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逝ってらっしゃい!〜異世界でマッサージ始めました〜  作者: zena
第一部 『二人の姉妹』編
13/15

第一部 エピローグ

散々フレイの胸を借りて泣きじゃくった後、俺は自分の店で一人、これまでのことを振り返っていた。

あたりはすでに暗闇と化し、店内は月明かりだけの淡い光が包み込んでいた。


気がついたら異世界にいて、

何故か癒やしと強化の力が込められたマッサージができるようになり、

散々人に世話してもらったあげく、

目的なんかないと泣きじゃくる。


意味不明、の一言に尽きる。


不明というよりは、意味なんてなかったという方が正しいのだろうが。


ただここにきて俺の気持ちはすっきりとしていた。もちろんそれはフレイの存在があったからに他ならない。


「一人じゃない、か」


あの時何故フレイがそこまで言ってくれたのかは分からない。それでも、俺の心はどこか晴れやかだった。


目的がなければ作ればいい。

そうだ、せっかく異世界に来たのだ。

不安で押しつぶされよりも、色々な事をしてみよう、そう考えることができた。


「まずは真面目にマッサージやってみようか?」


そう、決めた。

そうなると邪魔になってくるのは、自分自身の邪念なのだ。真面目に、と考えた時に、奴が、くされ外道が邪魔になってくる。

しかし、俺から煩悩を取ったら何が残るのか。


「いや、考えるのはやめだ!そん時はそん時!」


「そうそう、やるしかないよ!」


「だなっ、やるしか…えっ、何っ、えっ?」


唐突な人の声に俺は戦慄した。


店内には俺しかいないはずだった。

ラクルも夜な夜な出かけてるし、そもそもあいつは魔物。人の言葉を話す事などできない。


そして俺の視界には暗闇に染まった店内。

聞こえるはずのない人の声が、俺の耳に届いた。


後ろを振り向きたい気持ちにもなったが、恐怖が俺の身体を硬直させる。

なにせその声が聞こえた瞬間から、俺の頭の後ろに生暖かい吐息が何度もかけられていた。


「こっち見なよ」


女の声が聞こえた。


振り向きたい、だが振り向けない。

それがもしこの世ならざるものだったら、俺はちびる所かもらす自信があった。


考えている間も、生暖かい吐息が俺の頭にかけられる。


(近い…近いって…)


「早く、こっち見なよ。良いもの、見れるかもよ?」


女の声に、俺は乗ってしまった。

恐怖よりも、アニメ声の甘く緩い響いたその声に、俺は興味を持ってしまった。


女と意識すれば恐怖すらも凌駕してしまう俺の中のくされ外道は、なんとくされ外道なのか。

意味が分からない突っ込みを自分に入れながら俺はゆっくり振り向いた。


その視線の先は…


「ジャジャーン!!吉良っ、私とうとうニンゲンになったよぉ!」


両手を広げた、青い髪色をした短髪女子がいたのだった。


「もー、ここまでなるのほんっと大変だったんだからね!ほらほら、もっと私を見てよ!吉良のために頑張ったんだよ?」


手をわたわたと振り、何か自分のアピールをしている。


いや、それよりも何よりも…何故全裸?


「あっ、えっ、何?!だ、誰だっ?」


驚きを口にしながらも、女の胸部の神々しい二つの隆起した宝玉を、しっかりと視線に捉えたままの自分はすごいと思う。


「あっ、ひっどいなー?吉良の相棒、ラクルちゃんに決まってるじゃん?」


「いや、俺の知ってるラクルはそんな露骨なヱロい身体はしてない。」


「だーかーらー!吉良のために、ニンゲンの女の子になったの!さっ、好きなだけ揉んでいいからねっ!」 


「まっ、待て!とりあえず、落ち着いついて、ゆっくりと話そう」


「焦らすよねー?てゆうかズボン、はちきれそうになってるよ?」


その言葉に、ばっと内股になり股間を隠す俺はなんと情けない姿だったことか…


「う、うるさい!」


「うるさくないからー。私をこんな風にしたの誰なのかなー?お前さえいればいい、お前は俺のかけがえのない存在だ、そんな甘ーい言葉をいつもいつも囁いたのは誰なのかなー。私の心を奪ったのは誰なのかなー?」


な、何故それを!

本当にラクルなのか?!


「お、おまっ、本当にラクルか?!」


「だからそうだってば!ひどいよ吉良!私の事忘れたの?!」


…いやいや、忘れるも何もこんな可愛い子お初にお目にかかるんだけど…


「しょ、証拠はあるのか?!お前がラクルだっていう証拠は?!」


「へー、なら言うけど。夜な夜なあの人妻の喘ぐ声を聞きながら、私を揉みまくってたよね?しかもあろうことか私を股間にすりつけよ」


「待ってぇぇぇ!!ごめん、本当にごめん!分かった!お前はラクルだった!うん、間違いない!だからもうやめてくれ!」


「もっとあるけど?」


「あ、すいません、本当に勘弁して下さい」


…間違いない。目の前にいるのはラクルだった。


「な、なんで人の姿?」


「そりゃー進化したからね?」


「…そ、そう…」


「だからこれから心置きなく私を揉んでいいからね?だって吉良って大好きだもんね、可愛いニンゲンの女の子が。」


「…好きではあるけど、急に揉めったって…」


「揉みながら、また私にいつもみたく囁いてよ?お前しかいない、お前は最高のスライムだ、ってさ。」


…頭が痛くなった。いや、本当に頭が痛いわけではないが、唐突な出来事すぎて、俺の低用量の脳みそがついていけてなかった。


「…ラクル…とりあえず、服、着ようか…」


◇◇◇◇◇◇


今俺の店に四人の人間が集まっていた。

うち、一人はスライムだが。


あまりの唐突さに一人で処理しきれなくなった俺はさっそうとフレイに相談しにいったのだ。

あれだけ泣きじゃくった後でフレイに会うのは気まずかったのだが、まずはフレイに相談しようという考えしか思いつかなかった。


「全く、訳が分からないわね…」


「ん、同感」


フレイの言葉に相槌をうつのは、腹違いの妹、ハインツ・ディオスナードだ。

腹違いなのに何故同じ性を名乗っているのか、そんなことは俺の知る所ではない。


フレイの屋敷を訪れた時、彼女もフレイの所にいたことから、一緒についてくることになった。

ただ、魔巣窟での件もあり、死ぬほど気まずい。


ハインツにちらりと視線をやると、ハインツも俺に視線を向けた。

向けたまま離さなかった。


「い、いや、ごめん、俺も訳わかんなくて」


どんな思いを込めた視線かは分からないが、耐えきれず、俺はその視線から逃げるように話しだした。


「簡単じゃーん?私はラクルで、吉良にこれからいーっぱい可愛いがってもらうんだー。」


ぴょんっ、とでも音がしそうな感じでラクルが俺の元へ飛び込んできた。

一瞬にして人間の姿からスライムへと変化し、俺の膝の上に飛び乗ってくる。

着ていた服だけが、ラクルのいた場に残った。


「ピュピュピュイー♪」


「こらこらどこに身体すりつけてんだよ?!」


俺の股間にその小さな身体を擦り付けてくるラクル。

ふと顔を上げると、半目になって呆れ返ってこちらを見る、ディオスナード姉妹の顔芸をみることができた。


「は、半目の顔した二人も可愛いね…」


何をとち狂ったのか、言わなくていい心の声を俺は出す。


はぁ、と溜息をついたフレイがこめかみをおさえて項垂れる。


「なんでこんなやつ・・・なっちゃったかなぁ」


「ん、同感」


途中フレイが何を言ったのか聞き取れなかったが、ハインツが同意している所を見れば、きっと良くない話しなのだろう。

にしても、この状況で半目の顔を褒める俺も俺か。


「それで、どうするのこれから?」


「いや、俺も良く分かんなくて。ラクルが人間になってびっくりしてさ…。とりあえずフレイに相談に行くしか考えつかなかったんだよ…」


「…あぁ、本当に、どうしてこんな甘え上手なのよ…私がどれだけ心揺さぶられてるか知って欲しいわ…」


フレイは頭を抱え込んでしまった。が、そこは頼れるお姉様。頭を切り替えてすぐに話しだした。


「とりあえず!ラクルは人前ではむやみやたらに人になったりスライムになったりしないことね?魔物が人の姿になるなんて知れたら、それこそ大事になっちゃうから。」


「えー分かったー」


フレイの言葉に答えるように、ラクルは少女へと姿を変えて返事をする。


分かってるとは思うが、ラクルは服までは変化させることができない。

変化する度に服を着直さなければいけないのだ。

つまりは、だ。


「お、おまっ、人の膝の上で変化するんじゃない!はわわわっ、見てない、俺見てないから!」


「あん、そこは今触っちゃ駄目だよ吉良ー。そこは後で、ね?」


しっかりとラクルを抱え込んでいた俺の手は、両手とも豊満な何かしらを鷲掴みにしていたのだった。


「「吉良(君)っ!!」」


ディオスナード姉妹が波長を合わせて、声を荒げる。


「不可抗力!不可抗力だからっ!ラクルお前早くスライムに戻れ!」


「ぶー。分かったー。」


文句を言いながらスライムに戻るラクル。

てゆうか、あーもう駄目だ、最っ高の感触だった。


ラクルがスライムに戻ると、俺のもとからハインツがラクルを奪い去っていった。


「変態は滅べ」


ラクルを大事そうに抱えながら、ハインツが言葉を吐き捨てるように言った。

あの一件があったからか、俺への風当たりがきつい気がするのは気のせいだろうか。


「とっ、とりあえず。俺、マッサージの仕事頑張ることに決めたんだ!」


俺の言葉にフレイとハインツが顔を見合わせていた。


「ラクルのことはどうしたらいいか分かんないけど、真面目に仕事やるつもりなんだ!」


最後につける、多分という言葉は心の中だけでつぶやくことにした。


「へぇ、いいじゃない。前の吉良君と違って、本音で言ってる感じね。うん、だったら私ももっと応援するわ。」


「それなら、いい」


「ピュイー♪」


俺の言葉に、三者三様の反応で言葉を返してくれた三人。

しかし、ラクルはどうしたものか…

フレイの所に行ったのは軽率だったか?

俺だけの秘密にしておけば…ラクル自身も求めていたし、きっと脳汁ぶしゃーな出来事が…


「やっぱ信じられないわね?」


フレイの言葉にぎくりとした俺だ。


「ラクルにはマッサージの仕事を手伝ってもらおうかな?店の宣伝とかさ…」


「…まぁいいんじゃない?ただし、絶対ラクルに変な事しちゃ駄目よ?」


「え、あ、ん?あぁ、多分、しない、ってちょっと待ってハインツ!剣、なんか急に手に剣持ってるから!?」


「変態は滅べ」


「冗談!冗談だから!」


何故そこで嘘でも素直にしないと言い切らないのか己は。

正直今のハインツには本物の殺気が感じられた。

俺を好きだと言ったこの可愛らしい少女は、いつの間にか闇属性になったとでも言うのか。



そんなこんなで、俺はラクルにマッサージの仕事を手伝ってもらうことに決めた。


それにしても、魔物が人間化して美少女になるとか。

いよいよファンタジーな感じになってきたもんだ。


フレイともハインツとも微妙な関係のまま、俺はラクルとともに新たな一歩を踏み出すことにしたのだった。


炎帝(´・ω・`)

私をほったらかすとは貴公は本当に罪深い。

だが、安心していい、今向かってるからな貴公ぉぉぉ!  


吉良(・_・;)

あれ、なんか寒気が…

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