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第十八話 単色ブックとは何ぞや

 とある街のとある喫茶店に、そのゲーマー妖怪はいた。

 銀髪のショートヘアで若干胡乱な表情をしている、ニシワタリ。

 黒髪のショートヘアで胡散臭くへらへらしている、シシデバル。

 通常では一緒にいるような仲ではない二体が、しかし一緒にいるにはわけがある。

 この場に居る人間、茶色い癖っ毛がトレードマークな、犬飼美咲が関係していることだ。

 美咲は、この頃ニシワタリの仕える妖怪、サティスファクション都と、シシデバルが仕える妖怪、パッション郷の仲が変なことになっている、と思っていた。妙に、ぎすぎすしていると。

 これについて、二体は美咲には何も言っていない。ただ、二体の間にある微妙な空気の差異を、美咲が感じ取っただけだ。実際の所、それは確かな嗅覚であったが、その理由についてまでは流石に気づくことはできない。たとえ妖怪創生とか言われても、ピンと来ないだろうが。

 なので、情報を得ようと、ニシワタリとシシデバルに話を聞こうとしているのだ。

 しかし、その行動には問題があった。先に述したように、ニシワタリとシシデバルの二体が、あんまり仲が良くないという点である。

 悪い、というほど悪くはないが、良いとはお世辞にも言えない。サティスファクション都邸で会っても基本的にお互い挨拶はするがそれ以上は全く踏み込まない。そういう関係性なのである。

 だというのに、美咲はこの二人から話を聞こう、としているのである。

 美咲は率直に聞く。

「なんで都ちゃんと郷ちゃんは仲が悪いの?」

「わりとドストライクなこと聞いてくるね、美咲」

 へらへらとしていながらも、シシデバルは真向で受ける。

「おひい様、パッション様とサティスファクション様との間には、そりゃあ大きな溝がある。10年20年のわだかまりじゃない。人の世が何度も何度も何度も何度も移り変わっても、あり続けたものだ。誰かさんの仲立ちがあって、少しだが橋も架かったけれど、でもそれは細い橋でね。いつその溝から何かが出てきて、橋を壊すやもしれない。つまり、そういう間柄なんだ」

 ニシワタリが横から口を挟む。

「実際の所、仲立ちで少しでも仲が改善した、こいつの言うトコロノ橋が架かった、というのは、かなりとんでもないことなんデスヨ。時代が時代なら、妖怪たちが騒いで天地鳴動せんばかりのレベルデスヨ。そりゃ妖怪互助会が動いてきマスヨ、というレベルデス」

「本当に、仲が悪かったんだね」

 美咲の言葉に、ニシワタリは「デスネ」と答えて続ける。

「大昔の一番威勢が良かった頃などは、地形が変わるレベルの殺し合いしてたお二方デスカラネ。それが会わなくなっただけでも大事だったんデスヨ。だというのに、いきなり今までにない形で接近することになってしまったのデスカラ、こういうギクシャクは当然起こり得ることデスヨ」

「でもまあ」

 シシデバルが続ける。

「そんな時代でもないかもしれない。というのはお二方にはあるんだろうな。だから歩み寄ったという部分もある。ゲームが好きな同士、というのもあるかな」

「そうデスネ。ゲームは一人でも出来るけど、一人じゃない方が楽しめマスカラ」

 へえー、とシシデバルはニシワタリにへらへらしながら言う。

「ニシワタリにしてはー、核心に迫ったこというねー」

「……単に一般論デスヨ」

「いい一般論だったけどー?」

「なんデスカ、シシデバル。喧嘩でも売っているつもりデスカ?」

「なんでわちきがわざわざお前みたいなやつに喧嘩売る必要があるのか分からんなー」

「……、やりマスカ?」

「……、やろうか?」

 喧嘩腰で立ち上がろうとする二体を、美咲は慌てて止める。

「待ちなって二人とも! 場所が悪いよ場所が! ここはリングの上とかじゃないし! やるにしても、どっか他所でやらないと!」

 よくよく考えると止めていない美咲の言葉に、シシデバルとニシワタリは、睨みあいながら、しかし座す。

「……美咲に救われたな」

「……あなたが、デスガネ」

 悪態は吐くがとりあえず収まったようなので、美咲はほっとする。

 そこにシシデバルが、

「それで、美咲」

 と切り込む。

「あのお二方の溝を埋めたいのか?」

「うーん」

 美咲は問われて沈思黙考。しばらくそのままになる。美咲にしては珍しく考えているな、とニシワタリなどは思う。それが何を生むのか、というのをシシデバルなどは期待する。

 美咲が口を開く。

「溝は、埋めない」

「……。では、どうする?」

 美咲は問われて、口を動かす。

「橋が一本だから不安があるんだよ。だったら、もっと増やせばいい。そしていくらでも架けていけばいいんだよ」


 とある街のとある妖怪屋敷。そこにサティスファクション都はいた。そして突然の襲来でびっくりした。

「都ちゃん! 教えてほしいことがあるんだけど!」

「いきなりテンションがおかしいわね、美咲。そんなのだと一日もたないわよ?」

「そんなのは一日が終わってから考えればいいんだよ! で、『カルドセプト リボルト』教えてほしいことがあるんだよ!」

 ぐいぐいくる美咲に、サティスファクション都は困惑の色を見せる。

「いつになくごり押しね、美咲。まあ、それはいいでしょう。で、何が聞きたいの?」

「えとね、単色ブックについて知りたいの。どういう感じなのかな、って」

 単色ブック、と聞いて、サティスファクション都は意外そうな顔をする。

「美咲はもうちょっと応用力の高い、戦いやすいブックが好きそうなイメージだったんだけど」

「え、ああ、うん。そうだね。でも、知っておくことに越したことはないかな、って」

「ふうん」

 サティスファクション都は少し胡散臭そうに美咲を見るが、すぐに特段の裏はないと踏み、語り始めようとする。

 そこに、この邸のもう一つの雄、パッション郷が現れた。

「あ、郷ちゃん! 丁度いい所に!」

「……、なんですか美咲さん。藪から棒に」

「いやね、ちょっと『カルドセプト リボルト』の単色ブックについて話を聞こうと思ってたんだよ! 最初は都ちゃんから、と思ったけど、いるなら一緒に話を聞いて、補足してくれない?」

「本当に藪から棒に過ぎますね。……」

 しばし沈黙するパッション郷。その視線がサティスファクション都と交錯する。視線が切り結ぶ。

 そういう視線のやり取りの後、パッション郷は溜息を吐きながら、言った。

「まあ、美咲さんの為ならそれくらいはお安い御用ですよ」

 そう言って、座しているサティスファクション都と美咲のそばに座った。


「で、単属性ブック、単色ブックについて最初から話せばいいのかしら?」

 切り出したサティスファクション都に、美咲はこくりと頷く。

「普通のブックとどう違うのか、というのが良く分かんない」

「そうね」

 とサティスファクション都。

「よくあるブック構成というのは、大体二色。火地とか水風とかいう風にね。それに無属性を絡めたりもするけど、それはさておき、属性を二つにするのは、要は取り回しのしやすさが持ち味なのよ」

「取り回し?」

「そうですね」

 とパッション郷。

「二つの属性を組み込んだブックなら、その二つの属性の土地を取るのが基本戦術になるのは、分かりますね?」

「うん。属性が合っていた方が、補正がかかるものね」

「そうです。土地の属性を変える手立てはありますが、それには結構な量の魔力コストがかかります。それは出来るだけしない方が、無駄がないわけですね」

 サティスファクション都が話を強引に持っていく。

「でも、単色ブックは一つの属性だけしかない。どうしてもその属性土地以外にも属性変化する土地がたくさん必要なわけよ。二色ブックなら、それが無くても回りやすいけど、単色ブックはそうはいかない。だから難しいところなのよね」

「でも、その属性の土地を必ず取る、後は変化というのは分かり易いと思うんだけど」

「そうですね」

 美咲の言葉を、サティスファクション都ではなくパッション郷が受ける。

「その辺りのシンプルさは、単色ブックの魅力の一つではあります。つまり、脇目も振らずにその属性を取り、他は属性変化する。そこを間違えなければ、分かり易いブック構成ではあります」

「魅力はそこだけじゃないわよ」

 サティスファクション都が話を強引に持っていく。

「ある特定の属性クリーチャーがいる場合に能力の底上げがあるクリーチャーを育てるのには、単色ブックは有用よ。<火属性>だと<ファイヤードレイク>が<火属性>クリーチャーの数でSTが上がる能力持ちだわね。他には」

「<地属性>の<マッドマン>のHP増加、<ブランチアーミー>のST増加もそうですね」

 強引に話を引き継がれたサティスファクション都は、ぐぬ、とうめく。

「……それもあるわね」

「他にも、属性への<応援>が効果的になり易いのも長所と言えるでしょう。二色ブックでも十分効果は発揮できますが、水地とか、火風のような場合では応援の効果が限定的になります。その点、単色は必ずその<応援>の効果が全てのクリーチャーで得られる、と考えると高い効果が期待できるわけです」

「それだけ聞くと使いやすそうだね」

「でしょう? ただ」

「ただ、問題点も当然ある訳よ」

 サティスファクション都がまたしても話を強引に引き継ぐ。パッション郷はぐぬ、とうめく。

「どういう問題があるの?」

 美咲はサティスファクション都に問いかける。

「単色ブックの問題点は、その属性に対する特殊効果をもろに受けるということね。例えば、<火属性>ブックなら、<イエティ>の<火属性>の通常攻撃<無効化>と<即死>の影響をもろに食らうわ」

「<水属性>と<風属性>なら<ファイアーピーク>の<強打>と<貫通>をこれも避けがたく受けることになりますね」

「ということは、つまりその辺の対策が必要なんだね」

「そう。でも当然限界があるから、その属性が苦手なクリーチャーでは厳しい戦いをさせられるわ。他には<感応>の効果が得られない場合が多くなるわね。相手にその属性があれば、だけどこればかりは運ね」

「それ以外では、先にも話と重複しますが、土地属性と合わない場合が多くなるということですね。つまり、どうしても属性変化に手間取りますね」

 パッション郷の解説に、サティスファクション都が乗っかる。

「属性変化の魔力コストは勿論、それをするとダウン状態になるのも地味に面倒よね。どうしても、土地のレベルアップが遅れてしまうから。属性変化のスペルをきっちり入れておくのが最善手だけど、欲しい時に確実に回ってくるものでもないのよねえ」

「それに、土地の連鎖の問題もあります」

「というと?」

 美咲の問いかけに、パッション郷は答える。

「『カルドセプト リボルト』では、連鎖すると土地の価値や通行料に特定の倍率が掛かります。しかし、それは5連鎖まで。つまり、それ以上あっても、特に効果が上がる訳ではないのです。二色なら、効果が二つの属性毎に出ますから、効率がいいんですね」

「まあ、そこまで連鎖を組める場合は毎度って訳じゃないけど、損なところはある、というのは覚えておくといいわね」


 そこまで言ってから、サティスファクション都は、さて、と話を区切る。

「基本的な話はここまでにして、ここからは実際のブック作りの話をしましょうか。<火属性>の話でいいかしら?」

「ええ」

「いいよ」

「じゃあ」とサティスファクション都は話し始める。

「まず、対策用のアイテムやスペルは必須ね。通常攻撃<無効化>対策にアイテムの<ムラマサ>や巻物類。属性変化のコストを減らす為にスペルの<ファイアーシフト>に<マグマシフト>は欲しいわ」

「他に欲しいスペルやアイテムはなんです?」

 パッション郷の問いに、サティスファクション都はうんうんと頷いて答える。

「<火属性>の利点は<強打>持ちが多いことだから、攻撃力を上げるのが常道ね。安定して威力がある<クレイモア>、<強打>持ちに<先制>をつけれる<スリング>や<イーグルレイピア>辺りはあると重宝するかしら。スペルは攻めるのに有効になる<ディジーズ>とか<シニリティ>があるといいわね」

「防御は考えないの?」

 美咲の問いに、うんうん、とサティスファクション都。

「その辺は好き好きね。防衛を重視するなら防具とか積むのは当然。でも私は<火属性>で攻めるのが好きだから防御系のアイテムはあんまり積まないわ。でも、道具で使えるクリーチャーが多い<アーメット>とか<ワンダーチャーム>辺りはお守り代わりに居れていたりはするけれど。」

「クリーチャーの要点はどこですか?」

 パッション郷の問いに、サティスファクション都は嬉しそうに語りだす。

「一つは攻めの力が強い。STが高いことだけでもいいし、攻めと同時に得られるものがあるのもいい。<ピュトン>の侵略時に100Gもらえたりするのとか、<ティアマト>の奪った土地を<火属性>に出来るとか。こういうのが地味に必要なのよね。もう一つは行動に多彩に出来る能力がある。まあ、<秘術>ね<バードメイデン>の遠隔移動とか、<ドモピー>のスペル防御、<フェイ>のSTアップも、他の属性に頼れない分、自前の属性にあるのは活用しないといけないわね。ああそれと」

「なんです?」

「パッションなら分かると思うけど、魔力コストが低いクリーチャーも入れておくのは重要ね。コスト高のクリーチャーばかりだと魔力が枯渇して身動きが出来なくなるからね。<フロギストン>、<ガスクラウド>、<フェニックス>辺りは、低コストだから無類レベルで強くは無いけど、序盤から中盤まではきっちりと使えるクリーチャーだから入れておくのがいいわね」

「つまり、<火属性>の弱点を対策しつつ、高火力を活かしていく。というわけだね?」

「まあ、そういうこと。することは二色ブックより更に明確だから、尖っているなら更に尖らせるのがいいと思うわ。尖っている分、刺されば痛いからね」

「刺さらないとどうにもならない感はありますけれど」

「そこを強引に刺すのが腕の見せ所よ。そうだ美咲、一戦やってみる? 戦ってみれば、また違った感じに見えてくるわよ?」

「そうだね、やってみよう! 郷ちゃんも」

「え、わたしですか?」

「二人より、三人の方が楽しいよ?」

「……、そうですね。いいでしょう。こてんぱんにしてあげます」

「言うわね。じゃあ、やりましょうか」

 そう言って、三者はゲームを始めだした。


「あれがいい策だとマスカ、シシデバル」

「わちきに聞いている段階でー、どうかなって思ってるのは分かってると思うけどなー」

 やれやれ、という枯れた表情をするニシワタリとシシデバル。一緒にゲームをして仲よくなろう、という美咲の策があまりに直截過ぎるので、それで行けるのかと思って見守っていたが、はてさて、という状況である。

「喧嘩してないだけましかもれマセンガ、効果があるヤラないヤラ」

「ちょっと前までは対戦するのはわりと普通の光景だったからねー。そういう意味ではー、一つ戻ったというべきかもしれないけどー」

「そう考えると、ましになった、というべきなんデショウケレド。橋が架かったとはいえるかドウカ」

「で、ニシワタリー。そんな話をする為にここに居るんじゃないよなー?」

「察してくれて涙がちょちょぎれるくらいにありがたいデスネ」

 そういうと、ニシワタリは表情を尖らせる。

「端的に聞きマスケド、あんたの上司は何を考えているんデスカ? 単に妖怪を増やす程度なら、今までに例が無かった訳でもないデショウニ。それなのにパッション郷はどうにもご執心が過ぎる気がするのデスガ?」

 シシデバルはへらへらとしたまま、へらへらと答える。

「今までのように妖力だまりを作ってー、というのとはまた違うんだけどねー。だからこそ、おひい様はご執心なのよさー。産むプロセスが分かったら、かなり重大なことが分かるんだけど」

「重大なことトハ?」

 シシデバルは今日一のへらへら顔で答える。

「ここまでー。というか言うと思ってないくせに聞くんだからー、律儀な奴だねー。ヒント程度はしてもいいと言われたから言ったけどー、でもここまでだけよー」

「ぐぬぬ」

 苦い顔になるニシワタリであったが、そのヒントがどこなのか、というのは目星はつけていた。しかし、その意味が分からない。

「ぐぬぬ」

「まあー、考えてみるといいよー」

 へらへら笑いで隣を去るシシデバルを、ニシワタリはこんかぎりにらみつけるのであった。

 時間かかってしまったですよ。次は来週中になんとかしたい。

 というのはさておき、とりあえず、終わり方のめどがついたので、後2、3回で終わる形になりそう。うん、終わればいいな。終わるだろうか。終わればいいな。まあ、覚悟してやろう。

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