第三話『カルドセプト リボルト』のプレイで押さえるべきは何ぞや
ある街の住宅街。その片隅の一軒家に、ゲーマー妖怪が二人住んでいた。
そのうちの一体であるサティスファクション都が、ゲーム機やテレビのある広間(和室)にて携帯ゲーム機で遊んでいた。
そこに、いつものように犬飼美咲と城茂美がやってくる。
「こんにちは、都ちゃん」
「こんにちは、だな。……今日も『カルドセプト リボルト』やってるみたいだな」
言われたサティスファクション都は当然、とばかりに若干憔悴した顔を向ける。
「ブック作るの超楽しい」
「知らん。ところで、パッション郷はどうした? ちょっと前にこちらの方からくるのを見かけたが。あいつ引きこもりなんだろう」
「それについては私も知らないわよ。部屋は貸してるけど、基本的に不干渉を貫いているからね。まあ、あの引きこもり体質が出かけた、というのは気になってはいるけど」
「……ニシワタリは?」
茂美の問いに、サティスファクション都は目をすぼめ、答える。
「さあ? あいつだって独立独歩の妖怪だからね。昔は私の使いっぱしりではあったけど、今はそうでもないわよ」
「ふうん」
茂美は訝しげだ。しかし、サティスファクション都はそれを無視して、美咲に問いかける。
「それはさておき、美咲、『カルドセプト リボルト』の方はどう?」
話をふられた美咲がおずおずと答える。
「うん、一応三章目の最初まで進んだんだけど、そこからちょっとどうしたらいいか、分かってない感じ。中々勝てないんだよ」
「成程ね。初心者からすると、このゲームの思考の基本が分からないと、戦い方の勘所が分からないと感じるかもしれないわね」
ならば、とサティスファクション都はいつものようにホワイトボードをどこからともなく登場させると、座ったまま瞬時に生やした腕を伸ばし、文字を書く。
そして読む。
「<『カルドセプト リボルト』のプレイで押さえるべきは何ぞや>。ってことでやっていきましょうか」
場面は変わる。そこは街の中心地にある、とある喫茶店である。そこにパッション郷と、もう一人、いや一体の妖怪がいる。
「で。どうでしたか。橘ミストルテン」
橘ミストルテンとパッション郷に呼ばれた一体が、コーヒーをすする。
「候補は何か所かあるでありますな。しかし、全部回るのは骨でありますよ」
「やらない訳にもいかないでしょう。一応、わたしに責任のあることですから」
「それはそうでありますが、妖怪の中でも厭世派なあなたが積極的なのはちょっと意外でありますな」
橘ミストルテンの視線は、微妙に歪んでいる。まともには見ていないぞ、と示すように。
パッション郷はどこ吹く風だ。
「言っているではありませんか。責任を感じていると。妖怪互助会の一員として、あれを放ってはおけません」
「……」
視線は更に歪む。しかし、橘ミストルテンは話を続ける。
「とりあえず、データは渡しておくでありますよ。妖怪互助会として、出来る支援もするでありますから、必要なら言っていただきたいであります」
「ありがとうございます」
橘ミストルテンから資料を預かり、コーヒーを一飲み。
「それでは、これで」
橘ミストルテンは席から立ち上がり、店の外へと向かった。
それと入れ替わるように、一人、いや一体の妖怪がやってきて、橘ミストルテンの座っていた席に座る。
「で。どうでしたか。シシデバル」
シシデバルとパッション郷に呼ばれた一体は、はひっ、と一笑い。
「こちらも何か所かー。パッション様の得た情報と比較してみましょうー」
「さて、どれくらい対象が出るでしょうか」
「そう多くはないと思いますがー、まあ結構労する必要がありそうですー。上手くいけばいいのですがー」
パッション郷はふう、と溜息をして言った。
「全くその通り、ですね」
一方。サティスファクション都邸。そこの広間で、サティスファクション都が声高らかに言う。
「『カルドセプト リボルト』の基本的な立ち回りについてを今から教えていくわよ?」
ホワイトボードに<進行>と<戦闘>と、サティスファクション都は書く。その<進行>に丸をつける。
「<進行>、つまり移動時だけど、その時のセオリーの話からしましょうか」
「ダイスの目に従って、普通に進むだけじゃないの?」
自分の癖毛をくるくると巻ながら、美咲は言う。それに対し、サティスファクション都は「ノーよ」と言う。
「移動は、確かにダイス目に従うんだけど、それだけじゃないわ。止まった先でどうするか、というのが大きいのよ。シリーズ触ったことのある城は、その辺は分かるわよね?」
話を持ってこられた茂美は、しかし慣れたもので特に動揺無く答える。
「その前提は状況が多様過ぎる気がするんだが、まあいいや。美咲、止まった後のことを、一つ一つ確認していくよ?」
茂美はホワイトボードの所まで行き、ペンをとると三つの言葉を書いた。それを読む。
「<占領>、<戦闘>、<放置>。基本的にこの三つをするのが、止まった時の行動だね」
「<戦闘>は私の書いたのと被るわね?」
だね。と茂美。
「でも、これはここに入れていてもいいだろう?」
「そうね」
「? ちんぷんかんぷんだけど」
茂美とサティスファクション都の会話に混乱する美咲に、茂美が優しく言う。
「大丈夫だよ、美咲。実際にするのは、クリーチャーを出すか、出さないかっていうだけの選択だから」
「そうなの?」
そうだよ、と茂美。
「<占領>と<戦闘>がクリーチャーを出す場合の、領地に敵がいるいないでの違いだね。<放置>は敵のいるいないでも同じ行動を意味する部分だ」
「都ちゃん。敵がいない時に放置すると、通行料取られるんじゃないの?」
「そこが、<進行>の肝だから、後で話すわよ? ではまず敵が領地にいない場合は、<占領>と<放置>の二つを選ぶことになるわ」
「土地、取らない場合もあるの? あたしは大体取ってるけど」
問いに、茂美が答える。
「この辺は戦い方による。序盤からばらまいて守りを固めるタイプの戦術なら、それでもいいけど、逆に手札に防衛向きのクリーチャーがいなかったり、手持ち魔力が少なかったり、あるいは自分のクリーチャーの属性と土地属性が合ってなかったり、そもそも手札にクリーチャーが一枚しかなかったりするなら、あえて空き地を取らない選択というのも一つの戦略だ」
「『カルドセプト リボルト』では<ラウンドゲイン>があるのは覚えているわね、美咲?」
「自分のターンが始まった時に入る魔力のことだよね?」
「そう。そのおかげで以前のシリーズ程序盤に土地取り過ぎて魔力がなくなって困る、ということは少なくなっているわ。だから美咲の方法でも、実際にはそれほど悪くもないのよ。その辺を考えたブック作りをすればいいだけだしね」
「では、次に行こう。敵がいる場合の行動だ。これは<戦闘>か<放置>かになるな」
美咲が、それは、と口を開きかけるところに、サティスファクション都が口を挟む。
「ここが、美咲には不可解だったところよね?」
「え、ああ、うんそう。通行料取られるのを甘んじて受けるの?」
「その辺は、分かりにくいところでしょうね。でも、これも状況を見て考える必要がある部分なのよ」
サティスファクション都の言葉を、茂美が引き継ぐ。
「当然だけど、高額領地でそのまま取られるようなことはしたくない。でも、低額領地なら?」
「ん? 取られたら嫌じゃない?」
「そこね、考えるところは」
サティスファクション都が、湯飲みを片手にそう言う。ちなみに台所にあったそれを手を伸ばしに伸ばして取ってきている。無精である。
さておき。サティスファクション都は続ける。
「低額領地に止まった場合、あえて取らないのも選択肢に入れたいところなのよ」
「というと?」
「このゲームの手札は簡単には増えないわ。ターン回復が1枚だし、一番引く多い引き要素カード<フィロソフィー>でも3枚。プラス2なのよ。だから、ちょっとした低額領地でカードを使いすぎると、逆にここぞの時にカードがなくなる。つまり出来る手がなくなる訳ね。大体攻める時はアイテムとクリーチャーの合わせて2枚を使う、と考えれば、無意味な攻め過ぎは効率が悪い場合が多いのが分かると思うわ」
「つまり、どこで使う方が得か、というのを考えて攻め入る必要がある、ということだな。高額領地を落とす為に、低額領地は甘んじて踏む。そういう立ち回りが必要なんだ」
「当然、ただ踏んだだけじゃなく、領地コマンドを使うことも必要ね。それで使いすぎて低額領地なのに魔力が0になるとかは気を付ける必要あるけどね」
さてと、とサティスファクション都が区切りをつける。
「ぶっちゃけ<進行>のコツは、如何にこちらのリソースを管理するか、ということね。どこで溜めて、どこで使うか。これが重要なの。無駄を如何に省くか、あるいは、如何に低リソースでしのぐか、ね」
サティスファクション都の結論を受けて、茂美が言う。
「次は、<戦闘>か」
「そうね。これも覚えておくべき基礎やコツがあるから、さくっとその話をしましょうか」
サティスファクション都はやはり無精をして、座ったまま、遠くにあるホワイトボードに向かって手を伸ばして文言を書く。そして読む。
「<攻め>と<守り>。どちら側かで選択も変わってくるから、よく覚えておくのよ、美咲」
「うん、分かった。でも、あんまり大差ないんじゃないかと思うだけど。違うの?」
サティスファクション都と茂美が同時にチッチッチッ、とする。
「甘いわ」
「甘いね」
同時に言うと、話はサティスファクション都から始まる。
「このゲームにおいて、<攻め>と<守り>では思考がだいぶ違ってくるわ。ただ勝てばいい、というのはそうだけど、どうやったら勝てるか、というのが違ってくるの。例えば」
サティスファクション都はホワイトボードに文字を書く。<先手>と<後手>。
「いい、美咲? 『カルドセプト リボルト』において、先手を取るのは重要な要素なの。HPが少ないクリーチャーでも、先手を取って相手を倒せれば、その部分は弱点にはならない訳。そして、『カルドセプト リボルト』では基本的に攻めた側が<先手>を取れるの」
「でも、それはあくまで基本。これに影響があるのが、<先制>スキル及び<後攻>スキルだ」
茂美がその言葉をホワイトボードに。
「<先制>は言葉通り<先手>が取れるスキル。<後攻>も言葉通り<後手>を取ることになるスキルだ。これらがあると、先に都くんが言った、攻めた方が<先手>というのが崩れるんだ」
「えーと、つまり、<先制>は<先手>が取れる、だから、守る側に<先制>があったら、守る側が<先手>を取れる、でいいのかな?」
へえ、とサティスファクション都は目を瞠る。
「そうよ、美咲。言う通り、守る側に<先制>があれば、守る側が<先手>になるわ。だから、<先制>は守る側でも優位に立ちやすいの。低いHPのクリーチャーでも、倒しにくいのよ。でも、攻める側も<先制>があったら?」
「えーと、……どうなるの?」
茂美が優しく答えを言う。
「美咲が考えているより単純だよ。その場合は、攻める側が<先手>。だから、<先制>があるクリーチャーを攻める時は、こちらも<先制>があると心強いってことになるね」
さて、とサティスファクション都は区切りを入れる。
「次は守る方ね。この時に特に覚えておきたいのは、地形効果よ」
「地形効果?」
そう、とサティスファクション都。
「クリーチャーの属性と、土地の属性が合っていると、土地のレベルによってHPに補正がかかるの。美咲も大体分かってるんじゃないかと思うけど、高額領地は、相手のHPが多かったでしょう?」
「ああ、あれね。それなら分かるよ。でも、あれって曲者だね。中々倒せないんだもん」
「そうだね。それだからこそ、守る側になるなら、土地のレベルを上げておきたいし、上がっていれば安心しやすいんだ」
でも、と茂美。
「これには落とし穴がある。戦闘において、地形効果を無視するスキルがあるんだ」
「そんな便利なのがあるの?」
美咲が若干身を乗り出すように、茂美を見る。
「ああ。それが<貫通>だ。これはまだ美咲のやってるシナリオ部分では出てないかもしれないね」
「うん、初めて聞いた」
サティスファクション都が話を引き継ぐ。
「その<貫通>の効果だけど、茂美が言ったように地形効果を無視して、クリーチャー本来のHPにダメージが与えられるの。それで本来のHPがゼロになれば、そのクリーチャーは破壊されるのよ」
「つまり、地形効果でプラスされたHPでは生き残れない、ってことだね?」
「そうよ。この<貫通>効果があるのは一部のクリーチャー、アイテム<ドリルランス>、後は<巻物>もその類ね」
「でも、それって結構強くない? バランス的に大丈夫なの?」
「その点においては、ちゃんと対応策はあるわ」
サティスファクション都はウィンクして答える。
「本来のHPにダメージが直接入るなら、本来のHPが多ければいいのよ」
「つまり?」
「つまり、本来のHPが増える、アイテムの防具系を使えばこれに対抗できる訳」
「ああ、そうか。直接攻撃される部分が増えれば問題ない訳だ」
「そうよ? とはいえ、この辺は駆け引きの部分でもあるわ。高額領地なら当然全力で守る必要はあるけど、低額領地では? とかね。カードも魔力も有限だから、そこをどうするか、というね?」
「成程、ここでもリソースの問題なんだね?」
そうよ、とサティスファクション都は満足そうに頷く。
「<戦闘>の話をまとめると、攻め手の天敵<先制>と守り手の天敵<貫通>はしっかり覚えておくべき重要なスキル、ということね」
「後、ここで言及してないけれど、<強打>も場面によれば相当有用なスキルだから、名前だけでも覚えておくといい」
茂美の言葉の後に、さてと、とサティスファクション都は立ち上がり、向かいに座っていた美咲の隣へ行く。
「で、美咲のブックって今どういう状態なの? 見せてくれる?」
美咲は平素の表情で言う。
「最初のままだよ?」
「え?」
「え?」
オウム返しする美咲に、あっけにとられた茂美が問う。
「カード、入れ替えてないのか?」
「うん。<カードパック>は買ったりしたけど、どう入れ替えたらいいか見当がつかなくて。だから最初のままだよ」
「これは由々しきことだわ、城」
「だな」
二者の顔つきが険しいのを見て、自分の状態が如何なることか気づいた美咲であったが、だからといってどうしたらいいのか分からない。
と、そこに。
「どうしましたか。穏やかならぬ雰囲気ですが」
声がする。その主はパッション郷だ。背後にシシデバルも控えている。
「いやね、美咲がブック編集してないって言うものだからね」
「『カルドセプト リボルト』のことですか。それは確かに由々しきことですね」
「何? そんなに良くないことなの?」
場の雰囲気に押される美咲に対し、パッション郷は的確に答える。
「『カルドセプト』のみならず、カードゲーの裏の顔は、カードの組み合わせを考えることですからね。それをしてない、というのは魅力が半減していると言って過言ではないでしょう」
「そんなに?」
その場にいる、美咲以外の面々が同時に頷いた。
ならば、とパッション郷が口を開く。
「わたしが<ブック編集>を教えてさしあげましょう。美咲さん、わたしの部屋へいらしてください」
「え、あ、うん」
促されるまま、美咲はパッション郷の後に付いていく。当然のように茂美も付いていく。シシデバルも付いていく。
「あなたは来ないんですか?」
パッション郷がふと振り向き、そういう言葉をサティスファクション都に投げかける。サティスファクション都はそれに答える。
「あなたと私はこの家では出来る限り不干渉じゃなかったかしらね」
「そうですね。なら、失礼しますよ」
心配そうに互いを見比べる美咲達を引き連れ、パッション郷は広間から去っていった。
「いいんデスカ、サティスファクション」
どこからともなく唐突にサティスファクション都の背後に出現したニシワタリが、そう問いかける。サティスファクション都はそれには答えず、視線で話を促した。
「ハイハイ。パッションとシシデバルは物件を探しているようデスヨ」
「物件?」
「ええ。それも、霊障や妖気の出ている物件ばかりを。橘ミストルテンがその情報を渡していたのは確認シマシタ。その後はそれを検討していただけデス」
ニシワタリの報告に、サティスファクション都はうなる。
「私たちクラスだと住んでるだけで妖怪物件になっちゃうから、ただの物件に住めないのは理解できるわね。でも、何か裏がある気がするのよね」
「一応、互いに手打ちはしたんデスカラ、今更あなたをハメる算段ではないと思いマスガネ。物件も、ここを出ていく為に調べているだけかもデスヨ」
サティスファクション都は目をすぼめて、言った。
「だといいんだけど」
ということで、基本的な行動の考え方っぽい何かの話でした。『カルドセプト』は特に領地の扱いが重要なので、如何に取る、あるいは取らないを考えるのが重要です。常に取ればいいわけでもないけど、ここは今の内にとっておいた方がいいのでは、というのもあって、その辺を考えるのが楽しいんですヨネ。戦闘自体でも、あえて攻めてアイテムを吐かせたり、あるいはあえて負けてアイテムを温存したり、というのがあります。この辺の機微が分かってくると、とたんに楽しくなりますよ?
次回はブック編集の話、になるはず。なったらいいなあ。