第十三話 <無属性>のキーカードは何ぞや
第十二話から続いております。
ある都市のある住宅街。そのはずれもはずれに、そのゲーマー妖怪の屋敷はある。
そこで、ゲーマー妖怪二体が面と向かって座っている。
「じゃあ、やりましょうか。今日という今日はギッタンギッタンにしてやるわよ、パッション」
「ならいつものようにけちょんけちょんにしてさしあげますよ、サティスファクション」
黒い髪のサティスファクション都と、白い髪のパッション郷は、お互いに睨みあっている。
「実際の所、勝率はどうなの?」
茶色の髪の犬飼美咲が、銀髪のニシワタリに尋ねる。
「概ね、サティスファクションの方が負けこんでいる、といったところデスネ。基本的に、サティスファクションのブックは趣味的なところがありマシテ、その分がパッションとの勝敗に明確に響いているのデスヨ」
「外野! 五月蠅いわよ!」
「今日は外野じゃナクテ同盟相手デショウガ。まあいいデスヨ。今日はワタシがいるから勝てたって記録できるようにして差し上げマスヨ」
「言うだけの仕事をしてくれるなら、そうなってもいいわよ。まあ、それはさておき」
「早速やりましょうか」
「勿論よ。今回は絶対勝ってやるわよ」
「善処してください」
若干以上にサティスファクション都の方がから回っている感じの中、対戦が始まった。
このローカル対戦のルールをもう一度説明しておく。
まず、ニ対ニの同盟戦。サティスファクション都とニシワタリ組と、パッション郷と犬飼美咲組である。
禁止カードは<ブリードカード>のみ。それ以外に禁止されているものはない。
マップは<デュアルブランチ>。ゲート間の距離が長く、また移動する道の選択をする場面が二か所あるのが特徴のマップである。
そして、操作の時間制限は60秒。サティスファクション都が「30秒でも多い!」というほどせっかちなので、かなり交渉が難航してからの結論である。美咲がCPU以外との同盟戦に慣れていないというのが決め手となった。
目標魔力は同盟の基本線の12000。総ラウンドは40と決まった。
さておき、ゲームがスタートする。
初手は探り探りだ。相手の<ブック>構成を素早く見切る為、相手に手札をまずは確認する。
「やっぱり、相手の手札が見えるのって、カードゲームとしては他と一線画するってやつだね」
「それが分かっているからこその駆け引きも、このゲームの面白さですからね。しかし、予想通りにいつもの感ですね、サティスファクション。最初の手札で<ファイアーピーク>引く辺りがあなたらしくて素敵ですよ?
「そっちことガチガチの<火属性>対策じゃないのよ。<ミストウィング>に<トパーズアルム>が見えてるわよ」
「サティスファクション、あんたのターンデスヨ」
「わーってるわよ。よし、とりあえず4出ろ!」
ダイスは2と4で6。
「中途半端!」
「ほぼ中央値デスヨ」
「じゃなくて、行ける場所の事よ。魔法陣行っても、だし」
「でも、そっちじゃないと次に<火属性>土地行ける可能性ないデスヨ」
「わーってるわよ。仕方ないから、魔法陣に」
魔法陣では選択された二種類のスペルのどちらかが使える。出たのは、<マナ>と<ブラックアウト>。
「まだ領地もない状態だし、<マナ>ね。魔力50でも、無いよりましだし」
「次で<火属性>に止まれるといいですね」
「止まれるわよ。私ならね!」
吠えるサティスファクションを無視するパッション郷。次は美咲のターンだ。
「とりあえず、左の方に行った方がいいのかな?」
「ですね。とはいえ、美咲さんのメインである<地属性>は結構先ですから注意してください」
「でも、<水属性>も取った方がいいんだよね? 郷ちゃんのクリーチャー用に」
「出来るなら、ですね。ああ、<ハーフリング>がありますか」
「<ハーフリング>って、えーと?」
「とりあえず、ダイスを」
「あ、うん」
出目は2と2で4。
「<水属性>の方行って、で、<ハーフリング>でいいのかな?」
「大変結構です」
美咲は<ハーフリング>を配置する。
その効果について、パッション郷は説明する。
「<ハーフリング>は無属性クリーチャーですが、他の無属性クリーチャーでは得られない、地形効果を得ることが出来る、それもどの属性の土地でも、という特殊なクリーチャーです。基礎ステータスは強くはないですが、どの土地でも地形効果が得られる、というので二つの属性で組んでいる時などにある、あの属性の土地を押さえたいけど属性が合わない、というのがないのが強みです」
「それに」と操作をしながらサティスファクション都が言う。
「<防魔>、スペルを受け付けないという能力もあるから、高レベル領地の防衛でもそれなりにこなせるのがいい点ね」
そういうサティスファクション都は<火属性>を取れずに<地属性>土地に到達していた。
「いつ出せますかね、<ファイアーピーク>」
「ヒーローは遅れてやってくるものよ」
しばらく進み10R目。サティスファクション都は凹んでいた。
「私の、<ファイアーピーク>……」
<火属性>土地を確保出来、召喚には成功して一時は美咲が<ハーフリング>で確保した土地を奪いはしたのだが、すぐにパッション郷の<イエティ>の伝家の宝刀<即死>効果のさびになったのだ。
「サティスファクション、まだ序盤デスカラネ? <火属性>土地はきっちり確保出来ているんデスカラ、まだ出る目はありマスヨ? いつもの<フレイムデューク>だってまだデスシ? というか頑張って<火属性>土地確保したワタクシの身にもなってほしいデスヨ!?」
「……そうよね、まだまだこれから。それにこっちには秘策もある!」
立ち直ったサティスファクション都の手札を、パッション郷は興味深げに眺めてみた。そして、その秘策に気づく。
「……! サティスファクション、あなた」
「いつまでも火力で押し切るだけだとは思わないことね」
サティスファクション都の出した目は、<水属性>のLV4領地を<ミストウィング>が守るの上に躊躇なく止まった。
「いつものあなたなら、<火属性>だらけでどうにもならない、と思っていたのが甘かったですね。認識を改めないといけません」
「はてな? どういうこと。このままだと普通に倒せないと思うけど?」
「いえ、倒されます。<トロ―ジャンホース>で」
「<トロ―ジャンホース>?」
「まあ、見てなさい。<トロ―ジャンホース>はね、確かにSTは0のクリーチャーなの。でも全ての属性クリーチャーを<援護>素材として使えるのよ。<無属性>の<援護>持ちだから、攻撃は当然<無属性>になる。それがまず一つの特徴ね」
「もう一つは」パッション郷が引き継ぐ。
「どの敵クリーチャー相手でも<貫通>することが出来るんですよ。つまり」
画面は戦闘画面に移行する。サティスファクション都は<トロ―ジャンホース>に<デスサイズ>を<援護>につける。対するパッション郷は<ミストウィング>にアイテムがないのでそのまま。通常なら、攻撃側が<デスサイズ>のST分で70、防衛側がHP40に地形効果の+40で80、防衛側がHP10残して耐えられるはずである。しかし、攻撃は<貫通>。
「地形効果は無視され、素のHPだけになりますから、ここの勝負は負けですね」
<ミストウィング>は倒され、土地はサティスファクション都の物になる。
「取ったり」
「やりますね、サティスファクション。火力大好きのあなたが搦め手を使ってくるとは」
「ええ。でも火力も大好きよ? この全属性に70の貫通ダメージは中々お目にかかれないでしょ?」
さて、とサティスファクションは一息入れる。
「次は<イエティ>を屠ってあげるから感謝しなさい?」
「一応、アイテムをなくさせたワタシの<シャッター>も褒めてくれマセンカネ?」
「いいから、次行くわよ!」
「うん。とりあえず<シャイニングガイザー>」
「えー!?」
手番は美咲に代わっていた。そして、ダメージ30の<シャイニングガイザー>が<トロ―ジャンホース>を直撃する。
「折角取ったのにー!」
その声を無視して、美咲はターンを進める。
「で、ダイス振って。……あ、この場合どうしたらいいかな?」
美咲は今、左下の分岐点で、ニシワタリのクリーチャーがいる土地か、パッション郷のクリーチャーがいる土地か、の二者択一を迫られている。
「常道ではこちら側なんですが、今の美咲さんの手札なら、ニシワタリの方に行くのも手でしょう」
「でも、手持ちだと……、ああ、大丈夫なんだ!」
「分かってくれたようですね」
「美咲さんの手札がどう、ってああソウカー」
ニシワタリが状況に気づいていきなり匙を投げる。何事か、とサティスファクション都も美咲の手札を確認して、理解する。
「<ニンジャ>が<先制>持ちだからって油断してたわね、ニシワタリ。<スパークボール>があれば、<巻物強打>で60ダメージ。<グレートタスカー>では耐えられないわね」
「トイウカ、基礎ステータスもST40のHP40でそこそこあるのに<先制>と<巻物強打>の二つを併せ持つってチートデスカ?」
「<無属性>じゃなければ確実に強すぎるわよね。それよりも、なんであんたHP上昇系の防具をブックに入れてないのよ!」
「失礼な。この状況を打破する可能性のある<ウォーロックディスク>なら入ってマスヨ! 引けてないデスガ!」
「はい、いきまーす」
美咲はぐだぐだ言っている二体を無視して土地に突撃する。LV3の高額土地だが、巻物は地形効果の影響を受けない。よって<巻物強打>で60ダメージを出されてはHP50の<グレートタスカー>では太刀打ちできない。その土地は美咲の手に落ちた。
「取って取られて、ね」
そう呟くサティスファクション都。状況を見れば、左側の<水属性>土地はまだパッション郷と美咲の勢力圏だ。対して右側の<火属性>土地はサティスファクション都とニシワタリで勢力圏を作っている。<風属性>土地はスカスカで、<地属性>土地が美咲とニシワタリが勢力争いを見せている。
狙うべきは、双方の勢力圏の切り崩しと、<地属性>土地の平定。
「ニシワタリ! あんたの出番よ!」
「単なる手番でショウニ」
「とにかくやりなさい!」
「はいはい、妖怪使いが荒いお方デスヨ。で、まず<スパルトイ>」
<スパルトイ>の効果で、空いている土地に<スケルトン>が召喚される。それも丁度、先ほどサティスファクション都が取り損ねた土地だ。
「えー!?」
「オオ、ラッキーデスナ。で、移動して、召喚しマショウ。<ボージェス>」
「ここで<ボージェス>ですか」
「<ボージェス>、ってどんなクリーチャーなの?」
「性能自体は並み程度ですが、<応援>によって、戦闘時の<無属性>クリーチャーのHPにプラス20が加算されます。レベル2領地並みの効果、ですが、そもそも地形効果を貰えない<無属性>クリーチャーにはそれでも十分な効果です。今の<スケルトン>も、HP60で再生持ち、ですからかなり防衛力が上がっていますよ」
「本当なら<トロ―ジャンホース>の移動進撃へのフォローをしようと思ってたんだけどね。でも、あの土地を取れたのは大きいわ。グッドジョブよ、ランダム!」
「ワタシの運を褒めてもらいたいデスネエ」
「こちらの<無属性>クリーチャーにも効果があるので、とてもいい手、ではないとも思いますしね」
「へん! なら取ってみろってのよ! こっちは、あ、防具ないんだっけ!?」
「<ウォーロックディスク>だと<応援>も消えマスシネエ」
「なんであんたはそういう変な構成なのよ!」
「火力バカに言われたかないデスナ!」
「喧嘩はいいから、進めてください」
しばらくRが進む。後半に入ってきて、目標魔力に近づいてくる。止まる土地で安い通行料を取られる場面も増えてきた。取ったり取られたりもあり、一進一退。
しかし、懸案は高額領地である。それも増えてきて、いつ止まるか、という状況だ。
だというのに、<トロ―ジャンホース>で取った高額領地は、<火属性>にはなっているものの、<スパルトイ>で出した<スケルトン>が守るままだった。高額領地ゆえに属性を変える魔力が高い点、ゲートまで長く、細かく魔力を取ったり取られたりするがゆえに魔力の回復が中々難しい点が、この怠惰な守りを維持させていた。
しかし、ここで岐路が励起する。美咲が、ついにその土地を踏んだのだ。
「やった! 頂きだわ!」
サティスファクション都が勝利宣言をする。お互いの魔力はあともうちょっとで目標魔力である。ここでがっつりと魔力を取れば、勝利は目前だ。
「そうですかね?」
しかし、パッション郷は冷静である。むしろ勝ちを取ったのは自分達だ、と言わんばかりに。
その冷静さに、サティスファクション都は違和感を覚える。そういえば、先に高額領地を奪われたりしたのも、美咲の手番である。つまり、美咲に勝てる手段があるということだ。
急いで美咲の手札を確認しようとするが、既に戦闘画面で美咲の行動は決定されている。それを見て、ニシワタリが叫んだ。
「<デコイ>で<リビングボム>デスカ!」
「これでいいの、郷ちゃん?」
尋ねる美咲に、パッション郷は悠然と、余裕をもって答える。
「ええ。<デコイ>はST0のHP10という脆弱なクリーチャーですが、通常攻撃を全て<反射>出来ます。高い防衛性能のクリーチャーと言えるでしょう。そして<リビングボム>。アイテムとしても使える<アイテムクリーチャー>で、アイテムとしての効果は戦闘終了時に敵味方どちらかのHPが20以下になっているなら、敵味方どちらも倒されるというものです。HP10の<デコイ>が使えばほぼ確実に相手クリーチャーも道連れです」
「こんな時の<ウォーロックディスク>は!」
サティスファクション都がニシワタリに問いかける。その答えは首の横ふり。
「今日の<ウォーロックディスク>は機嫌が悪いみたいで」
「ぬがー!」
戦闘は終了する。<リビングボム>の効果で、<デコイ>と<スケルトン>は共に破壊され、空き地が生まれる。
「でもまだ、そこに止まれれば、って遠い! <スパルトイ>しなさい、ニシワタリ!」
「はいはい。……<風属性>土地がら空きデスモンネー」
<スパルトイ>で召喚された<スケルトン>は、今度は空いている<風属性>土地に現れた。
そして手番はパッション郷に。パッション郷は4マス前の、先ほど出来た高額領地に<マジカルリープ>で移動。クリーチャーを配置する。そして、目標魔力12000に到達する。
後は、順番が一巡してのパッション郷の手番で、悠々とゲートくぐることで勝敗が決した。
ニシワタリと美咲が台所に行っている隙を突いて、パッション郷はサティスファクション都に近寄り、言った。
「言ったでしょう? けちょんけちょんにするって」
「あー、はいはい。けちょんけちょんよ」
サティスファクション都は劇的に負けてしまってかなり不貞腐れている。勿論、それだけが不貞腐れの理由ではない。美咲が今後もパッション郷に付いて行くことを止められなかったのも関係している。
それを見かねて、パッション郷は言う。
「そんなに気になるんでしたら、またあなたも来ればいいじゃないですか」
「……まあ、そういう方向になるだろうとは思ったけどね」
不貞腐れた態度を解き、サティスファクション都は言い募る。
「でも、美咲の危険への当たり方ってもしかすると私でもどうにもできないかもしれない、って思うと、やっぱり行かせたくないのよ。一緒に行って、助けられなかったら、とも思っちゃうしね。あり得ない話でもないからね」
「大妖怪だった者が、小さい人間如きでよくもまあ」
「……。私としては、大妖怪だった者が、小さい人間如きをそこまで大丈夫だと高い評価している方が不思議だけどね」
「……」
「……」
しばしの沈黙。
それを破るのはサティスファクション都だった。
「まあ、いいわ。次行く時は付いて行くわよ。私だけじゃなく、ニシワタリも、城も連れてね。それだけいれば、遉に大丈夫でしょうし」
「本当に」
と言ってから、すぐにパッション郷は口をつぐんだ。
「ん? どうしたの?」
「いえ、なんでもありませんよ」
そう答えるパッション郷は、そのつぐんだ言葉を、誰にも聞かれない音量で呟いた。
「大事、なんですね」
それは誰にも聞こえなかった。
ということで、第十三話。無属性クリーチャー話でした。変則的にゲームプレイを模して、してみましたが頭が痛くなりますな。今一上手くいったとも思えないので、今後の課題であります。
無属性クリーチャーは基本的に地形効果、領地レベルで得られるプラスのHPがない、というので扱いにくい感じですが、特徴的な能力が色々あるので上手く組み込めると面白さが上がっていいのです。この回の素案を考えていたらトロ―ジャンホース実は強くね!? ってなったりしましたよ。
さておき。次回は一応スペルの話。ダメージスペルをどう使うかみたいな回になるかと。
とかなんとか。




