第六話<火属性>のキーカードとは何ぞや
とある政令指定都市のとある住宅街。そのはずれにある一軒の邸宅。そこにはゲーマー妖怪がいた。
「どうも、ご紹介にあずかりました。パッション郷です。さて美咲さん、この間はどうも面倒なことに巻き込んでしまいましたね」
「それはもういいよ。だって、本物の怪異ってやつを、それも呪いの姿を見れたんだし! 元なんて軽く取れてるよ!」
茶色い癖っ毛を跳ねさせ、やたら嬉しそうに言う犬飼美咲に対し、パッション郷は双眸を細めて言う。
「わりと命の危険があったというのに、そうおっしゃる美咲さんは凄いですね」
「いやあ、それほどでも」
照れる美咲に更に双眸を細めるパッション郷。
と。
「それはいいんだが、都くんはどうしたんだ?」
言うのは、美咲の友人である城茂美である。本日も黒髪のポニーテールがしっかりと決まっている。決然とした表情は凛々しく美しい。
そんな茂美の言葉に、白い髪を垂れ流したパッション郷は努めて冷たく答える。
「妖助、つまり妖怪互助会の人に呼び出しされたらしいですよ」
「どうして?」
「さあ? あそこのすることはわたしにはよく分かりません」
「……」
それ以上追及することはしない、茂美。どうにもわざとらしく壁を作られているとは感じるのだが、どう突破していいのか見当もつかない、という状態である。なので、上手く相手をこちらの言動に乗せられない。茂美としてはわりと八方ふさがりな状況である。
「そういえば、ニシワタリさんもいないね」
「あれはサティスファクションと一緒に出掛けましたよ。以前この家に妖助の者が来たでしょう? その時のことで口裏合わせをして欲しいとかなんとか」
「……」
この格差である。何がこの差を生んでいるのか、茂美にはわからなかった。
パッション郷は続ける。
「なので、しばらく彼の者たちは帰ってきません。なので、今の内にしておきたいことがあるんです」
「何? 冷蔵庫にあるわらびもちを食べちゃうとか?」
「それは油断ない彼の者なので、既に食べた後です。そうではなく」
というと、混沌とした物(妖力が溜っているらしい物品)の中に見事に合間をぬってホワイトボードが姿を現した。
そこには文字が書かれている。それを美咲が読む。、
「『カルドセプト リボルト』の<火属性>の要注意クリーチャーとその対策」
読んだ美咲は疑義を呈する。
「なんで今なの?」
「それは、サティスファクションが<火属性>メインだからです。対策なんて言い出そうものなら、すっとんできて大喧嘩ですよ」
「鬼の居ぬ間に、か」
茂美の言葉に特に反応せず、パッション郷は話を進める。
「では、まず<火属性>について、どれくらい分かっていますか、美咲さん」
「えーと」
視線を宙にさまよわせつつ、美咲は考えている。その後ろで、茂美がぼそりと。
「攻撃力」
「ああ、うん。攻撃力が高いんだっけ?」
「<強打>」
「ああ、うん。<強打>が使えるクリーチャーがいるんだっけ?」
「美咲さん」
パッション郷が口を挟む。
「自分で考えないと、こういうのは身に付かないんですよ? 悪魔の囁きに耳を貸してはいけません」
そう言うと、パッション郷は茂美を一睨みすると、それ以上は相手にせず、話を進める。
「とはいえ、大体そういうことが<火属性>のイメージでしょう。火力で殴り倒す。これが<火属性>を使う場合に狙う作戦です。それを念頭に入れて、<火属性>のクリーチャーを見ていきましょう」
そう言うと、パッション郷はホワイトボードに記名していく。
「まず、<グラディエイター>。HPとSTがそれぞれ40と40であり、それなりです。しかし<無属性>以外の四属性に対して<強打>を発動できるという点が強力です。STを上げる武器との相性も良く、ST+40の<バトルアックス>程度でも<強打>すれば120ダメージという十分な火力が出せます」
「<バトルアックス>なら毎度売るくらいあるよ」
そういう美咲に、パッション郷は、「でしょうね」と言って続ける。
「攻撃力は高い反面、防具が使えないので防御が弱く、巻物も使えませんから通常攻撃の<無効化>にも弱いです。とはいえ、武器でHP+があるものや、<無効化>無効の<ムラサメ>もありますし、あるいは道具類なら使えるので、例えば<先制>が無い相手なら<先制>の効果が付く、道具なら<スリング>や、武器なら<イーグルレイピア>で先手を取って<強打>で倒す、ということも可能です。なので、弱点をきっちり対策すればレア度Nのわりには有用なクリーチャーです」
「対策は?」
茂美がそう問うが、パッション郷は無言。瞬間的に静かになるサティスファクション都邸一角。それを切り裂くのは空気を読んだ美咲である。
「対策するとするとどうなるのかな?」
パッション郷は双眸を細めて答える。
「とりあえず、防具が使えないという点は大きいですね。先ほど言ったようにフォローは出来ますが、大きくHPを増やせるアイテムは使えません。なので巻物や<貫通>、あるいは<強打>などが効果を発揮しやすいと言えるでしょう。また攻めてこられた時には、上手く防御して耐えたいところです。<先制>、あるいは<無効化>で対処したいところですが、この辺は相手の<アイテム>状況次第ですね」
「成程ー」
では次、とパッション郷はホワイトボードに記名。<ファイアーピーク>。
「<ファイアーピーク>はST50のHP40で<先制>持ちと、能力的には魔力95と<火属性>土地一つを必要とするにしては、ですが、<水属性>と<風属性>に対して<強打>と<貫通>をするという能力があります。つまり<水属性>と<風属性>には素の状態で75の<貫通>ダメージが入るという事です。これは<水属性>でも素のHPが高い<G・ノーチラス>でも防具なしでは耐えられないレベルなので、該当属性にとっては脅威のクリーチャーです」
「<先制>もあるから、<風属性>クリーチャーの<先制>持ちで防衛してもどうにもならないんだよなあ」
「<先制>もありますから、例えば<風属性>のクリーチャーの<先制>で防衛することもままなりませんし、<ファイアーピーク>が防衛側であっても<先制>持っていないクリーチャーでは先手を取られて倒されることもあります」
「……」
茂美の睨みなどどこ吹く風のパッション郷は、続ける。
「対策としては、巻物が使えない点から<無効化>が一番効果的です。しかしそれを割るように<無効化>無効の<ムラサメ>をされたら分が悪かった、と諦めるしかない辺りが、このクリーチャーの強さを物語っていますね。どうにか<ムラサメ>を潰す手段が欲しい、というべきでしょうか。防具が使えない点も<先制>で倒せば問題ないのがたちが悪いです」
「こちらが<火属性>、<土属性>、<無属性>を主に選んでいれば、やや攻撃力の高い<先制>持ち、となるから、対処方法はもっと増えるけどな」
「次にいきましょう」
記名される。<ファイアードレイク>。
「<ファイアードレイク>はST30のHP40と、魔力80のわりには若干低めのステータスですが、STに<火属性>の配置クリーチャー数によって加算があります。それも敵味方なく、全体で配置された数。なので、<ファイアーピーク>がそこまで有効ではない<火属性>が多いブック構成に対してより効果が増すクリーチャーです。もちろん、こちらも<火属性>クリーチャーを積んでダメージを上げるのが基本です」
「これも、対策は<無効化>なのかな?」
美咲の問いに、再び双眸を細めるパッション郷。
「いい問いです。当然、<無効化>が対策として有効です。しかし、それだけではなく、<先制>を持っていない点から<先制>持ちで先に殴るという選択肢もあり得ます。ただアイテム制限がないので、攻めてくる時は無効化に対して巻物など、アイテムを絡めれば確実に取れる、という場合が多いのが厳しい点です。上手くアイテムを削る、というのも考えたいところですね」
それでは次に、記名する。<フレイムデューク>。
「<フレイムデューク>の長所は武器を使うと<強打>出来る、という攻撃重視の能力でしょう。<強打>条件が緩いわりに、基礎能力もST50とHP50に<先制>持ちと高性能な上に、使ったアイテムはブックに戻せるという能力もあり、武器<強打>と合わせれば、大変優れているクリーチャーであるのが分かると思います。一応、<火属性>土地二つが召喚条件にあるので、そこを突くことが出来れば、召喚できないままにも出来ます。とはいえ実際問題として二つくらいならなんとか出来てしまうので、どう戦うか、ですね」
パッション郷は一息入れ、続ける。
「基本的に<無効化>が出来れば楽ですが、<グレムリン>や<グレムリンアイ>のアイテム破壊で<強打>をさせないのも有効です。破壊したアイテムはブックには戻らないので、再利用を防ぐことも出来る点が重要です」
「とはいえ、<グレムリン>はひ弱だ。アイテムがない場合、ある程度領地レベルが高くないと防衛が難しい。<グレムリンアイ>はレア度Nは破壊出来ないから、例えば……、レア度Nの<バトルアックス>。これを振り回すだけのえーと、135ダメージか。これに中々対処出来ないな。領地レベル5でも、HPが85より多くないと負けてしまうんだから、凶悪だな。というか<プレートメイル>レベルが必須じゃないか。<バトルアックス>相手なのに」
「アイテムの使用制限及び土地への配置制限も無いので、<火属性>土地二つという条件さえクリアできるならかなり幅広い活躍が出来ますね。時には攻撃を捨てて防具で防衛したり、巻物で攻撃も出来る汎用性の高さも強みです」
「一応<フレイムデューク>のレア度がRだから、手に入りにくい点が若干の救いだな。都くんは当然のように持っていたが」
「他にも攻めに強いクリーチャーはいますが、他の方にも目を移しましょう。<火属性>にも防衛やサポート向きのクリーチャーというのもいます」
記名する。<バーナックル>。
「防御型クリーチャーですが、ST30でHPは60と、防御力もですが攻撃力もそこそこあり、また武器や防具を使えるので他の防御型クリーチャーとは違う趣があるクリーチャーです。<イーグルレイピア>を使って<先制>で倒す、とかも出来るのが強みと言えます」
ですが、とパッション郷は続ける。
「このクリーチャーの要点は<秘術>で通行料を半額にする呪いを付けられることですね。相手の高額領地に付ければそれだけでこちらが奪える可能性のある魔力を減らせますし、相手が奪われる魔力も減らせます。わりと厄介な<秘術>ですね」
「対処は?」
「対処はどうするの?」
同時の問いであったが、美咲の問いに答える、というそぶりを見せるパッション郷。茂美は苦虫を噛む顔になる。
パッション郷は構わず続ける。
「戦闘で排除するなら防御型なのを利用してアイテム<バタリングラム>を使うのがいいでしょう。単純にこれのみを狙って入れるのは効率が悪いですから、スペル<ターンウォール>で防御型にして潰すというブックにするのもいいかもしれません。通常攻撃で倒すのは中々骨が折れますが、武器アイテム<ドリルランス>で<貫通>していったりするのが効果的ですね。<秘術>の方は使わせないようにする手段がスペル<ナチュラルワールド>くらいですから、付けられたらこちらも<秘術>やスペルで上書きする、移動や交換するなどで対処したいところです」
他に、とパッション郷は記名しながら続ける。<フェイ>と<バードメイデン>と。
「<秘術>で言うと<フェイ>と<バートメイデン>も特記出来る<秘術>ですね。<フェイ>の<秘術>はST+20をクリーチャーに。<バードメイデン>の<秘術>は遠隔移動、どこにでもクリーチャーを移動可能になる能力をクリーチャーに、と高い効能があります。<フェイ>の<秘術>は配置済みクリーチャーでないと上げられないという<秘術>としての欠点はありますが、<先制>持ちで防衛したり、移動侵略で蹂躙していく場合には大変効果的です。<バードメイデン>の<秘術>はより移動侵略しやすくなったり、空いている土地を取るのが楽になります。どちらも強力な秘術ですね」
ただ、とパッション郷は続ける。
「どちらにしても<秘術>はスペルターンで、なのでスペルをそのターン使えないのと、使うとダウン状態になる、というので使い道の思考をしっかりしないといけません。適当に使えるものではないのです。<バードメイデン>は<不屈>があるので毎ターン使えますが、遠隔移動するクリーチャーがダウン状態では、移動できませんから、バランスはとれていますね」
さて、とパッション郷。
「大ざっぱですが、<火属性>の強みのある部分を見ていきました。どうでしたか、美咲さん」
「<火属性>、かなり強いんじゃ? って思った」
「確かに、攻める点だけ見ると強力なクリーチャーが多いのが特徴ですね。ただ、防御面では脆い部分も多いんですよ。守り向きのクリーチャーは多くないのが実際です。どちらもこなせる強力なカードは召喚条件が難しいので、それを維持する為の土地の確保をどうするか、というのもありますね。この辺を付けいる必要があります」
「もっと短絡的なの、それこそこのクリーチャーさえあれば、というのは?」
「<水属性>の<無効化>持ちが有効ですよ。特に<イエティ>は火<無効化>に火<即死>もあるので、<火属性>のキークリーチャー潰しに重宝します。<水属性>中心でブックを組むなら、入れておきたいクリーチャーですね」
それでは、とパッション郷。
「今回はこの辺りで。美咲さん、参考になりましたか?」
「そうだね。あたしは<土属性>メインだから<火属性>も混ぜるけど、<グラディエイター>辺りは入れやすそうだから、今度試してみるよ」
「そう言って頂けると、講義した甲斐があったというものです。ところで話は変わりますが、今度また物件を見に行くんですが、付いてこられますか、美咲さん?」
「え! いいの!?」
大型犬の尾っぽが立つがごとくの反応を見せる美咲。パッション郷は双眸を細めながら答える。
「あなたが宜しければ構いませんよ」
「全然宜しいよ! むしろ宜しくお願いします!」
「待った!」
跳ねん勢いの美咲に対して、そう言ったのはもちろん茂美である。表情を険しくして、茂美は言う。
「僕も行く。パッション郷。美咲をあなただけと一緒には行かせられない。僕も付いていく。いいだろう、美咲?」
「あたしは構わないよ? 郷ちゃんは?」
「……。まあいいでしょう。足手まといになるなら切り捨てるだけですからね。そこは覚えておいてください」
「……分かっている」
「じゃあ、そういうことで行きましょうか。……、と、家主が帰ってきたみたいですね」
そう言うのと同時に、サティスファクション都の声がパッション郷の部屋の前で響く。
「パッション。今度の物件選びには付いていけないから。だから美咲もお留守番よ」
「ああ、それなら城さんが付いてくるというので、あなたがいなくても大丈夫ですよ」
「そう。分かってくれるなら問題ない、ってちょっと待ちなさい」
サティスファクション都は扉を開けてからすぐに茂美を見て言う。
「なんであなたがついていくことになっているのよ、城」
「なんでそれを君に問い詰められなければならないんだ、都くん」
視線がバチバチとなる茂美とサティスファクション都。そこに美咲が口を挟む。
「というより、なんでそれを都ちゃんに止められないといけないのかな?」
「危ないからよ。前だって相当危険だったんだからね?」
「でも、茂美ちゃんも郷ちゃんもいるから、大丈夫だよ」
「そうですよ、サティスファクション。次の物件は脅威の具合は前回のよりは弱いですから、たとえ城さんがいなくても、問題ありませんよ」
その言葉に茂美の視線に鋭利なものが浮かぶが、当然のようにパッション郷は無視する。
「でもねえ」
「いいもん。都ちゃんなんてもう知らないもん。あたしは絶対に付いていくから!」
そう言うと美咲は立ち上がり、所狭しの小物類を避けて扉を通過し、部屋の外から家の外へとあっという間に去っていった。
残された三者は、それぞれ異なる行動を取る。その内、溜息をしたサティスファクション都は、含めるようにパッション郷に言う。
「美咲になにかあったら、どうなるか分かっているでしょうね」
「最低でもあなたに嫌われますね」
「最悪の方を考えていなさい。城、美咲をお願いするわね」
「そもそも君は何故行けないんだ?」
根本的な疑問に対し、サティスファクション都は渋い顔をする。
「用事があるのよ。それも面倒で、あなたに話せないようなのが」
また溜息をついて、サティスファクション都は一言。
「本当に、面倒くさいことになったわ」
室内にある鹿威しのおもちゃが音を立てた。
ということで、火属性のクリーチャーの話でした。使いやすい強打持ちに先制がついてたりするのが火属性の強みですが、防衛戦はアイテムに頼るところが多かったり。そこがフォローできれば強い、というタイプですね。
さておき、話の方はどう進むか形は決まっているけどうまく着地できるか、という塩梅。わりとギリギリ決着しそうですが、さてどうなるやら。




