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スライムを揉む

それから一週間程男性の狩りに一緒に連れていってもらった。


そこで分かったこともあるのだが、どうしようもなく俺には狩りや魔物と戦うといった才能はないらしい。


男性の持っていた弓と剣を再度借りてみたのだが、弓をひいても矢は飛ばず、剣を振っても力ない。

そして持ち前の性格はくされ外道ときた。英雄になる資格もポテンシャルも皆無。

ゴミみたいなもんだ。


「そんな肩落とすんでねえ。若いの、お前には立派な才能がある。どうやら若いのにマッサージしてもらった後は、おらぁの弓スキルがたまげるぐらい強力なものになってただ。母ちゃんも物凄い速さで家事をこなしてたしよ。」


そんな才能はいらん

とは間違っても言えないのがまた悔しい。


元々何の才能もなかった俺だ。こんな力でも正直あるのはすごく嬉しかった。


ああ、目指すよ。英雄じゃなくて世界一のマッサージ師を。いつか自分の店を出して、来た客全員ひいひい言わせてやるさ。

それまでにこの力でどんなことができるのか見極めてやろうじゃないか。

自分の手を見つめそんなことを考えてしまう。


しかし狩人の男性がいうことが本当ならば、俺の力は癒やしだけではないということになるのだが、それについても俺は意図せず確証を得ることができた。


その日は男性の腰のマッサージを行わずに狩りに出かけた。決して夜の営みを妨げようとした訳ではない。本人たっての希望だ。

狩人の男性はここのところやけに弓スキルの威力が上がっているということで、何か特別なことをしたか考えたそうだ。

日常と違う所といえば、連日居候の俺のマッサージを受けたことぐらいしか思い浮かばなかったという。

それでものは試しとその日はマッサージを受けないで狩りに行くことにしたのだとか。

男性の腰は夜の営みの影響により、たった一日で大きな光を放っていた。


どんだけだよ。


狩人の男性に聞こえないようぽつりと呆れ声をあげた俺だ。


いつものように狩人の男性が放つ矢は俺には全く見えなかったのだが、どうやら確信めいたものをその表情に映していた。


「やっぱりだぁ。弓の威力が元に戻ってるべ。」


その後放った追跡ホーミングアローも、初めてみたとき程の追跡力はなく、俺の目にも見える程あっけなく外れていた。


「普通はあんなもんなんだべ。今までが尋常じゃなかっただ。あのマッサージの効果は大したもんだべ、若いの。疲れもとれて強化までしてくれるなんてよ。」



男性の協力のもと、俺の癒やしの力には強化も含まれていることが分かった。

何やら金の匂いがし始めてきたようです。

気分を良くした俺はいきり立って弓を放ってみたが、俺自身はいつもの何もできない俺だった。



狩りの才能がない俺が別に何かできそうな事がないか狩人の男性に訪ねた所、マンドラゴラを取りにいかないか、そういう話になった。


魔物を取りにいく。

その表現に首をかしげざるを得ないし、何より襲われた時の記憶が蘇ってきて少し返事をためらった。

そもそもマンドラゴラは魔物なのだから取るのではなく捕まえる、という表現じゃないのだろうか。


「大丈夫だべ。ちゃんと見分け方、取り方教えてやっから。あれは使い道がたくさんあるし、薬にもなるだ。」


なるほど、狩人の男性にとってマンドラゴラは野草的な位置づけにあるらしい。それなら取りに行くという表現も正しいのかもしれないが、なんとも豪気な性格のようだ。


それにしても、改めて俺はこの世界については知識がなさすぎる。

まあ異世界なのだから当然なのだが。


異世界転生を果たしたものはそれが何なのか分かっているかのように行動する。

鑑定なんて何でも説明してくれるチートな能力まで持ってたりするし。

有用な情報に有用な武器、有用な人材。そして己を高めついには英雄と呼ばれたり、気づけばハーレムを作っていたり。

正直俺にそんな将来がくることはないだろう。

毎晩夫婦の営みの声を聞かされ悶々とした生活を続ける俺は、先ゆく未来に不安しか感じられないのだから。


冷静に考えると、無職、居候それが今の俺の立場なのだ。

今俺にできること。この癒やしの力を使ってとりあえず金を稼ごう。そんな漠然としたことしか頭に浮かばないのだから、今後についての不安が押し寄せるのも仕方ないのかもしれない。



「マンドラゴラは獲物を捕食している最中は無防備になるだ。その隙に根っ子ごと引っこ抜いちまえばマンドラゴラは死ぬべ。」


だが気をつけろ


「触手となる部分の痺れる効力は死んでもそのまま残ってるべ。間違ってそれを食べたら三日三晩は体中痺れて動けなくなるだ。」


だってよ、俺。


「マンドラゴラは頭のてっぺんに赤い小さな花が咲いてあるべ。」


だってさ、俺。


狩人の男性はマンドラゴラの採取を俺に実演してみせてくれた。生きたウリボーに縄をつけ歩かせる。ウリボーに食いついたマンドラゴラに忍びより一気に根っ子をひっこぬく。ウリボーは痺れによって動くことはできなくなっていたが、しばらくするとまた歩けるようになると狩人の男性は話す。

ジャングルのような生い茂る森の中でマンドラゴラを探すのも大変なのだが、上手くやるものだと感心させられた。


「マンドラゴラは数がかなり少ないだ。続けて二回も襲われるなんて運の悪いやつしかいねぇだ。」


カチンとくる言葉だ。俺には叶うことのない、夫婦の夜の営みを毎日してるやつに言われて、余計腹が立った。


我慢しろ、俺。


なにぶん世話になっているのだ。

大丈夫、俺には右手あいぼうがある。

自分を慰めてやることだってできる。

懸念すべきはそのうちに俺は賢者タイムを味わいすぎて本当に賢者になってしまうかもしれないということだけだ。


マンドラゴラを一匹だけとりその日は帰ることにした。


その日の夜は夫婦の営みの声は聞こえてこなかった。

ちょっとした苛立ちを覚え始め、夫婦共々マッサージをしてやらなかったからだろう。

男性はマンドラゴラをひっこぬいた時に腰に負担がかかり、女性もまた家事によって両肩に負担がかかっていたはずだ。

俺のマッサージをあてにしていたのだろうだが、今日は疲れたからまた今度と断りをいれた。


俺のマッサージは一時的な癒やしと強化をもたらすらしい。永続的でないのであれば、再びそれを求めるリピーターが増えるということだ。

商売するにはうってつけ。


そして夫婦の、主に女性の声が聞こえてこないその日の夜はとても穏やかに過ごすことができた俺だ。


作業場に無造作に敷かれた布の上に寝転ぶ。

捕えられたウリボーや取ってきたばかりのマンドラゴラを横目に。

血なまぐさい場所だ。

ウリボー達から視線を外すようにごろんと体を横にした俺は、異世界にきて始めて目にした、あいつをその視線に入れることになったのだが。


『ピュイっ』


なんでお前がいるんだよここに。


『ピュイ、ピュイ』


スライムはあの時と同じくせかすように突起部を俺に突き出してくる。

どうやら敵意はないらしいが、なんという執念。どうやってみつけたのかは知らないが、それほど俺のマッサージが好きだということなのか。


俺のマッサージを求めるスライムの姿をみて、俺の中にいるくされ外道が目を覚ました。

何故ここにいるのかなんて、すぐにくされ外道によって排除されてしまう。


ふふ、お前、俺を優位に立たせたな?

俺は有利な立場をフル活用するようなやつだと知らないのか?


俺はじっとスライムをみつめた後、その手をそっと伸ばす。


『ピューっ!ピューっ!』


スライムは大分興奮していた。きっとまた俺のマッサージを受けれると思ったのだろう。鼻はないが、ふんすっと荒い鼻息をしているような反応だ。


しかし、スライムよ。

お前はいつから俺がマッサージをすると錯覚していた?


無造作にむんずとスライムを捕まえ、かねてから考えていたことを実行する。


むにゅむにゅむにゅむにゅむにゅむにゅ


す、素晴らしい!

やはり思った通りの感触だ!

俺は右手あいぼう以外に奇跡ともいえる神物を手にしている!



『ピュピュイっ!』


怒ったような反応をしたスライムだが、見下した目をして言い放ってやる。


逆らうなら、マッサージ、してやらないぞ?


『ピュ、ピュイ〜・・・』


そ、そんな〜

そんな感じの反応だろう。


俺の子分になるなら考えてやらんでもないぞ?

そう言ってスライムを追い込んでいく。


『ピュ〜』


スライムは自分の腹を見せるかのようにコロンと仰向けになる。腹などといえる程の面積はないのだが、スライムが示す絶対服従の意なのだろう。


仕方ないやつだ、大人しく従う姿をみれば可愛げがあるというものだ。


『ピュ、ピュイ?』


そ、それで?とでも言っているのだろう。


分かってるさ、お望み通りやってやろう。

今日は夫婦のマッサージをしていなかったから、俺の握力は万全。

営みの声が聞こえてこないのも喜ばしく、気分がのっている。


スライムの光っている突起部分を、あの時よりも優しく、それでいて力強くマッサージしてやる。


二分程でスライムは昇天した。

口からは涎が垂れ、まさに馬鹿面といっていい顔をしている。


よろしくな、俺は吉良きらだ。

お前の名前は・・・何ていうんだろな。

もし話せることができるようになったら、その時お前の名前を教えてくれ、伝わってるか分からないがそうスライムに告げておく。


『ビ、ビア』


き、きら、と健気にも俺の名前を呼ぼうとしたのかもしれないがよく分からなかった。


とりあえずお前は今日から俺の枕だ。

むんずと持ち上げ頭の下にいれる。


くふ〜っ、なんという奇跡ミラクル

まるであれに頬を包まれている感触だ。

名前はやはり俺が決めておこう、そうだ、お前の名前は仮ではあるがミラクルからとって、「ラクル」としようではないか。


『プ、プィ〜』


俺の頭に押し付けられて上手く声を出せないのか、いつもと違う声でラクルは返事とおぼしき声をだしたのだった。


異世界にきた俺は、スライムの子分ができた。

これで俺はいつでもあの奇跡の感触を味わうことができる。最弱といわれる魔物は至高の存在だということは、この世界にいるものは知る由もないだろう。

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