稽古()
「俺はとりあえず魔王を倒すことにするよ」
「そうか、私も共に行こう」
「この世界には来たばっかりだからすごくありがたいけど、この街は大丈夫なのか?分業制なんだろ?」
「よく出てくる小さめの魔物はメイド達に任せておけば問題ないし、私たちが魔王を倒すことが回り回ってこの街の平和に繋がる。他のパーティーにも話はつけておくよ」
「オッケー。色んな準備が終わるまではここに居てもいい?」
「何を言う。私たちは婚約しているんだ、好きに使ってくれ。それとタクミ」
「どうした?」
「この後私と手合わせしてはもらえないだろうか? 私は妻として、剣姫としてタクミの強さを知っておきたいのだ」
「あぁ、構わないよ」
「ありがとう、食事が終わったら道場に行こう」
「おいおい、道場ってレベルじゃないぞこれ」
「そうなのか?」
「大きめの大会が開けるくらいの体育館ってところか」
「たいーくかん?はわからないが、ここには結界が張ってある。多少の魔法じゃ傷つかないが、あの時のファイアボールを打たれたらさすがにマズイかもしれないな」
「そうだなー。あの時は制御が効かなくて怖かったから、魔力とやらをコントロールする練習をしないとうかつに魔法が使えないぞ」
「すごく残念だが、私では魔法の使い方を教えることができない。マコにお願いするから教わるといい」
「何から何まですまない」
「遠慮しないでくれタクミ。君には既にいろんな物を与えてもらった。更にはダルケルも完璧な形で撃退してくれた。あいつはプライドの塊みたいな男だ、あんな恥ずかしい負け方をすれば二度と私たちの前には現れまい」
「そんな感じがしたな、確かに」
まぁ、ほとんどまともにやりあってないんだけどね
「タクミはこれを使ってくれ」クレアに剣を渡される
「あぁ、わかった」
意外に重いな。これが本物の剣・・・
「さぁタクミ、よろしく頼む」
クレアが剣を構え、穏やかではあるが奥に剣姫としての鋭さを宿した瞳で俺を見つめる。
正直、動けない。戦闘に経験がない俺には何をやっても返されるイメージしか湧かない。
・・・・
お互い全く動かず、沈黙が流れる。クレアくらいの達人だったら俺が戦闘の素人でスキだらけだということなんてばれてると思うんだけどな。さっきまですごいオーラをまとっていたのに、どこか様子がおかしい
「い、いぃ、行くぞ!」
クレアが掛け声とともにこちらに走りこんでくる・・・のだが、、とろい
ごっこ遊びのようにクレアが剣を振り上げるが、急に力が抜けたようにへたり込んでしまう
「む、むりぃ・・・。やっぱむりぃ」
「ど、どうしたんだクレア?」
「私には、自分の旦那に剣をふるうことなんてできない~、グスン」
それでさっきから様子が変だったのか
「いや別に。少し剣を交えるだけじゃないか」
「それでもし、もしタクミがケガをしてしまったらと思うと・・・」
「か、かわいい」
「え?」
「クレアのそういうとこ、かわいいって言ってんの!」
「ポー!///」ダダダダダダ!!
「お、おーい!」
顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
今まで剣姫として生きてきたから、こういうのに慣れてないんだろうな。まぁ、お互い様なんだけど。
それと、前からちょっと気になってることがある。クレアが剣を身に着けている時はポンコツじゃないんだ、たぶん。
さっきの下りはクレアの性格とかそういうもので、ポンコツなわけではない。街を案内している時も普通だったし。まだ推測の域を出ないからもう少し様子を見ることにしよう。