第十二話 <水属性>のキーカードは何ぞや
とある県のとある街。その片隅に、ゲーマー妖怪の巣があった。そこで、二体のゲーマー妖怪が、押し問答をしている。
その一方、腰まですぅと通る長い黒髪を持つ妖怪、サティスファクション都が言う。
「なんであなたは、いつもいつも美咲を危険に晒すわけ?」
もう一方、これまた腰まである長い白髪の妖怪、パッション郷が答える。
「それについては、わたしも忸怩たるものがありましてね。もう、あれだけ厄難を集めるというのは一種の特異体質なんじゃないかと。それが分かっていなかったわたしの不徳の致すところですよ」
「訳の分からない韜晦はいいのよ。でも、確かに美咲にはそういうところはあるわね。そもそも、私に出会ったのだって、かなり厄いタイミングだったわけだし」
「でしょう? あの人、絶対前世で何かしでかしてますよ」
「よねえ、じゃなく! そうだとしても近づけすぎるな、ってことよ。二度もとり憑かせるなんて正気の沙汰じゃないわよ?」
「一回目は不可抗力ですよ」
「そっちじゃなく、二回目の方! 美咲がいいっていうからって本当にするやつがあるかってはなしよ。きちんと止めたの?」
「止めたんですけどねえ。でも本当にやるって聞かなくて。あなたも美咲さん関連でそういう経験はあるでしょう?」
「だからそうやって搦め手してくるんじゃないの! 確かにあるけど、それとこれとは話が別よ。そこは、無視して廃病院を出るべきだったとか、あるでしょう?」
「なくはないですね」
「大ありなのよ! ……はあ」
そこでサティスファクション都は溜息を吐く。いい加減言い争いにも疲れてしまったのだ。それを見越して、パッション郷は話を逸らす。
「わたしばかり叱られるのもなんですから、ここは当人にも登壇していただきましょう」
「……なんで黙っててくれないかなあ」
見れば、隣の部屋で布団に収まっていた美咲とニシワタリが目を覚ましていた。どちらも先ほどまでは気を失っていたのである。
美咲はもそもそと起き上がる。ニシワタリも。そしてパッション郷とサティスファクション都のいる部屋へと移動し、どっこらしょ、と座る。
それを確認して、サティスファクション都は、言う。
「美咲。あなたも手のかかる子供って歳でもないでしょう? 危険があったらむしろ踏む、みたいな行動は慎みなさい。というか、霊を二度も降ろすなんて、ただの人のあなたには荷が勝ちすぎているわよ?」
「でも、そうしないといけないと、思ったんだよ。確かに、危ないのは分かってたけどね。でも、そうしないと助けられなかったんだよ」
「……」
サティスファクション都の舌鋒が鈍る。その隙を、パッション郷は見逃さなかった。
「ああするしか、なかった。そうですよね、美咲さん」
「うん、そうだよ。ああするしかなかったんだよ」
「……はあ」
本日二度目の溜息を吐くサティスファクション都。しかし、立ち直りは早かった。困惑げだった眼差しを鋭く戻すと、のたまう。
「私もね、行くなとは言わないのよ。人の事言えた義理じゃないしね。でも、危険をあえて踏むな、とは言わせてほしい訳。美咲、あなたがしていることは、前にも言ったけど危ないのよ?」
「うん、分かってるよ」
「そうね、分かってはいるでしょうね。でも、はたから見たら等しく危なっかしいのよ」
とはいえ、とサティスファクション都は続ける。
「言っても止められないのは分かっているわ。だから実力行使に出るわよ」
言うと、サティスファクション都は懐に手をやり、服の中から何かを取り出した。
見れば、それは3DS。
「『カルドセプト リボルト』で勝負よ!」
タイミングよく、カラスの鳴く声が聞こえた。
「レギュレーションは?」
静寂した空間を裂いたのは、パッション郷の言葉だった。
「マップは<デュアルブランチ>。同盟ありでGは12000。制限は<ブリードなし>を適応。どう?」
尋ねるサティスファクション都に、パッション郷はきり返す。
「なら、私は美咲さんと同盟、という形でいいんですか?」
「ええ。私はニシワタリと同盟という形でいくわ」
「ナンデいきなりワタシまで巻き込まれてマスカネエ!?」
「美咲を守れないところだったのを赦免してやるから、混じりなさい」
「……そこを突かれると従わざるを得マセンネ」
「<ブック>構築に時間が欲しいのですが?」
パッション郷の言葉に、サティスファクション都は首肯する。
「そうね。それは私も欲しいところだから、一時間後に、でいいかしら?」
「承りました。では、<ブック>構築しますので、美咲さんはお借りしますね?」
「ああ、もってけ!」
「あたしは物じゃないんだけどなあ……」
パッション郷に引きずられるようにして、美咲はいつもの和室を後にした。
パッション郷の部屋。そこはいつも通り乱雑なのか精緻なのか分からない置物配列の場所であった。そこに、いつの間にかホワイトボードが鎮座している。
「さて」
そう切り出したパッション郷は、ホワイトボードに『特徴的<水属性>クリーチャー』と書きだす。
「美咲さんは<地属性>がメインでしたね」
「だね。<水属性>は確かに詳しくないよ。……今から覚えろってこと?」
パッション郷は首肯。
「わたしが<ブック>を組みながら説明しますので、要点をきっちり覚えてください。同盟戦は、味方のカードの情報もきっちり覚えていないといけませんからね」
そういうと、パッション郷は左右の手で3DSを持ち、もう一本生やした手でホワイトボードに文字を書く。
「まず、<アプサラス>」
生えた手が、流麗な字をホワイトボードに記載する。
「このクリーチャーはステータス自体はST20のHP40とそれほどでもないですが、領地のレベルが3以上だと通常攻撃<無効化>が発動するのが大きな特徴です」
「……、それって結構強いんじゃ?」
そうですね、とパッション郷。
「領地レベル3はそれなりにやりやすい条件です。それで<無効化>ですから、相当の強さですよ。それにレベル3以上であれば、土地の属性を問わないのも大きいです。巻物攻撃や<無効化>無効対策や、スペル対策が万全なら、堅牢な砦になります。これを3枚。この守り用のアイテムとして<リアクトアーマー>2枚と<マジックシールド>3枚、スペル対策に<マジックシェルター>3枚は入れたいですね」
次に、とパッション郷は続けて板書する。
「<アクアデューク>。ST及びHPが50と高く、<援護>持ちでそれだけでも防衛力はありますが、アイテムで防具を使うと通常攻撃<無効化>が発動するという強力なクリーチャーです。またスペルによるダメージ効果を受け付けないので、防衛力に関しては<アプサラス>より高い場合もあると言えるでしょう。弱点は保持領地が縛りがきついことぐらいですね」
それから、と続けるパッション郷。板書も続ける。
「<イエティ>ですね。<火属性>クリーチャーの攻撃を<無効化>可能で、また攻撃成功時に60%とはいえ即死させられる場合がある、<火属性>キラーです」
「<火属性>は都ちゃんが良く使うやつだね?」
「そうです。サティスファクションは<火属性>重視の脳筋プレイが好きですから、その対策として入れておきましょう。2枚あれば十分ですね」
次に、と言って板書するパッション郷。
「<スキュラ>。基礎能力は平凡ですが、特徴的な二つの能力があります。一つが通行料無効を相手クリーチャーに付けること。もう一つが、相手の攻撃成功時能力を受け付けないこと」
「通行料無効は分かり易いね。それが高い所で止まった時にこれが出来たら、結構大きいアドバンテージになるのは分かるよ。でも攻撃成功時能力、って意味が分からないんだけど」
「言い方を変えましょう。攻撃を食らった時に受けるバッドステータスを受け付けない、ですね」
「ということは、即死とかを無効に出来る、ってこと?」
「その通り。アイテム制限も無いので、攻めでも守りでも扱い方次第で活躍出来るクリーチャーですね。2枚入れて、防衛用の<プレートアーマー>も2枚ほど」
それと、とパッション郷は続ける。
「今まで挙げたクリーチャーは全て水領地保持が必要なクリーチャーです。なのでそれを確保しやすいクリーチャーも入れたいところですね。ということで、<先制>持ちで防衛のしやすい<リザードマン>、HP30以下のクリーチャーの攻撃<無効化>のある<アクアリング>、性能的には、ですが魔力コストの低い<アイスウォール>、基本性能の高い<ブルーオーガ>辺りもそれぞれ2枚程度入れておきましょう」
「ここまでのを見ると、防衛重視だね。攻めは考えないの?」
美咲の気づきに、パッション郷は目を輝かせる。
「同盟戦はネット対戦ではできないんですよ」
「……、つまり?」
「わたしは防衛担当。美咲さんは攻撃担当というのでどうでしょうか?」
目の輝きの理由が分かった美咲であったが、パッション郷の発案には難点があった。
「あたしの<ブック>も<地属性>主体だから守り主体なんだけど?」
そういう美咲の返しに、パッション郷は特に動揺無く答える。
「それもそうですね。となると、こちらも攻撃の手管は必要ですね」
となると、とパッション郷は3DSを操作して、これは、というのを見つけ出す。そして板書。
「<ディープシードラゴン>ですかね。<先制>持ちでST50のHP50と高能力ですが、それ以上に重要なのはアイテムを使わなければST分の巻物攻撃が出来る点ですね。威力50の巻物攻撃を、先手を取って使えるのはなかなか強力です」
「でも水属性領地二つ保持してないと、なんだね」
「若干重いですが、それに見合う力はありますよ。2枚入れておきましょう」
後は、とカードとにらめっこしながら、パッション郷は言う。
「<ハイド>もいいですね。<秘術>として戦闘行動不能を付けることができます。特殊能力は全て封印することが出来るので、汎用性の高い<秘術>ですね。これも2枚ほど」
そして、パッション郷はカードの微調整をして<ブック>を完成させた。
「結局どういうコンセプトなのかな?」
美咲の問いに、パッション郷は明確な答えを言う。
「対<火属性>向け防衛、といったところでしょうね。基本的に防衛をするのが目的なので、序盤でまきやすい<ファイター>や<アクアリング>、<ハーフリング>や<アイスウォール>を使って領地を取り、取ったクリーチャーを防衛向きクリーチャー、<アプサラス>や<アクアデューク>に入れ替えて固めるのが基本コンセプトですね。そこに<火属性>対策の<イエティ>や<ディープシードラゴン>での侵略も視野に入れていく形です。アイテムも<プレートメイル>や<マジックシールド>等で防衛向きに、スペルも<マジックシェルター>での防衛や<アクアシフト>での属性変化を狙っていく形ですね」
「となると、あたしの<ブック>はどういう風にしたらいいんだろう?」
「<地属性>で侵略向きのクリーチャーを中心にしていただきたいところです。とはいえ、どちらも防衛、というのもいいかもしれませんね。何しろやったことないことですし。試してみる価値はあるでしょう」
「分かった。じゃあ、あたしはあたしの好きなように組み直してみるよ。時間は……30分だね」
そういうと、美咲は3DSを起動して、<ブック>の編集を行い始めた。
そして、時間は経過した。パッション郷の部屋からいつもの和室に行くと、サティスファクション都が腕組みして待っていた。
「逃げずによく来たわね、パッション。敵ながらあっぱれよ」
「何を訳の分からないことを言っているんデスカ、サティスファクション」
「というか、来ただけであっぱれ出すってどんな状況なのかな?」
「それはおいておいて、早速始めましょう」
「ぐぬぬ……」
ぐぬぬっているサティスファクション都を放っておいて、二体と一人は3DS突っつき合わせる。そこに残りの一体、つまりサティスファクション都も集い、ゲームはスタートされた。
(次回に続く)
この後が長くなりそうなので、今回はここで区切り。次回はゲームプレイをお話に仕立てられたらなあ、という予定です。カードピックアップも大体終わったので、毛色を変えていかないとなあ。
とかなんとか。




