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第十九話 全色ブックとはなんぞや

 とある都市。そのとある街の一角に、ゲーマー妖怪がいた。

 二体いるそれのうち、一方は妖しく煌く黒い髪で、上下黄色地のジャージで固めている。背は一般的な女性としては高い方である。

 二体いるそれのうち、もう一方は透き通りさえする白い髪と肌で、しかし他の部分は黒で埋め尽くされたドレス姿にやはり黒い、傘。背は平均的な女性レベルである。

 黒髪の方のサティスファクション都は、白髪の方のパッション郷に尋ねる。

「ここな訳ね?」

「ええ」

 パッション郷は答える。

「<特殊1>はここに居ます」

 ここ、と言われた場所は、一つの洞穴だった。街の外れの一角にある小山。実際はちょっとした前方後円墳だが、とにかくそこにある入口、洞穴となってあるそれに、サティスファクション都とパッション郷はいた。

「ここ、ねえ」

 サティスファクション都は、若干面倒くさそうにしている。それも当然だ。ここの空気、神気とでも言うべき清廉の空気は、妖怪には相性が悪いからだ。

「確かに盲点スポットよね。妖怪が生まれたと思っていたから、妖力溜まりばかり探していた。でもあれは単なる妖怪ではなかった、ってんだから。今でも冗談だと思うわ」

 そういうサティスファクション都に、パッション郷はいつもの薄笑いをしながら答える。

「しかし、シシデバルに使わせた<特殊2>の骨はここに向かって直線的に動いていましたし、妖怪互助会の人間、というよりは橘ミストルテンがですが、それがここに入るのも、シシデバルとニシワタリが目撃しています」

「本当に、ニシワタリのやつがいなかったら嘘だと思った話よね。で? 橘ミストルテンの気配はどうなの?」

「自分でも分かっているいるでしょうに。まあいいですよ。ありますよ、気配は残っています。ただ」

「ただ、橘ミストルテンの気配しかない、わけよねえ」

 サティスファクション都とパッション郷はともに訝しむ。橘ミストルテンとはそれ程深い付き合いではないが、妖怪創生の鍵を握る<特殊1>をどうこうするにせよ、単独行動はしないと思われた。

「こちらだって、美咲には嘘までついて、ニシワタリ達と一緒に別の場所に行かせて、その上あなたと一緒に、って予防線張りに張っているってのに、橘ミストルテンが単独行動というのは解せないわね。ここが単なる墓地ではないことくらい、あいつもわかってるでしょに」

「こちらが予防線を張り過ぎたということでは?」

「<特殊1>は爆破能力があるんでしょう? それが自在に使えるかどうか分からない、というのはむしろ危険が大きいわよ。丁半博打で全賭けするのは愚の骨頂でしょ?」

 パッション郷はしばし考えてから、一言。

「一人でも大丈夫だと分かっている。つまり何かしらの情報を知っている可能性が高いですね」

「面倒くさいわねえ。この墓ごと潰した方が早くない?」

「あなた、わたしの話を聞いていましたか?」

 パッション郷の問いに、サティスファクション都は、はいはい、と大仰に手を振りながら答える。

「あなたが管理するって話よね。ぶっちゃけると信用に置けないわね」

「でしょうね。しかし、ならあなたはどうするんですか? 貴重な研究材料ですが、殺しますか?」

 直截に言ってくるパッション郷に、サティスファクション都は、やれやれ、と大仰に手を振りながら答える。

「同族殺しなんて、今更よ。時代じゃないし。昔はともかく、今はその趣味はないわ。でも、私が管理するのも面倒だから、あなたの意見に乗ってあげているのよ、パッション」

「それはそれは、ありがたいことです」

 二体の共通の友人、犬飼美咲がいればたちどころに介入されるだろう様子で、サティスファクション都とパッション郷は微笑みあう。

 しかし、ここには美咲はいない。だまくらかして別の所で愉快な肝試しをさせているところだ。霊障程度ならいても問題ないが、相手が爆破させる力を持っているなら、話は別だ。庇いきれない可能性があるのでは、付いてくるのを容認出来ない。

 だが、連れてくる方が良かったかもしれない、とサティスファクション都は思ってしまう。パッション郷とは相容れないから、離れていた時代がある。それも最近少しましに、本当に少しましになったとはいえ、元々旧敵であるのは変わらない。わだかまりも捨ててしまいたいが、そうするにはあまりに重く堆積している。その二体が一緒に、というのはそもそも無理があったのでは? そう思ってしまう。

 先に視線を逸らしたのはパッション郷であった。

「ここで問答していても始まりません。先に進みましょう」

 そういうと、パッション郷は入り口の洞穴に入っていく。サティスファクション都も、溜息を吐きつつ、その後に続く。

「で、橘ミストルテンの気配を残留妖力を追いかければいい訳?」

「そうなりますね。ここに入っていったのですから、狙いは<特殊1>以外はあり得ないでしょう。その後を追いかけるのがまず肝要です」

「捕まえて、背後関係吐かせるのね」

「諦めさせるだけでいいですよ。大体の背後関係は予想できますし」

「……つまり、あいつな訳ね」

「そうですね、あの方ですね」

 サティスファクション都とパッション郷は同時に黒の色を彷彿とさせる表情になる。あいつ、というのが相当な相手のようだ。

 黒い顔で進みながら、サティスファクション都は洞穴の様子に感嘆する。

「しっかし、ここまで天然自然な神域がよく残ってたものよね。パワースポットとか言って人の手が入って台無しになるとこが多いのに」

「そうですね。盗掘とかもされたという話は聞きませんし。何かあるのかもしれないです」

 ね、の言葉が出る寸前に、サティスファクション都とパッション郷の足元の床がスライドし、穴を形成した。

「ね」

 という間に、二体の妖怪は落とし穴に落ちていった。


「いやはや、これは困りましたね」

 落とし穴の底で、パッション郷はしれっとそう言う。突っかかるのは、当然サティスファクション都である。

「困りましたねじゃねえわよ! なんでこんな原始的な罠に引っかかるのよ!」

「一緒に落ちたあなたも同罪ですよ」

 やはりしれっと言うパッション郷に、サティスファクション都は尚も突っかかる。

「そりゃそうだけど、でももうちょっと神域らしい神霊術的なそれを警戒してたのよ! それなのにこれ!」

「油断があったようですね、サティスファクション」

「それはあんたもでしょうが! ……はあ」

 サティスファクション都は不意に溜息一つ。その様子に、パッション郷が疑問を持つ。

「どうしました?」

「いやね、美咲を連れてこなかったのが正解だったな、って」

「そうですね。流石にこの深さの穴では、我々がどうにかしても、死んでしまいますね。ここにある先住の方々みたいに」

 真っ暗な穴の底だが、夜目の利くサティスファクション都達には容易に分かる。そこにある、白骨の山が。この墓地に侵入して落ちて死んだ、愚か者達の連なりである。

「こういう罠が今後もあるのか、というのも溜息の理由よ。力技なら余裕だけど、数が多そうね」

「その辺はどうしようもないですよ。我々に罠解除とかの知識が無い以上、全て蹴破るしかありません」

 RPG的に言うなら戦士タイプな、二体である。罠を警戒は出来ても、それをどうすれば止められるかは分からないのである。

「これなら、ニシワタリだけでも連れてくるべきだったわね」

「後の祭りですよ」

 そういうと、パッション郷は穴の壁に手を当てる。穴は存外に広い。両の腕を伸ばしても、普通の人間なら届くことはない。継ぎ目もなく滑らかで、たとえ落ちて生きていても、普通の人間では生きて出ることは出来ないであろうことは想像に難くなかった。

 しかし、二体は妖怪である。この程度の障害はないも同然だ。

 パッション郷の両の腕が、変形してピッケル型になる。足も同様に。そして、その手足を壁に突き立てて、登り始めた。

 サティスファクション都はもっと単純に、足で壁に穴をあけてめり込ませて、歩くように登っていく。

 罠を作った者が見れば半泣きになる台無し具合である。

 そんな台無しなことをしながら、パッション郷はサティスファクション都に問いかける。

「さて、登るだけで暇ですし、なにかネタは無いですか、サティスファクション」

「ネタ、ってねえ。一応、一つ困っている話があるけどね」

「それは?」

「美咲が『カルドセプト リボルト』で全部の属性を使ったブックは出来ないの? って疑問符出してきてね」

「この間、単色の話をしたから、気になっちゃったんですね」

 ええ、と言いながら、サティスファクション都は足を壁に突き立てる。

「そのネタの回答はどうしたらいいか。一つあなたも手伝ってくれない?」

「いいでしょう」

 そういうことになった。


「まず」とパッション郷は紡ぎだす。

「全属性ブックの要諦はどこでしょうかね?」

「平均値をとり過ぎないことね」

 サティスファクション都はとくとくと言う。

「全部の属性を使う、というのは基本的にいいとこどり出来るように見えるけれど、話はそんなに簡単じゃないわね。召喚条件や手札に回ってくるタイミングとかで、強いカードでも腐らせてしまう場合も多い。だから、コンセプトをしっかり尖らせる必要があるわ」

「でも、どう尖らせるか、で迷っているんでしょう?」

「なのよねえ」

 どんと足を壁に突き立てつつ、サティスファクション都は呻く。

「属性が絞れていれば、出来る尖り方も絞れてくるからいいんだけど、全属性を使うとなると選択肢が広がり過ぎて混乱するのよね」

「その辺は割り切ってしまうのがいいのでは?」

「割り切るって?」

 カツカツと手足を壁に突き立てつつ、パッション郷は答える。

「いっそのこと、<援護>ブックにしてしまえばいいのですよ。全部の属性のクリーチャーを<援護>素材に出来るクリーチャーでなら、かなり効果的に機能するでしょう」

「成程ね。ならそういう方向性でいきましょうか」

「まずはカードの構成でしょうか。クリーチャー、アイテム、スペルのバランスですね。<援護>は単純な防衛力や攻撃力はありますが、特殊な状況には弱いですから、そこのフォローをするアイテムやスペルが欲しいところです」

「STがゼロになるけど全属性で<無効化>が使える<スフィアシールド>と、強力な効果の武器を破壊する<リアクトアーマー>は欲しいわね。後は<無効化>対策の武器や巻物かしらね」

「スペルは?」

「<援護>ブックなら手札の減り、特にクリーチャーの減りが早いから、それを優先的に手札に加えるスペルは欲しいわね。カード回転の基本の<ホープ>は当然として、ある程度狙って持ってこれる<プロフェシー>やクリーチャーなら即配置の<ワイルドセンス>とかも必要かしらね」

「他には?」

「土地属性変化系はいれにくいけれど、火と地、水と風で連鎖になる<ジョイントワールド>は全属性なら効率的ね。終盤で一気に繋いで勝利をもぎ取るという青写真が出来るわ。後、属性系ダメージスペルの効果を受けやすいから、<マスファンタズム>辺りはあるといいかもね。うまく運用すれば<ホーリーバニッシュ>は受けにくいし、<エグザイル>はどうしようもないからあまり考えない方がいいでしょうね。困ったら<シャッター>でいいわ」

 大ざっぱなことを言いながら、サティスファクション都はまた足を壁にめり込ませる。

「クリーチャーはどう選定しますか?」

「<援護>ブックならまず<援護>、それも全属性で<援護>を貰えるクリーチャーは必須ね。<トロ―ジャンホース>や<バンディット>、<ウッドフォーク>や<スクワリン>、<セージ>辺りが基本の候補ね。特に召喚条件が無いのも、この辺りの魅力かしら」

「他の全属性ではないけれど<援護>を持つクリーチャーはどうしますか?」

「それもちゃんと入れたいわね。でもそうするとどうしても火地に偏っちゃうから、ちょっとだけね。例えば上手くすれば火力が出る<モルモ>とかは、狙って入れたいところね」

「メインは結構絞れましたが、それ以外は絞りようがありますか?」

 カツカツ登るパッション郷の問いに、うーんと悩み顔のサティスファクション都。

「後は汎用性に富んだクリーチャーが欲しいわね。例えば<シールドメイデン>」

「何故?」

「それは<不屈>持ちで特に召喚条件が無いからよ。手早く配置して手早く領地のレベルを上げて手早く他のクリーチャーと交換、というのが出来るからね。<エキノダーム>もその使用法で使えるわね。そして、領地レベルを3まで上げれば、<無効化>が発動する<アプサラス>の出番になるわね。それが守りの基本」

「攻めは<援護>で、防御は<不屈>持ちの領地レベル上げから、という形ですね」

 そうね、とサティスファクション都。

「基本はこんな感じね。もうちょっと詰めたいけれど。<オーガロード>と四色オーガを絡めた形にするとか、出来ることは多すぎるわね、やっぱり。……と」

 そうこう言っているうちに、落とし穴の入り口に到着していた。閉じたそこを強引にこじ開け、登りきる。

「さて、こっから大変そうね」

「ですね。まあ、蹴破り、破壊するだけですが」

「それが大変なんでしょうが。というか、その辺についての考えとかなかったの?」

「では、行きましょう」

「ないのかよ!」

 突っ込みを受け流しつつ、パッション郷は歩き出す。仕方ないなあ、とサティスファクション都も。

「さて、どうなりますやら」

 ひとりごちる、サティスファクション都であった。

 またちょっと時間掛かりましたが、なんとかあともう1、2話で終わる目途がつきましたよ。ラストスパート頑張ります。

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