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逝ってらっしゃい!〜異世界でマッサージ始めました〜  作者: zena
第一部 『二人の姉妹』編
5/15

白夜騎士を揉む

「本当にこんな所でいいの?」


元締めの女性は心配そうに俺の顔を覗きこんだ。

商売マッサージを始めるにあたり場所を提供してくれることになったのだが、いかんせん場所の賃貸料を払えるほど金は持っていない。

払えるほどというか無一文なのだが、どこか無償で提供できる場所はないか尋ねたところ、今いる場所に連れてきてくれたのだった。


そこは郊外ともいうべき町外れ。整備された石畳などはなく地面はいつからその状態か分からない程荒れ地となっている。

周囲には建物どころか人通りもないのだが、スペースはありすぎると言っていい程に広い。

ここならラクルを自由に遊ばせることもできる、というのは建前で、期待に応えられる程の責任感を俺は持っていなかった。

だから商売マッサージが成り立たなくても迷惑をかけることのない、無償で提供してもらうことのできるこの場所を選んだのだ。


「あなた、本当にやる気あるのよね?」


ヤル気ならいつでもまんまんだ。

口から出そうになった言葉をいつものように必死に飲み込んで、得意の苦笑いをする。


「がっかりさせないでよ?それと定期的に報告しにくること。いつまでも延々と甘えさせる訳にはいかないしね。」


優しさの中にも厳しさあり、か。

できれば甘々にして欲しいものだ。


そこにはむき出しの地面しかないのだが、建物は自分でつくることになった。お金貸そうか?そんな言葉を元締め女性は俺に言ったのだが、大丈夫です、何のあてもなく反射的に言ってしまった。

しょうもない見栄だと自分に呆れてしまう。


だがここにくる間ゴミのように積み重ねられた資材があった。なんとか使えそうな物も目にしたから後でそれを取りに行くことにしている。

なんとも綱渡りだ。

俺一人だったら既に挫けてしまっていたであろうが、俺にはラクルがいる。

馬鹿面をしたあいつさえいれば、ラクルのため、とか自分に言い訳しながらなんとかやっていけるはずだ。


元締め女性が帰りラクルを袋から出してやる。


『ピュ〜』


ああ、なんという安心感だ。

優位な立場にいると思っていたのだが、実は俺の方が依存してしまっているのかもしれない。

いや、してしまっている。


ラクルを荒れ地に離した後、俺は先程目をつけた資材ごみを取りにいった。



ふぅ。こんなもんか。



『ビュ・・・ピュ?』


え゛・・・何これ?

ラクルが不思議なものをみるような声をあげた。


だだっ広い荒地にぽつんとある薄汚れた机に椅子二つ。

そう、俺はその机と椅子だけで店を始めることにしたのだ。決して店と呼んでいい見た目ではないが、客の放つ光さえ視えれば何とかなるんじゃないか、そんな短絡的な考えでこうゆうことになった。


いきあたりばったり、その場しのぎ、異世界にきてもやってることは変わらないことに、虚ろな気持ちとなってしまった俺だ。


看板も作ったのだがものすごく貧乏くさい。

立てかけてあるだけで所々傷んでいる分厚い一枚板には


『ようこそ マッサージ店へ』


何の飾り気もない下手くそな字で彫ってある。

異世界においても言葉は通じるし文字も読めたのだから、日本語で書いたって分かるはずだ。確証はないが、とりあえずできることをした結果だ。


うう、なんてしょぼさだ・・・


ちなみにこのクスクスの町の通貨は、主に銅貨、銀貨、金貨で価値を決めているようだった。

銅貨三枚程で小さなパンが売られていたところを見ると銅貨一枚で五十円程の価値だろうか?


日本で三十分から六十分のマッサージを受けると三千円くらいだと考えると、銅貨にして六十枚ぐらいがマッサージの料金になるはずだが、こんな場所ではそんなに取っていいはずがない。


最初は銅貨二十枚ぐらいにして様子をみてみることにした。


その日客はくるはずもなかった。


三日後、元締めの女性が俺の様子を見に来た。


「生きてる?」


開口一番、俺の生死を問う質問が投げかけられる。

ウリボーの燻製肉もちょうど底をつき、死に体と言ってもいい程俺は衰弱していた。

まさか、まさかこれ程とは、自分の考えが甘すぎを超えて浅はかだったことを悔いるほかない。



「仕方ないわね、死なれちゃ困るし私の家でご飯食べさせてあげる。後、勝手にあなたの借金ってことでここに建物つくらせてもらうわ。」


なんて・・・なんて神だ・・。

体を動かそうにも重く、高速ではないが俺は懇願するように土下座をしながら、お願いします、と力なく言った。

プライドもクソもあったもんじゃなかった。


◇◇◇


俺は元締め女性の屋敷にてむさぼるように食事をとった。巨乳中年女性の作る料理も美味かったのだが、出された料理の食材一つ一つの質がよく、食べても食べても次の料理を求めてしまう程の美味さだった。


「ほんと、男って馬鹿ばっかり。」


頬杖をつきながら、元締め女性は呆れたように話す。


「私は色々な人に支援しているのだけれど、あなたは群を抜いて底辺ね。」


てえへんだー。

言ったら最後、見捨てられることになるだろと思い食事と一緒に飲み込んだ。


「私の支援している人の中にあなたの商売マッサージにうってつけの人がいるから、後で紹介してあげるわ。ちょうどさっき帰ってきたらしいから。」


蔑んだり、協力的だったりいまいち元締め女性の性格が掴めない。助けられていることには変わりないから、いちいち気にしてはいられないのだけれど。


お詫びにマッサージを、と話しかけると


「自分の商売を簡単に安売りするものじゃないわ。必要とする人のためにとっておきなさい。」


などと誰がどうみてもカッコいいセリフを言われた。言う方の立場になりたいと思うものの、おれだったら間違いなくマッサージしてもらうだろうと己の小賢しさに消えてしまいたくなる。


「でも、これだけしてあげたんだからそれもいいわね。」


フフッと笑いながら、端正な顔立ちの目元を緩めた元締め女性は


いや、フレイ・ディオスナードはそう言ったのだった。


フレイの首筋をマッサージしてやった。

もちろん、白い光が消えるまで。


彼女は首筋に手を当てて感触を確かめた後、紹介すると言った人物に会ってくるといい、屋敷を後にした。


待たされることになった俺は彼女が食べ残した食事をどうにかして貰えないか、そんなことを考えていたのだが、満腹になったこともあり、そのままつっぷするように寝てしまった。



辺りが暗くなったぐらいにフレイ・ディオスナードは帰ってきた。


「帰ってきたばかりでやることが残っているそうだから、二日後あなたの店に行くらしいわ。」


どうやら約束をとりつけてきてくれたらしい。

しかし、来るという約束をしてくれた人物があの何もない店にくるとなれば、正直俺がいたたまれなくなってしまう。


「心配しなくても大丈夫、二日もあればあなたの店はそれなりの建物になってるはずよ。」


ああ、俺の借金ということで店を建ててくれると言っていたっけ。

フレイ・ディオスナード、あなたには一生頭があがらないだろう。

狩人の男性夫婦しかり、彼女しかり、俺は助けられてばかり。

なんとかして恩を返さなければ。


二日間屋敷にいさせてもらった後、俺は自分の城の出来栄えを見に朝早く屋敷をでた。


俺はその城を目にした。

木目を基調とした外壁に屋根は瓦のように石を何枚も重ねている。中に入ってみると客が一人マッサージを受けられるベッド、待合室、あれは受付だろうか、確かに店と言えるものがそこにあった。

看板だけは俺が作ったものだったのだが、何故これを残したのだろうか。

だがたった二日でこれを作り上げてしまう職人はどれほど熟練した技術を持っているのだろうと素直に驚いてしまう。


店の中からひょこっとラクルが顔を覗かせた。


『ピュピュピュイっ』


二日もほっといてしまったのだが、変わらず無邪気に出迎えてくれた。

フレイの屋敷からくすね・・頂いてきた菓子をラクルに与えてやる。

もぐもぐと食べている姿は、癒やしの存在そのものだ。


それから三時間程立ってからだろうか、町の中央にある時計塔から正午を知らせる鐘が鳴り響いた時にフレイとその人物はやってきた。



「いるわね。連れてきてあげたわよ。」


フレイはそう言って連れの人物に視線を向けた。

後から聞いた話だが、ゴミ置き場を通ってこないと俺の店にはこれないのだが、よもやこんな町外れに店があるはずがないとその人物は引き返してフレイの屋敷に行ったとのことだった。


その人物はぺこりと軽く会釈をしただけで言葉を発することはなかった。


その人物は女性。

金色に輝く髪色のフレイとは違って銀髪。

年齢は十代後半というところか。

フレイは肉付きのいい身体をしているのだが、そのせいもあってかその女性の身体は華奢に見える。そして、あれは、ちっぱい。

フレイが妖艶でしたたかな女性と表現するならば、彼女は清廉で透明感のある女性という所だ。ただ無表情というか、口数は多いほうではないのだろうという印象を受ける。


俺の視線がフレイと自分の胸を行き来していたのを悟ったのか、むぅ、という表情へと変わっていた。


「帰る」


女性が一言そう発し帰ろうとした所をフレイが引き留めた。


「騙されたと思ってやってもらいなさい。あなたのためよ。」


そう言われた女性はくるっと振り返り俺に視線を向けた。まるで品定めでもされているようだ。


とりあえず座りましょう、そんなフレイの言葉もあって俺達は新しい木の匂いがする椅子へと座ったのだった。


彼女は冒険者よ、そんな言葉を口きりにフレイが女性を紹介してくれる。


「ラジカルフォース唯一の女性騎士。白夜騎士の二つ名を持つハインツ・ディオスナードと言えばあなたも分かるでしょう?」



即答で、分かりません、一言そう告げる。

てゆうかディオスナードって・・・


「私の腹違いの妹よ。」


へー。


「可愛いでしょ?」


急に砕けた表情で俺に同意を求めるフレイの顔がなんともまぁ可愛いこと。


「ラジカルフォースっていうのはハインツが所属するパーティーの名前よ。白夜騎士って呼ばれてるのは」

「お姉ちゃん、やめて」


「いいじゃない、自慢の妹なんだもの。あなたの名は知らない人の方が少ないから、こうして自慢できることって数少ない機会なの。」


何やら興奮気味に話すフレイ。いつもという程フレイをみてはいないが、それでも表情が緩くなっている所をみれば、妹だという少女には気を許しているのだろう。


「お姉ちゃんでも、駄目」


誰だったらいいんだよ?

そんな言葉でつっこみたくなったが、言ったらフレイにボコボコにされるんじゃないかと思い、言葉を飲み込む。


キッ、とフレイが俺を睨む。

どうやら言葉を飲み込めていなかったらしい。ボソッと言ってしまったようだ。


すいませんすいません、睨まれた瞬間平謝りする俺だが、フレイはこいつ後でぶん殴る的な顔をしていた。


「ごめんなさい。お姉ちゃんは過保護。」


何故か少女に謝られてしまう。


「まぁともかく、あなたにハインツのマッサージをお願いしたいの。」


・・・あれ?見兼ねた俺に客を紹介してくれるんだと思ってたんだがフレイにお願いされてしまった。


まずい、やつが目覚めてしまう。

こらえるんだ。



少女はこちらをじーっと見るばかりでとくに話そうとも動こうともしていない。

多分俺なんかに期待なんてしていない。フレイの懇願に根負けしてここまできた、そんなとこだろう。


分かりました、では料金は通常料金の五倍、銅貨三百枚でお受け致します。

そう告げた。


お願いされる立場になったからと言って、決して俺の中のくされ外道が目を覚ました訳ではない。


少女の体には五箇所程白い光が灯っており、今までみた光の比ではないぐらい大きなものだった。

さすがにそれをやるとなればそのぐらい貰って当然だという考えだったのだが、フレイ達はよもやぼったくっているとは思っていないよな?


「お願いするわ。」


即答でフレイが返事をした。通常料金は銅貨六十枚だということはフレイは知っていたはずだが。


「あなたにはそのぐらい料金を取る必要があるって感じているんでしょ?お金は私が払うからハインツにマッサージしてあげて。」


フレイは少女のこととなると鬼気迫るものがあるのだが、それほど心配しているということなのかもしれない。


少女の身体の光っている部分はというと、右肘、右手首、左膝、両大腿部のつけねだった。

これ程大きな光を放つとなると、相当身体にガタがきているに違いない。

それでも無表情を貫くのだから我慢強いというか、他人に弱みは見せたくないタイプなのだろう。



少女は大人しくマッサージを受けることにしたみたいだ。

フレイは俺が変なことをしないようにと横で見ているとのことだった。


ちっ。


少女をベッドに横たわらせて右肘、右手首、左膝、両大腿部のつけねの順にマッサージをしていくことにした。


初めての客、五箇所にもある大きな光、やりがいがありすぎると言ってもいい。


では、逝きます。


もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ


約二時間。ようやく三箇所目の光が消えた。

俺の手は最早限界を通り越していた。


残すは楽しみにとっておいた

あ、間違えた。

難関として最後にまわした一番大きな光を放つ両大腿部のつけね。


無理をしたせいもあって俺は全身汗だくになっていた。


フレイは二時間ずっと俺を凝視していた。ちらちら少女にも視線を向けていたのだが、少女が眠ってしまった後は俺から視線を外すことはなかった。わずらわしかったが途中から俺も集中したため、気にはならなくなったが。


そこで少女が目を覚まし、ベッドから起き上がる。


ふぁ〜っと涙目になりながらあくびをし、右腕を上にあげながら伸びをする。


「・・・・・痛みが・・・消えてる?」


無表情の中にも驚き。そんな感情を込めて少女はつぶやいた。


それはそうだろう。俺の疲れ具合をみろ。フルマラソン走ったぐらいの疲労感だ。


仕事はまだ残っているんだが、俺も疲れた。


ちょっと休ませてくれ、その言葉に少女はただこくんと頷き、フレイは飲み物取ってきてあげるわ、そう言って屋敷に一旦戻っていった。


そして、くされ外道は目を覚ました。

フレイよ、お前がいなくなったのに本当に休憩すると思うか?

少女と二人きり、そんな絶好のチャンスを俺が逃すはずがない。


俺は備え付けてあった布で汗をふき、少女に話しかける。


後は両大腿部のつけねだけなんだが、やるか?


少女は先程と同じようにこくんと頷き、そしてベッドに横たわったのだった。

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