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01 毒者、死亡。小説の神様はお怒りでした。

聞いてくれ。俺はネット上の多くの小説に対して重箱の隅を突き、揚げ足を取るコメントで批評することを生業としてきた。

何が楽しいかって?そりゃ楽しみは人それぞれだろ?

今日も今日とてとある小説に最低評価を与え、思いつく限りの批判を込めて、感想欄にコメントを投下した。

なにせ、俺は作者の筆を折らせることにかけては天災的なスキルを持つ。

エタらせたことは山ほど。ランキング入りした連中でもお構いなし。

信者共を巻き込んで大炎上。ヘイトが渦巻く中、いずれにしても作者に募るストレスはマッハで、執筆意欲を大いに減退させる結果を招く。今までの戦歴は全戦全勝!

そうして俺は悪評高き毒者としてネット小説界に君臨したのだ。


こんな俺だからかもしれない。突然訪れた死後、小説の神様とやらがお怒りの様子で殴り込みをかけてきたのである。


「…君だよね。僕らの崇高な世界を破壊しつくしたのは!」

憤りを全身で表すかのように気炎をあげて怒鳴り込んできたのは自称”小説の神様”だ。

作者に成り代わって代弁とか哀れだなと言ってやったら、余計に怒り狂って今にも射殺さんばかりに睨んできている。いやはや怖い。

ここが死後の世界じゃなかったら俺もちびっていたことだろう。なんてね。


「で、それがどーした。お前、死んだ俺にわざわざそれを言うために乗り込んできたとかどんだけネット小説にお熱なんだよ。小説なら色々あるだろうに暇だなあ。」

「言ったろう。君は僕らの崇高な世界を破壊しつくしたってね。———作者は小説の中に舞台を形作る創造主さ。だから、あの中には魂のこもった人々が息衝いていたんだ。それを殺したに等しいんだよ、君の横暴が。」


「…ったく妄想もそこまでにしたらどうだ。紙の、いやネットだから電子か。その中に書かれた文章に魂が宿る?なにいってるんだこいつ、中二病かよとしかいいようがないんだが。」

嘲るようにそう言い返してやる。すると、自称”小説の神様”は肩を震わせたかと思うと、本一冊分くらいの紙束を見せた。

そこに書いてある内容には見覚えがあった。


「ああそれか。その小説な。異世界転生した惰弱な主人公が無自覚にハーレムを築いてくテンプレに乗っかった内容のやつだったっけ。主人公もアレだけどヒロインもチョロいのばっかだし、いやあ、擁護しようのない駄作じゃんかソレって。」


「ふうん、見覚えがある程度には記憶しているんだね。けど駄作でもなんでも人の作品を理不尽に罵る権利はないと思うよ。それにこの作品は面白くて読んでいた読者もいっぱいいた。君が理不尽にも作者による自作自演だといった評価ポイントも実際はそうじゃない。間違いなく客観的に見て良作だったんだ!」

さっきから感情を高ぶらせてるが、情緒不安定すぎだろ。仮にも神様だろうになあ。


「はぁ、だとしてもだよ。俺にどうしてほしいんだって。別にもう死んじまったわけだし、ネットを見れる環境じゃないから、もう批評することもできないし、今後はそんなこともなく創作活動は平穏に滞りなく進むだろう?もしかしたら俺がいなくなったことで件の作者も復帰するかもしれないじゃん。むしろそっちを促しに行けばいいんじゃね?」


「いいや、それだけじゃ収まりがつかない。小説の舞台に息衝く人々のことを言ったよね。さっきの作品で作者が君に散々言われるまで構想していたキャラクターがいた。でもいざ登場させることはなかった。記憶からも消してしまったらしい。となれば復帰しようがしまいがそのキャラクターは居なかったことになってしまう。分からないかい?生まれてくるはずだった子が途中でなかったことにされる苦しみを。…それが僕は許せない。」

だから、と神様は次の言葉を紡ぎ出そうとする。それが俺には予想できた。嫌な予感がした。


「君には償わなければならない。僕がこの手で償わせるつもりで来たんだ。君が駄作だと評した世界をその目で直に感じてもらおうじゃないか。そのキャラクターの姿でね。」


「は?はあっ!?」

俺は飽きれてしまったと同時に少し感心してしまった。小説の神様を名乗るだけあって、まるで異世界に行かせることをわけもなく言ってのけるくらいの力があるということに。


「これはある種の意趣返しでもあるんだ。君はたしかコメントでこうも言っていたよね。俺ならこの場面でこうするだとかああするだとか。それができない主人公やヒロインは優柔不断すぎて好きになれないとかなんとか。それなら、実際にやってみせてというわけだね。さあてと…転送するよ。」

早くも異世界に飛ばされようとしている。ってちょっと待った。

どんなキャラクターとして飛ばされるんだよ!?


「それは行ってから分かることだよ。まあびっくりするだろうけど。せいぜい攻略(・・)されないように気をつけなよ?」


「ん…まさか、まさかとは思うがそのキャラクターって―――――」

俺は思いついたその可能性を質す前に意識がプツンと飛んだ。



――――途切れた意識が戻るとそこは白い靄がかった場所だった。

どこか見当もつかないが、鳥や虫のさざめきが聞こえるからどこかの山中かもしれない。

さすがに以前読んだ小説の中の世界とはいえ、もう記憶の片隅にちょこっと残っていた内容程度の記憶しかないのだ。少なくとも大陸一個が舞台となる冒険ファンタジーだからかなりの規模の世界であるはずで、それなのに適当に飛ばしやがって。

だがそんなことも些細なことだった。あることを前にしてはな。

認めたくはない。認めたくはないが、あの神様はこう言っていた。


”せいぜい攻略(・・)されないように気を付けなよ。”


それが意味することはただ一つ。

いいか、クールになれよ俺。けっして取り乱してはいけない。


勇気を振り絞り、己が胸を触る。そして、


「……はぁ。」

と、ため息をつくほど概ね予想通りだった。

そこには微かな起伏が感じられた。貧弱で殆どつるっとしていて平べったいが、確かにその感触の正体はおっぱいだった。そして男としての尊厳が根こそぎ奪われていくのを感じた。

つまり今の俺の身体は紛うことなき女の子だということだ。

それもあの神様の思惑通りなら、まずもってこのキャラがただのモブであるわけがない。作者が構想中と言うからにはこのキャラが新登場予定のヒロインであったわけだ。

俺の予想では『とある一族の一員でそこから家出したボクっ娘で寡黙で職業は魔法使い(ウィッチ)で超絶的な魔力とスキルを持つが、その方向性はポンコツでパーティーのお荷物になる問題児。』というそういった属性てんこ盛りに違いない。

とてつもなく眩暈がした。TSしてしまったショックだけじゃない。

主人公の面々の起こす面倒な騒ぎに巻き込まれるであろう未来予想にだ。

ならばと俺は決意した。この茶番を早く終わらせる。

目指すは、さくっと主人公にヒロイン(俺以外)をくっつけてENDだ。

ハーレムを謳っている小説でそれは致命的だろう。だがそれでいい。ぐだぐだ長々と終わりのないラブコメを続けさせるよりはなんぼかマシになるはずなのだ。


「…。いいだろう。いいだろう!その宣戦布告、受けて立つぞ!」

その不退転の決意を胸に俺は一歩を踏み出…。


「てか寒ッ!?何のイジメだ、あのクソ神様!ヒロインをタオルケット一枚でどことも知れない野山に放り出すとかっ!?くっそおおおお!」

ヒロインにあるまじき絶叫をあげるも、遠吠えのようにむなしく霧の中にこだまするだけだった。



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