あまい・1
3人はあーでもないこーでもないと、バレンタイン当日の相談をしている。
それぞれの渡しに行く順番と場所の作戦を練り、2人は帰っていった。
女子の友達づきあいってめんどくさそう。だけどことりちゃんは楽しそうだった。
俺はTVをつけてソファーの前に置いてあるこたつに入り、自分で持ってきたせとかを剥いて口に放り込む。
カタッ。目の前にチョコトリュフのような物が置かれ、ことりちゃんが立ったまま聞いてくる。
「余ったの、食べる?」
「余ったの、かぁー。あー確かにこれ、丸でも四角でもない…」
チョコをつまんで眺める。
いびつなチョコは明らかに失敗作だ。
カッコ悪くてナントカ先輩にあげられないやつ、かぁ。
「いらないんならあげないよ!?」
ちょっとムッとした顔のことりちゃんがトレーを引っ込めようとするので、慌てて遮った。
ことりちゃんの細い手首を掴んで引っ張ると、ストンと膝をつく形になった。
そうだ。
ふと思いついて、つまんだチョコをことりちゃんの唇に押し付けてくわえさせる。
「はいっ、食べさせてよ。」
そう言って目を瞑り、ことりちゃんの方を向いた。
バカなことすんな! ってぶっ叩かれるかな? そう覚悟してたんだけど、叩かれない。
少し間を置いて、なんかモゴモゴ聞こえたと思った瞬間、唇が熱くなって、甘いものが口に滑り込んでくる。
口が開いた状態で唇が触れ合う。
思わず目を開けると、長い睫毛を伏せたことりちゃんの顔が目の前にある。
生まれて初めての感触に、全身の肌をザワザワとしたものが駆け抜けていく。
唇を離したことりちゃんは
「これでいーい?」
と、プイッと横を向いて言った。
「んー…ちょっと固いな…」
俺はそう答えて、コタツに突っ伏すしかなかった。
自転車で塾に行くからということりちゃんの後ろ姿を家の前で見送り、とぼとぼと歩く。
陽が落ちた帰り道は、行きよりもずっと寒い。
でも、こんなに寒いのに、さっきの事を思い出すだけで身体が熱い。
ずっと溜めていた気持ちが熱く、今にも溢れ出しそうになっていた。