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第八話 特徴的な<アイテム>カードとは何ぞや 攻撃編

第七話からの続きです。

 霜柱のように氷が積み乗った階段を登ると、そこもまた氷原であった。一階も大概冬の国であったが、二階は輪をかけて、そして見るからに寒いの語の体現をしていた。息は白くならないが、なんとなく白いような気がする。そんな寒々しさであった。

「というか、これはどういうことなんだ?」

 ポニーテールの女子、城茂美が黒ずくめに白い髪の女であるパッション郷に問いかける。そうも言いたくなるくらい、そこは広かった。パッと見ただけでもそれなりに広さのあった下の階段周りを、この階段の登った先は軽々上回っている。道と言える廊下も、その突き当りまでがどう考えても先ほど歩いたダイニングキッチンまでの距離より遠い。しかも突き当りだから、それ以上に広い可能性も捨てきれない。

「ここまで影響力があるということは、倒す相手は中々強敵かもしれませんね」

「そういうことだろうとは思っていたがな……。それより、冷気遮断、持つのか?」

「まだ大丈夫でしょう? 後、二つありますから」

 茂美の問いにそう答えるパッション郷。その言葉をとりあえず信じることにして、茂美はパッション郷と、もう一人、茶色の癖っ毛がチャームポイントであるところの犬飼美咲に言う。

「とりあえず、進もう。幸い、一本道ではあるみたいだしな」

「変に入り組んでいなければいいのですが」

「それならそれで脳内マッピングがはかどるから、どんとこいだよ」

「……そういう目的で来てるんじゃないんだがなあ」

 呆れる茂美とは違って、パッション郷は楽しそうであった。

「ふふふ。後で書き写して下さいね。家の地図がいるかもしれませんから」

「うん!」

 地図が必要な家でいいのか、とは茂美は問わなかった。


 歩くが、道は険しい。というより地吹雪めいた状態になっている。寒くはないが、何せ視界が悪い。一直線の道だから、余計に風が一点に集中しているようであった。なので、進みは遅々として、そして退屈だった。時折、茂美の刀が閃く時、つまりちょっとした物の怪が出る場合もあったが、茂美の反射での攻撃で十分な程度であり、すぐに単調な移動の一部と化した。

 特に暇な後衛のパッション郷が、口を開く。

「後ろを警戒していても何も来ないから、暇です」

「知らないよ。というか、こっちもこっちで大したのが出てこないから暇だよ」

「じゃあ、『カルドセプト リボルト』の話でもしましょうか」

「何故そうなる」

 いいじゃないですか、と言って、パッション郷は続ける。

「さっきは<風属性>クリーチャーの話をしてましたから、クリーチャーの話を続けても芸がないですね。だから<アイテム>の話をしましょうか」

「だが、<アイテム>は多いぞ? ただやるだけじゃ散漫だ」

 と言いつつ、前方を斬りつける茂美。

「ぎゃっ」

 悲鳴が聞こえて血飛沫が舞う。だがそれもすぐに凍てつき、塊となる。

「とりあえず、攻撃用と防御用、という分け方ならどうです?」

「つまり、<武器>と<巻物>組と<防具>と<道具>組、ということか。それなら、大体半々程度だから、まあ、なんとか散漫にはならないだろう」

 頷く茂美に、パッション郷は話の突端を出す。

「では、まずお互いに好きな<武器>を挙げてみましょうか」

「好きな<武器>。うーん」

 悩む茂美を横に、美咲が発言した。

「あたしは<プラックソード>! 攻撃力40プラスして<強打>は魅力的だよ! <強打>だから60プラスも同然! 火力isパワー!」

「<無効化>には弱いですけどね」

「それは言わない約束だよー」

「とはいえ、レア度Nなら発動というのは幅が広いからなあ。<グレートタスカー>でダメージ150は<先制>頼みな所がある<風属性>には脅威だ」

 じゃあ、と茂美は話を引き継ぐ。

「僕は、<ドリルランス>かな。攻撃力のプラスは20と低めだが、土地レベルによる補強を貫く<貫通>効果が付くのは大きい。平均的な攻撃力でも、十分高レベル土地を狙えるからね」

「<防具>全般と<援護>に弱い点がありますけどね」

「それは<貫通>が無くても似たようなものだよ。その辺をどうするか、が勝敗を分ける部分だしね。で、君はどうなんだ、パッション郷くん」

 話をふられたパッション郷は、特に慌てることもなく答える。

「<バタリングラム>ですね。<防御型>クリーチャーのみとはいえ、<即死>効果100%は大きいです。防衛する場合は<防御型>クリーチャーは使いたいところですし、<コカトリス>の能力やスペル<ターンウォール>で無理やり<防御型>クリーチャーにして倒すコンボも強力です。コストからすると割高とはいえ、攻撃力も30アップするので、<武器>として使うことも出来るので、汎用性は高いですよ」

「わりと隙のないのを出してきたな」

「突っ込みどころがないね」

 なんだかつまらない、という風の表情な二人に対して、しかしパッション郷は動じない。

「もう少し隙があるのがいいのでしたら、<クレイモア>辺りでもいいですよ。純粋にST50アップだけという性能で、特に言うことが無いのが欠点ですね」

「一応、レア度Rだから<グレムリンアイ>に弱いのと、状況によっては<プラックソード>等<強打>系や持ち領地による攻撃力UP系の方がいい場合もある、けどそれ以外は本当に安全牌の<武器>だな」

 じゃあじゃあ、と今度は美咲が口を出す。

「<マグマハンマー>とかは?」

「水風用<強打>武器<ストームスピア>の対偶の、火土用<強打>武器ですね。<強打>持ちがほぼいない<土属性>クリーチャーは勿論、<強打>が無いけど攻撃力のあるのも多い<火属性>クリーチャーにも使えるのが大きいですね。STのプラスが20な点が物足りない所ですけれども」

「<ストームスピア>の方は、そもそも<強打>持ちがいない<水属性>と、やはり持っているのが少ない<風属性>に<強打>を付けるから、より効果が高い<武器>だと言えるか。プラスが少ない以外は、ブックの組み方もあるが重宝する<武器>だな」

「まだ美咲さんが到達していない辺りの<武器>だと、<ムラサメ>は<無効化>と<反射>を無効に出来るというメタ<武器>がありますね。<無効化>に強い<巻物>のように土地レベルでのHP補正をくぐれませんが、高ST持ちや<強打>持ちとの相性がいい所が良いですね」

「<ナパームアロー>も無効化されたらMHPを削って倒しやすくする、という似たような効果だが、こういう<無効化>無効を無効にする、とか更にメタってくると高度な読みあいになってくる。でも、結局殴る力が強くて勝った、となり易いんだよな」

「メタし過ぎてブックのコンセプトが揺らぐとそれはそれで意味がないですからね」

 さておき、とパッション郷が一息を入れる。

「どのブックでも使いやすい、となると<ブーメラン>辺りでしょうか。上げ幅はSTがプラス20、HPがプラス10とそこまでではないですが、使用しても手札に復帰する点が便利ですね。魔力コストはそこそこかかるので無制限に、とはいきませんがそれでも連続して攻められてもここぞと使えますし、、使いまわせる分、手札の圧縮もしやすい点も良い点ですね」

「使いやすいのなら<カタパルト>もいいな。STとHPが30ずつ上がるから、<防具>が使えないクリーチャーでもHP上昇の恩恵が受けられる。<トライデント>も似たような感じで使えるから覚えておくといい」

 そこまで言うと、茂美は刃を閃かせた。ぃん、という音と共に、「ぎゃっ」という悲鳴がする。またも反射的に切り裂いたようである。そこで、茂美が疑問を呈す。

「こうも雑魚がいる、というのはおかしくないか? ある程度いたのを食うなりなんなりしたんじゃないか、って判断だったよな?」

「それは間違いないとは思うんですけれどね。とはいえ、妖力の溜まりによって生まれたにしても数がいます。何か思い違いがあるのかもしれません」

「決定的なことにならなきゃいいんだがな。しかし、それを判断するにも、進むしかないか」

 ですね。とパッション郷は言った後、追加で言った。

「ところで、そろそろ寒いんじゃないですか?」

「あー、確かにそうだよ。ちょっと寒くて寒イボが出てるもん」

「じゃあ」

 そういうと、パッション郷は小瓶の封を解き、コルク栓を抜き、中の液体を振りまいた。また、寒さが消えていくのが分かる。

「後一個か」

「ですね。それまでに片付けばいいんですが」

 そう言うと、三者は歩みを始めた。


 なんとか長い一本道を突き当りまで到達する。その曲がり角の先は、また長い道のりに見える。しかし、枝分かれなどはしていない、真っすぐの道であった。

「あんまりマップ必要ないかもね」

「そうですね。ここまで単調だとは思いませんでした」

「それに、風も止んだな」

 気が付けば、地吹雪は止まっていた。ただ深々と、雪が降っているだけだ。なので、見通しは良くなっている。その道の先を、パッション郷は妖怪らしい超視力で見て取った。取ったが。

「うーん」

 悩み声を出すパッション郷。茂美が問う。

「何か見えるのか?」

「ええ、何かが見えます」

「?」

「言い換えましょう。見た目何だか分からないモノが見えます」

「何か、分からない?」

「不定形、と言った方がいいでしょうね。形の定まったタイプじゃありません。どういうものなのかはもうちょっと近づかないと分かりませんね」

「まあ、どの道そこに行くんだから、嫌でも見えてくるだろう」

 そう言うと、茂美達は移動を再開した。しかし、先までは遠い。視界はクリアになったが、その分遠さも感じられる。

「というか、よく見えるなあ」

「人とは構造からして違いますからね。とはいえ、ゲームのし過ぎでだいぶ弱くはなっているんですよ」

「人と構造が違うのに、かい」

「その辺りは不思議ですが、生憎わたしはそういうのを研究するのは特にやっていないので、理論は分かりませんよ」

「そこまで詳しい話をしたい訳でもないよ。こっちも学者さんじゃないしね」

 茂美がそういうと、突然、パッション郷が、

「ふふふ」

 と笑った。

「……僕、何か面白いことを言ったかな」

「いえ、そうではありません。ただちょっとだけ、忌憚なくしゃべられたのがツボに入った? ですかね。それがあっただけです」

「……さいで」

 しばらく歩きながらパッション郷はひとしきりくつくつと笑った後、話を切り出した。

「では、<巻物>の話でもしましょうか。美咲さん。あなたの好きな<巻物>は?」

「安定だけど<スパークボール>! 特に小難しい条件がなくて分かり易いのがいいね!」

「城さんは?」

「<チリングブラスト>だな。<バーニングロッド>もだが、領地による攻撃力増大タイプは好きだ。しかも火土に<巻物強打>まであるから、切り札になりえる<巻物>だな。君はどうなんだ、パッション郷くん」

「わたしは<オーラストライク>」

「渋いところだな。使用クリーチャーのST値で、しかも攻撃前の増減は含まない、というのは、使いにくくないか?」

「発想の転換です。攻撃前で駄目なら、そもそも最初から数値を上げればいいじゃないですか。その為にブックにSTの上げられる<秘術>持ちの<フェイ>を入れていますよ

「それはそれで面倒くさい気もするんだがなあ」

「それなら基本値の高いクリーチャーに使わせる手もあります。<デスサイズ>みたいにSTが70もあれば、相当の威力を発揮しますよ……、あれ?」

 不意に出たパッション郷の声に、茂美は即座に反応して問う。

「何かあったか?」

「さっきまで向こうにいた不定形が、居なくなっているんですよ」

「何故?」

「分からないからの、あれ? ですよ」

「どっかに逃げちゃったんじゃない? 恐れをなして、とか」

 美咲の能天気な台詞に、パッション郷は首を横に。

「さっきの毛むくじゃらより強い気配があった相手です。尻込みするとも思えません」

「そもそも不定形じゃあ、そういう思考があるかすらよく分からないからなあ」

「とにかく、警戒するに越したことはありません。気を引き締めて行きましょう」

 そういうと、パッション郷は美咲の前に出る。後ろからへの警戒をするより、前の警戒を、ということだ。


 三者はしばらく無言になる。そのまま最大警戒で進んだ。すると、景色が変わっていく。氷の世界だったこの二階に、暖かな空気を感じれるが出てきたのだ。氷やつららは次第になくなり、花は咲かないまでも、苔むした風景になっていった。

「ここにいるの、凍結系の妖怪じゃなかったのか?」

 茂美の当然の問いに、パッション郷は表情は変えないが困惑した声色で言う。

「まさか、いやでもそう考えると」

「なんだ? 何か心当たりがあるのか?」

「ええ、それが……」

 言いかけ、しかし言葉は最後までは言われない。パッション郷が、突如超高速で突進してきた毛むくじゃらの妖怪に捕まったからだ。

「モオっ!!」

「ぬおっ!?」

 そのまま、毛むくじゃらの妖怪はパッション郷を連れて、今まで茂美達が歩いてきた道を高速で戻っていく。

 瞬間呆然としていたが、その後をダッシュで追いかける茂美と美咲。時間がかかるかと思われた合流はわりとすぐに行われた。パッション郷が、足を廊下に付けて、踏ん張っていたのだ。

「ぬぬぬぬぬ!」

「モオオオオ!」

 体格差が倍はあるのに力は伯仲と言ったところだった。そしてそれ故に、毛むくじゃらの妖怪は茂美に対して意識が向かない。

 ぃん。

 細い音と共に、刃先が閃く。そして、毛むくじゃらの妖怪の両腕が、ずるり、と音を立てるようにずれ、そして落ちる。

「モオ!?」

 力の支点を失って、毛むくじゃらの妖怪は前のめりに。そこを、切断された手を振り落として手空きになったパッション郷の剛腕が捉える。

「ぬんっ!」

「モ……」

 顔面に過たず突きたたった拳で、毛むくじゃらの妖怪はそのまま前のめりに倒れ、そのまま沈黙する。

「いやあ、吃驚しましたよ」

 その言葉のわりには平然としたパッション郷に、美咲と茂美は驚く。

「いやいや、郷ちゃんの方がびっくりだよ。よくあんな大きいの相手に互角で渡り合ったね!」

「明らかにウェイト差がある相手にあれだからなあ。魔女にしては腕力あり過ぎじゃないか?」

「最低限の嗜みですよ。長く生きていると、暴力で解決しないといけないこともありますからね。しかし……」

 パッション郷は気絶している毛むくじゃらの妖怪に近寄る。やはり沈黙している。

「わたしが見た不定形のモノはどこに行ったんでしょうか。こいつが湧いた辺りに居たはずなんですが」

「ならまだ向こうにいるんじゃないか?」

「そうですかねえ。視界に入る範囲では見当たらないんですが。とりあえず、見てきましょうか。その前に封印しておきましょう」

 そう言うと、パッション郷は先ほどのように、冷気遮断の小瓶の封を使って毛むくじゃらの妖怪に封印を施した。

「じゃあ、ちょっと見てきますから、美咲さんはここで待っていてください。とりあえずこの封印の範囲は安全ですから」

「えー」

 ぶーたれる美咲に、パッション郷は冷静に伝える。

「向こうにいるのは、ちょっと得体が知れないですから、何が起こるか分かりません。だから美咲さんには安全な所で待っていて欲しいんです」

「正直に言うと、足手まといになるかもしれない」

 茂美が率直に言うと、美咲はしょげる。

「……まあ、それは分かってる。でも実際言われると堪えるね」

「すまん。だが来ない方が美咲の為だ」

「うん……。じゃあ、待ってるからさくっと終わらせてきてね」

「ああ、……なんだ?」

 行こうとする茂美を、パッション郷が手をつかんで止める。何を? と思っていると小瓶を取り出す。

「念の為、最後の冷気遮断をしておきましょう」

 そういうと、封を開け、コルク栓を抜き、中の液体を振りまいた。

「要らんと思うが」

「念の為ですよ。じゃあ、行きましょうか」

 言うなり、二者は疾駆する。パッション郷は抑え気味に走っているが、それに十分に茂美は追いついてくる。そのことと、自分がしていることの二つを感じ、パッション郷はふふふ、と含み笑いをする。

「なんだよ」

 茂美が自分を笑ったのかと思い食って掛かるが、パッション郷はやはりふふふ、と笑うだけだった。


「何もいないな」

 道の突端に到着した。そこは広間というより広場というべき広さのある、暖かい場所だった。草木が覆い茂って、花すら咲いている。冬から突如春へとやってきたような場所であった。

 しかし、問題はそこではない。パッション郷が見たという不定形の妖怪が、いないのだ。

「どういうことでしょうかね」

 あちこち覗き込み、めくりあげ、探し回るパッション郷と茂美。しかし、どこにも何もいない。ただ、牧歌的とすら言える景色だけだ。

「見間違い、とは思えないが、本当に間違いないのか?」

「それはもう。確実にいましたよ。でも、ここにいない」

「道すがらもそれらしいのはいなかったよな」

「ええ。抜け道とかも無いようですね」

 互いに調べたことを確認する二者。確かに抜け道のようなものはなく、ここにはおらず、途中でも出くわさなかった。と茂美は再確認する。そして口をつく。

「となると、……どうなるんだ?」

「他にここから出てきたモノが怪しい、ということになるのではないですか?」

「……それってつまり」

 パッション郷は深刻な顔で頷く。

「ですね。さっきの毛むくじゃら。あいつが怪しい」

「……急ぐぞ!」

 茂美とパッション郷は道を取って返す。パッション郷の言葉が事実なら、美咲が危ないのは明白である。今、その怪しい妖怪の一番近くに、彼女はいるのだ。

 パッション郷が疾駆する。今度は茂美の付いてこられる速度ではない。茂美も速く、それほど間は開かないが、それでもじりじりと速度差が出て、引き離していく。

 そして、パッション郷は美咲の所にたどり着いた。

「あれ? どうしたの郷ちゃん。そんなに急いで」

「離れてください」

「え?」

 と、美咲が呆けたその瞬間、閉じられていた毛むくじゃらの妖怪の口から、不定形の何かがあふれ出て、そして美咲に絡みついた。

「え? うわ! うわわわ、おぶぼぼぼぼ!」

 絡みついた不定形は、そのまま体内に美咲を取り込む。少し空気を吐いてしまった美咲だったが、すぐに口を閉じてそれ以上の酸素の喪失を阻止する。その不定形からは冷気が強く発散されているのを、パッション郷は感じる。先に冷気遮断をしていなかったら、窒息死の前に凍死していただろう。不幸中の幸いである。

 とはいえ、このままでは美咲が窒息死するのは目に見えている。そして、パッション郷は攻めあぐねる。この形になるとは予想していなかったから、武装らしい武装は持っていない。なら殴るしかないが、不定形相手である上に美咲が体内にいる。下手をすれば美咲を撲殺してしまうことになる。

「……どうしましょうかね」

 と、不定形が太い腕を出す。それを、パッション郷に伸ばしてくる。それに、牽制気味に拳を打つが、すぐ拳を引かねば取り込まれそうであった。捕らわれないように、パッション郷は距離を取る。しかし、攻め手がない。このままでは……。

「何やって……、こりゃ何かやってんだよ、だよな……」

 茂美が追いついてきた。そして、不定形と美咲の状態を見る。

 その茂美に、パッション郷は言う。

「どうしますか、城さん。このままだと」

「分かってる。どうやらこれは郷君向きじゃないみたいだから、僕がやるよ」

「その刀で、ですか? それだと、美咲さんが」

「大丈夫。とりあえず郷君は囮になってくれ」

「……分かりました」

 何かあるのだろう、とパッション郷は解釈する。自分に打つ手がないのだから、頼るしかない。

「人を頼る、ですか」

 茂美に聞こえない声でひとりごちて、パッション郷は動く。狙いを美咲に見せるよう、愚直に真正面から接近する。不定形は腕を二つだし、拍手を打つようにパッション郷を挟み込もうとする。

 それを前進速度を上げて回避するパッション郷を、今度は前に押し出さんと腕が正面から伸びてくる。パッション郷はこれを斜め前に転がって回避。しかし、態勢は崩れてしまった。次の腕が、パッション郷を。

「ちぇえす!」

 声と共に、茂美が跳んだ。人一人分の高さを跳び、大上段に構えた刀を、不定形のど真ん中に振り下ろす。

「美咲さん!」

 パッション郷がかろうじて出せた言葉はそれだけだった。振り下ろされる刀が、不定形を割き、美咲を両断し、そして不定形を両断した。不定形と、美咲が、地に落ちる。その光景を、呆然と見ていたパッション郷だが、表情を強張らせ、茂美にくってかかる。

「城!」

「言いたいことは分かるが、落ち着け。ちゃんと見るんだ。切れてないんだよ」

「あなた、何を、言っている?」

 あまりに冷静に対処され、混乱するパッション郷だったが、美咲の方を見て、疑問が氷解した。両断されたと思われた美咲は、しかし全くの無傷だったからだ。

「僕の刀は、人を斬ることはないんだ。精神の刀は、妖怪だけを斬るものなんだよ」

「玄関先で言いかけていたのは、そのことですか」

「そういうこと。あの時誰かさんが急かさなければ、今、君が混乱することもなかったんだよ」

 そういうと、茂美はふふ、と笑う。

「何がおかしいんですか?」

「冷静というより厭世的な君でも、怒りを感じることがあるんだね」

「……」

 表情を曇らせるパッション郷。それが、茂美には妙に面白かった。なのでにやにやと笑う。

 と、その時。美咲が目を覚ます。

「うげー」

 という第一声の後、美咲は異なる表情の二者を見て、第二声。

「何かあったの? いきなり仲良しさんみたいだけど」

「そうでもない」

「そうでもないですよ」

 言葉がハモって、それがお互いのテンションの差によって二重奏めいてしまっていた。それに気づき、パッション郷が笑い、茂美がつられて笑い、そして美咲もなんとなく笑うのだった。

 ということで、第八話でした。わりと長くなったので、第七話で一旦切って良かったですな。中々この辺の匙加減がうまくいかないですよ。

 さておき、アイテムカードの話でしたが、防御編はまた違うタイミングでやりたいところ。しかし、アイテムで二つに分けたですが、スペルはどうなるやら。めっさあるからなあ。どうしたらいいのか。

 とかなんとか。感想お待ちしております。かなり深刻に。

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