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逝ってらっしゃい!〜異世界でマッサージ始めました〜  作者: zena
第一部 『二人の姉妹』編
4/15

元締めを揉む

俺はその日ついに中年夫婦の家を離れる決意をした。


もう死ぬつもりはない、どこか働けそうな場所はないか、そう狩人の男性に問いかけた。

自殺者志願者と思われていたのを否定するのもめんどくさかったから、そんな風に生きていく意思を狩人の男性に示してみたのだ。


「ついに働く気になっただか。おらぁも一安心だぁ。」


やはり狩人の男性は根本的にいい人だった。彼に腹立たしく感じた時もあったが、結局一人で勝手に俺がそう感じていたにすぎない。夫婦が夜の営みをするなど考えずとも自然なことなのだ。


「ここから北に一週間程歩いていけばクスクスってえ名の町があるだ。そこなら働き口があるかもしれねえべ。」


クスクス、ね。

町の名の意味は?と質問したが狩人の男性は、分かるわけねえとすぐさま返事をした。


クスクス、クスクス。

俺を嘲笑っている?


・・・はっ?

一瞬日本にいた時の記憶が蘇り、俺は背中につーっと流れるような冷や汗をかいた。

自分の自信のなさからかもしれない。女性の集団に出くわした時は、自分が笑われているように思えたものだ。実際笑われていたのかもしれないが。

今度こそは、自分に自信を持って胸を張って生活をしたい、異世界にてそんな決意を俺はする。



ちなみにだが、スライムのラクルもついて来るという。せっかく子分にしたのだが、町では一目がつくだろうと思い置いていく事を伝えたのだが・・・


『ピュイーっっっ!!!』


めちゃめちゃ怒っていた。

どのくらい怒っていたかというと、俺がすっと手を伸ばすとラクルもすっと身を引いて触らせてくれない程に、だ。


『ピュイピュイピュイ!!』


ラクルが何と言っているか俺に分かるわけはないのだが、その仕草が


『そんなこというならもう触らせてあげないんだからねっ』


だった。


ちきしょう、優位な立場だったはずなのに。そんな悲しみもあったが俺自身もラクル(奇跡の感触)を必要としていたため、結局は自分の意思で連れていくことにした。

幸いラクルの体は小さいし、なんとかなるだろうという何の根拠もない考えに行き着いたこともあるのだけれど。



クスクスの町の近くまで狩人の男性が送ってくれることになった。

巨乳中年女性は枯れ草で編まれた荷物袋の中に、ウリボーの燻製肉、マンドラゴラの干し木、陶器に入った水をいれて渡してくれた。

やはり巨乳中年女性も根本的に、いや、素直に優しい人だったと言わざるを得ない。


別れを惜しみ、素性も分からない俺をぎゅっと抱きしめてくれた。

思わず、涙が出そうになった。


巨乳中年女性にありがとう、そう伝えると

(あれだけ露骨・・に誘ってあげたのに、なかなか我慢強いのね?若い子を味わいたかったのだけれど、残念だわ、ふふっ。)

胸を押し付けられながら、そう耳元で囁かれた。


今からでも遅くない。

そう思ったのだが俺の息子がぴーんと反応してしまい、密着した女性を押し戻すように離れさせてしまった。


ヒトヅマ、コワイ、カンドウ、カエセ



「クスクスの町には知りあいがいるだ。この手紙を渡すといい、力になってくれるはずだべ。」


クスクスを目指す道中、狩人の男性が俺に自分で書いた手紙を渡してくれた。


「若いのにはおらぁ達も世話になったべ。これから自分が会う人達にも優しくしてやるだよ。」


優しさに胸が痛くなった。

そして俺の中のくされ外道は奥底で眠りについた。


クスクスを目指して五日目。

俺達はジャングルを抜けた。

途中巨大な岩とも言えるような亀がいたのだが


「あいつには関わっちゃなんねぇだ。」


狩人の男性は一言だけそう言ってそそくさと道を進めた。

もちろん俺も関わる気はなかった。

一人でスライム以外の魔物と出くわした瞬間俺は死ぬだろう。

いや、スライムにすら俺は殺されてしまうかもしれない。目の前を歩く男性に連れられて行った狩りの中で、俺がどれだけ脆弱な存在なのかは嫌というほど身にしみている。


しかしそんな岩のように巨大な亀にも、俺の目には光る部分が視えていた。

あそこを触ったらどうなるのだろうか、そんな興味も湧いたが、危険なことは出来うる限り避けて通らなければならない脆弱な俺だ。実際にやるわけもなく、狩人の男性から離れまいとあせあせと歩みを進めたのだった。


ラクルはというと荷物袋に押し込めていた。

随分大人しいなと袋を覗きこんでみると、マンドラゴラの干し木を口にしたのだろう、びくんびくんと脈打つように痺れ、馬鹿面を晒していた。

俺が貰ったのはマンドラゴラの触手の方だった。

マッサージに役立てることはできないかと考え、自分からお願いしていれてもらっていた。


こいつはいつでもこんな調子なんだろうと思わざるを得ないが、ラクルの気の抜けてしまうその姿は俺の胸中に少しだけ安堵の気持ちをもたらしてくれた。こいつとはいつまでも馬鹿をやっていたい、そんな風に思ってしまう。


ラクルには毎日マッサージをしてやった。俺と狩人の男性が夜寝る体制になると、夜な夜な袋から出て、帰ってきた時にはまた突起部が光っている、そんな状況だったからだ。

ラクルもこの世界では魔物と言われている種だ。

何をしているのかは分からないが人には理解できない習慣があるのかもしれない。

夜な夜な出ていってもいいが所詮スライム。他の魔物にやられて今生の別れとならないことを祈るばかりだ。


狩人の男性の言うとおり、一週間程でクスクスの町に着くことができた。

聞けば狩人の男性は元々クスクスの町に住んでいたのだが、森暮らしに憧れて今に至ったとのことだった。


「あそこに見えるのが知り合いの家だべ。ほんじゃ達者でな。もう死ぬなんて考えるんじゃないべよ」


ぽんっと俺の肩を叩き休む間もなく狩人の男性は引き返していった。

見ず知らずの俺のためにここまでしてくれたのだ、いつか恩を返したい、そう思わずにはいられなかった。



クスクスの町はなかなか大きな町だった。石造りを基調とした町並み、加えて地面も石畳となっていて整備が行き届いている。

町の中央には巨大な時計塔が立っていて、観光客なのか地元民なのか時計塔の上から景色を眺めていた。

周囲には露店を開いているもの達もたくさんいて、呼び込みやら大勢の買い物客の声やらでとても賑やかだ。

目に入る人達は散歩したり買い物したりと穏やかに過ごしているように見える。きっと平和な町なのだろう。

狩人の男性曰くだが、クスクスの町には一通り何でもあるそうだ。武器屋、防具屋、宿屋、剣や魔法を教えてくれる学校まであるそうだ。


俺は狩人の男性が先程示した場所へと真っ直ぐに向かっていく。


町にみえる石造りの家々は隣接しているのが基本

であるようなのだが、俺が行き着いたその家は門を構えたそれなりに裕福そうな家だった。

家というよりは屋敷に近い。


ちょうど庭に若い女性がいた。俺と同じ年ぐらいだろうか。その女性に声をかけ、荷物袋から取り出した手紙を渡す。

ラクルが顔を出しそうになったため、ぐいっと押しこめておいた。


「なるほど。うーん、とりあえず私の家に入ったら?」


手紙を読んだ女性に誘われるがまま家の中に入る。

客間に案内されたのだが、狩人の男性の家が小屋に思えてしまうぐらい、家具や室内を彩る装飾品はきらびやかで豪華だ。


机を挟んで対面に女性が座った。

メイドさんもいたのだろう、俺にどうぞと声をかけ、女性に出したものと同じ甘い香りのするお茶を出してくれた。


女性は足を組みながらそのお茶をずずずっと飲んでいる。


「手紙を見る限り、なかなかあなたも苦労したみたいね?」


一体手紙には何と書かれていたのだろうか。

あの夫婦には自殺志願者と思われたままだったが、何だか見当違いのことを書かれているようで不安になった。


「それで、あなた商売したいんだって?何を売るの?」


売る、というか、マッサージです。

そんなことを伝えると


「そんなのじゃここじゃ食べていけないわよ。」


バッサリと断ち切られてしまった。

しかし、俺ができるのはそれしかないと伝えると彼女は足を組みかえ何やら思考しだす。


「一応私はここらへんで商売を営むものの元締めなのだけれど、あなたのそのマッサージがどれ程のものか私に見せてくれる?場合によっては私があなたの支援をしてもいいわ。」



きた。実演させてもらう機会があるならばこちらのものだ。


俺は狩人の男性、巨乳中年女性、ラクルにマッサージを試行錯誤しながらやっていた。


そしてある時、発見したのだ。

いや、『発現した』といっていいだろう。


巨乳中年女性の肩揉みをしていた時だ。

くされ外道だった俺は、マッサージによって癒やすだけでなく、何とかして女性の性欲を高めることができないか、と。

あわよくば俺がその対象となれば・・・

そんなくされ外道な考えに至った時、それは視えた。

今まで白い光だったものが、ピンク色へと色を変えたのだ。

場所は両肩と変わりなかったが、確かにピンク色になった。

そして確かめるように、マッサージをした。


ぴくん。


最初の反応はそれだけだった。


しばらくすると、女性はもぞもぞと身をよじり始めた。


「ど、どうしたのかしら・・・」


どうかしましたか?

知らないふりを決め込んで俺は続けた。

もしやという期待に俺の息子は元気まんまんだったのだが、背を向けていた中年女性には分かるまい。


五分程マッサージを続けた所で


「うくっ、も、もう大丈夫だからっ」


そんな言葉を残し逃げるように俺の前からいなくなった。

その夜いつもより激しさをました巨乳中年女性の声を作業場で聞いた俺は確信した。


成功した、と。


ピンク色だけではなく、用途によってその光は色を変えること分かった。


白、赤、青、黒、ピンク、判明したのは今の所それぐらいだが、それぞれなかなか有用な効力をもたらす光だった。


そして今。

この町の商店の元締めだという女性が、俺のマッサージをみせろという。


間違ってもピンクの光でマッサージすることは避けた方がいいだろう。

性欲が高まった所で支援をしてくれることにはつながらなそうだ。


ならば、赤。俺はそう決めて若い女性に実演させてくれと頼んだ。


「いいわよ、じゃあ私にしてくれる?ちなみに変なことしたらあなたの骨を埋めることになるからあしからず。」


やはりピンクは不正解だった。


「で、私は横にでもなればいいの?」


そう話した女性に、そのまま座っていて大丈夫だと俺は伝えた。

元締めの女性は、首筋に光が視えている。座っていても問題なかった。


元締めの女性の後ろに立つ。髪はポニーテールにしていて、なんだか甘い香りがしていた。

俺の横にメイドもいるため、表情は崩さずに元締めの女性の首筋に自分の手をやった。


では、光を赤色に変えて



もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ


「やだ、ちょっとくすぐったい」


元締めの女性は体を逃がすような動作をしたため、しばらくそのままでいて下さいと伝えて制しておく。


十分後、赤い光が消えた所で元締めの女性に声をかける。どうでしたか、と。


「・・・あなた、一体何したの?」


質問にマッサージです、簡潔に答える。

種明かしなどする必要もない。そんな力があることすら知らないのだから。


「すごいわ。」


元締めの女性の言葉にメイドが首をかしげていた。何がそんなにすごいのか当然マッサージをされていないメイドには分からないだろう。

気になったメイドが、何がすごいのですか、と元締めの女性に質問した。


「すごいのは、私自身よ。なんだろう、心の奥底から満ち溢れるこの気持ちは。今なら何だってできるような気がするわ!」


赤は情熱。その人のやる気を刺激する。


赤色のマッサージを受けた元締めの女性は、仕事に、恋愛に、家庭に、全てのことにおいてやる気がでてきたはずだ。

密かに実験台になってもらった狩人の男性には、本当に感謝の言葉しかない。


「そう、私は一介の商人として挑戦し続けなくちゃならない。いいわ、あなたの支援を私にやらせてちょうだい!」


どうやら元締めの女性は、一商人として仕事のやる気が出たようだ。

成功したと言っていいだろう。

もちろん本人のやる気が出ただけで、精神支配などの類ではない。彼女の考え方によっては失敗する可能性もあったはずだ。

だが、商人なら商売と聞いて興味がないはずがない。やる気を出させることで、俺の商売マッサージに興味を持ってくれたら、そんな願いも込めて赤を選択したのだが、大分上手くいったらしい。


メイドは何やら不可思議なものをみるような顔をしていた。マッサージした後の元締めの女性の情熱っぷりが、横でみていた自分とギャップがありすぎたからだろう。


ちなみに赤い光は消えてしまったが、白色に戻すように意識すると、再び元締めの女性の首筋に初めてみた時と同じように白い光が灯る。


赤い光はやる気を出させるだけで癒やしの効果はないため、白い光が灯っているのは当たり前といっては当たり前なのだが。


ついでに癒やしの効果の白でマッサージをしてあげた。


「嘘?首の痛みが、消えてる・・・」


どうやら癒やしの効果にも驚いてくれたようだ。


「私ね、首に切り傷を負ってさっき治療所で治癒魔法をかけてもらったの。治癒魔法は傷は治るけど、痛みはそのまま残っちゃうのあなたも知ってるわよね?治癒魔法で癒やせない痛みを和らげることができるなんて、私は見たことも聞いたこともないわ。」


そ、そうなんだ。治癒魔法があることも初めて知った上に、痛みが残ることも初めて聞いた俺です。


元締めの女性に所詮はマッサージ、時間が立てばまた痛みが出てくることになると伝える。


「それでも今は痛みが全然ないわ。マッサージをしてもらわなくても時間が立てば痛みはなくなるのかもしれない。でも痛みがなくなるまでの間マッサージを続けてくれたなら、痛みなんてなかったことになるわよね?」


まぁ確かに言っていることは分かる。


「画期的だわ。あなたは金の卵だった。絶対にあなたの商売マッサージを求めて人が押し寄せるわ!すぐにでも商売マッサージができるよう場所を確保しましょう!」


実は赤色でマッサージをしなくても、そのまま白色でマッサージしても上手くいったんじゃないだろうか。そんなことを考えたが、とんとん拍子に進む話に今は身を任せることにした俺だった。

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