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第二十話 趣味のブックとはなんぞや

 とある県のとある街のとある丘のとある場所。そこで乱痴気騒ぎは行われていた。

「どういうことだよ、これは!」

 叫ぶ黒いポニーテールの少女、城茂美が叫ぶ。叫びながら目の前の何か、見たままを有体にいえば、幽霊を、持った刀で袈裟切りにする。しかし、幽霊は二つに分かれたと思えばすぐに元の形になる。それ以外にも幽霊はあちこちに浮いている。簡単に言うときりがない。

「シシデバル! こういうのは聞いてないデスヨ!」

 叫ぶのは幽霊を蹴りつけるニシワタリだ。茂美の刀でどうにもならないのだから、蹴りでは当然効果がない。形は崩れるが、すぐに元に戻る。

「トイウカ、これは罠にはめられたんデスカネ! まだサティスファクションとの遺恨がありやがりマシタカ!」

「そういうのとは違うと思うねー。そうだとしたら、わちきが巻き込まれる理由が無いよー」

 へらへらとした口調だが、表情は厳しいものを出しつつ、美咲を抱えて幽霊の動きを回避するシシデバルが、そう答える。

 現況はこうだ。サティスファクション都とパッション郷が<特殊1>と呼称される妖怪の居場所に向かう、というのを、犬飼美咲に悟られぬよう、他の場所に連れ出すという使命を帯びたニシワタリとシシデバルは、城茂美も抱き込んで幽霊スポットと呼ばれているが、基本的に特に危険のないここに、美咲とやってきた。

 のだが、そこで予期せぬハプニングが起きた。要石に何もしなければ問題ない場所であったはずのそこで、何者かによって要石が破壊されたのだ。そして湧き出る幽霊たち。それに囲まれ、窮しているのである。

「ねえねえ」

 シシデバルに抱えられている美咲が問いかける。

「無視して突っ切る、というのは無理な訳かな?」

「それが出来てりゃ苦労しないデスヨ!」

 答えるのはニシワタリだ。上段足刀で幽霊を蹴るも、やはり効果はない。

「こういう輩にはエナジードレインがセットなんデス! 我々妖怪やそういうのに対抗する力のある城ならともかく、美咲さん、あなたにはかなり危険なんデスヨ!」

「しかし、それが、脇目も振らずに突っ切るのが一番いい手なのかもだねー。少しの接触なら、美咲が一般人でも、かなり疲れる程度だろうしー」

「シシデバル、あんた鬼デスカ!? 少しでかなり、はあんまりいい手じゃないデショウ! 下手したら死ぬまであるんデスヨ!?」

「ここでジリ貧している方がー、死ぬ可能性は高くなると思うよー」

「ぐぬっ」

 実際その通りである。幽霊の数が増える一方であり、それを減することも出来ないのであれば、ここにとどまっているのはどう考えても危険である。美咲はもとより、茂美やニシワタリ達ですら、危険になる可能性がある。なので、美咲の言う通り、突っ切って逃げるのが正解と言える。

 その点はニシワタリも分かってはいる。が、突っ切るのもまた危険。幽霊に触れない可能性はこのままを維持するより高いかもしれない。そうなれば、美咲の命が危なくなる。しかし……。

「無い知恵絞ってるのかねー、ニシワタリー」

「そっちにだってないデショウガ、シシデバル!」

 へらへらと言ってくるシシデバルに噛みつくように返すニシワタリ。それに対して更にへらへらとしながら、シシデバルは言う。

「そうだねー。じゃあありそうなのに聞こうかー。城茂美?」

 話を向けられた茂美は、斬り払いながら、答える。

「コツが分かってきたから言うが、僕が斬った後に元に戻るまでの時間で通り抜ければいい。大体5秒くらいの隙が出来るはずだ。僕が先陣をきって斬りながら前進していくから、その後を、美咲を抱えて付いてきてくれ」

「アホな言ってマセンカ、城。トイウカ無茶苦茶力技じゃないデスカ」

「無茶は承知だよ。でも、それ以外には無さそうでもあるからね。押し通るしかないよ」

 その回答に、ニシワタリはほんの少しだけ考えて、溜息を吐く。

「で、どっちの方向に行きマスカ?」

「幽霊の数からすると、来た道は難しい。この丘を突っ切る形になるだろうが、登る道にしよう」

 そう指定された方向には、確かに幽霊の数は少ない。突っ切るならそこしかないように見受けられた。

 ニシワタリは覚悟を決めて、言う。

「じゃあ、城。先陣お願いしマスヨ。担ぐのはこのままシシデバル、あんたでいいデスネ?」

「お安い御用ー」

「では、行きマスヨ!」

 突撃が開始される。


「から、どうしてこうなってるんデショウネ」

「不思議だね」

「というかー、君たちが生きている方が驚きだねー」

「下が妙に柔らかかったからだろうけれど、いったいなにで出来てたんだろうな」

 そういう四者は今、得体のしれない場所に居た。幽霊から逃げるのはそれなりに成功していた。元に戻るまでの間に突っ切る作戦は奏効していたのだ。

 だが、それで丘を登っていくと、突如落とし穴にはまってしまったのだ。まさかそんなものがあるとは思わず、あっさりとはまった四者は、そのまま下に。そして今、その底から続く道を歩いているのだ。幸い、幽霊が追ってくることはない。その点だけは安心出来る材料であった。

 持ってきていたライトで足元の道を照らしながら、美咲は言う。

「なんかお話しようよ」

「突如デスネ、美咲さん」

「まあ、この道がどこまで行くかが見えないから不安なんだろう」

「それは城茂美ー、あなたがですかー?」

「んだと?」

「ヤメナサイ、お二方。この狭い中で喧嘩とかされたらワタシはともかく、美咲さんがひどい目に遭ってしまいマスヨ」

「そうだぞー、城茂美ー」

「おめーもダヨ、シシデバル」

「話をするにしても、なんの話をするんだってことだよな」

「わちき達の共通言語なんてゲームだけでしょうが」

「納得」

「じゃあ、『カルドセプト リボルト』話でいいかな?」

「好きだねえ、美咲も」

「運を頭で制するの楽しいよ?」

「美咲さんの場合は運の方が強い気がしマスケドネ」

「では、それでいきましょうかー。凄い頭の悪いブックを作りましょーう。勿論頭の中のデータだけでー」

「僕は前に集中しておこう。美咲、ライト」

「はいはい」

「さて、どういうのが頭が悪いブックデショウカネ。腹案はあるんデスカ、シシデバル?」

「勿論ですぞー。ブック名も決まっています。それは」

「それは?」

「<十二枚の怒れるモブ>」

「……待て。その名前の時点で相当ボンクラスメルがしマスヨ?」

「言ったでしょうがー、凄い頭の悪いブックだってー」

「どういうコンセプトなの?」

「コンセプトとしては単純だよ。<アングリーモブ>を12枚を実現するブックだ」

「<アングリーモブ>というと?」

「要は、連打で攻撃力が上げられる、素っ頓狂なクリーチャーデスヨ」

「ああ、あったねそういえば。でも無茶苦茶言ってない? このゲームだと、ブックに組み込めるのは4枚までだよ?」

「そこはそれ、ルールの隙間を突くんだよ。まず<アングリーモブ>を4枚入れるだろ?」

「そこで限界じゃないかな?」

「どっこいまだまだ出来る。次に<シェイプシフター>を4枚」

「対象クリーチャーに変身出来るクリーチャーデスネ。成程、それで<アングリーモブ>になっておくということデスカ。でも、それでもまだ8枚デスヨ? 後4枚は?」

「<ツインスパイク>4枚で、相手クリーチャーを<アングリーモブ>に変えるんだよ」

「……、確かに決まれば<アングリーモブ>12枚と強弁は出来マスケレド。無理やりジャネ?」

「そこがいいんですよー。無理くりしたコンセプトブック。どうです? 凄いバカでしょー?」

「バカだねー」

「バカのままでいいんデスカネ? 勝つ方策無しデスカ?」

「そうですねー。勝つのもちゃんと考えるのがコンセプトブックの面白さでありますしー」

「で、方針は?」

「<アングリーモブ>の特性をきちりと活かすのが重要ですねー。まず、<アングリーモブ>の特性、戦闘時に連打で攻撃力を上げられるというのを上手く使いたいですねー」

「でも、それは100までデシタヨネ?」

「そうだねー。それも、武器などの攻撃力アップが絡んでも、100以上になると10になるという弱点付きー」

「となると、強力な防衛力には役に立たないのデハ?」

「そこをどう考えるかだねー。拠点を潰さないで防衛力が手薄な連鎖潰しするのも手だしー、遠隔移動とか付けて<ツインスパイク>をもって強引に拠点を攻めて、相手を<アングリーモブ>にして攻略しやすくするのもありかなー。通常の攻めなら<無効化>を潰す<ムラマサ>、<貫通>の<ドリルランス>、二回攻撃の<トンファー>は入れたい武器かなー? まあ、どれかに集中したいところだねー。<ツインスパイク>も4枚入れるから、余計に集中したいねー」

「アイテムを武器に集中なら、<フレイムデューク>はあると戦いやすいのデハ?」

「そうなると、<アングリーモブ>の為に<火属性>土地を取らないと、だから<グラディエイター>も攻撃武器と相性がいいかな? それ以外に単騎で防衛力のある<ガスクラウド>や<ケットシー>、<バーナックル>辺りも欲しいところだねー。それに攻めのバリエーションの為の<バードメイデン>も欲しいかなー。<ツインスパイク>で相手を<アングリーモブ>にする為に飛ばす為に使えるしねー」

「スペルはどうするの?」

「趣味の範囲かな? ただ、STが下がる効果があるけどHPは多く上がる<ファットボディ>とは<アングリーモブ>は相性がいいから、それを入れておくと防衛力があがっていいでしょうね。まあ連打が辛いかなー?」

「成程なあ」

「おい」

 話を、茂美が遮る。

「どうにも、ここが終着点みたいだぞ」


 ライトが照らす先は、扉である。それは、長年開いていないのが見て取れるものだ。実際に開くのかどうかすら定かではない。

 とはいえ。

「これを開ける以外に帰る道は無さそうだね」

「……、ここを、デスカ?」

「……、ここを、か?」

 妖怪二名の反応が悪い。というか、あからさまに嫌そうである。

「どうかしたの?」

 美咲の言葉に、両者は苦い表情になる。

「ここから先は、どうにも我々妖怪には厳しい地点デシテネ」

「生きられないとかじゃないけどー、ちょっと息苦しい所なんだよー。城茂美。あんたならそれは少しは分からないでもないだろー?」

 言葉に、茂美は頷く。

「確かにな。ここから先は、聖気とでも言えばいいのか。そういう高貴な力が漂っているな」

「そうデスヨ。そこから先は神聖な地。ある意味では穢れていると言われる我々妖怪には、厳しい場所デス」

「ぶっちゃけ行きたくないなー」

「とはいえ、ここ通らないと帰られないんだからな? いくら死なないって言っても、ずっとここは嫌だろ?」

 茂美の諭しに、嫌そうな顔をする二体も渋々ながら応じる。

「まあ、ちゃちゃっと突っ切ればいいだけと思いマショウ」

「こっからが長くなけりゃいいんだけどにゃー」

「じゃあ、開けるぞ」

 そして、扉が開かれる。


 そこは広い空間だった。特に何もない部屋である。本当に何もない。ただ、空間があるだけである。その中に、一つ、佇む者がいる。

「こんなところに?」

 美咲の言葉は他の面子にとっても同様のものであった。落とし穴の先にこんな空間があるだけでもおかしい話だというのに、そこに何者かがいるのだから当然の反応と言える。

 それに対する佇む者の反応は軽やかであった。

「ほほ、こんなところには、こちらの言葉であり」

「あなたは? ここに住んでいる方ですか?」

「住んでいる? ほほ。それは酔狂な話よ。こんな辺鄙な所で生活する趣味は無いぞ?」

 ほほ、と、しきりに笑う謎の人物。その様子は余裕に満ちているが、場違いな感もある。その装束も、和装でごてごてとしている。歩くのすら面倒くさそうな服である。そして、それに汚れを見ることはできない。どう考えても、歩くだけで汚れそうなものなのに、である。その上金髪なので、尚更どこかおかしい雰囲気を醸し出している。

 と、シシデバルとニシワタリの表情が強張っているのに、茂美は気づいた。その疑問を聞く。

「どういう顔しているんだよ。……、まさか、知り合いか?」

「知らない方が良かったデスネエ」

「知っていて得をしないというのがこの御仁ですよー」

「主人もいないにようも言いますのお。シシデバルにニシワタリ」

「今時主人も何もないデスヨ、オアリス大町。ワタシとサティスファクションとは、もとよりそういうのではないデスシ」

 オアリス大町、と呼ばれたその者は、また、ほほ、と笑う。

「そうかそうか。そういうこともありもうすな」

「トイウカデスネ、なんであんたがここに居るんですか、オアリス大町。いくらあんたが唐突な奴でも、妖怪互助会の重鎮が、こんな訳の分からないところに居る理由が無いデショウ」

「理由ならそろそろ来るのじゃよ」

「は?」

 と、その時、部屋の片隅が振動する。先ほど美咲達が入ってきた扉の丁度向かい側のそこが、ドン、と音を立てて崩れ、同時に三者の姿が現われる。その面々に、美咲は見覚えがあった。

「都ちゃんに、郷ちゃん? なんでここに?」

「それと、橘ミストルテン!?」

 答えを返すのはサティスファクション都である。

「それはこっちの台詞よ、美咲。あなた達はこことは関係ない場所に行ってるはずでしょ?」

「どういうことですか、シシデバル」

「それはわちきらが聞きたいくらいでして。こちらは落とし穴に落ちて、そこの出口を探して道なりに来たらここに」

「わたし達は、この橘ミストルテンを追いかけて捕まえたら、ここです。正確には<特殊1>を食らった橘ミストルテンだったもの、ですが」

「なんだか話が込み入ってませんか、おひい様」

「ですね。それより」

 パッション郷が見るのは、この部屋に居る一者。ニシワタリがオアリス大町と呼んだ者だ。それの視線は、敵意というものが具現した形である。

 だが、それ以上に強い視線を、サティスファクション都がしている。敵意、というよりもより鋭利なもの。殺意だ。それに、美咲はぞくり、とする。

「オアリス。あんたがここに居る理由を聞いてもいいかしら?」

 努めて冷静にふるまうというのを完全に放棄した威圧感で、サティスファクション都は言う。

 その害意をまるで感じないように、オアリス大町は答える。

「勿論、神を創る為であるよ」

(続く)

泣いても笑っても後一回! と追い込みかけてみんとす。本当に一回で終わればいいなあ……。

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