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第十五話 コンセプトブック作りとは何ぞや

 とあるビル街。そこにゲーマー妖怪と普通の人間がいた。妖怪はシシデバルといい、人間は犬飼美咲という。

 現在、二人は危機に瀕していた。シシデバルの操身術で動かされていた、<特殊2>とされた大猿の妖怪の骨が入っていって、美咲たちも付いて入った廃ビルを、何故か警察が取り囲んでいるのだ。

 その理由というのは。

「君たちは完全に包囲されている! おとなしく出てきなさい!」

 そこに、銃声。包囲に向かっては撃ってはいないが、それでも十分に警戒するべきであることを、その音は伝えてくる。

 今、この廃ビルには、銀行強盗の犯人たちがいるようだ。それを、警察が取り囲んでいる、というわけなのだが。

「どうしますかね、シシデバルさん」

「そうさなー」

 ひそひそ声で二者はしゃべる。その銀行強盗がいるのは上の階だが、一応の念の為だ。犯人グループが下に降りてくるやもしれないのである。

「こいつをぶつけてしまうのが一番楽なんだがー。流石にこれだけ多い数の人間共に見られるとー、後の処理が大変すぎるなー」

 こいつ、とは当然、大猿の白骨である。確かにそうすれば楽ではあろうが。

「人死に出ちゃうでしょ、それだと」

「そうだよー? 警察に追われるようなやつは死んでも文句は言えないと思うがねー?」

 そういってへらへらと笑うシシデバル。この妖怪に普通の人間の倫理観を求めるべきではないのが良く分かる。しかし、だとしてもこれからどうするか。

「普通に出ていったら一味と間違われちゃいますかね」

「とはいえー、このまま待っていても突入されてたら一緒に一網打尽だよー? 殺っちまおうよー?」

「一応、都ちゃんに救援を頼んでるんだから、ちょっと待ちましょうよ。なんとかしてくれるはずですから」

「まあー、パッション様のお知恵があればー、あの脳みそ筋肉でも少しはましな動きはしますかねー?」

 へらへら笑いのシシデバルによる意味ありげな物言いを聞きつつも、上に行っても下に行っても、たぶんシシデバルが死山血河を、なので、ここを動かない方が賢明と美咲は判断する。

 とはいえ、都とパッション、つまりサティスファクション都とパッション郷がどういう手を使うかもまだわからない。かなり無茶をする可能性もあるので、そうなった時の為に出来るだけ被害が少なくなる方向を考えておくのが得策か、と美咲が思案しているところで、シシデバルが突如動いた。

「……何してるんです?」

「見てわかるだろー。ゲームだよー」

「このタイミングで?」

「このタイミングでだよー」

 へらへらしながらそう言うと、シシデバルは取り出した3DSの音量を最小レベルにして、『カルドセプト リボルト』を始めた。

「とりあえずー、いつお呼びがかかるか分からんからなー。だからブック作りでもしてようかねー」

 そういうと、メニュー画面の右上、<ブック>の項を開く。

「……作ってますね」

 見れば、ざっと20種類のブックがそこに並んでいた。そのブック名もいろいろなタイプがあるのを見るだけで理解させる。端的に言うと珍奇ではあるが、こだわりを見ることができるとも言えよう。

「本当に作ってますね」

「パッション様の相手をする為にー、色々と趣向をこらさないといけないからねー」

 そう言うと、シシデバルは新規ブックの項を選んだ。

「さてー、次はどういうのがいいかねえー。ねえー、美咲さん。何かないですかー?」

 話を振られた美咲は、うーん、と一悩みする。先ほど見たブック名と被らないものを、と思うが、あれでどういう内容かは余人では把握出来ないので、悩みが深い。

「いいネタないんすかー? 所詮人間だねー」

 シシデバルは煽ってくる。いいネタ以前に今の状況がまずいのだから、そっちに話を向けるべきだろう、と美咲は判断して、それを口にする。

「シシデバルさん」

「何だー、人間ー」

「あたし達の方でも、なんとか状況を打開できないか、考えた方がいいのではないでしょうか」

 その問いに、シシデバルは首を横に振る。

「非才のあたいにー、ただの人間の知恵が加わってもどうにもならないねー。素直に待ってるのが吉ー」

 取り付く島もない。確かに美咲自身では何も出来ないにしても、シシデバルは妖怪なのだからもうちょっと何か出来るのでは? 殺戮抜きで。とも思うのだが、それ自体にやる気がないのではどうしようもない。

「で、なんかネタはないんかねー? 人間ー?」

「うむむ」

 と、美咲の脳内に天啓が浮かんだ。

「……<トロ―ジャンホース>」

「なんですー?」

「この間、都ちゃんがしてた<トロ―ジャンホース>の使い方の、それを主体にするブックというのは、どうですか?」

「……へえ」

 シシデバルの顔にへらへらい笑みがなくなる。それだけで、この妖怪の本質が見えるような錯覚に陥るほどの威圧感があった。

「<トロ―ジャンホース>の、<援護>からの<貫通>を目的とした<ブック>、と言いたいのかな。それは確かに面白いね」

 シシデバルはこくこくと首を振る。それも楽しそうに。

「属性はどうするかな?」

「そうですね。狙いはあくまで<トロ―ジャンホース>です。それが最大限活かせる、つまり<援護>の活用を中心にした<地属性>と<火属性>クリーチャー多めの構成にするのも面白いかもしれません」

 いいね、とシシデバル。ノリがさっきと違うのを気にも留めることなく、話を進める。

「となるとまず<トロ―ジャンホース>4枚は確定。<貫通>を活かすなら、STの高いクリーチャーは必須だな。となると、ST70の<火属性>クリーチャー<デスサイズ>は<援護>使用をメインの運用として4枚。普通だと使いにくい<無属性>の<ロックタイタン>もST70の攻撃用にもHP70の防御用にも使えるから、これを4枚」

「いきなり12枚埋まっちゃいましたね」

「することが決まっているならがっつりとするのが基本だ。これを幹として、枝葉を付けていく。他にいいと思うクリーチャーは分かるかな?」

「STは60と<デスサイズ>よりは若干劣りますが、<グレートタスカー>と<キングバラン>はお手軽ですよね。<プラックソード>を混ぜておけば、ここぞで150の打撃を狙えるのも大きいかなと思います」

「そういう方向性もあるね。<グレートタスカー>、<キングバラン>、<プラックソード>。どれも2枚入れておこうか」

 他には、と美咲が追加を言う。

「魔力コストの安いST50の、<火属性>の<バ=アル>はアイテム代わりとして持っている形に持っていければいいんじゃないですか?」

「他には<地属性>の<アネイマブル>がいいか。コスト安でST50だな。これも入れよう。どっちも癖が強いから、とりあえず2枚ずつだな」

 それから、とシシデバルは言う。

「<デスサイズ>を有効活用するなら、<援護>持ちで火力が出る<モルモ>辺りがいいか。<感応>と絡めれば120の打撃。これは重い。これもとりあえず2枚にしようか。後は、<バルキリー>。<援護>持ちで<先制>持ち、そしてST成長があるのは貴重だ。これも2枚」

「他だと、<デスサイズ>のST70をそのままダメージとして活用出来る巻物<オーラストライク>はいいんじゃないですか?」

「いいねえ。それをとりあえず3枚。その<オーラストライク>更なる活躍と、<トロ―ジャンホース>のST底上げも出来る<秘術>持ち<フェイ>を2枚。<フェイ>のSTアップと自身の<巻物強打>で<オーラストライク>の価値を上げられる<ニンジャ>も2枚」

「後15枚ですね。そろそろスペル考えた方がいいんじゃ?」

「それより先に、<トロ―ジャンホース>の生存率を上げる為に<応援>持ちの<ボージェス>とアイテム<ワンダーチャーム>、土地の接収用に<ハーフリング>なども2枚ずつは欲しい。で、後11枚だ。スペルはどうしたらいいと思う?」

「<トロ―ジャンホース>を限界まで使うとしたら、移動侵略の方も考えに入れたいですね」

「そうだね。となると、まず<チャリオット>。間に施設があっても飛び越せるから移動進撃の幅が増える。ブック復帰するから1枚でいいな。それからHPが増えていれば撃破されにくくて理想的。だとすると<グロースボディ>かな?」

「どの道STが無いなら、<ファットボディ>でHPプラス20が手っ取り早いでしょう。ステータス反転される場合もありますが、それは元からですし、もうしょうがないと考えましょう」

「では、枚数は3枚ほど入れようかね。後はあると助かる<マジカルリープ>を2枚」

「残り5枚ですね。ダメージスペルを食らわないように<マスファンタズム>というのもありでしょうか」

「こちらからダメージスペルを使うのでなければ、有効な手段だな。全体系だからとりあえず1枚でいいだろう」

「手元に必要なクリーチャーを戻す為に<エクスチェンジ>もあったらいいんじゃないでしょうか」

「採用。2枚いれよう。あと2枚か。日和って<ホープ>2枚でいいか。また対戦して調整すればいい部分だしな。っと」

 ブックの枚数制限50枚に到達する。つまり、ブックが完成したということだ。

 そこから、シシデバルと美咲は更に精査にかかる。

「うーん、もうちょいダメージ取れるクリーチャーを入れた方が強みがあるかな? どうせなら<ヘルパイロン>とか<ロードオブペイン>辺りが入れたいねえ」

「<エクスチェンジ>もありますから、そういうのを入れるのもいいかも、ですけどまず置くクリーチャーがいないと、ですよ」

「だよなあ。そうなると<ハーフリング>は外せないところではあるか」

 しばらく二人は喧々諤々とブックの構成について話していた。

 そこに油断があった。


「ですねえ、……」

「ん? どうした?」

 美咲の言葉が突如止まったので、シシデバルが顔を上げると、そこには三人の男達がいた。手には、拳銃。それが、美咲の頭にくっついている。もう一方の男の手の銃口は、シシデバルの方を向いている

 そんな中で、リーダー格と思しき男が声を出す。

「お前たち、何をやっている」

「えー、ゲームですがー、何かー?」

「連れてこい」

 リーダー格の男は、他の二人に言うと、一人先に歩き出した。残り二人の男が、美咲達に立ち、歩くように促す。

 シシデバルは渋々、美咲は戦々恐々で、それに応じる。銃口は、きっちり背中にくっついている。

 歩きながら、美咲はシシデバルに問う。

「どうにかなります? あれを使ったりとか」

 あれ、とは当然白骨である。今は座った姿勢のままだ。あれが動かせれば、話は違ってくる。そう思った美咲であったが、シシデバルの応答はあっさりしていた。

「あなたが死んでもいいなら、なんとか出来るよ。この距離では巻き込まれる可能性が高いしね。どう?」

「死にたくないですねー」

 当然の答えである。

「ならしばらく様子見だ」

 そういうシシデバルに、男が怒鳴る。

「しゃべってないで歩け!」

「はいー」

 二者は、男たちの誘導するままに歩く。階段を登り、付いた先は何もない部屋だった。四方は壁で、成程、狙撃とかの用心か、と美咲は思う。それは同時に、狙撃されるような相手と対面しているということを意味するのにも、すぐに気づく。

 男の数は五人。先ほどから銃口を向けている二人以外に、部屋に二人いる。そして、リーダー格の男。

 そのリーダー格の男が、シシデバルを見、美咲を見る。そして心底疑問の顔になる。

「お前さん方、なんでこんなところにいるんだ? 見た所、警察でもないみたいだが」

 リーダー格の男の問いに、シシデバルは淀みなく答える。

「最近流行っているでしょー。位置情報と連動したタイプのゲームがー。あれをやっていたんですよー」

「こんなところにレアなのがいるとか言うのか?」

「ええそうですー」

 銃声。それは上に撃たれたものだが、その音は慣れていない美咲には恐怖を感じるに十分な音だった。

「下手な嘘は吐かないことだ。あんたの持ってるゲーム機ではそういうのは出てないくらいは知っている」

「そうですかー」

 シシデバルに動揺はない。ああいうもので撃たれても屁でもないのだろうが、自分はそうじゃないので、美咲は下手なことを言わないでくれないか、と視線でアピールする。

 しかし、その行動に全く意を解さないシシデバルは、へらへら笑いながら言葉を紡ぐ。

「本当のことを言いましょうかー?」

「その方がお互いの為だな」

「いいでしょーう。実はあちきはねー、猿回しなんですよー」

「……?」

 リーダー格の男の表情に疑念の色が浮かぶ。さっきとはまた違った意味でホラを言い出したように聞こえたのだろう。

 その訝しみを無視して、シシデバルは続ける。

「それもー、ただの猿じゃないですよー? 死んだ猿の、それも白骨ですよー?」

「この期に及んで、また駄ホラか?」

 リーダー格の男は、銃口をシシデバルに向ける。同時に、他の男たちも、銃をシシデバルの方へ。

「そんなに死にたいのか?」

 そう脅すリーダー格の男だが、それはやはりシシデバルには効果はなかった。むしろ、余計にへらへらとしている。

 そして、言う。

「いえいえー、これはー、」

 それから動いた、常人では見きれない速度で、隣の美咲をひっ捕まえて。そして言う。

「本当だ!」

 と同時に、コンクリートの床に亀裂が生じ、砕け、そして大穴が開く。

「なん!?」

 と、声を出す間も有らばこそ。男たちは下の階へと落ちていく。美咲を掴んでいたシシデバルは、既にその穴の圏外へと移動を済ませている。落ちるのは男たちだけだ。その渦中で、大きな白骨を見たと、リーダー格の男はのちに証言することになる。


 ひとまず助かり、ほっと一息吐く美咲の携帯が鳴る。相手はサティスファクション都である。

『美咲? なんか今大きな音がしたけど、大丈夫かしら?』

「大丈夫だよ。こっちの方はなんとかなったから」

『今一つなんのことだか分からないけど、大丈夫ならいいわ。でも、下には警察がわんさといるから、普通に出ていったら大変よ?』

「それなら、いい案があるんだけど、聞いてくれる?」

『それが本当にいい案ならね』

「じゃあさ、なんとかして警察の人たちのいる辺りの視界を悪く出来る?」

 電話越しに、サティスファクション都の困惑の顔が見えるようであった。


 その日、その廃ビルを取り囲んでいた警察及びマスコミ関係者は、突如発生した霧の中を駆け抜けていく大きな猿のようなものを見ることになるが、それが白骨であったこと、その体の中にシシデバルと美咲が入っていたことには、気づくことはなかった。

 色々とコンセプトを考えてブックを組む、デッキを組む、というのはTCG、トレーディングカードゲームの楽しみの一つですが、やってて楽しいけど強い訳でもなかったりするものです。それでも勝率を上げる為に思考する。そういうのもまた楽しいのです。

 そろそろこの話も畳まないと、ですが、まだ要素は色々あるので、それに言及する内容も書きたい。ので、終わり方が変わってきそうな。どうなるかなあ。

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