あまい・4
「ことりちゃんがいる」
チョコを選別している聡に目配せをして、シーッというジェスチャーをし、小さい声で言う。
「ことりちゃん? あぁ、従姉妹の?」
周囲を見回しことりちゃんの姿に気がつくと、2人して東屋のテーブルに肘をついて姿勢を低くした。
公園と道路の境目には茂みがあるから、向こうからこちらは見えないはず。
そもそもことりちゃんはそれどころじゃなく、これからの事で頭がいっぱいだから、こちらには気づかないだろう。
きっとどこかで、奈々さんと美優さんも様子を伺っているんだろうな。
優しそうなナントカ先輩が家から出てきて、笑顔でことりちゃんと会話をしている。
声は聞こえない。
しばらくしてことりちゃんは、見覚えのある包みを渡す。
そしてペコペコと何度も頭を下げて、髪をなびかせて走って去っていった。
俺はその様子を、口に入れたチョコを飲み込むこともできず、溶かしながら見るしかなかった。
ことりちゃんの姿が見えなくなったことを確認して、身体を起こす。
「ふーん、バレンタイン告白かぁ。」
聡がポツリと言う。
口の中のチョコが、やっと全部溶けた。
それを飲み込んだ瞬間、涙がぱたりと落ちた。
「俺さ、好きなんだ。ことりちゃんのこと、好きなんだ。」
今まで「考えてはいけない、口にしてはいけない」う思っていた気持ちが、初めて溢れてしまった。
涙が次々と出てくる。止まらない。
ぱたぱたとテーブルに落ちて、滲むグレーの染みを作った。
聡はただ一言
「そっか。」
と答えて、ポテチの袋をバリッと開けた。
もうチョコを食べる気になれなかった俺は、曇る視界を袖口で拭いながら、黙ってポテチをつまんだ。
そして、心の中で一番大きい、苦しい塊を吐き出した。
「いとこ同士で、キモい、とか思わない?」
「一樹は、キモくないよ。」
聡はそう言って、コクリと頷いた。