ひみつ・3
キスをするようになって、今までと少し変わったことがある。
人前で必要以上に仲良くしないようになった。
以前は周りから「あんた達は仔犬か!」とツッこまれる程じゃれ合っていたのに。
秘密の関係がバレないように、この関係を壊さず守りたくて、なんとなくだけど距離をとった。
俺にとって、口にキスするようになる前も、なってからも、ことりちゃんは『特別な存在』だった。
だけど、どう特別な存在なのかうまく説明できないし、なんとなくそう言ってはいけないと感じていた。
だって俺たち、いとこ同志だし。
かわいいって思っても、好きだって思ったらダメなんだよね?
母さんの兄である人が父親の、ことりちゃん一家が住んでいるのは、電車で一時間近くかかる街。
だからことりちゃんに会えるのは、春夏冬の長期休みの時の、おばあちゃんちでのお泊まり。
お互いの家族で予定を合わせて一緒に遊べるようにしていたから、ことりちゃんと割と一緒にすごしていた。
長期休み以外は、親同士が泊まりで会う時ぐらいしか会えない。
二人とも携帯を持っていなかったし、わざわさ個人的に連絡を取り合うことはなかった。
「…は?引っ越し?」
「そ。急で悪いんだけど。」
申し訳なさそうに母さんが言ったのは、もうすぐ卒業式という時期だった。
父さんの勤務先が移動になったとかで、通勤のことを考えて引っ越すことになったらしい。
俺は転校して、春から中三で部活命の明日葉姉ちゃんだけは電車通学することになる、という話だった。
「えー、俺だって転校したくないよー!サッカーチームどーすんだよー!」
「ほんとごめん。でも、秋彦兄さんの探してくれた物件が条件良くて。どうしても引っ越したいのよ。」
秋彦兄さん…ってのは、不動産屋をやっていることりちゃんのお父さんだ。
ってことは…
「四月からは、今ことりちゃんが行ってる小学校に行くことになるからね。っても、ことりちゃんは中学生になるけど。」
母さんがそう言うのを聞いて、離れがたいと頭の中に浮かんでいた、友達やサッカーチームの仲間の顔がすっ飛んだ。
ごめん友達。俺は薄情なやつだ。
ことりちゃんにいつでも会えるようになる。
それだけでこんなにも心が躍る。
もう、今すぐにでも引越ししたい。