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第十七話 ブリードカードとは何ぞや

 とある街のとある住宅街。つまりいつもの場所で、きな臭い雰囲気が立ち込めていた。

 それはいつものと言えばいつもの光景だった。だがいつもより雰囲気が凶ったものだ。

 その中心の妖怪二体。妖しの黒髪を長く流すサティスファクション都と、純白の髪を無造作に流すパッション郷。どちらも表情が硬い。いつも薄い笑みであるパッション郷が、真剣な顔をしているのだから、相当である。

 その雰囲気に、サティスファクション都とパッション郷の両方の友達であると自負している犬飼美咲が、取り巻いている面子に問いかける。

「どういう状態なのかな? 分かる? ニシワタリさん?」

「うーん、デスネ」

「シシデバルさん?」

「ちゅっとー、わちきも言いにくいですねー」

「どう思う? 茂美ちゃん?」

「その二体が言葉を濁している段階で、僕に話を振られても困るよ。事情も良く分かってないんだから」

 面々が頼りにならないので、美咲は渦中の二人に話をしようとする。が、それをニシワタリとシシデバルが止める。

「今はやめておいた方がいいデスヨ」

「流石にあなたに頓死する目にはあってほしくないですからねー」

「……、とりあえず、かなり危険な状態なんだね」

「危険トイウカ、危機トイウカ」

「あそこまでマジモンのやる気出しているおひい……パッション様、久しぶりに見ますよー」

「確かに、並々ならない妖気の状態だな。以前に殴り合いした時より、より濃いものだ」

「妖気とか全然分からないからいつものように睨みあってるだけに見えるんだけどなあ」

「「「とにかく!」」」

 と、三者が口をそろえる。あまりにぴったりだったので、三者とも幾分か気恥ずかしそうになる。その恥ずかしさを置いて話すのは、面子の中でも一応人間である城茂美だ。

「とにかく、今は遠巻きに見ている方がいいだろう。部屋を移動したいところだが、今の状況では厳しいか」

「はてな? 移動するのが危険だとか言うの?」

「そうデスネー」

 答えるのはニシワタリだ。

「この家が妖怪の一形態デアル、というのは前に話したかと思いマスガ、どうせ覚えてないデショウネ」

「そうなの?」

 はあ、と溜息一つから話を続けるニシワタリ。

「そうデス。妖怪屋敷の類なんデスヨ、この家は。基本的に、地の妖力を吸って妖怪化したものが妖怪屋敷なのデスガ、それゆえに妖力が潤沢にある場所である訳なんデスネ。だから、高位の妖怪は、その妖怪屋敷を無理やり自分の領域にして住み着くわけなんデスヨ」

「で、それと移動しない方がいいのと、どういう関係があるの?」

「単純な話デスヨ。抑えるのに使っている妖力を自前に回せば、それだけこの屋敷がやばくなるって寸法デス」

 話をシシデバルがへらへら笑いながら受け継ぐ。

「特に、この家は妖怪屋敷としても高級品ですからー。その分抑えるにも特段の力を使いますー。サティスファクション様でも面倒くさがって全部を完全に押さえていた訳ではないみたいですからねー」

「そういうわけだから、今この部屋以外は結構危険な地帯と化している可能性が高いってことだよ、美咲」

 成程、と美咲は納得する。がすぐに違う質問を浮かべた。

「でも、そうだとするとこれどうやって帰ればいいのかな?」

「そこだよなあ」

 茂美が軽く天を仰ぐ。

「どうにかこの暴威が過ぎ去ってくれないと、どうしようもない」

「前みたいに割って入ったら?」

 言われた茂美は首を遠心力で飛ばさんとばかりに振る。

「あの時はそりゃなんとかなったけど、わりと命がけだったんだからね? その時よりけったいな雰囲気だから、冗談も通じない状態だよ、あれは。ニシワタリ。どうにかならないかな、あれ」

 話を持ってこられたニシワタリは首をぶんぶん横に振る。

「命知らずの城が無理なのになんでワタシがいけると踏んだんデスカネ。ここは普通に嵐が過ぎ去るのを待つべきデスヨ。あるいは、あなたは何とかできマスカ、シシデバル?」

 話を持ってこられたシシデバルは首をかしげて悩みの姿勢。

「わちきも今の段階ですら命冥加ですよー。とはいえど、この嵐が収まるかどうかというとー、悩ましい所なんですよねー」

「まあ、そうなんデスケドネ」

 妖怪二体が納得しあっているところに、ぃんと刃が通る。茂美の刀だ。

「……なんの真似デスカ、城?」

「……城さんー、刃物は危ないですよー?」

「あっちに向けるよりは、こっちに向けた方が楽だと判断したまでだよ。あの二人が何をいがみ合っているか、知っているなら話してもらいたいね」

「その為には喧嘩も辞さないってとこデスカ」

「君たち二体なら、まだ冗談で収められると踏んだ、と思ってほしいね」

「……」

 ニシワタリと茂美がバチバチと視線を交わらせる。一触即発の雰囲気。

 そこを破ったのは、美咲である。

「茂美ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」

「……なんだい、美咲」

「さっき『カルドセプト リボルト』でブック組んでた時に、シシデバルさんのブックにあった謎のカードって何?」

「謎の?」

「見たことないドラゴンのカードがあったじゃないですか

「ドラゴン……。ああ、<ブリードカード>のことか」

「<ブリードカード>?」

「……、<クエスト>の方は進めてるよね、美咲」

「<眠れる神々>まで行っていますよ?」

「発売から結構経っているのにかなり遅いね、じゃなく!」

「?」

「そこまで進んでいるなら、手に入っているはずだよ、<ブリードカード>!」

「? どこで?」

 それは、と茂美が言い募ろうとした時、割って入るモノがあった。

 サティスファクション都である。

「美咲、最初の<ブリードカード>は<闇に潜む者>で手に入っているはずよ? ホークアイが伯爵のとこを抜ける! とか言って奪おうとしてたカードがあったでしょ?」

「ああ、あったねそういうの。でもそのカード弱くて使い物にならなそうだったから、放置してたよ」

「勿体ないですね」

 と言って寄ってきたのはパッション郷である。

「<ブリードカード>は、ブックに組み込んでおかないと成長しないカードなのですよ」

「カードが、成長する?」

 そうよ、とサティスファクション都が頷く。

「<ブリードカード>とは、成長することによって自分好みのカードにすることができるクリーチャーカードなのよ」

 そういうと、サティスファクション都はいずこからかホワイトボードを持ってきて、そこにすらすらと書く。そして読む。

「<ブリードカード>とは何ぞや。これについて教えておいてあげましょうか」


「まず<ブリードカード>の基礎知識から。<ブリードカード>は成長するカード。最初は0のAGEという数値が、一勝ごとに1上昇して、最大10にまでなるわ。そしてAGEが1上がると、SPというのが5上がる。SPは最初から5あるから、SPは最大で55になる、ということね」

 AGEを上げてSP上昇させる、とホワイトボードに書かれていく。

「で、このSPを使って、能力値や固有能力を付けていく、というのが成長するカードと言う所以な訳よ」

「成程。でも、今あたしの手持ちにある<ブリードカード>と、茂美ちゃんの手持ちの<ブリードカード>は全く別物の絵なんだけど」

「それはですね」

 とパッション郷が話を引き継ぐ。そしてホワイトボードに記載して、それを読む。

「<ブリードカード>はSTやHPが上げられる訳ですが、その時に一定値を越えると、絵柄が変化するのです。城さんのそれは攻撃力が高いタイプですから、<アサルトドラゴンS>の絵柄ですね。この辺も、成長するという所以です」

「成程。その辺の好みとかも反映できるんだね」

 そういう事です。というパッション郷を押しのけて、サティスファクション都が次の話へ移る。

「でね、成長させるにはショップでパーツを買う必要がある訳。ショップで基本となるステータスが上がるパーツや、特殊能力が付くパーツをパックやばら売りで買って、それを付けていくのね? ただ、最初からは特殊能力のパーツはつけられないから注意ね。カードを組み込んで勝っていけば、AGE3とAGE6で一つずつ解禁されるわ」

 特殊能力はAGE3から、とホワイトボードに記載される。

 その隙を突いて、パッション郷がサティスファクション都を押しのけて、話す。

「その特殊能力パーツですが、色々とカテゴリーがあります。攻撃や防御、といったものですね。これは基本能力の上昇のカテゴリーと、召喚条件の土地数のパーツ以外、カテゴリー重複するものは選べません。<ファイヤーピーク>の火風貫通及び強打、みたいなのは、ともに攻撃カテゴリーなので出来ない、と覚えておいてください」

 カテゴリー重複は出来ない、とホワイトボードに記載される。

 その隙を突こうとしたが、蹴られて阻まれてしまったサティスファクション都をしりめに、パッション郷は話を続ける。

「成長及び特殊能力を付与すれば、SPも消費しますし、そもそもの召喚コストも上がります。SPの方は、ステータスでは現在の数値の分で変動します。特殊能力の方では固定ですね。そして召喚コストの方は、基本的にステータスの減少パーツや召喚条件の付加以外では減らないので、大体強くするとコスト高くなる、と思っていいでしょうね」

 SPもコストも、パーツを付ければ付けるほど高くなる、とホワイトボードに記載される。

 その隙を突こうとした両者を、ニシワタリとシシデバルがまあまあ、と押さえた。少し距離を取る、二体。

 そこで、美咲が問いかける。

「で、どういう育成がオススメなの?」

 離れた二人がすぐさま戻ってきた。

「私は攻撃ガン積みをお勧めするわ。<アタッカー>のパーツならコストを下げつつ攻撃力を伸ばせるからオススメ。特殊能力は<無効化>と<反射>潰しの<水地斬鉄>で、更に<水地強打>か<援護即死>で防衛側ノックアウトよ!」

「わたしとしては防衛重視をお勧めしたいところですね。基礎防衛力を高めつつ、AGEが高いと効果がある<年齢の守り>を付けて、更に味方用に<守りの応援>を付けておけば、全体的に高い防衛力が出せます」

「召喚コストが高くなりすぎるんじゃない?」

「そっちこそHPが少なくてひいひい言うのが目に見えていますよ」

「何よ」

「何ですか」

 まあまあまあまあ、とニシワタリとシシデバルがまた両者の間に入って引き離す。そのタイミングで、美咲がホワイトボードに一書き。そして読む。

「まあ、色々あるんだね、ってことだね?」

「そういうことよ」

「そういうことです」

 サティスファクション都とパッション郷が、同時にそう言った。


 美咲が早速<ブリードカード>をブックに組み込んでプレイしているその横で、ニシワタリとシシデバルは、どうにかサティスファクション都とパッション郷をなだめていた。

「冷静になりマシタカ、サティスファクション」

「……まあね」

「おひい様も、冷静になっていただけましたか?」

「少しは」

「というか、あなたの考えていることは無茶なのくらい分かるでしょ、パッション」

「この考えこそが、妖怪の世界を変えることになるくらいも、やはり分かるでしょう、サティスファクション」

「何よ」

「何ですか」

 またいきり立ちそうになる二体に、ニシワタリがチョップを食らわす。

「った!」

「いた!」

「だから、ヒートアップするなってんデスヨ。その話は、とりあえず美咲さんたちが帰ってからにしてクダサイ。その後ならいくらでもやっていいデスカラ」

「と言ってもよ? 美咲が帰る気配がないんだけど?」

 見やれば、美咲がゲームに没頭している。このままこの地に根を張るくらいの勢いだ。

 それを見ながら、ニシワタリは溜息一つ。

「あんたらが焚き付けたからデショウガ。今日中に強いカード作る気になっちゃってマスヨ、あれは」

「折角のゲーム熱を沈下させるのは、ゲーマー妖怪としてはしたくないところです」

「じゃあどうするのよ。この喫緊の課題を、しばらく放置しろって言うの?」

「とりあえず、美咲さんが帰るまでは、ですよ。サティスファクション。あなたもですが、わたしも柄にもなく熱くなってしまっていました。頭をもう少し冷やすには、十分な時間でしょう」

 サティスファクション都はその言葉に反論しようとするが、頭を無作法に掻くばかりだった。

 それでも、一言だけ出た。

「あなたの考え、私は反対だからね。こちとら今の生活でも満足しているんだから。変な波風は要らないわ」

「そうですか。わたしも満足しています。でも、もっと満足したいんですよ。なら波風を立てないといけませn」

 パッション郷はそう言うと、美咲に挨拶しながら、部屋へと帰っていった。シシデバルもそれに追従する。

 残されたサティスファクション都は、ニシワタリに言った。

「どう思う?」

「何がデスカ? 今後のパッションとの付き合い方デスカ? それとも妖怪創生の話デスカ?」

「どっちでもないわ。あいつが何かもう一つくらい隠しているんじゃないか、ってこと」

「あの方は腹に一物あることが多いデスカラネ。そりゃ何かあるデショウ。もうちょっと情報が無いと分からないところデスガ」

「それじゃあ、間に合わない気がするのよねえ」

 そう言って、サティスファクション都は廊下へと消えていくパッション郷を目で追うのであった。

 日が開いてしまいました。中々ネタの選定が上手くいかなかった、という言い訳をさせてください。でもまあ、なんとか形にできたので良しとしたいところです。

 お話の方もそろそろ佳境かなあ、という感じですが、どこまでやることになるのやら。思ったより長くなりそうですよ、ええ。上手くオチ付くかなあ。

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