あせる・1
星野一樹、小5の春。
5年生になった俺は新しい小学校に転入して、ことりちゃんは中学生になった。
ことりちゃんは、念願のイケメン先輩のいるテニス部に入ったらしい。
俺は転校先である通称『西小』のサッカーチームに入って、クラスでも少しづつ仲良くなれそうな友達ができた。
学校生活はびっくりするほど順調。
順調じゃないのは、ことりちゃんとの関係だけだ。
家が近くなったものの、小学校と中学校は方向が別。
しかもことりちゃんは部活に入ったから、帰ってくるのが遅い。
ことりちゃんがいないのに家に遊びに行く訳にいかないし。
近くなったはずの斎藤家が、ものすごく遠くに感じた。
同じクラスで仲良くなった月岡聡と一緒に、自転車で少し遠くの公園に遊びに行った帰り道。
喋りながら初めて通る道を進んでいると、大きな建物に気づいた。
制服姿の男女がたくさん歩いてる。あの日見た紺色に赤いリボンの制服だ。
『ここ…ことりちゃんとの中学校だ…』
「俺の兄ちゃんここ通ってんだ。しかも俺の兄ちゃんすっげーイケメンでモテモテなんだぜ。」
と、ちょっとひがんだ感じで聡が言った。
ま、まさか、テニス部のナントカ先輩じゃないだろうな…!?
「さ、聡の兄ちゃんって何部?」
「バスケ部だよ」
ホッとした。せっかくできた友達を憎むことにならなくて良かった。
「ほら、あそこ。体育館。バスケ部見えるだろ?」
通風のためにか扉の空いている体育館では、キュッキュと靴の音をさせてミニゲームをやっているようだ。
「あの5番。2年だけどレギュラーなんだぜ。」
「へぇー…確かにイケメンだ。」
身長は175cmぐらいだろうか? 手足が長くて目がぱっちりしていて、かなりモテそうな顔をしている。
「しかもバスケだけじゃなくて、勉強もできるんだぜ。ほんっと、比べられんの嫌だ。」
うーん、エリートが身内にいるのも大変なんだな。
俺んちは、陸上バカで全く勉強せず、たまの休みは一日中寝ている明日葉姉ちゃんで良かった。
「かえろーぜ、俺これから塾なんだ。」
聡に促されて角を曲がると、テニスコートがあった。
「あっ」
そこにはことりちゃんの姿があった。
ひらっひらのミニスカートではなく、短パンを履いていて、ちょっとホッとしたような残念なような気持ち。
片付けに入るらしく、女子と男子が入り混じって移動している。
ことりちゃんともう1人の女子が、顔を赤くしながら男子を見上げて、何か言葉をかわしたようだ。
『あいつが…イケメン先輩だ…』
直感でわかった。
なんで背の高いイケメンばっかり何人もいるんだよ!
中学校! わかんねぇ!
イライラしながら、聡を追い越して自転車を加速した。