あせる・3
ことりちゃんは勉強机のところに移動して
「ふーん、一応勉強もしてるんだー。」
なんてつぶやきながら、教科書を引っ張りだして戻した。
「一応ってなんだよ。」
と言いつつ、背後にジリッと近づいた。
「ことりちゃん。」
「ん?」
振り返る髪がふわっと香った。
甘い香りと汗の香りが混じったような、久しぶりにかぐ匂い。
あっ、というような顔が間近に見える。
勉強机に手をついて支えにして、ありったけの背伸びをして、チュッと触れるキスをした。
「かずき…」
何が言おうとする唇をもう一度塞いだ。
今度は3秒ぐらい。
3回、4回と繰り返し、唇が触れる時間を徐々に長くしていく。
これをすると段々ウットリとした顔になっていって、そして黙ってしまうのを知っている。
でも今日のことりちゃんは違った。
何度目かに唇が離れた瞬間、はぁと熱い息を吐きながら言った。
「やめよう」
「ことりちゃん、うるさい。」
俺は下から睨みつけ、もう一度唇を塞いだ。
ことりちゃんは「んっ」と声にならない声を出して受け入れた。
なるべく長く、できるだけ長く、黙らせてやろうと思った。
息が苦しくなって、顔が離れたその瞬間
「わたし……」
と、真っ赤な顔をして切り出したことりちゃんに
「テニス部のナントカ先輩?」
意地悪っぽい返し方をしてしまった。
「ナントカじゃないよ! 鈴木先輩だ…」
最後まで言わせない。また唇を塞ぐ。
何度か啄むようなキスを繰り返した後、顔を見上げて言った。
「ナントカ先輩に、斎藤ことりとキスしてますよーって言っちゃおうかな?」
ハッと目を見開くことりちゃん。
「キス続けてくれたら、言わない。」
そう言ってジッと見つめると、ことりちゃんは目線をそらしながら
「絶対に…誰にも秘密だからね…?」
「約束…破ったら一生口聞かないよ…」
と、ぽつり、ぽつりと言った。
「絶対、約束する。誰にも言わない。」
そう言って、そっとキスをした。
ことりちゃんはもう、一切抵抗しなかった。