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逝ってらっしゃい!〜異世界でマッサージ始めました〜  作者: zena
第一部 『二人の姉妹』編
8/15

気を揉む

その日俺は人生最大の危機に陥った。


店にある椅子に座り、前に置かれた机に組んだ腕を乗せている俺。

対面に座るは、我が支援者兼保護者とでもいうべき存在、フレイ・ディオスナード。

凛としたその佇まい、優しく厳しく俺を導いてくれる、そんな頼れるお姉様的存在。


「どうしてるかなって思って様子見に来たのに、どうしたの?今日はどこか具合でも悪いの?」


フレイのその言葉に、具合ではなく、状況が悪いんだ、そう言いたかったが言うことなどできやしない。


くそっ、なんなんだこれ。


「ならいいけど。ちゃんとご飯食べてる?」


訪客が少ないとはいえ、あなたのハインツさんから高額な料金を頂いているおかげで食うには困らない程だ。そう言いたかったが俺は息を飲み込んでしまい、言葉が出なかった。


・・・・ぐむぅ・・


黙り込む俺を不思議に思ったのであろうか。フレイは再び気にかけてくれているような声をかける。


「やっぱり具合悪いんじゃないの?しばらくしたらハインツ達と一緒に魔巣窟に行くんでしょ?無理しないで断ったら?」


できるなら俺もそんな所に行きたくない。だがハインツの表情を思い出すと断われる気がしない。


ラジカルフォースのお偉いさんらしき人の頼みを断れずに俺が魔巣窟について行く事を渋々了解した時のハインツの表情といったら。


それはもう嬉しそうな感情を隠しきれていなかったのだ。最早今更行きたくないなどとはいえない。


・・・・・ぁあぁ、やば・・い



大丈夫、俺のその一言にフレイは更に疑問の顔を呈した。


「大丈夫ってあなた、さっきから苦虫噛み潰したような顔時々するじゃない。本当に大丈夫なの?」



・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・ぐ、ぐむぅっ・・意味が・・わから・・ん


「具合悪いなら少しは頼ってくれていいのよ?そうね、じゃぁ晩御飯作ってきてあげるから、今日は休んでなさい。いい、ちゃんと休むのよ?」


こくんと頷いた俺に背を向け店を出て行くフレイ。その足取りは若干浮かれているようにも見えたのだが、何かあったのだろか。


フレイが店を出ていった後俺はつっぷするように

机に顔を伏せた。

危機的状況はなんとか脱したのだが、訳がわからずもう何も考えたくなかった。


このままここで寝てしまおうとしたのだが、やはりそれは無理だった。


「えっはようはな?(いったようだな?)」


俺の突っ伏した机の下からでてくる声と人影。

口周りの何かをぺろりとしながらそれは出てくる。


ごくんと喉を鳴らし何かを飲み込んだ後、それは言った。


「失礼。口の中に物を入れながら話すとは、淑女たるものとしてあるまじき行為だな。」


何が淑女だよ、アホ毛一本跳ね上がってるし。てゆうか淑女は机の下に潜らないだろうが。


「さて、では私は今日はここに泊まることとしよう。貴公はどうするのだ?布団は一つしかないようだが」


・・・・


黙り込む俺なんて無視しながらそいつは言う。


てゆうか、てゆうかさぁ・・・・


お前誰なんだよ?!!


「先程出会ったばかりだが既に私達は親密な関係と言っていいだろう。私と共に布団に入ることを許してやろうではないか。」


くそっ、人の話を聞きやがらねぇ!

それにいつまで人の股の間から顔を出してるつもりだよ・・・もうやだ、なにこれ。


「ふむ、貴公どうした?そうか、私の赤く燃え上がるような髪色が気になるのだな?そうだろう、赤毛は珍しいようだからな。」


こいつ・・・絶対やべぇやつだ。


「私は、そうだな。みなは炎帝などと呼んでいる。この赤く燃え上がるような髪色と戦場を熱き血潮で染め上げることを揶揄してそう呼ぶそうだ、ふっ。」


ふっ、じゃねぇし。

何だか知らんがその炎帝様が何で俺の股間から顔出してんだよ。それに、くそっ・・・



「貴公、そう私を熱い目で見つめるな。既に親密な関係なのだ。私は貴公から逃げも隠れもしない。貴族騎士たる私はいつ何時も貴公を正面から受け入れよう。」



名前も素性もどうでもいい。逃げも隠れもしなくていいから早く立ち去れよ。

意味がわからなすぎる。


「ふむ、先程はつい癖で隠れてしまった。私には私を想ってやまない信者が多くてな。人目がない所を探しここをみつけたのだが、よもやこんなへんぴな場所にくる物好きがいるとは。」



お前もそのへんぴな場所にくる物好きだろうが。

そんな考えも浮かぶが、こいつの相手をしたらお終いだろう。まとわりつかれたら迷惑この上ない。


「全くこんなに多くの者から慕われる淑女と親密になれる貴公は幸せ者だ。」


・・・


「あぁ、やめてくれ、その熱い視線は。心配するな、貴公が思う程私は薄情者などではない。貴公の側を離れたりなどしないさ、ああそうだとも。」


・・・


「この広い世界でこうして巡り会い、親密な関係になれたのだ。それを無下になどできるものか、いや、できなどしない。」


・・・



「私は」


うぜえ。

一言に、うぜえ。


「なっ、どうした貴公?!何故にそのような言葉を?!はっ?!さては世にいうツンデレというやつか?なるほど、これは・・そそる。」



駄目だ、このポンコツは。

このポンコツは俺の中で存在しないことにしよう。


俺とこいつが出会ってフレイが訪れ帰るまで二十分程。

こいつがきてから五分程しか立たないうちにフレイが来たことを考えると、このポンコツは顔見知りでもなんでもない、ただの他人。


知らない客が来たかと思いきや、フレイの気配を感じたこいつは早々に机の下に潜り、フレイが帰るまで俺の・・・・


普通急に会ったばかりのやつの股の下に潜り込むやついないだろう。


これから行きたくもない魔巣窟へ行くための準備もしなきゃいけないのに、なんでこんなとつびょうしもない出来事に巻き込まれなければならないのか。


「ふふ、運命、だろうか。」


うわ、気持ち悪い。


股の間にいたのがフレイだったのなら嬉しいことこのうえないのだけど。


「それはそうと貴公、整体師なのだろう?私の疲れ切った心と身体、癒してはもらえぬだろうか?もちろん、金は払う。私と貴公の間にそのような金銭的関係が生じるなどとは悲しいことではあるが。」


何言ってんだか、このポンコツは。


しかし、金を払うというならやってやろうか。

そうだ、面倒くさいし金貨十枚とかにしよう。

やるもよし、帰るもよし、だ。


「なっ?!金貨十枚だと・・・。貴公・・・」


やばっ、ふっかけすぎたか。

言動がポンコツだろうが騎士は騎士。

力を振るわれたら女だろうが俺などは瞬殺されてしまう。


「待っていろ、貴公。私が貴公を成り上がらせてやるから。金を用意してくる。待っているがよい。」


そう言って炎帝と呼ばれる赤毛の自称淑女は店をさっさと出て行った。振り振りとはちきれそうな尻を振りながら。



・・・・異世界には頭がおかしいやつが普通にいるらしい。気をつけねば。


途方にくれながら、そう俺は気を揉むばかりであった。





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