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第16話『通行料がっぽりコンテスト』とは何ぞや

 とある街のとある住宅街。そこのドの付く辺鄙なところに、その妖怪屋敷はあった。

 そこの主、怪しの黒髪を持つサティスファクション都がいつもの和室でゲームに興じていた。相変わらず『カルドセプト リボルト』である。

「どうしたものかしらね」

「なにがですか?」

 同じようにゲームに興じている、サティスファクション都家の居候、黒装束に白髪のパッション郷が尋ねる。

「いい加減、あなたに追求した方がいいのかって話よ」

「追及。いいのが来ました<メタモルフォシス>」

「うぜえのよ、それ! ……そうよ、追及よ。あなた、どう考えてもお家探ししてる感じじゃないじゃない。妖怪屋敷目的とはいえ、怪異に当たり過ぎなのよ。私も来たから<メタモルフォシス>」

「本当にうざいですね、それ。……隠し立てしてもしょうがないですから話ましょうか」

「え、本気ですか、おひい様!」

 一緒にゲームに興じているパッション郷の従者、シシデバルが、あたかもな驚き方をする。それを胡散臭げに見るサティスファクション都を後目に、シシデバルは続ける。

「あれだけ隠しておこうって話をなさっていたではございませんか!?」

「まあ、そうなのですけれど。遉にここまで絡んできて話をしないというのはひどいかな、と思うのですよ」

「しかし!」

「どうでもいい話はいいから、ちゃっちゃと話しなさいよ」

 話に割って入ったサティスファクション都を根限り憎らし気に睨むシシデバルと、特に表情を柔らかい笑みから変えないパッション郷。ある種予想通りの反応である。なので、サティスファクション都はシシデバルは無視して、パッション郷に話しかける。

「で、どう意図で、家探しという建前で妖スポット行脚してた訳?」

 サティスファクション都の問いに、パッション郷は答える。

「話しましょう。ですが、その前に」

「その前に?」

 と言うそこに、相変わらずの茶色の癖っ毛を弾ませて、犬飼美咲が現れた。

「こんにちわー。あれ、今日は二人とも一緒に遊んでるの? 珍しいね」

「成程、ちょっと話せる雰囲気じゃないわね」

「そういうことです」

「ん?」

 美咲は不思議そうに小首を傾げた。


 次に美咲がしたことは、問いかけである。

「都ちゃん、通行料がっぽがっぽテストって何?」

「つ? ……ああ、<通行料がっぽりコンテスト>のことね」

「うん、たぶんそれ。公式大会みたいだけど、ランクマッチみたいに対戦するのかな?」

「違いますよ」

 そう答えるのはパッション郷である。3DSを操作し、画面を美咲に見せる。

「<通行料がっぽりコンテスト>というのは、この」

 そう言いつつ、<クエスト>の項を開く。そしてカーソルを下へと向けると、<奈落からの挑戦>という項がある。

「これは?」

「<Netショップ>の方で無料ダウンロード出来る<クエスト>です。まずこれをダウンロードする必要があります」

 パッション郷の言葉をサティスファクション都が受ける。

「それと、そのクエストを一回クリアする必要もあるわね。ネット対戦する為のセプターキーと、そのクリアで手に入るパスワードがいるのよ」

 うんうんと首を縦に振って理解を示す美咲。で、次の言葉。

「で、どういうコンテストなの?」

「簡単に言うと、ゾンクスから通行料をせしめまくるという物です。ガンガン踏ませてガンガン奪う。30ラウンドが終わるまでに取れた通行料の量を競うコンテストですね」

「……簡単そう?」

「それが案外、ね。ゾンクスが単なる木偶じゃないからね。ちょっとコツが要るし、ある程度進めてる方がやり易いわね」

「そうなの?」

 答えるのはパッション郷。

「ゾンクスがクエスト<救世の神都>のカードまで使いますから、そこら辺りまで行っていると対処も考えやすいですね」

「逆に言うと、ブック構成が分かれば<闇に潜む者>辺りのカードでも対処は出来るわね」

「そうなの?」

「そうなのよ。コツはいるけどね」

 まず、とパッション郷が続ける。

「基本的にゾンクスはスペルを使わないセプターです。代わりにアイテム偏重ですね。それは<通行料がっぽりコンテスト>でも変わらない、けどより応用力がついて、<反射>や<無効化>対策、普通に<巻物>もあるブックで攻めてきます」

「<強打>持ちと<貫通>の<ドリルランス>とか<無効化>無効の<ムラマサ>の組み合わせとかもあるから、今までのゾンクスと思って侮るとわりと手痛い目に遭うわね」

「成程。ゾンクスの割に強いから油断してはいけないんだね」

 美咲はこくこくと頷き納得する。そこに、パッション郷が言う。

「では、美咲さん。対策はどうすればいいか分かりますか?」

「え、それがコツの部分でしょ? それをいきなり?」

 パッション郷はこくこくと頷き、追撃する。

「それなりに情報は出しているから、一つか二つくらいは分かると思いますよ」

「マジで?」

「マジです」

「じゃあ、考えてみる。うーん」

 美咲が考え出した。それを見て、サティスファクション都はパッション郷に近づき耳打ち。

「ちょっと難易度高いんじゃない?」

 それに、パッション郷は柔和な笑みをして、そして答える。

「美咲さんもいっぱしのゲーマーなんですから、それくらいは出来ないと駄目でしょう。なんです? 過保護ですか?」

「違うわよ。……まあ、あなたの言い分もわかったわ。一つ、どういう回答が出るか、見てみましょうか」

 そうこうしている内に、美咲は明るい顔になった。 

「都ちゃん、郷ちゃん。一応考えついたよ!」

「ほう、お聞きしましょう」

「アイテム重視、なら<グレムリン>! あるいは<グレムリンアイ>だね!」

「正解の一つですね。アイテム潰しのあるカード、他には<カイザーペンギン>とか<シルバンダッチェス>、<シーフ>でもいいですが、まず<グレムリン>が一番でしょう。後は防御手段さえ積んでいれば、アイテムについては怖くないですね」

「<グレムリンアイ>もこの場合正答に近いわね。レア度Nのアイテム以外は破壊する、だからこのゾンクス相手なら有効な手段ね」

「それで、他には何かありますか、美咲さん」

「他、かー。何かあるかなー」

「美咲さん美咲さん」

 そういって、シシデバルが耳打ちする。それで、はっと表情を明るくする。

「そうか、カード除去スペルだね! つまり<メタモルフォシス>!」

 うんうん、と頷く美咲に対し、パッション郷の顔は若干の怒りを孕んでいた。

「……シシデバル、何をしていますか?」

「あ、はい。困っているようなので、ヒントを」

「……。後で話がありますからね」

「……はい」

 説教の空気の脇でサティスファクション都は、にたにたと、大層愉快そうに笑っている。

「何? 何? 従者が逆らったりなんかしたりして?」

「……」

 変な空気になっているところを、美咲は省みずに発言する。

「あの、判定は?」

「……ああ、そうですね。それも一つの解答です。ただし、相手の持っているアイテムと同じものを持っていないことに留意すること。先に言った<ドリルランス>や<ムラマサ>、他には<ウォーロックディスク>など、わりと攻めに有用なアイテムばかり持っているので、それが被ってこっちも、という場合もあります」

「逆に言うと、守りのブックで防衛向きのアイテム重視にしていればいいのよね。そうすれば気にせずぶっ潰せるわ」

「除外系なら、当然<シャッター>、<ポイズンマインド>、<スクイーズ>、<エロージョン>もいいですね。とにかくアイテムを潰すと楽です」

「クリーチャーの方は?」

 美咲は当然の質問をする。それはですね、とパッション郷が答える。

「<グラディエイター>及び<ナイト>というお手軽<強打>クリーチャーは、どちらもアイテムさえ封じられれば、シールド系や領地の補強でどうにかする、という形ですね。あまりSTを大きく上げる武器を使ってこないので、特殊なのさえどうにか出来れば、かなり楽ではあります」

 サティスファクション都が更に補強する。

「そこ以外は倒すのに難儀な相手はそんなにいないけど、防御重視だと突破しづらい相手もいるかもしれないから、その辺の突破をどうするか、というのも考えておくといいわね。例えば、ゾンクスが入れてない<プラックソード>と<グレートタスカー>辺りを絡めて突破、とかもありよね」

 まあでも、とサティスファクション都は続ける。

「何にせよ、一回倒さないと始まらないから、ブック作ってやってみるといいわよ?」

「うん、わかった!」

 美咲は気持ちのいい返事をした。


 美咲の方をシシデバルに任せ、サティスファクション都とパッション郷は部屋を離れ、廊下に立つ。

「で、どういう話なのよ、パッション」

「シシデバル、最近美咲さんと仲良くなっているのが解せないという話ですよ」

「違うわよ。話逸らそうとしないで欲しいから具体的に聞くけど、なんで妖怪スポットに行ってるの? ただのお家探しじゃないでしょ? って話よ」

「……聞きますか?」

 普段、無駄に柔和な物腰のパッション郷が、表情を固い方に改めて言う。その気配に少し気圧されつつも、サティスファクション都は頷く。

「聞くわよ。そりゃね。次の所で、かなり関連しそうだしね」

 パッション郷は、その言葉に頷くと、神妙に言った。

「そうですか。なら話しましょう。何故妖怪スポットに行くのか。そして私の追う、<特殊1>について」


「そう、それよ。<特殊1>」

 サティスファクション都は意を得たりとばかりに言う。

「まあ、あなたも知ってることだとは思うけど、ニシワタリに探りを入れさせてたんだけど」

「本当に。そんなことをしていたのですか、あなたは」

「だからあなたも知ってんでしょう、そのくらいは。とにかく、その過程で知ったのが、その言葉よ。<特殊1>。それにこの間の猿の骨は<特殊2>だったかしら?」

「そうですね」

 サティスファクション都は距離を詰め、顔をパッション郷の顔と重ならんばかりに接近させる。そして、力強く問う。

「だから、それは、なんな訳?」

「……若干説明が難しいですが、聞きますか?」

「長くないように。あなたは無駄に長くするの好きだから、先に言っておくわよ」

 そうですか、とちょっと伏し目がちな雰囲気を見せつつ、パッション郷は話し出す。

「サティスファクション。あなたは妖怪の生まれ出づるところを見たことはありますか?」

 唐突な言葉に、サティスファクション都は面食らう。

「は?」

 そして気づく。

「……そう言えば見たことないわね。妖怪になりたての元人間とか、生まれて間もないくらいなら見たことはあるけど」

 パッション郷が肯定する。

「でしょう。妖怪が生まれる理由はあまり判然としていないのが現状です。妖怪互助会の方でも、その瞬間を見たモノはいません。大体、妖怪になったのを探知してリアクションするのが一般的で現実的なことなのです。妖力が生まれれば探知できますが、その前の、生まれる段階は知ることが出来ない、とされてきました」

「……されてきたけど、今は違うというわけ?」

「そうです。それと、<特殊1>とが、関係してくるわけです」

「……、ちょっと待って。<特殊2>の大猿については話は聞いているわよ。妖力が絡み合って反応して、出てきた……!」

 サティスファクション都の気づきに、パッション郷が頷いて肯定する。

「そう、生まれ出でたのです。妖怪が」


「あー! <強打>の乗った<ドリルランス>止めてー! というかこういう時になんで出ないかな、除去スペル!」

「はひっ。カードの巡りは運ですからねー」

「むー! いや、切り替えていこう!」

「頑張ってー」

 和室での美咲とシシデバルの声を聞きながら、サティスファクション都は慄然としていた。<特殊1>及び<特殊2>が、誰も見た事が無いという誕生の瞬間を、パッション郷に見せていた。いやそれ以前に。

「あなたが作った妖力の偏差で、妖怪が発生した。つまり、あなたが、妖怪を生んだ、ってこと?」

「言葉の綾ですが、そういう意味合いになるでしょうね」

「……ちょっと待ちなさい。整理するわ。まず初めに、あなたの前の家で、妖力の偏差で妖怪が生まれたわけね?」

「ええ。その時に家は爆発四散しました」

「で、この間は廃病院で、それと同じようなことをして、また妖怪が生まれた」

「そうですね。再現性があった、ということです。とはいえ、<特殊2>の力は<特殊1>とは全く及びもつかないものでしたが」

「再現性があるだけでも無茶苦茶なことよ。それで、今までの妖怪スポット巡りは何の為?」

「我々妖怪は、妖力が減じると弱くなりますよね? それを補給する為に、地に根付いた妖力スポット、例えばここの屋敷みたいなところを根城にする。そして、<特殊1>は私の家を爆発四散させて大量の妖力を失った。ということは?」

「……妖力の溜るスポットに身を寄せる。と言っても、そこまでの知恵はあるの?」

「それが分からないから、下手な鉄砲作戦だったんですよ。妖怪互助会の橘ミストルテンにも協力してもらって、それらしい地点を探っているんですが、まだ見つかっていません」

 やれやれです、というパッション郷に対し、サティスファクション都は事の核心へと徐々に切り込む。

「それはつまり、捕まえて、調べて、する為よね?」

「ええ」

「……その後は?」

「その後とは?」

「言わなくてもわかっているでしょうけど、あえて言うわ。妖怪の生み方を知って、どうしようっていうの?」

 間近で真剣なサティスファクション都の顔を見ていたパッション郷が、笑む。それも大笑というべきものだ。

 あはははは、とパッション郷は笑う。しかしサティスファクション都は笑わない。むしろより真剣の度合いを深めた表情になる。

「どうするつもり?」

 再度問うサティスファクション都に、パッション郷は軽い感じに答える。

「サティスファクション。まだこれは仮定の話です。それが楽々と出来るか、とまでは分かっていないんですよ? 実際、<特殊2>を生み出すのにも、かなり複雑な力関係が必要でした。それでも、大猿くらいの力しかないのです。<特殊1>のような、力ある妖怪を生み出すのがどれほどのことになるのか。これがまだ分からない。だから、そういうのを杞憂というんですよ」

 そう嘯くパッション郷に、真剣度合いを崩さないサティスファクション都は言う。

「可能性があるんなら、どうしたいかという目論見ぐらいあるでしょう?」

「目論み、ですか」

 パッション郷は、らしくないくらい嬉しそうに、言った。

「妖怪の天国くらいは、創ってみたいですね?」

「よーし! 高額領地踏ませた! 勝てる勝てる!」

 美咲の声が、二体の間を通り抜けていった。

 さて、そろそろ投げた球を回収しないとねー。という段階になってまいりました。あとどれくらい続くか不明ですが、そんな長くはないだろう。という塩梅ですね。どうなるやらなー。

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