表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

異世界転移!

麻生あそう吉良きら、27歳。


俺は異国の地

あ、間違った。

異世界へとやってきた。



何の因果か知らないが。

何をやっても中途半端だった俺はとうとう地球に、日本に、愛想を尽かされたらしい。



夜普通に布団に入って寝た。朝かと思って目が冷めた時、俺はジャングルにいた。

実際にジャングルなどは見たこともないのだが、目の前に広がる景色はきっとこの表現が正しいだろう。

一瞬寝ぼけたのだと思ったが、感じる風、気温、匂い、どれも本物であることは、目が冷めていくうちに理解できた。


前々から異世界へ憧れはあった。

ゲームや小説にでてくる世界。

剣や魔法、ファンタジーな世界。


自分が英雄となり、世界を救う様を何度妄想したか分からない。

そんなことばかり考えた結果、社会に馴染めなくなっていったのは当然の結果ともいえるのだけれど。


だが俺は後悔などしていない。

想い続けることで、異世界へ転移するという偉業を成し遂げたのだから。


何故俺が異世界転移などという偉業を成し遂げたのかは分からない。

何の前触れもなく、ここにいた。

夜寝て、朝起きたらここにいた。

なんの説明もなし。


だが俺は俺を異世界へ転移させた者を決して非難することはない。

だって、そうだろ。退屈な日常が一変したんだ。

もしかしたら夢に思い描いた英雄にだってなれるのかもしれないんだから。


ちなみにここが元いた世界でないことも分かっている。


茂みの中からにゅるんと這い出してきた、『それ』と。

俺は目を見開くようにしてお互いに硬直しあっているのだから。


まさかここにこんなやつが。

俺だけでなく、目の前で自分の目を見開いている『それ』も、きっと同じ思いなのだろうと容易に想像はつく。


『それ』というのは、そう、異世界定番の魔物、スライム。


この世界でスライムが魔物というカテゴリーに入っているのかどうかも分からない程、俺には何の情報もないのだが。


とりあえずお互いに硬直。

先に動いた方が負け。

今の状況はそんな感じだ。



いざ目の前にスライムがきたところで他のやつはどうするのだろうか。

勇敢に戦うのか?

それとも逃げ出すのか?

はたまた話しかけてみるのか?

どれをとっても間違いなどではないはずだ。


ここは異世界であってゲームの中の世界ではない。

自分で考え、自分で行動を起こす。

そうゆう『現実』なのだから。



そして、もう一つ異世界へきたことを証明するのであれば、俺にはスライム以外にも『それ』が視えている。


スライムの身体に光る一点の『光』。

ちょうど頭の上のぽよんという擬音でもしそうな突起部に、その

『光』は視えている。


あれだろ、多分弱点的な場所だろ?

魔物には弱点となる場所があって、俺はその弱点が視える能力を持つ。

そして異世界無双が始まって、英雄になる。

そんな流れなんだろ?



こうゆう時は案ずるよりも有無が易しってな。

日本での教訓を異世界で活かす。

うん、異世界転移のセオリーだ。



頭では冷静に考えてはいるが、実際にやるとなればなかなか、いや、かなり難しい。

何せ初めて魔物と思わしきものを目にしたのだから。

弱点が視えたとして、それを攻める程の動きも俺にはできそうもない。


正直少しびびっている。

いや。

かなり、すごく、びびっている。


喉はカラカラ、背中は冷や汗が伝っている。

緊迫感を感じないかもしれないが、対峙してみれば分かる。


スライムってさ、すごく、体が『うようよ』してんだぜ?

ぷるんぷるんって。

見方によっては可愛いとかいうやつもいるかもしれんが、虫も嫌いな俺からしたら気持ち悪いぐらいにしか思えない。

それがこっち凝視してんの。

いつこっちに襲いかかってくるか分からんそれが。


異世界転移して、ドラゴンとかと戦うやつの気がしれねーよ。

何?英雄なれるの決まってんの?

勇者なるやつって恐怖心ねーの?

日本人ってそういうタイプじゃねーんじゃねーの?



だが異世界転移した者の中に、スライムにやられて人生を終えたなどとは俺はみたことがない。

小説やゲームの中での話しでしかないが。



やってみるか!

持ち前の適当さにかまけて、恐怖心を押し込めて俺は動き出す。


動き出したものの、恐怖心は取れていなかったらしい。

足が上手く前にでない。足を引きずって歩く様は、まるでゾンビのようだ。


『ピュイっ!』


ぬはっ?!


びびった。

まじ、超びびった。

スライムの上げた声と共に俺の体は再び硬直してしまう。


しかし、スライムの方も恐怖しているのか、ぷよぷよした体が強張っているように見えた。


鉢合わせしたこともあって、スライムまでの距離はすぐそこだ。

も、もう一歩いってみようかな?

そう考えて恐る恐る足を前に出してみる。


『ピュイっ!!』


ぬはぁっ!


またもや俺の身体は硬直してしまう。

スライムにとっての威嚇なのだろうか?

スライムが声を上げるたびに俺の体が硬直してしまう状況は、さながらだるまさんが転んだ、だ。



だがスライムよ。

そちらも動けないようだな。

ふふふ、最早俺の手の届く範囲にいるぞ。

そういう俺も全身汗だくとなっているのだが。



よっ!




俺の人差し指がスライムの光ってみえている部分にあたる。


何故殴らないかと言えば、俺にも分からない。

光っている場所を最短で触るのに、何故か体はこの方法を選んだのだから。

あれだ、秘孔をつく的な。



『ピュ、ピュイ〜!!』


やったか?!


『・・・ピュイ?』


「・・・」


どうやら弱点ではないらしい。

俺の人差し指がスライムに触れた瞬間、スライムも『やられたぁ』みたいな顔をしていたのに、何も体に起きていないことにスライム自身も『あ、あれ?』みたいな顔をしていた。



『ピュ、ピュピュピュイっ!!』


ぬおっ


スライムがジャンプしてこちらに跳んでくる。


やばい。

異世界にきたばかりのHP的なやつは、定番だとスライムにすら瀕死の重傷を負わされるもののはずだ。


俺は反射的に目をつぶり両手を顔の前に、足は内股となって身構える。

泣き崩れそうな女子のような格好となった。


・・・あ、あれ?痛くない?


『ピュイ〜』


なんだ?


どうやらスライムは光っている部分を俺に差し出すように向けているようだった。


「な、なんだよ?もっとやれってことか?」


『ピュイ〜、ピュイ〜』



なんだその鳴き声は。もっと〜、もっと〜ってか?


ならばお望みどおりにしてやろう。


はぁーっ


さながらどこぞの救世主のようにタメをつくり、俺はゲームで鍛え上げた人差し指での連射をスライムに打ち込む。



オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ



ふぅ、まるで珍妙な冒険に出てしまうかの連打をしてしまった。



『ピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュイー!!!』



今度こそやったか?


『ピュ、ピュイ〜』


やられたぁ的な声を挙げてスライムはコロンと横に倒れる。


しかし何故だ。

やられたはずのスライムが恍惚な表情でとろけそうになっている。


スライムが呆けているのをいいことに、光っている部分をピンっとデコピンしてみる。


『ピュピュピュ〜、ピュ、ピュ・・・』


スライムは口から泡を吹いて気絶?してしまった。


幸せそうな馬鹿面をしている所を見ると死んではいないらしい。


弱点じゃないのだろうか?

一応気絶らしい状態にはなったのだが。


一体何の『光』が視えているのか。

俺は少しして確信を抱くことになった。


「あんれまぁ!こんな所に人がいるなんてよ、たまげたわぁ!」


急に茂みから現れた狩人らしき男性が声を上げた。


もちろん、急な大声にびびった俺は年甲斐もなくちびりそうになったのだが。


「こんな所で何してんだ?それにこのスライム。なんちゅー馬鹿面してんだ。初めてこんなスライム見たわ!」


そう言って俺と話をする間も、狩人らしき格好をした男性がしゃがんでスライムを覗き込む。


その狩人の腰には、スライムに視たあの、『光』。


初対面の人にすることではないと自分を諭しながらも、ついやってしまいたくなるような背徳感を覚えた俺は、もちろんそれをやってしまう。


正直な所、早くどんな能力が知りたくて狩人の男性には実験台になってもらったのだが。


どぅびしっ!


今度は四本の指で狩人の腰の『光る』部分を突いてみる。

人によっては何するんだと怒るやつもいるだろう。むしろそちらの方が多いかもしれないが。


「ぐおっ?!何すっだ?!」


ばっと振り返った狩人は一瞬怒った顔をしたように見えたが、すぐに表情を変えた。


「ん??あんれまあ!腰の痛みが楽になっただよ!あんた一体何しただ?」



やはり。

スライムの表情を視た時に推察したことが確信に変わる。


あの『光っている』場所は『弱点』ではなく『弱っている部分』であり、俺がそこを突くことで癒やし、もしくは快楽に似た刺激を与えているのだ。


なるほど、快楽を与え敵を死にいざなえということか。(違う)



自分の能力が癒やしの力だということを確信し、俺は声高らかに、そしてスビーディーに事を運んだ。


「すみませんでしたー!!」


狩人は短剣をもっていた。

ビビった俺は得意の高速土下座まで披露したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ