あせる・2
俺もことりちゃんも、新しい生活に追い立てられるように過ごしていた。
母ちゃんが新しくパートを始めたのもあって、家の片付けもなかなか終わらない。
『新居お披露目』と言う名で星野家と斎藤家が集まることができたのは、ゴールデンウィークだった。
両親がひとしきり家の中を案内した後、大人達は昼間っから酒盛りで大盛り上がりだ。
明日葉姉ちゃんはもちろん部活。
ことりちゃんも部活で、早く終われば来るそうだ。
兄の隼君はバイトに行く前にチラッと顔を見せて、さっさと逃げてしまった。
高3にもなって酔っぱらいの相手なんて面倒だもんな。
俺は両家が持ち寄った食べ物につられて、1時間半ほど宴会に参加した。
さすがに退屈して部屋に戻り、遊びにでも行こうかなーとぼんやり考えていると、コンコンと扉がノックされる。
扉を開けるとそこには、制服姿のことりちゃんがいた。
「一樹ヒマだろーから、家の中案内してもらいな、だって。」
そう言い白い歯を見せて笑うことりちゃんは、前よりずっと日焼けしていて、大人っぽく見えた。
「ふぅん、リビングは見た?」
「見た。みんな盛り上がりすぎ。」
ことりちゃんは、あきれたように言いつつクスクス笑う。
両親の部屋、客間、ちょっと大きいウォークインクローゼット、風呂場、順番に見せる。
そのたびにことりちゃんは「ほぉー」とか「おぉー」とか声に出す。お喋りなところは変わってないな。
「ここが明日葉の部屋。俺は勝手に開けたら怒られる。」
「じゃーコッソリ見ちゃお。」
そう言ってことりちゃんは、扉を隙間5cmぐらい開けチラッと見て、すぐさま閉めた。
口に指をあてて『ナイショね』って目配せしてくる。
当たり前だ。言ったら俺がぶっ飛ばされるっての。
「そんでここが俺の部屋。」
「おぉー! 前よりひろーい! あっ、ベッドにしたんだ!」
ことりちゃんはキョロキョロしながら部屋の中をウロウロしている。
「結構遠くまで見えるね!」
そう言いながら背伸びをして、出窓から外を見ることりちゃんの、制服のスカートがヒラリと跳ねた。
その瞬間、ふと気づく。
…今、久しぶりに2人きりだ。
反射的に後ろ手で扉を閉め、静かに鍵をかけた。