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ひみつ・4

3月の終わり、引っ越し当日。

今まで住んでいたところより郊外で駅から歩いて15分なのもあり、新居は思いの外広々としていた。

俺の部屋も6畳の和室から8畳のフローリング部屋にグレードアップ。

ひそかに憧れていたベッドも買ってもらって大満足だ。


『引っ越し当日はバタバタするでしょ?うちで夕飯食べたら?』

というお誘いがあって、今日は家族全員ことりちゃんの家で夕飯を食べることになった。

ことりちゃんの家は、家から住宅街を駅方面に歩いて5分ほど。

想像以上に近くて嬉しい。曲がり角を曲がるたびに、必死で道順を覚えながら歩いた。


ピンポーン。

ベルを鳴らすと扉が開いた。

「どうぞー」

そこには、いかにも新品ですという感じの、首もとに赤いリボンのついたブレザーの制服を着たことりちゃんがいた。

お正月以来に会うことりちゃんは、今までのショートカットではなく、首元でまっすぐに切った髪型に変わっていた。

「まあことりちゃん! かわいいじゃなーい!」

「髪型変わると大人っぽく見えるねー」

「可愛くていいなー私もブレザー着たーい」

などと、家族みんなして褒めそやしながらリビングに進んでいく。


「一樹は? なんかないの?」

そう聞かれたので一言

「ん、いんじゃね?」

と返した。

ことりちゃんは明らかに不満顔で

「そんだけー? せっかく着たんだからもっと褒めてくれてもいーんだよ!?」

と言いながら、紺色のスカートの端を右手でちょっとつまんで、持ち上げた。

白い太ももがチラリと見え、息を飲んで目線をそらした。


俺んち星野家と、ことりちゃんち斎藤家。

8人全員が集合した夕飯中の話題は、もっぱら中学校の話だった。

「やっぱ先輩とか怖いの?」

不安そうに聞くことりちゃんに

「んー…学校や部活の雰囲気による…かな?」

と、明日葉姉ちゃんは答えた。

姉ちゃんは体育会系だから後輩いじめる方だな…と思ったけど、もちろん口には出さない。


「私ねー、部活はテニスに入るつもりなんだ!」

ということりちゃんの発言に、思わず唐揚げを取り落としそうになった。

テニスって? あれ? ミニスカひらっひらさせてやるアレ?

「へー、テニス! なんで急に?」

という姉ちゃんの問いに、ことりちゃんは満面の笑みをうかべ

「学校訪問で行った時にね、男子テニス部にめっっっっちゃカッコいい先輩がいたから!」

と言いきった。

ことりちゃんの両親も兄ちゃんも、やれやれって顔をしている。

カッコいい先輩? なにそれ? 部活ってそんなことで決めんの?

俺、中学生がわからない。

「ね、テニス、どうよ?」

ことりちゃんは俺の方を向いて聞いてきた。

「ん…いんじゃね?」

そう答えるのが精一杯だった。


デザートまでご馳走になって、歩いて帰る。

子供だけで、ことりちゃんと2人でいることが多かったおばあちゃんちと違って、家族がいる。

そうなるとなかなか2人きりになる機会が無いんだな、と気がついた。


『せっかく会えたのに、キスできなかったな…』

そう思いながらの帰り道。

足取りが重く感じた。

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