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逝ってらっしゃい!〜異世界でマッサージ始めました〜  作者: zena
第一部 『二人の姉妹』編
15/15

感謝されてもな


「吉良、いる?」


そう言って俺の店に入ってきたのは、白い甲冑に身を包んだ主だった。


上は甲冑に見を包んでいるのに、下はニーハイのブーツ。


それにマントを羽織った姿を見せられたなら、それはもう見事なヱロ騎士…もとい、白夜騎士である。


「あ、いらっしゃい、ハインツ。」


「う、うん…。マッサージ、いい?」


ハインツはもじもじと身をよじる。

その姿はとても武装集団であるパーティーの実力者とは思えない。


いつも無表情、だが締める所は締める。

その無口の騎士たる佇まいに、憧れてしまう少年少女は今尚後を絶たない。


もちろん、彼女の強さに憧れているのは俺自身も含められている。


「ごめん、ハインツ。ハインツは夜にくると思ってたから、他のお客の予約入れちゃってるんだ。」


「……」


みるみる暗く淀んで行く少女の瞳。

少しだけ膨れ顔になった小さな体の主。


最近ハインツは少しだけ表情豊かになった。

だが俺はそれが何を意図しているのか、考えてはならない。


やっと奴を、己の中のくされ外道を封じ込めたのだ。もし自分が起因としてハインツが変わっているのなら、その真実を導き出した時には、きっと奴は覚醒する。間違いない。



「分かった、待ってる。」


ハインツはそのまま店の中にある長椅子に座った。


全く以てやめてほしい行動だ。

店内に彼女の甘い匂いが立ち込めてしまうではないか。


といいつつ、くんかくんかしてしまう俺を皆蔑むがいいさ。


俺の道は茨の道。


女が近くによるだけで、己自身を戒めなければ、すぐにでも俺のマッサージ屋としての道は破綻してしまうのだから。



カランカラン



俺の店に客が入ってきた。

へんぴな場所に店があるあらして、新規の客はほとんどこない。

来るのは何かしらを求めてこの店にくる訳ありの客達。


どんな噂が流れているかは知らないが、今まで純粋にマッサージのみを目的とした客は皆無。


それこそ、自分の人生の背景に何かしらを抱えた者。話しをしながらマッサージをしていると、どうにも人生相談のように話しが流れていく。


こんな何もない男に話してしまう程、彼らは誰かに話しを聞いてもらいたくて、傷ついて、悩んでいるのだろう。


「いらっしゃ…」


そう言葉を言いかけて、我が目を疑った。


俺の前にいたのは、想像を絶する程の、美少年?


中性的な顔だちをしていて、一目に男女どちらか見分けがつかない程の綺麗な顔をしていた。

金の長髪を後ろで結わえ、前髪は行くばかりか顔の横に垂れ下がっていた。


「えっと、いらっしゃいませ。ご予約の方でしょうか?」


「そうです。セルゲイ様のご紹介でこの店を紹介して頂きました。」


「ああ、セルゲイさんの。なら間違いないですね。」


セルゲイというのは、今や常連となった老騎士の男性である。

やはり俺のマッサージの癒やしの力は一時的であるからして、老騎士の彼はあしげなくこの店に通っていた。


「ならこちらにどうぞ。セルゲイさんのお知り合いなら、初回は半額料金とさせていただきますね。」


「それはそれは。」


「ではこちらへ。」


「…その前に。」


その言葉の後、金髪ポニーテール?は俺に頭を下げた。


「セルゲイ様が貴方に出会えた事、心から感謝致します。」


「…はぁ。」


「長らく剣を持つ事ができなかったセルゲイ様が、剣を再び手にした時のあの嬉しそうな表情。あの時から、セルゲイ様は生き生きとして生活を送っております。それもひとえに貴方様のお力がそうさせてくれたのです。心からの感謝を、私は貴方様にお伝えしかった。」


「…へぇ。」


「本当に、本当に、ありがとうございます。」


「…ぅぅん。まぁ他のお客様もいらっしゃいますので、マッサージしながらでも話しを聞きましょう。」


「それでは無礼にあたると」


「私はマッサージ屋です」


「…そう、そうですね。ではよろしくお願いします」


金髪ポニーテールを寝台に導きながらふと後ろを振り向くと、ハインツはじっと俺をみつめていた。

何を思っているか分からない。


ただ正直、逐一監視されているような感じがして、俺は背中にじんわりと冷や汗をかいた。



◆◆◆



結局、金髪ポニーテールはさほどその身体には白い光を放っていなかった。

やや筋肉質ではあるが、所々引き締まった身体付きからして、この金髪ポニーテールも幾ばくか剣か何かを握る者なのだろう。



幾度も感謝の念を伝えた後、金髪ポニーテールは店を去っていった。

帰り際に微笑んでこちらに手を振っていたのだが、その様は何とも美形の人間に相応しい所為だった。




正直、感謝されてもな。

俺のマッサージの力は、それを受ける者にとっては都合のいい力といえる。



だけどこれは仮染の力。

己の力で得たわけではない。

そんな力を使って感謝されたとしても、それは俺自身の力ではないのだから、感謝されても全く実感がない。

逆に感謝されても虚しさが残るだけだった  。




「吉良」


「あぁ、ごめんハインツ。考え事してた。少し休憩したらハインツのマッサージもするよ。」


俺のマッサージを逐一見ていたハインツ。

彼女は一体何を思うのか。



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