
狙ってない。ということにしておくための完璧な言い訳がさく裂し、ミッツは納得してくれた。すると間もなくヒロが来た。
「れん、うますぎでしょ。」
第一声はそれだった。俺先ほどミッツにも話したように言った。三人で固まってほかの人の試合を見ていた。すると、泉がサーブを打つ番になった。ふと、ミッツのほうを見ると目がキラキラしていた。そこまで来ると俺もさすがに引いた。泉がサーブを打つと、すべてコートの枠のラインに乗っていた。皆はアウトだと思い手を付けない。すべてサービスエースだった。一人で8点ほどとると、下からサーブを打ち、相手に点を取らせてあげる余地を与えた。
「さすが、泉だわー。可愛いのに、Sっ気もあるとか、最高じゃん。」
「お前Mだったのかよ。」
「え?そんなことない?よ?」
「やはりな。今俺の能力でミッツの心情を見てみたがMを指している。」
「いや、なんでわかんねん。」
「俺は魔法を使える。」
所々で笑いを提供してくれるヒロに俺は心から感謝した。今度は、俺とミッツが審判をやらされるバンになり、それぞれの持ち場に着いた。ミッツは一人取り残された。しかし寂しそうという感情は生まれなかった。ミッツの見ている先を見ると……………泉がいた。(あいつ本当に好きすぎだろ。俺の女に手出すなや。)さすがにいらいらしてきた俺は、審判のジャッジも危うくなっていた。
恋というものは本当に恐ろしいものだと思う。たった一人の女の子を愛してしまった二人。このことが二人の間であらわになったら、友情関係はぶち壊してしまうだろう。ミッツは俺が好きになる以前から好きな人がいるといっていたのは事実。そのことを知っていながら、いや、知らなかった。好きな人がいるというのは知っていたが、まさか泉だとは思ってもいなかった。このことをがばれてしまったら、この関係は壊れる。何度も言うが。俺はこの関係を壊したくないのだ。俺とヒロは協力してばらさないことを決めたのだ。俺と、ヒロはしっかりと、ばれないように審判の仕事を真っ当した。
それ以降ばれそうになることはなく、一日を過ごせた。
問題はこれからだった。俺がいかにして泉の家に行くかだった。俺はひとまず、ミッツとヒロが帰るところをみてから、しっかりと泉と帰った。
校門を出るところまで クリア
問題はそこからだった。
いかに同じクラスの奴に見られずに家に行くかだった。ひとまず訳を話し、少し距離を開けて歩かせてもらうことに決めた。以前俺は、みんなに家が近いというのは知ってもらっているから、ある程度は同じ方向で帰れる。
もう少しで泉の家に着く。そんなときに事件が…………………起きることもなく無事に家に着くことができた。はたから見たら本当に変な人だと思われるくらいに変な動きをしていた。
見事に侵入できた俺は。いや、侵入という言い方はあれか。家に行くことができた俺と泉は泉の家に入った。俺はもう二回目となり、常連のような立ち振る舞いで家にお邪魔した。すると泉のお母さんのほうから、
「あら。山里君じゃない。部屋用意しておいたから。自分の部屋だと思ってつかってね。」
「あ、ありがとうございます。」
本当にすごいなと思った。こんな俺のためだけに一部屋も用意してくれる泉の家って…………
泉は、部屋に案内してくれるのか
「やま。こっちよ。」
(いや、やまって、それあだ名かよ。ま、可愛いからゆるそ。)俺は泉についていった。
「ここよ。」
ドアを開けてくれた。そこには俺の部屋よりも一回り大きい部屋があった。
「ここ、使っていいの?」
「ええ。そうよ。」
「ありがとう。」
「ちなみに、ここから書斎は突き当りを右ね。トイレは突き当りを左。わかった?」
「わかりました。では。」
俺は部屋の中に入った。中は泉の部屋と同じつくりをしていた。広すぎて逆に落ち着けない自分がいた。ひとまず、俺は書斎に向かった。(突き当りを右に曲がって、と。)右に曲がると、依然見たことある扉が目の前にあった。そこの扉を開け、ラノベコーナーに向かった。どこから、気になる小説を何冊か選び手に抱え、自分の部屋に戻った先ほど来た道をたどっていき、部屋に戻った。
やはり俺にとって広すぎるのか、まだ俺は、堅苦しくなっていた。俺はおもむろに鞄からルーズリーフと、筆箱を取り出し、メモができる用意をした。俺が持ってきた本はすべてラブコメだ。もちろん意識して持ってきた。俺は、夢で見たものを信じ俺は、告白して成功するための作戦を練っていた。
まず読み始めたのは、椎名の家で借りたものではなく自分でこの前買った本を読み始めた。
最初はしっかり床に座っていたのだが、だんだんと姿勢が悪くなり、最終的には寝ながら読み始めた。しかし、なぜか俺の本を読むスピードが今までで一番早かった。泉の家が俺に適していたのかもしれない。
「入るわよ。」
部屋のドアが開いた。俺は今いる場所から二歩ほど下がった。あまりに急だったことに俺は驚きを隠せなかった。
「どうした?」
俺は聞いてみた。それと同時に、視線が下に行った。(やったべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇメモしてある紙が、思い切って置いてあった。)俺は、刹那にも満たないような時間で紙を机の下に移動した。
「んで、どうしたんだよ?」
俺は、気をそらさせるために急いで聞いた。
「え、あ、えっとー、部屋に慣れてくれたかなっていうのと、えっとー。なんか家に来てるのに一人にするのが寂しいかなと思って。で、さっきの紙は何なの?」
(あ。終わった。どうごまかそう。)俺は、完璧な言い訳を考えた。そして一筋の光が俺に立ち込めた。
「あ、部屋には慣れたよ。あと、俺別に寂しくないから来なくてもいいよ。で、さっきの紙は名言とか、いいことがあったらメモしておこうかなー。と思っていっつも近くに置いてあるんだ。完全に個人的主観が入りすぎてるか人には見せられないかなー。」
「へぇーそうなんだ!」
またもいい感じにやり過ごした。何一つ疑問に思うことはないような言い回しで完璧に話した。泉はそのまま出ていいかずに俺の隣に座った。その瞬間、俺は決意した。ミッツのことを話そうと。友情関係が壊れるかもしれないことは知っている。しかしミッツのために俺は自分を犠牲にしてまでやる。
俺は泉の両肩をつかみ、自分と向き合う形に持って行った。
「今から話すことは絶対誰にも言わないでくれ。」
泉は体を跳ね上がらせた。おそらく俺が今から告白すると勘違いしているのだろう。俺はつづけた。
「実はお前のことが好きらしいんだ。」
それと同時に、泉の頭の上には大きなはてなマークが浮かんだ。俺は素早く訂正した。
「ミッツが、お前のことを好きらしいんだ。」
それと同時になぜか表情は暗くなった。すると、
「で、私のことを好きになっていると、何か問題でもあるの?」
「そう。そこが問題なんだ。話せば長くなるけど、しっかり聞いてくれ。」
二人はより一層真剣な顔になった。俺は口を開け話を始めた。
「まず、俺がなんでそんなことを言うのかというと、ミッツは泉。お前のことが好きなんだ。それはさっき話したが、今この状況を見てほしいんだ。」
「いま、この状況っていうのは……やまちゃんが、私の家にいるっていうこと?」
「そう。好きなやつの家に毎日、異性の奴が行っていたら、お前はどんな気分だ。」
「それは、いやな気持というか、とられたぁぁ。みたいな気分になるよね。」
「だろ?それが今この俺の状況なんだよ。わかる?」
「うん。」
ひとまず、ここまでは簡単に話せたのだが、ここからどうすればいいか、ものすごく悩んでいた。俺は泉のことが好き。しかし、俺よりも前にミッツは好きになっていた。それをあとから来た俺がとるなんて、友情が壊れる。だから、少し嫌いなそぶりを見せて。と、俺は伝えたかったのだ。しかし、今現在泉に俺の気持ちを伝えていない以上、言葉を選びながら話す必要があった。それでも補いきれないのは事実。このことを話すのを後日に決めた俺は、
「詳細は後日にする。」
「わかった。」
泉は難なく納得してくれた。そういうところもまた、好きなのだ。
泉は、その場を去っていった。ドアを開け、出る瞬間にこちらを向きながら、
「ありがとう」
そう言って出て行った。その時俺は、いつ告白するかについてものすごく悩んでいた。今って感じではないし、かといって、長すぎてもよくない。タイミングが重要なことは誰よりもわかっている。しかし、実際切り出せない。そのことを伝えないと、今後できない話がある。時計を確認すると、6時だった。俺はとりあえず時間も時間なことだし。と、帰宅する準備を始めた。というか、筆箱をしまい部屋の外に出た。俺は、廊下に響き渡るように、
「いずみーじゃーなー。」
と一言言って玄関のほうへ向かった。玄関には美済みのお母さん立っていた。
「部屋なんて用意してくださって、ありがとうございます。」
「いえいえ。全然泊まって行ってもいいからね。」
「ありがとうございます。今日は本当にありがとうございました。」
そういって玄関の戸を開け、家に帰った。本当に楽しかったと思う。そんなことを考えながら自宅まで戻った。
一方そのころ泉は、というと、俺がさっきまでいた部屋にいた。忘れ物チェックのためだ。部屋延滞を見まわし、特に何もないか………机の下にいちまいの紙切れが落ちていた。
「なにかしら。」
そういいながら紙を手に取った。と同時に泉の顔が赤くなった。落ちていたその紙とは、俺が泉に告白するためのシチュエーションを描いたものだった。その時、泉はすべてを察した。山里は、わたし泉凛のことが好きなんだと。
この瞬間に互いの気持ちを知ってしまった。
俺は、泉のことが好きで、泉は俺のことが好き。しかし、泉はその気持ちをあらわにしていない。
私は、山里のことが好きで、山里は、私のことが好き。しかし、山里はその気持ちをあらわにしていない。
とんでもないことが起きてしまったのだ。それぞれが好きと分かってしまった以上接し方も変わってしまう。
話は、山里のほうに戻る。
帰宅途中俺は、あまりの嬉しさにスキップを始めた。もちろん周りには警戒しつつ。もしミッツにあったらなど、様々なことが起こりうるからだ。周りを見ながら耕夫王をしている俺は自分では気づいていないが、これをだれか知らない人に見られていたら{何あの子。あたまおかしいのかな?}なんて思われてしまう。
数分し、俺は無事に自宅に着くことができた。家に帰ると、母親に何かを言われるわけでもなく、俺は自分の部屋に行った。ひとまず、鞄の中から本を探していた。それと同時にメモしてある紙も探していた。先に見つかったのは、本のほうで、紙のほうがいくらさがしてもみつからないのだ。俺は、鞄の中に入っているものを、すべてだし、一枚一枚紙をめくって確認した。しかし、依然として紙は見つからない。俺は一つの答えにたどり着いた。
それは泉の家に忘れてしまった。
ということだった。道端に落とした。ということはほぼあり得ないし、もしあったとしても、紙だけが落ちるはずがない。ということだった。俺はただただ願うだけだった。あれを見られたら、泉が好きなことがばれてしまう。電話して、取りに行くにしても、先に探されると、かなり面倒なことになる。俺はただただ願っていた。
俺はそのことを忘れたかったのか、本を読み始めた。泉の家にいたこともあり、かなり進んでいた。もう少しで読み終えるところまで行っており、集中すれば、あと一時間で読み終わりそうだった。
「れん、ご飯だから降りてらっしゃい。」
(いや。タイミングの良さな。)俺が布団の上に座り本を開けた瞬間に呼ばれたのだ。俺は少しイラっとした。一階の食卓に向かうときに本の置き場に困った俺は、布団の上に投げ飛ばし、走っていった。
「頂きます。」
ご飯を食べ始めた。俺はあっという間に食べ終わらせ急いで二階の自室に向かった。
ドアを開け、本を探すと、床に落ちてしまっていた。おそらく投げた時の反動で落ちたんだなと、推測した。本を拾うと、何か薄いものが落ちていくのが見えた。落ちたほうに視線をもっていくと、そこには、しおりが落ちていた。
「あ。」
思わず声をあげてしまった。しおりが落ちたというのが、何を意味しているか。それを想像してほしい。しおりが何をするための道具なのかを。本をどこまで読んだかの目印が、取れてしまったのだ。雰囲気でしか俺は場所を思い出せず、ここらへん。と、かなりアバウトなとこから模索が始まった。(確か、ここは読んだな。)俺は大目にページをめくる。(あれ、ここは知らない内容だ。)完全に迷宮入りしてしまった。俺は頑張って思い返した。大体の場所はわかるのだが、細部までがわからない。一ページ一ページ注意深く読んでいった。
三十分後 俺は完全に途方に暮れていた。結局のところページがわからなかったのだ。一旦記憶にあるとこから読み始めようと思ったのだがそれでも何か、いやな気分になった。そんな気分を吹き飛ばすためにスマホでゲームをし始めた。初めて数分で、俺の嫌な感情は、すべて吹き飛んでいた。そう考えればラノベよりもスマホのほうが圧倒的に優勢にあるなと思った。採取的には現代の最新鋭の道具に勝てるものはないのかと、少し失望した。
自分の好みによることは知っているのだが、やはり誘惑に負けてしまった。
スマホゲームにも飽き、俺は、ラノベを読み始めた。一回集中すると、その世界にのめりこむことができる。それが俺の長所であり、短所でもある。のめりこむことによって、圧倒的に作業速度は上がる。しかし、そのほかのことは考えられなくなる。時と場合によるこの特技は、使いどころが実際ないところも問題だった。一人でやっている分にはいいのだが、何人かとの共同作業になると、乏しくなってしまう。
一時間後 俺は、風呂に入るため、パジャマなど用意していた。俺自身、寝間着にこだわるような性格でもなく、押し入れから適当に選んでいた。
風呂場に行き、衣類を脱ぎ始めた時、泉のことがふと頭に浮かんだ。もし紙を見られていたら。どうしよう。そんなことを考えていると、急に落ち着けなくなってきた。焦る。鼓動が早くなる。俺はただただ焦っていた。実際見られてもいいのだが、告白するためのシチュエーションが、駄々洩れになってしまう。それが嫌だった。告白し、成功するための完璧なプロセス。それを見られてしまうとなると、俺のモチベーションは下がる一方だった。
髪を洗い、体を洗い、熱い熱い風呂に飛び込んだ。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
意味の分からない言葉を発してしまった。俺の頭の中には、紙のことしかなかった。気になってしょうがない。忘れられなくなってしまった。俺は速攻風呂を上がり、急いで着替え自室へ直行し、布団の中にもぐって寝る支度をした。部屋の電気を消し忘れ、一度布団から出て電気を消した。再び布団にもぐり、瞳を閉じた。(寝よう寝よう寝よう。)頭の中でそれを連呼していた。
数十分しても状況は変わらない。時刻的には普段よりも早い。従って、まだ寝れなくてもいい。と逆に開き直っていた。しかし、本当に眠気の一つもない。一旦電気をつけて部屋を明るくした。俺は、寝る気をなくしてしまった。眠くなったら寝るようと思っていたのだが、一向に眠くなる気配がなく、ふてくされたというか、あきれたというか、そんな感じになっていた。
俺はスマホを片手に布団の上でいじっていた。
一時間………
二時間………
三時間………
時間はどんどん過ぎていった。時計が指す時刻は12時を回っていた。俺は、慌てて電気を消し布団をかぶった。スマホをいじっているときは泉のことを忘れられたのだが、やめると、再び思い起こしてしまった。
これは本当に深刻な問題だった。寝れない。ただそれだけと言え得てしまえばそうなってしまうのだが、寝れないことは、俺にとって本当に深刻なことだった。寝れないことが何を意味するか。俺は学校の授業で一回も寝たことがない、優等生だ。自分で言うのもなんだが、無遅刻無欠席も保っている。そんな俺が、ひょんなことで、その記録を終わらせてしまいたくなかったのだ。
「羊が一匹 羊が二匹 羊が………」
俺は最終手段に出た。羊を数えて寝るという屈辱的な寝方はなるべくしたくなかったのだ。悔しかったのはそのあとだ。眠気に襲われ始めたのだ。うれしいのか、うれしくないのかわからない感情になっていた。
「ジリジリジリジリ」
「リンリンリンリン」
目覚ましの音が猛威を振るっていた。俺は、無反応を示し続けていた。俺はやっと、起きることができた。しかし、今までで味わったことのない眠さに襲われており、気を抜けば確実に落ちるほどのものだった。眠気を必死にこらえながら、一階へ向かった。
朝ご飯を食べていると、噛んでいる途中、幾度となく頭が、前に落ちていくのを耐えていた。朝食を食べ終わったときにも全然眠気は飛んでいなかった。寝そうになりながら、二階に向かい、身支度を整えた。
俺は、学校に早く行き読書前まで寝ようと、決意し急いで学校へ向かった。向かう途中も眠気との戦いだった。なぜかわからないが、なかなか眠気がなくならないのだ。
学校に着くなり俺は速攻自分の席に突っ伏して寝た。周りの人たちは特に話しかけてこず、非常にいい睡眠がとれた。
「キーンコーンカーンコーン」
チャイムと同時に俺の目が覚めた。起きた時は、恐ろしくいい目覚めで逆に自分が怖くなった。全員がしっかりと登校し、友達と話している最中俺だけは、机に突っ伏して寝ていたなんて思うと、なにか、寂しい感情になった。俺には、ヒロもミッツもいる。なのに俺はただ一人そこで寝ている。泉は、というと俺と全く同じ体勢になていた。その瞬間俺は、最悪なことに、再び思い出してしまったのだ。
(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
やっと忘れられたのに思い出してしまったのだ。朝は、寝ぼけていたからそのようなことは考えなかった。学校にいる時も同じだ。泉のほうを見てしまった俺が悪いのかもしれないが、というか、泉のほうを見てしまうなんて当たり前なことをしてしまっただけなのに、俺は、この答えのない問題に、こう終止符を打った。{結局、この問題を起こしたのは俺なんだ。俺があの紙さえ忘れなければよかっただけの話。この問題の原因はすべて俺にある。}そう決めつけると、とても自分の中でもすっきりした。ちょうどその時に先生が教室に入ってきた。
「えーと、取り敢えず読書しようか。」
そういうと一斉にみんなは本を読み始めた。俺もあわてて鞄から本を取り出した。俺は、睡魔に襲われているのを確認した。今目をつぶれば寝れる。と、確信できるほどの睡魔だった。本を読む気にもなれず、俺は、本で顔を隠し、寝ることにした。
数十分して
「はい。じゃー今日は、んー、あ!三時間目の持ち物忘れないように注意な。 以上」
ホームルームは終わった。俺は、寝ていた。一度眠るとなかなか起きないのが俺だった。ミッツとヒロが近寄て来た。
「体調悪いのか?」
「それならば、我の回復魔法で直してしんぜよう。」
「・・・」
俺は、無反応だった。
ミッツとヒロがしびれを切らしたのか、俺の体をゆすり始めた。五往復したところで、やっと俺の目が覚めた。
「お?って、今何時?」
「え、あ。八時五十分だけど?」
「ってことは、ホームルームは終わったのか?」
「うん」
「先生なんか行ってなかった?」
「三時間目の持ち物を注意しろだって。」
俺はほっとした。先生に、あいつは寝る子。というレッテルを張られずに済んだからだ。一安心したところで、俺は質問してみた。
「ってか、なんで俺んとこ来たの?」
「え?体調が悪いのかと思ったお。」
「そういうことであったら、我の回復魔法でも使おうかと。」
「そうか。言わん心配かけてすまんな。」
俺は心から感動した。俺にも心配してくれる友達がいたことにだ。少し潤ってしまった。そんなところを見られたくなかった俺は、
「さ。一時間目の用意しようぜ。」
そう言って、自分の席から離れた。用意し終わった俺は、席に着くなり本を読み始めた。もちろん{俺のたった一人の好きな人}を読んでいた。あと本当に少しで読み終えるところで、集中して読んでいた。
今日の授業は何一つ、集中できず、自堕落な日常を送ってしまった。まぁ、充実するのはこれからといっても過言ではなかった。しかし、如何にして泉の家に向かうか。それこそが問題であった。俺は、小さな紙切れに、泉に伝えたいことを細かく書いた。
{泉の家の行き方。}
{三時半に泉の家の門に向かう。}
{それに合わせていてくれると助かる。}
と、書き、しれーっとしながら、泉のほうへ向かいさりげなく机の上に、紙を置いた。泉は、こちらを見ながら、瞬時に察してくれたのか、紙をポケットにしまった。
俺は、廊下を一回りし、再び教室に戻った。すると、ミッツが俺のもとに駆け寄ってきた。
「どうしたんだよ?」
「えっとですね。い、泉さんノー好きなものとかありますかーね。」
「しらん」
言語道断俺は、きっぱりといった。ばれないようにするには、実際この方法が一番良かったと思う。
「そ、そうか。」
「だって俺、泉との接点ないし?」
「そうだよな。以外とお前、女子と会話するの苦手だよなw」
なぜか、鼻で笑われた。すごく下に見られて気がして、ものすごく嫌な気分になった。
「なぜに鼻で、笑うんだよ。」
「なんとなくだよ。」
無性に腹が立ってきた。今すぐにでも、グーで殴りたくなった。
「んで、話はそれだけか。」
「うん。協力ありがと。」
そう言ってミッツは、自分の席に行ってしまった。俺の感情はぶっ壊れ始めていた。今の感情は怒りと、安心の二つだった。自分でも何が何だか分からなくなってしまったのだ。改めて人間の複雑さを知った。
ホームルームが始まるため、俺は急いで席に着いた。
「えー。ホームルーム始めるぞ。今日は忘れ物をしている奴が、非常に多かったから明日以降、そのようなことがないように。」
「はーい。」
クラスのみんなは幼稚園児のような、雰囲気で返事をした。俺はそんなことはしない。第三者目線で一度物事を考えると、いかに自分らが恥ずかしいことをしているかがわかる。
「後はないかな。じゃあ帰ろう。」
待ってました!といわんばかりの速さで、クラスのみんなは、帰宅を始めた。俺は教室に残り、三時半になるまで本を読むつもりでいた。しかし、そううまくはいかなかった。
「れん!かえろーぜー」
ミッツが言ってきた。俺はその瞬間激しく葛藤をしていた。行ったとしたら、どうやって、途中で抜けられるかを。いい案が出てこずに、俺は無理やり手を引かれ、連れていかれてしまった。帰りながらも俺は時間を気にしながら、抜け出す作戦を考えていた。
「あ!」
思わず声が出てしまった。あまりにもいい案が、浮かんだからだ。
「そうしたんだ?れん。」
「俺の三つ目の目から覗くと、むむむむむむむ」
俺は、どのようにして言おうか迷っていた。数秒して俺の脳内には勝利のビジョンが見えた。
「あのさ。さっきお前らが無理やり引っ張ってきたから、学校に忘れ物しちゃった。今から行ってくるわ。」
「あらま。」
「俺の瞬間移動でも使うか?」
完全に信じてくれた。俺は、ほっと一息つき、
「んじゃ、行ってくるわ。」
「いってらっしゃい」
そう言って俺は、学校。もとい泉の家に向かった。俺は、手紙を読んでくれたのか。という心配が出てきた。それと同時に紙、メモ帳のことが、頭をよぎった。(やべぇぇぇぇ完全に忘れてたわ。)俺は、先ほどの数倍速く家に走っていった。家の門の前には泉がたっていた。
「はぁはぁはぁ。手紙、はぁはぁ。読んではぁ。くれたんだな。はぁ。」
「当たり前でしょ。」
そう言って、家の中に入った。
もうすぐで、貸してくれている部屋、第二の自分の部屋に着くところだった。俺の鼓動は早くなる一方だった。とうとう部屋の前についてしまった。ふーっと深呼吸してドアノブに手をかけた。泉が見てないことを信じて、勢いよく扉を開けた。
「あれ?そういえば俺、どこに置いたんだっけ。」
自分で置いた場所を忘れてしまったのだ。部屋の中を見回すと、瞬時に見つけられた。思い返してみると、昨日の俺は机の下にこの紙を隠していた。そのまま置いていったのだから、動いていない、
今この状況に置いて、紙が動いた形跡が俺の中ではない。従って泉がこの部屋に入った確率は非常に少ない。ものすごく合っていそうな答えを出した。しかし現実はもちろん違った。
俺は、いったんその紙を鞄の中にしまった。
数分て、やっと気持ちが落ち着いてきたのか、本を読む体勢に入った。{今日で、読み切る}という気持ちを胸に掲げ、一心不乱に読み進めていた。
残りは9ページ、左手に持つページ数がどんどん薄くなってきた。それと同時に増えてきたものもある。それは、俺の瞳にたまってきた涙の量だ。クライマックスを過ぎ、その後のことが書かれているのだが、それもまた泣けるのだ。俺は、全力で涙をこらえていた。絶対に泣かない。という信念をもって読み進めていたのだが、たまる一方の涙にとうとう俺の瞳が耐え切れなくなった。頬に一筋の涙が流れた。俺は、慌てて鞄からティッシュを取り出した。顔を拭き、鼻をかんだ。今俺は、どんな顔をしているのか気になり、急いでトイレに向かった。もちろん顔を隠しながら、誰にも見られないように走って向かった。トイレに着くなり顔を確認した。目元が真っ赤っかだった。俺は、顔を洗い、隠すようにした。何度か洗ったが、あまり変わらなかったので、あきらめることにした。泣く泣く部屋に戻った俺は、再び残りの数ページを読み始めた。
「終わったぁー。」
とうとう俺は、ラノベ第一作品目を読み終えた。待ちに待った瞬間が訪れ、とんでもない達成感に見舞われた。それと同時に回想が始まった。あのシーンは、非常に良かった。や、俺だったらこうしてた。など、自分の中で楽しんでいた。それはそれで本当に面白かった。俺は、すぐに第二作品目を選び始めた。もともと、部屋には依然選んだ本が、何冊か置いてあった。そこから選び始めた。俺が作品を選ぶときに重視するのは作品名とあらすじで、一つでも面白くないなと思った作品はすぐに手放す。俺はなかなか辛口のラノベ選択家になったと実感した。今度俺が、手に取った本は、{多治見が世界を変える}という、よくわからない中二臭い題名の本だった。その本のあらすじは、
引きこもりの高校生 多治見。そいつは、この世界に変な違和感を覚える
人は人をまね、自分の意見を言えない。この腐った社会。
アニメの見過ぎで、俺はその世界を変えられる気がした。
一番身近な学校から、俺は変えることにした。
なぜかわからないが学校のカリスマになってしまった。
そして、告白されてしまったのだが…………
俺は、こういうスケールの大きいものが好きだ。何か下のほうから、這い上がる感じが非常に好きなのだ。そして極め付きの告白。これが俺にとって最高のものだった。告白するのは確実に選ぶ。なぜなら、忘れているかもしれないがこの一年で俺は確実に告白するのは決まっている。それの参考にしたいのだ。運命の二作品目の一ページ目をめくった。そこには、それぞれのキャラクターのプロフィールが、書かれていた。主人公である{多治見真翔}は、アニメの見過ぎでこの世界を変えたくなったとあるのだが、俺のもそうなってしまうのか。という恐怖が芽生えてしまった。唯一違うところがあるとすれば、俺はこの世界が嫌いではなかった。この世界を変える気もない。そこが彼と違うところだ。
そして本文に移った。
一時間後、時計を確認すると、帰宅せねばならない時間になった。俺は、本をもってかえって読みたくなったので、帰る時に玄関に向かい、お母さんに一言挨拶してから泉の部屋の場所を教えてもらった。
俺は教えてもらった場所に向かった。
部屋の前に着き俺は優しくノックをした。中から、声がした。
「なに?」
誰度もそういう反応をするのか!と、変に驚いた。
「ねぇ。なに?」
「ああああ。ごめん。」
「え、あ。やまちゃんだったの?あ、ごめん。」
「あ、別に。要件は、書斎にあった本で一冊借りたいのがあったから、持って帰ってもいいかなーと思って。」
「いいわよ。」
「いいの!?ありがとう!」
そういって俺は、その場を立ち去った。
家に着くなり、俺は読み終わった本を棚にしまった。ものすごくハッピーな気分になった。本当にしょうもないことかもしれないけど、俺にとってはとてもすごいことだった。あの俺が、あのアニメが嫌いだった俺が。本棚に、ラノベを置く日がとうとう来てしまったのだ。俺はこの日を記念日として取っておきたいくらいうれしい気持ちになっていた。はたから見たら、ただ単に本棚に本を置いているだけに見られてしまうかもしれないのだが、俺は本当に違った。
俺は、今日家にもって帰ってきたラノベを読み始めた。今度は前と違う読み方で、先の出来事を予想しながら読んでみていた。一作品目では、今後どのように展開するかなんて見当もつかないのだが、二作品目となった今では先の予測が少しできるのだ。俺は、少し成長したなと実感していた。
「れん!ご飯だよ。」
本当に毎回いいタイミングで親が呼んでくる。俺は、隠しカメラか、盗聴器があるのか本気で疑っていた。呼ばれてしまったものはしょうがない。俺は、しぶしぶ一階へ向かった。
本気で俺は早く食べた。もしかしたら歴代で最速の速さで食べたかもしれない。俺は、再び部屋に戻りラノベを読み始めた。確実に俺はラノベを読むスキルが上がっているのが実感できた。
山里 連
駆け出しのラノベ読者
ラノベスキルLv.2
ラノベ好き度Lv.30
熟練度Lv.1
所持数1冊
といったところか。まだまだレベルは低いがこれからのスキルアップが見込まれる。本当にラノベが好きだった。すぐにはまってすぐに飽きるのが俺のこれまでの人生経験上の特色だった。それにはすべてある、共通点があった。それは{終わりがある}ということだ。しかしラノベには、終わりがない、知らない世界が無限に広がっている。ありとあらゆるジャンルのものがあり、自分の好みのものを探せる。本当に無限のものだった。
部屋には、ページをめくる音だけが響いている。
二時間後
俺は、ふと時計を見た。もう九時になっていた。俺はあわてて風呂に行く準備をした。最近俺の生活リズムが乱れに乱れ、寝る時間から起きる時間までかなりの遅れが生じていた。ラノベがもたらす人間への影響力は本当にすごいと思う。言ってしまえば紙の束が、人間に一喜一憂の感情を与える。本当に素晴らしいと思う。感心していると無意識にラノベを触っている俺がいた。反射的に手を引っ込めてしまった。そこまでの域に達している自分が、少し怖くなった。
急いで風呂に向かった。
<以下省略>
自分の部屋に戻った俺は、再びラノベを読み始めた。もちろん寝る時間を設定してからだ。いつものように気づいたら寝ていたといういわゆる寝落ちというものだと、睡眠時間がわからない。それが一番怖いのだ。睡眠時間は確保したいという願望もあった。だからか、俺は、しっかりと十時半に寝ようと、アラームを設定しておいた。再び俺は自分の世界に入った。
「リンリンリーンリンリンリーン」
すぐに設定していたアラームが部屋中を鳴り響かしたのと同時に俺を現実世界に取り戻させてくれた。
「お!寝る時間か。」
独り言を漏らした。俺はゆっくりと布団に向かった。ベットのすぐ近くのコンセントに、プラグを差し込みスマホを充電した。
部屋の電気を消し布団にもぐった。瞳を閉じると、今日起きた出来事がスライドショーのように脳内を流れていった。しばらくすると眠気という海に飲まれてしまった。
「ん、んんん。ふわぁぁぁぁ」
俺は、目覚ましよりも早く起きてしまった。いつもなら目覚ましの騒音によって目が覚めるのだが、今日はパッと目が覚めた。これも昨日早く寝たおかげなのかとすこしうれしくなった。
時刻を確認すると、朝の五時三十分だった。いつもよりも格段に速い。早いなんてもんじゃないくらい早い。自分でもなんでこんな時刻に起きたのかが不思議なくらいだ。俺はそこで、寝ぼけた脳を使って考えてみた。
{昨日寝たのが、十時半起きたのが、五時半ってことは、睡眠時間は七時間。普段起きている時刻は七時、ということは、逆算すると普段俺は十二時前後に寝ていたというのか。}自分でも、ものすごくびっくりした。あの俺が十二時に寝ていたなんて。本を読む前は風呂あがったらすぐ寝るという習慣が身についていたにもかかわらず、今ですら本を読んでから。生活習慣の乱れがかなり出ていた。
本 それはとてもいいものだ。何度も説明する通り多大なる影響を与えてくれる非常に良いものなのだ。しかしその反対もある。のめりこみすぎると時間の経過も忘れてしまう。それはおろか睡眠時間の低下、大量の投資など様々な害がある。
俺はスマホの充電を終わらせ、電源を付けた。そこにはいくつかの通知が来ていた。それは、すべて動画サイトの新着情報の通知だった。その通知をタップし机の上で動画を見始めた。
動画を見ているときとラノベを読むとき。 そこには何か同じ充実感があった。動画に夢中になっていた。次から次へとどんどん見ていった。周りの人の会話にも合わせられるように人気動画投稿師の人々の動画もチェックしていた。自分ではやれないことに関心がわき、失敗すれば、爆笑の嵐。俺の感性上はラノベ=動画サイト といっても過言ではないと思った。
「れん。ご飯だから降りてらっしゃい。あれ、おきてる?」
「うーーん! 今行く。」
今回はちょうど見たかった動画を見終えた瞬間に呼ばれた。呼ばれるタイミングが本当に良い。もぅ、何回いや、何十回と思ったことか。俺は、返事をしてすぐに一回の食卓へ向かった。
俺にとって食事の時間というのはいかに早く済ませられるかが勝負だとすら思っていた。早食いが良くないことはわかっている。それをカバーできるほどの噛む能力、あごの強靭さが勝負を左右される。アスリートみたいになっているが俺はただただラノベを読む時間を作りたいだけなのだ。
食卓に着き俺は
「いただきます」
そう言って、試合が始まった。今日の朝ご飯は食パンだった。俺はいかに時短できるかと考えてみた時に考え付いた答えがジャムを塗らずに半分に折って食べるという方法だった。すぐに実行をしていった。今後の作戦にも影響してくるため、問題点も考えながらむしゃむしゃとほおばっていた。
五分もたたないうちにすべてを食べ終え、走って自分の部屋に戻っていた。部屋に戻るなり俺は、ラノベを読み始めた。今回ものめりこみすぎて時間を忘れるということの無いように、しっかりとアラームを設定し、自分の世界に入っていった。
「りんりんりん」
アラームが鳴り、俺は、現実世界に引きずり戻された。すごくいいところでアラームが鳴ってしまったため、ものすごく先が気になってしまった。しかし遅刻するわけにもいかず、急いで身支度をすませ鞄に本を詰め込んだ。急いで玄関に走っていき、母から弁当を授かり走って学校へ向かった。途中の赤信号が普段の何倍も長く感じた。ものすごくイライラしてくる。(早く早く早く早く早く早く)ただただ俺の中にはもどかしい気持ちでいっぱいになった。時は満ちた。とうとう信号機の色が赤から青に変わった。俺は、それを見計らって完璧なスタートダッシュを切り信号待ちをしていた、車両、人などあらゆるものよりも早く対向の歩道に走っていった。そこからもスピードを落とすことなく学校へ走っていった。
学校に着くなり俺はおびただしい速度で靴を履き替え教室へ向かった。教室に着き自分の席に座ると家からの疲れが、波のように押し寄せてきた。数分間の間、机に突っ伏して体力の回復を促した。体力がそろそろ回復してきたころ、鞄からラノベを取り出し、先ほどのところから読み始めた。一分もしないうちに自分の世界に入った俺は、周りの音を完全にシャットアウトし、脳内にそれぞれのキャラクターをシナリオ通りに動かして楽しんでいた。
しかし、俺も成長した、以前の俺を思い出してほしい。初めて学校でラノベを読んでしまった日のことを。あの時は事故だった。間違えてというか無意識というか。持ってきてしまいそれをクラスの奴に見られてしまった。あの瞬間は本当に死にたいとすら思っていた。これからの中学校生活が地獄になることを覚悟していた。しかしみんなの反応は違った。まさかの共感を得てしまったのだ。あの店員には感謝してもしきれないほどのものがあることは何度も思った。その日から俺は、隠すことなく普通にラノベを読んでいた。今日で第二作品目に入るということもあり、少し緊張はしていたのだが、このキャラクターが定着したらしくみんなからは特に反応はなかった。奇跡は、本当にあるんだ。と関心がわいた。俺の脳裏にあることがよぎった。それは(もしかして俺、部屋に閉じこもってる?)俺は昨日の生活を思い返した。家に帰る、本読む、夕飯食べる、動画見る。(あ、やべ。ひきこもりじゃん。)気づかぬうちに俺は軽度の引きこもりになってしまったのだ。俺は自分にひどく失望した。嫌いと、思っていたものに自分がなろうとしていることに。