第二話『カルドセプト リボルト』と今までのシリーズとの違いとは何ぞや
とある街の閑静な住宅街。その外れの一軒家に、そのゲーマー妖怪はいた。それも二者。
一者は不思議な煌きを持つ長い黒髪の妖怪。サティスファクション都。
一者は透き通るような白い髪の妖怪。パッション郷。
両社は客間で視線を交わしていた。そこには複雑なものがめぐっている。
「どういう状態なのかな、これ」
そう言うのはサティスファクション都の友である犬飼美咲。当然のように客間にいる。その隣の、こちらも当然のように城茂美が困った顔をする。
「状況としては単純なんだがなあ」
状況、というのはパッション郷のいる理由である。パッション郷の家が焼けて、行く場をなくしてしまった。だから、このサティスファクション都邸にしばらく身を寄せたいというから、先ほどからここに来ているのである。
「パッション」
サティスファクション都が厳かに言う。
「あのね、別にあなたがこの家に住むのは問題ないわよ? ただ、それならそれでちゃんと出すものは出してもらわないといけない訳。こっちも慈善事業じゃないんだから」
「金なら無いと、言っているではないですか。家と一緒に燃え尽きましたよ」
「そこもまあしょうがないとは思うんだけど、だったらなんとか稼ぎを入れろって言っている訳よ」
「むぅ」
うなるパッション郷。
「ゲーマー妖怪としては、働きたくないですね」
「ゲーマー妖怪だからとかそういうのいいから」
それを見ながら茂美がつぶやく。
「……そもそも都くんは稼いでいるのか?」
「働いているところ見たことないよね」
それの答えは、薄ら笑いをしているニシワタリが出す。
「あれで一応ゲームライター業してるんデスケドネ」
「え、どこで?」
「ニシワタリ! 答えるんじゃないわよ!」
サティスファクション都の檄がすぐさま飛ぶ。へいへい、とニシワタリは渋々ながら引っ込んだ。
「で、どうなの。稼ぐあてはあるの? ないとちょっと困るんだけど?」
「わたしは特に稼ぐ手段とか持ち合わせていません」
そうはっきりと答えるパッション郷。その言葉に、だったら、とサティスファクション都が言う、その前に。
「その代わりと言っては何ですが、これを納めましょう」
そう言うと、懐から何かを取り出す。
「!」
それを見て、ニシワタリは目を瞠る。サティスファクション都も表情を険しいものに変える。ついでにその場にいたパッション郷の従者、シシデバルなどは驚きすぎて笑い出す始末である。
「はひっ、はひっ! パッション様! 正気でございますかー!?」
「他に無いからしょうがないでしょう」
「ですがー!」
妖怪関連は大変大騒ぎしているが、美咲と茂美は何がなんだかの表情である。パッション郷が出しているのは、見た所単なる球形の水晶玉に見える。
「ニシワタリさん」
「なんデス、美咲さん?」
「あれはなんなの?」
「あれは、采の国の魔女の水晶玉デス。未来確定が出来るといわれる、いわくつきのモノデスヨ」
「未来、確定? 予知じゃなく?」
「そう、予知ではなく、確定デス。ヤバいんデスヨ、あれは」
ニシワタリがやばいというそれを、パッション郷はサティスファクション都に手渡す。
「……いいのかしら?」
「これなら文句はないようですね」
「そりゃあね。あなたの代名詞のそれを、っていうんだからね」
「だったら、いいのですね?」
「いいけど。うーん」
そこで、サティスファクション都は思案顔になる。
「他に無いわけ? あれだけ荷物があるんなら、さあ」
「あれは衣装ばかりで、それもオーダーメイド品。お金になるかどうかも定かではありませんよ」
うーん、とサティスファクション都は思案顔。しかし、すぐにうん、と一人納得して、言う。
「これは、貰うんじゃなく預かりってことで。ただで使える権利を借りるってことにしましょうか」
「いいんですか?」
「あんたこそ本当にいいのかって感じだわよ。これは本当にあなたの一部って域の物品じゃないの。それを安直に渡す奴があるか、よ」
「……」
「とにかく、これを借りて使える権利で、しばらくあなたをこの家に泊めてあげる。そういうことでいいわね? はい決まった」
何か余談が挟まれそうな隙を無理やり閉じるように、サティスファクション都は話を打ち切った。
「で、どこに泊まるかよね」
「ニシワタリ」とサティスファクション都が問うと、ニシワタリは、そうデスナア、と。
「部屋自体はそこそこある家デスガ、安全というと、デスネ」
「前から気になっていたんだが、この家、そんなに危険なのか?」
茂美の問いに、サティスファクション都はそうなのよ、と答える。
「まあねえ。この家は元々結構強力な妖怪なんだけど、私が調伏して使えるようにしているの。でもまだまだやんちゃでねえ。核に近い部屋はちょっと私がいてもあなたたちを連れていくのは躊躇われるわね」
「流石に友人を招き入れられない部屋というのは、嫌ですね」
「わーってマスヨ。とりあえず、問題無く使える部屋もありマスカラ、そっちに行きマショウ。で、従者はどうすんデスカ?」
話を振られたシシデバルは、明瞭に答える。
「あたいはパッション様と同じ家に住むなんて恐れ多いのでー、どっか適当に探しますよー」
「別に気にすることないと思いマスガネ」
「わたしの家、元家ですけど、そこでも外に小屋を作って寝ていましたからね。こればかりは強制するものでもありませんし」
「サイデ」
そこで、サティスファクション都が気づく。その気づきを口にする。
「……先に言っておくけど、うちの庭に小屋建てるんじゃないわよ?」
「……どっか適当に探しますよー」
そのつもりだったらしい。と皆が分かる間であった。
「さて、この部屋なら荷物の方も問題ないデショウ」
そこは、客間から少し離れた場所にある一室だった。和室で、収納もしっかりあり、更に生活に必要な物は一通りそろっているようであった。
「なんで都合良く色々揃っているんだよ」
物見遊山でパッション郷達に付いてきた美咲の護衛だ、という顔で付いてきた茂美が、そう疑問を口にする。
「これはデスネ、この邸宅妖怪の一部とでもいいマショウカ。擬態する際に生まれた副産物と言った方デショウカ」
「つまり、家のふりをするついでに、家にある物を生み出した、ということか」
「そういうことデス。ただ、家電などはないので、その辺が必要なら自分でどうにかしてくだサイネ。マア、茶の間に大体の物はあるので、そう気になることもないデショウガ」
そこで、美咲が疑問を口にする。
「そういえば、パッションさんのゲーム関係はどうなったんですか?」
途端に、空間がどんよりとしたものになる。見るからに、パッション郷が落ち込んだからだ。藪蛇である。
「あー、その」
流石に失態に気づいてなんとか取り繕うとする美咲だったが、言葉がうまく出てこない。茂美もどうフォローしたものか、と困惑しているし、ニシワタリに至ってはどうしようもないと匙を投げてしまっている。
そこに、シシデバルが口を開いた。
「携帯機ならなんとか持ち出せたんですよねー、パッション様ー」
「……ええ、そうです。3DSが持ち出せたのは僥倖でした。丁度『カルドセプト リボルト』をしていた時でしたからね」
糸口。そう見た美咲はその方向に話を進める。
「そうなんですか。都ちゃんも、今『カルドセプト リボルト』していて、あたし達に勧めてきてますよ」
「へえ、そうですか。ならわたしからも勧める話をした方がいいかもしれませんね」
「いやその理屈おかしい」
茂美のつっこみなどお構いなしで、パッション郷は話を始める、その前に美咲に聞いた。
「サティスファクションはどの辺りまで話しましたか?」
「とりあえず、どういうゲームなのか、というのをプレイの流れに沿って話したくらいですよ」
「ただ」
話が変わったままを維持しようと茂美が続ける。
「今までとちょっとプレイ感が違う、という感じで話していたな。僕も3DSの『カルドセプト』はやったけれど、それとどこか違うのかな?」
「成程。ならその話をしながら、『カルドセプト リボルト』がどういうゲームに仕上がっているか、話すとよさそうですね」
そういうと、いつの間にかそこにホワイトボードが出現していた。パッション郷は荷物を降ろし、ペンを差し出すシシデバルの手から取って、ホワイトボードに文字を書く。そしてそれを読む。
「<『カルドセプト リボルト』と今までのシリーズとの違い>。このテーマで一席打ちましょうか」
そういうと、パッション郷は講義めいた話を始めた。
「さて、まず最初に挙げられる変更点は、<砦>と<城>というものが<ゲート>に一括化されたことでしょうか」
ホワイトボードに<砦>、<城>そして<ゲート>と書かれる。
「なんとなく違うようで、違わないような、名前だけ変わった気もする変更点だな」
茂美の言葉に、パッション郷は、いいえ、と。
「これは十分明確な変更点です。必要魔力がたまったら、<砦>を全て通って<城>というゴールに到達するのが今までの流れ。ですが<ゲート>は全てがゴールとなり得るのです。つまり、必要魔力が貯まってからゴールまでが短くなった、ということですね」
「うまく立ち回らないと、すぐにゴールされる、ということか」
「そうですね。その辺がスピーディーになっています。更に、『カルドセプト リボルト』では今まで一つだったダイスが二つになっています。これもよりスピーディーになる施策ですね」
<ダイスが二個>とホワイトボードに書かれる。
「でも、ダイスが二個だと一番低い値が2になっちゃうんじゃないんですか?」
美咲の質問に、それはですね、とパッション郷。
「基本的に、ダイスの目は1から5なんです。そして6に該当する部分は記号で、それ単体では0を表します。しかしそれが二つで12になるんですよ」
「成程。特殊なダイスなんですね」
「そういうことです。さて、次は<ラウンドゲイン>ですね」
「<ラウンドゲイン>?」
ホワイトボードに書かれたその言葉を、茂美の反復する。それにパッション郷はきっちりと答える。
「ええ。これはターン開始時に一定量入る魔力のことを言います。今までは、そういうものはありませんでしたが、『カルドセプト リボルト』になって追加されたものですね。これによって、ゲームの感覚はだいぶ変わりました」
「というと?」
「元々は<ラウンドゲイン>が無い、ターン毎に魔力が増えるということはなかった訳です。つまり、手持ちの魔力を使い切ってしまうと、後の動きが取れなくなる場合があった訳です」
「それが、<ラウンドゲイン>のおかげで、緩和された、と」
茂美の理解を確認して、パッション郷は続ける。
「これにより、色々と変わったところも多いです。大きいのが、以前のシリーズでいた低魔力で出せる属性クリーチャーがいなくなったこと。<ラウンドゲイン>があるとローリスクで出せるようになってしまうから、ということでしょうね」
次は、とパッション郷は続ける。
「<領地>関連がだいぶ変わりましたね」
<領地>、と板書される。
「今までは通過した領地に<領地コマンド>を使う、という方式でしたが、今作では通過していなくても、つまりどこででも領地に領地コマンドを使えるようになりました。これにより、<ホーリーワード>シリーズを付けたターンで相手の止まるマスの領地レベルを上げる、なども出来るようになり、やはり展開が素早くなった印象ですね」
ですが、とパッション郷は更に続ける。
「今作では、領地に配置、あるいは領地を侵略、あるいは領地コマンドを使ったら、<ダウン状態>という、領地コマンドが出来ない形に移行します。<ダウン状態>は、周回するか、ゲートにぴったり止まるか、あるいはスペル<レストア>で回復出来ます。これに<不屈>というのも絡んでくるんですが、それは置いておきましょう」
さて、とパッション郷はまだ続ける。板書されていく。
「領地絡みはまだあります。一つが<支援効果>というのがなくなったこと。領地は属性が合っていればHP、耐久力に補正が入ります。これは今作でもそう。しかし今までは隣り合った領地ではST、攻撃力が上がっていたのが、今作ではなくなりました。戦闘で先に攻撃できる<先制>持ちには多大な影響があったので、その辺の調整でしょう」
もう一つが、とパッション郷はまだまだ続ける。板書も続く。
「<エリア>という概念がなくなったことです。今まではある一定位置の<エリア>の領地でないと連鎖になりませんでしたが、今作からはどの位置にある領地、どんなに離れた位置にある領地とでも連鎖を組めるようになりました。地形の属性変化をしやすくなった、というのが大きいでしょうか」
「ふーん」
「美咲、理解してるか?」
「とりあえず、新作の方が色々と変わった、という以外は分からなかったよ。茂美ちゃんは、分かったの?」
「元々『カルドセプト』はやったことある、って言ったろ? だからその延長線上で考えればだいぶ分かったよ」
「なら、そのゲーム買ったら教えなおしてね?」
「あ……、ああ。いいだろう」
あの微妙な下から見上げるポージングが素で出来る辺りが美咲の怖いところだと、それにキュンとしてしまった茂美は思う。天然でやってるから手伝ってあげようと思わされてしまって始末におけない。
そんなことなど露知らずなパッション郷は〆に入る。
「さて、大体ゲーム内容としての変更点はこんなところでしょうか。一応、カードの入手方法とかも変わっていますが、それはやればすぐわかる話なので今回は割愛しましょう」
さてと、とパッション郷はいつの間にか消えたホワイトボードの裏にあった机の隣に、座布団を敷いて座る。
「頃合いですかね」
という呟きと同時に、大きな声が聞こえた。拡声器を使っているらしく、妙な音が混ざって聞こえる。
「パッション郷! 聞こえているでありますか! 聞こえているなら出てくるであります!」
大声にはそこにいる全員が聞き覚えがある。橘ミストルテンだ。
「パッション郷! 出てくるであります! 例の件で話があるであります!」
「例の件?」
その場にいるパッション郷側の存在でない三者が同時に、そう言う。
パッション郷は、それを悠然と受け止めて、答えた。
「なに、家探しの件ですよ」
はひっ。シシデバルが一笑いした。
ということで、『カルドセプト リボルト』が今までのシリーズとどこが違うのか、という話をざっくり。リボルトで展開が早くなったので、今過去作やったらちんたらしてやってられねえよ! ってなりそうです。
さておき。お話の方は展開は考えていますが、実際その通り動くか未知数ではらはらと。もうちょい固めて書くべきだったかなー。その方が早そうだし。とかなんとか。