露店の灯りに輝く、欠けた林檎飴片手。
私たちは付き合う友達の種類が違う男女だった。
ただひとつ、私達を繋ぎ止めていたものは『波長が合う』という関係性だ。
だから、私は偶に君と話したくなる。
偶に話せればいい。
ただ、その「偶に」さえ、いつまでも続かないんだろうな。
私たちはきっと、大学を卒業してこのバイトを辞めたら……。
会う機会はなくなるんだから。
「あ、花火まだ終わってないやん」
従業員用出入口から発せられる二つの足音が私の声で不意に止まり、闇に夏の音が響く。
「あー、林檎飴食べたいなー」
鼓動を隠した独り言を浮かべた結果。
バイトからの帰路、寄り道は初めてだった。
「林檎飴なんか食べたいと思ったことないわ」
君の一言と同時に、私は赤い硝子玉のような林檎飴にかじりつく。
「……私も子供の頃は食べたいと思わんだけど、最近やっとこの素晴らしさが分かったんよ。ジューシーさと甘さの融合とゆうか」
「まぁ何でもいいけどな!俺、ビール飲もかな」
「え!私も!」
夏の夜に夢がひとつ叶った。
「彼女と祭り行かんの?」
露店の灯りに輝く欠けた林檎飴片手、紙コップの中でたゆたうビール片手の不安定さ。
「うん、なんかあんまり好きじゃないらしい。ってゆうか、どっか座らん?」
「座ろー!すいとるとこあるかな?」
「もう花火終わるやろし、花火見えんとこでええやろ?」
「うん、ビール飲めたら何でもいいわ」
「林檎飴食べに来たんと違うんか」
居心地が良かった。
大木に茂る葉でちょうど花火が隠れて目にすることができない、そんなコンクリートの階段に腰掛ける。
暗く染まった葉と葉の間から溢れる火の粒。
アルコールの力が働いた。
「わたし、ずっと瀬古くんと飲みたいなぁと思っとったんよ」
「へ~。まぁ仲さん、他のバイトの前やとめっちゃ猫かぶっとるもんな……ぶはっ」
「ちょ、何よ、急に笑って」
「やばい、思い出した、今日の入江さんの『今度みんなでバレーやろよ!』って発言の時の仲さんの顔っ……」
「だってそんなの全然やりたくないもん……!」
笑ってしまう、どんな話でも。
木の陰から火の粒を見ていると、すぐに終わってしまう線香花火の粒が散っているかのように見えた。
そして、考えが見透かされたように、いつの間か花火が終わっていた。
「近いうちに飲みに行く?」
なんだか私からは誘えなかったから。
その言葉を聞いた瞬間、何かが弾けた。
あぁ、もっといっぱい喋っていいんや……!
「……彼女さんは気にする?」
「……遠距離やしな。別に」
君は最後のビールを飲み干した。
…………はっ。
何、いつの記憶よ……。
桜の花びらがひらひらと膝の上に落ちた。
いくら疲れてるからって、公園のベンチに腰かけたままうたた寝とか……。
「……仲さん?!」
「わっ、久しぶり……!」
こんな場所で偶然男友達に会う、今日はそういう日のようだ。
会っていなかった月日を感じさせることもなく、私たちは何度か言葉を交わした。
あぁ、そうか。
もし今、偶然再会していたのが瀬古くんだったのなら……。
何事も無く話すことができるだろうか。
いや、やっぱり少なからずどきどきするんだ。
でも言いたいことは言うんだ。
「飲みに行こうって言ったやんか、ウソつき」って。
そして君は笑うんだろうな、悪気無く。
「いつの話っ」
それは、恋にすることさえできなかった恋。