第21話 今回の終幕
「勿論、神をを創る為であるよ」
妖怪互助会のドン、オアリス大町の言葉に対して、サティスファクション都の反応は冷ややかだった。
「神、ねえ。そういえば、あなたは神とかいう超越者が必要なタイプだったものね、浄の国の巫女」
「そうである。わたくしは神を求めておる」
その言葉を冷笑に付されても、オアリス大町はくじけることなく続ける。
「しかし、神はどうにもこの世界にはいない。少なくとも、追い求めるわたくしの前には現れない。そういうものだとわたくしも流石に分かってきたのじゃよ」
「なら、創る。そういうわけね」
「意外にダイレクトな手段ですね」
そう言ってやはり冷笑するパッション郷を、オアリス大町はこちらも軽く笑って受け流す。
「ぬしらの件を聞いて、むしろ何故今までそういう手段を思いつかなかったのか、と思ったほどであるよ。素晴らしく、そして簡単な発想であるに」
「出来る訳ねえデショウガ」
そういうのはニシワタリだ。その表情は三体の大妖よりは、場の力で辛そうな所も見えるが、それでもきりっと引き締められている。後ろにいる犬飼美咲と城茂美が狙われることを警戒してのことだ。その様を見て、オアリス大町は、ほほ、と笑う。
「そうであるな。確かに、だが少し前までは、である。そこなパッション郷が、大妖を創りだすまではな」
「……、既にこの辺りに神創りの為に色々とばらまいているようですね」
パッション郷の指摘に、オアリス大町は、ほほ、とまた笑う。
「やはり聡いのお、パッション郷。それなら分かるであろう? わたくしの言うことが大言壮語ではないということが」
「ええ、それは認めましょう。しかしわたしが認めて尚、生まれる可能性は低いですよ」
「今まで可能性の欠片さえなかったことである。それがあるだけでもやる価値はあると言えよう。おあつらえ向きに要の橘ミストルテンも来たことだしのう!」
そういうと、オアリス大町はパチン、と指を鳴らした。と、同時に、今いる部屋がぐねり歪んだ。物理的にではなく妖力的、もっと言えば神力的に歪んだのだ。その影響で、茂美は苦しげな表情をする。
「大丈夫デスカ?」
「……大丈夫、いや、むしろ君たちの方が影響があると思うんだが」
「そういえば、特に何もないですねー」
「むしろ心地よくなったトイウカ。と、美咲さんは?」
「ん? 何かあったの?」
言われた美咲は何事もないようである。それにひとまずほっとするニシワタリ。しかし、その視点は直ぐに違う方へと引き寄せられる。
中央に生まれた火の柱に。
「ほほ! ほほ! 神の創生に成功したである! ほほ! ほほ!」
高らかに笑うオアリス大町に対して、サティスファクション都とパッション郷はやや呆然としていた。それが確かに神の域に達するものであると、肌で理解できたからだ。
「いやあ、まさか本当に出来るとは。苔の一念ってやつでしょうか」
「基本的に狂信者属性だからね、オアリスは。並みの一念って訳でもないでしょうし」
「おお、神! 我が神! わたくしが生み出した神!」
二体の妖怪の言葉などには全く耳を貸さず、火の柱が消えていった末に出てきた、人の似姿へとすり寄っていく。
その似姿が、足を上げる。高く、高く。
「おお、神……、へ?」
高らかに上げた位置から、踵をオアリス大町の脳天に落とす。
「ぶべらっ!?」
無様な声を上げて、妖怪互助会の重鎮は床に顔面を叩きつけられる形になる。そのまま、床に刺さる形になる。
「あれ、死んでたりするの?」
心配そうにする美咲に、ニシワタリは簡潔に答える。
「大丈夫デスヨ。オアリス大町は、曲がりなりにもサティスファクションやパッションに比肩する妖怪デスカラネ。あれくらいじゃ死にやしマセン。大怪我デショウガ」
「というか、これはまずいんじゃないか?」
茂美の言葉は、サティスファクション都とパッション郷の警戒心に満ちた表情がその答えになる。オアリス大町がいかせなかった時点で、暴走していると、二体は結論付ける。
と。
人の似姿なそれ、あえて言えば神は、声を上げる。
「こっ!」
その声が、部屋を揺する。それだけで、部屋中に残っていた妖気と神気が一点に、橘ミストルテンの位置に集まる。
そして。
ゴウッ! その気に火が付く。一瞬にして、燃え上がり、燃え尽きた。
「ぎゃっ!」
「あっつ!」
橘ミストルテンは燃え上がり、倒れ伏す。その近くだったサティスファクション都も熱さに悲鳴を上げる。妖怪でも熱いレベルの炎は、それだけで部屋全体を熱くした。
「これ、相当まずいな」
「だねー。わちきたちは妖怪だから酸素少なくてもなんとかなるけどー、人の君たちは下手すると酸素不足で死んじゃうねー」
「シシデバル君、軽く言うなあ!」
茂美の言葉に、「他人事だからねー」とシシデバルは返す。しかし、その手は背後の壁へと向いている。
「やっぱり開かない?」
目聡くその行動に気づいた美咲に、シシデバルはけひひと笑ってみる。
「最低でも空気の流れがあればー、って思ったんだがねー」
「じゃあ、あれをどうにかしないといけない訳だ」
あれ、と言われた神は、大妖二体と睨みあっていた。
「こー!」
「何か言ってるみたいね。パッション、分かる?」
「『こー!』としか」
「よ、ね!」
先手はサティスファクション都だ。突き出す両手が縦に裂け、そこから何十もの、そして大小さまざまな蛇が迸る。それらは神の足に巻き付き、あるいは神の体噛みつく。
「こー!」
蛇で動きを止められた神は声を上げる。何の声なのかは分からないが、それを気にする間もあらばこそ。
次はパッション郷だ。構えたかと思った次の瞬間には、動きの鈍った神の前に。そこから体重を増して速度の力も増したまま乗せた一撃が、神の顔面に突き刺さる。
「こー!」
神の頭が爆ぜて吹き飛び、その体は大きくのけぞる。が、それだけだった。すぐに頭が元に戻る。神は顔面を吹き飛ばす一撃を耐えたのだ。そして、のけぞりから回復する勢いをそのままに、パッション郷に頭突き。
「こー!」
「ぐはっ!」
頭蓋が割れる痛みに、パッション郷はのけぞり、転倒する。
「パッション!」
「こー!」
神はその場で横方向に一回転! ブチブチまとわりついていた蛇が断ち切られる。
「ったあ!」
「こー!」
その回転力を回転し続けることで維持し、神はサティスファクション都にソバットをかます。腹部にソバットを受けたサティスファクション都は「ぐおっ!」とのけぞり、腹を抱えて前のめりに倒れる。
「こー……っ」
神は残心する。その姿に、疲弊の色は見られない。サティスファクション都の蛇には少なからず毒があったはずだし、パッション郷の一撃も受けているのに、それを感じさせない。神とするには肉弾戦寄り過ぎるが、その実力はあるのは明らかである。
「どうするんデスヨ、これ!」
「それは僕らの台詞だ! 妖怪がしたことなんだから妖怪でなんとかしてくれ!」
「あんただって妖怪退治の家系デショウガ! 何かないんデスカ? 何かしら神に効く秘伝やらが!」
「君たちと同じように、こっちもそこまで万能じゃないんだ、無茶言うな!」
茂美とニシワタリが喧々諤々している中、シシデバルは美咲の動向に注目していた。このままでは神にあの二体の妖怪は滅されるだろう、というのが分かっているから、茂美もニシワタリも慌てているのだ。そして、その影響で美咲も危ないだろうというのも。その中で、美咲は何を考えるのか。それがシシデバルの、この期に及んでの興味だった。
美咲が何かを考えているのは、サティスファクション都とパッション郷が殴りに行ったタイミングだ。二体の行動で何かスイッチが入ったかのように、あまり見ない、尖ち鋭い表情になっていた。何かに気づいたのだろう、とシシデバルは見当をつけていた。そこから、何が出るか。
そこで、美咲が口を開く。
「逆に出来たりするのかな?」
得たり、とシシデバルが聞き手に回る。
「逆、とはなんのことかな、美咲」
「神様が生まれた行程の、逆だよ。生まれる流れがあったなら、その逆なら」
「殺せるんじゃないか、だね」
確かにと、シシデバルは得心する。力のまとまりを逆巻けば、というのは成程あり得そうではある。大妖がやられた今の戦力で賭けられそうな案ではある。
ただ。
「問題点があるな。どこに力を設置すればいいかと、どう力を置くかだ」
「場所については、分かる人がいるよ」
「オアリス大町は使いものにならない状態だぞ」
「いや、もう一人いるんだよ。トカさんがいるはずだよ」
美咲の指摘に、シシデバルは、ふむ、と納得する。
「……成程、前に<特殊2>を生み出す配置をしたのはトカ。それが今回もやっていたとみるのは妥当な線だ」
「力の方も、今置いてあるのを活用すればいいと思う。足りないのは郷ちゃんの手持ちでなんとかできたら、って感じだけどね」
「つまり、トカの確保と、おひい様の救出。そしてしばらくの足止めが必要、と」
「三つめが大変そうだね。こんな案だけしか出せないけど」
「いや」
シシデバルは言う。
「そこまで絞れたのだから、十分だ。後は、こっちのすることだよ。ニシワタリ!」
「あー、なんデスカネ! あの怪物を止めろって言わないデショウネ! それなら無理って言いマスヨ!」
「いや、ニシワタリにはトカの確保とパッション様の救出を頼む。こっちはなんとかあの怪物を止めてみる。城茂美と一緒に」
「こっちの意見とか聞かないのな!」
「とりあえずサティスファクション都をどうにかすれば、しばらくはなんとかなるから、そこまで負担はかけないよ」
「うわ、絶対嘘のやつだ!」
「他に生きる道は無いんだから、チャキチャキやるぞ。まずサティスファクション都パッション様の安全の確保! それと並行してトカとの接触! さあ、やったやった!」
妙に活き活きとするシシデバルを見て、ニシワタリが一言。
「こいつ、こういう時だけやる気出すんデスナ」
「こーっ」
神が、サティスファクション都とパッション郷の前で依然残心していた。そうやっているのが楽しいのかもしれない。勝者の余裕、とみることも出来なくもない。しかし、徐々にその行動に飽きてきたようである。両肩をくるくると回して、それからパッション郷に近づく。
額が割れ、体液が出ているパッション郷の首根っこをふんずと掴み、その体を目線の合うところまで持ってくる。
「ぬぐ……」
「こーっ」
まだ動くにはダメージが大きいのか、パッション郷はされるがままだ。
神は、無造作にパッション郷の首を握る手に力を込める。あまりに強いそれによって、パッション郷の首は折れる。
「ぎゃあ!」
悲鳴が上がる。パッション郷は首が折れる程度で死ぬような妖怪ではない。だからといって痛みが無いわけではないのだ。そのことに気づいたのか、神は「こーっ」と代わり映えのない言葉を出しながら、パッション郷の首をもう一段階折る。
「ぎゃああっ!」
更なる悲鳴。それを聞いた神は、確かに愉悦の笑いをした。
と。
「しっ!」
ぃん、と、刃が縦に走る。パッション郷を掴んでいた神の手が断裂される。すぐに替えが生えるが、パッション郷を解放することは出来た。
「ニシワタリ!」
「アイヨ!」
茂美の号に、ニシワタリは応える。神の死角に現れ、パッション郷を掴みあげると、急いで神の視界外へと。
「こーっ!」
それを追いかけようとする神に対して、シシデバルが跳び蹴りをぶちかます。威力はあっても効果はないようだが、それでも意識を逸らすのには成功する。
そこに、ダメージから回復したサティスファクション都の一撃が決まる。
「どこ向いてんだ、てめえ!」
乱雑な言葉遣いのサティスファクション都は荒っぽい直蹴りを連続で神にぶつける。
「よくもやってくれたなあ! 神だか何だか知らねえが、ぶちのめしてやんよ!」
「こーっ!」
「『こーっ!』じゃねえよ!」
再び直蹴りを連続して神にぶつけるサティスファクション都。普段では見られない荒っぽさに、茂美はしばし呆然とする。それに気づいたサティスファクション都が怒鳴る。
「なんだあ、城! 呆けてないで加勢しろ!」
「あ、ああ、元からそのつもりだ!」
しゃんとした茂美は、サティスファクション都とシシデバルと共に、時間稼ぎを開始した。
首をゴキゴキ音を立てて直すと、パッション郷は一息ついた。
「さすがに首を折られるのは久しぶりでしたよ。恐るべき相手です」
「そこまでなったのによく生きてるね」
「妖怪ですからね」
大立ち回りの開始された広間の隅っこでそんな会話をしながら、美咲は神への対抗策をパッション郷に告げる。パッション郷はその案を聞きながら二度三度と頷いていた。
「生まれるの反対で死ぬ。……、それはあるでしょうね。やってみるべきでしょう」
「じゃあ、まずトカさんを見つけないとだね」
「それならもう終わってマスヨ」
そう言うのはニシワタリである。先ほどパッション郷を助ける為に瞬間移動した時と同じように、唐突に視界外に消えたと思ったら、もう戻ってきていた。その背中に、トカが負ぶさっている。
「どうもどうもっス。なんかうちの上司がヤバいの踏んだみたいで」
「あなたにも一因はありますからね」
「分かってるっスよ。で、どうすればいいんスかね」
「とりあえず、どこに何を配置したか、というのが分かればいいんです。道すがらちゃきちゃき言いなさい」
「へいへい。じゃあ行くスか。こっちっす」
そういって、トカは先導する。それについていくパッション郷。部屋の隅によく見ないと分からない形の入り口があり、そこへと二体は入っていく。それを、美咲とニシワタリは見送った。
神とサティスファクション都たちの戦闘は、一進一退というものだった。砕いても切り裂いても、すぐに再生するのだから、どうしても進み切れない。
茂美が神の拳を回避し、回避し、回避しきったところで足の切断を狙う。低くしゃがんでの斬撃で、その片足を切り飛ばすことに成功するが、それも少し態勢を崩しただけにしかならない。すぐに生えた足で、態勢を整えらようとする。
その瞬間を、サティスファクション都は突く。ほんの少しの隙に、全力を込めた拳を、神の顔面に叩き込む。
「だあ!」
「こっ!」
その一撃で、神の顔面は砕かれる。勢い、サティスファクション都の拳も砕けるが、そこにサティスファクション都は頓着しない。次の打撃を、再び全力で。
「こーっ!」
殴ろうとして接近したサティスファクション都の顔に、瞬時に態勢を立て直した神の手が伸びる。顔面を神の手で鷲掴みされたサティスファクション都。そのまま、力を込められて、床へ叩きつけられる。
「ぐあっ!」
衝撃で、床に亀裂が生じる。それに満足することなく、神はサティスファクション都を床に押し付ける。
「ぐぬぬっ! このやらあ!」
蹴りを神の顔面に打ち込むサティスファクション都だったが、砕けんばかりの勢いをもってしても、すぐに回復する神の前では効果が無い。
そこに。
「しっ!」
ぃん、と茂美が斬撃をみまう。先ほどのように切断するかに見えたその斬撃であったが、その刃は腕の中ほどで止まってしまう。
「何っ!?」
驚く暇も有らばこそ、神は茂美に強烈な蹴りをみまう。あわやのところでそれを回避した茂美だったが、その為に刀を手放してしまった。
「だあ!」
そこに、シシデバルが躍り出る。狙いは、茂美の刀。食い込んだままのそれを、思いっきり叩く。
「こっ!」
神が声を上げる程の衝撃で、神の腕は切断される。腕は再び生えてくるが、刀とサティスファクション都はフリーになる。
サティスファクション都はすかさず刀を茂美の方に蹴りつつ、距離を取る。
サティスファクション都の息は荒い。全力で戦っていても、相手が疲弊しないのだから、肉体的にも精神的にもこちらが辛い状況である。それは茂美もシシデバルも同じであった。むしろそちらの方が、より深刻だ。
「時間稼ぎしろって言われたが、いつまですればいいんだ、シシデバルくん」
息を整えながら、茂美はシシデバルに問う。答えは簡単だった。
「相手が死ぬまでー、ですよー。簡単でしょうー?」
「聞くんじゃなかった!」
面々は息を整え、再び神と対峙する。
と。神が大きく両手を振り始めた。大きく隙が出る動きだが、その真意にシシデバルは気づく。自分の持つ神気を空間に振りまいているのだ。それを集めてしたのは先ほどの。
「伏せて!」
シシデバルの言葉に反応出来たのはサティスファクション都とニシワタリだった。反応できなかった美咲をニシワタリが、茂美をサティスファクション都が、それぞれかばう。
と、同時に爆発が起きた。
「都くん!」
声で、サティスファクション都は意識を取り戻す。意識が飛んだのはほんの数瞬だろう。だというのに。
「変な顔をするな」とサティスファクション都は言う。
「これくらいでどうこうなるほどやわくないわよ」
「だが!」
「大丈夫だってのよ! 全く」
そう言って立とうとするサティスファクション都だったが、ぐらり崩れて立ち上がることができない。見れば、足が黒く焼け焦げている。
「成程、立てない訳ね」
「都くん……」
「気にすんじゃないわよ、城。こんなの少し休めば治るってのよ! ……、まあ」
そう言って、サティスファクション都は神を見る。
「待ってはくれないわよねえ」
神は再び両手を回転させ始める。シシデバルも、美咲をかばったニシワタリも、ダメージが大きく動くことは出来ないようだ。
先ほどの爆炎の範囲からすれば、今から茂美を投げ飛ばせば、圏外に行かせることができる。自分は、もう無理だろうと、サティスファクション都は理解する。ここで戦闘不能になれば、後は死ぬ以外ないだろうと思うし、茂美にしてもほんの少し寿命が延びる程度だろう。だが、他に打てる手が無い。
なので、茂美の腕を取り、投げ飛ばそうとする。
そこで、神の動きが止まった。同時に、声が響く。
「サティスファクション。指を鳴らしなさい!」
「はっ?」
「いいから!」
言われるがまま、サティスファクション都はかろうじて動く方の指を、打ち鳴らす。
と、同時に、力が奔流となって室内を駆け巡り始めた。その始点は、神。神の力が、周囲に巻き散らかされていく。
「こっ!? こっ!?」
困惑の声だろうものを出す神。それはどんどんと小さくなり、小さくなって、そして消えていった。
「なんとか間に合ったようですね」
そういって、先ほど入っていった穴から出てきたのは、パッション郷だ。トカも追従する。
「いやあ、とうとう神殺しになってしまったっスね」
「まだ赤ちゃんみたいな状態だから、なんとかなっただけよ」
と言いつつも、満更でもないように見えるサティスファクション都。それを見て、茂美はほっとする。
「何よ、城。また変な顔して」
「うん? ああ、いやなに。神殺しでも、いつもの都くんだな、って思ってね」
「訳の分からないこと言うわね、城。私はいつも私だけど?」
くすくすと笑うサティスファクション都。茂美も、それについては特に言わず、こちらもくすくすと笑う。
それを不思議そうに見ながら、パッション郷は「さて」と切り出す。
「今回の件の張本人をどうしますか、サティスファクション?」
そう言って未だ床に刺さった形のオアリス大町を小突く、パッション郷。それに同調して小突きながら、サティスファクション都は思いついたことを口にした。
「それなら、こうするのはどうかしらね」
「名残惜しい?」
そう口にするサティスファクション都に、パッション郷は冷笑で返す。
「そちらこそでしょう?」
その言葉に、サティスファクション都も冷笑を返す。
今、サティスファクション都とパッション郷はサティスファクション都邸の玄関口に居る。他には誰もいない。人払いをしているのだ。わざわざ二体だけで話したいことが、特にサティスファクション都にはあった。
パッション郷は、妖怪互助会の失態の補償として、館を手に入れることになった。サティスファクション都邸からはそれ程遠くはないが、山間部なので移動は面倒くさい場所である。
「よくあんなとこを選んだわね」
「キャパシティ的に丁度いいところでしたからね。あなたみたいに持て余すようなのは持ちたくありません」
「言うわね。……まあ、それはいいわ。わざわざ人払いした理由は聞きたい?」
「大体、読めてはいますよ」
「そう?」
と言って、サティスファクション都はほんの少し逡巡し、しかし意を決して言った。
「あなた、死にたかったの?」
「……そう思いますか?」
サティスファクション都は頷く。
「前に言ってた妖怪の楽園、ってのは嘘くさいとは思ってたのよね。そんなことしてメリットを感じるやつじゃないもの、あなた。でも、死にたい、ってのなら、かもしれないと思う部分はあるわね。理解できないけど」
パッション郷は薄く笑うと言ういつもの仮面めいた表情で、返す。
「理解されたくもありませんよ。で、それを確認してどうするんですか? 無様だと笑いたいと?」
「そんなのじゃないわよ。私たちって長生きだからね。生きているのに倦むってのは分かるから、笑いはしないわよ」
「でも」とサティスファクション都は続ける。
「ゲーム友達が減るのはちょっと悲しいわね。だから、死ぬっていうなら全力で止めるわ」
「……。大丈夫ですよ。あの方法では産み方が分かっていないと、逆算が出来ないですからね」
「そう。ならいいわ」
サティスファクション都は妙に優しい表情をする。それにパッション郷は戸惑った。いつもは喧嘩腰の相手だというのに。
「そういうのは、ずるいって言いますよ、サティスファクション」
「ん? 何が?」
「はあ」と溜息を吐いて、それからパッション郷はしばしの別れを告げる。
「では、また」
「ん、またね。って言っても、ネット回線がつながればすぐにも、だろうけど」
「違いないですね」
そんな挨拶と共に二体は別れる。
玄関を出たパッション郷は邸を見て、一言口にして、そしてその場を離れていった。
ということで、今回でこのシリーズはひとまず終わりの形です。別ゲーでまたシリーズ立ち上げるか、違うことするかはまだ未定ですが、まあちまちまとやっていきたいところ。
今回ゲームネタが出なくなって、後、ばりっとアクションシーン書きたかったというので書いてしまいましたよ。こういうのは勢いが大事だなーと。ゲームネタが無いのでバランスとれなかったとも言えますが。次はもうちょっと違う方向性を考えた方がいいかなあ。丁度新年だし、新たな目標として次を考えるのもいいかもしれない。
とかなんとかと書いて、あとがきとさせていただきます。




