99. 二枚の布(金貨11枚)
「親愛恋慕とか言う魔法武器を回収する為に俺の城へ。名前はセンティーレ。職業は……精神潜行者つったっけ?」
「へ……へぅ……」
「この背中の羽は、ハーフフェアリーだな?」
「ふぁ……」
俺の尋問の様子を、閉口しながらメイド達が見守る。
センティーレは目が虚ろだ。まぁよくある反応だろう。
メイドの中にはどん引いてるやつも居るけどこれが俺のやり方だぜ。
体に聞くのが一番だ。
俺は体を動かしながら辺りを見回した。
メイド達は、イレブンだけ居ないようだ。アリスが連れて行ったという話。
あいつらが俺を助けに行動してくれるなんてな、……ありがたい事だ。
センティーレを問い詰めた結果、わかった事がいくつかある。
こいつは禁忌の子だ。
そんでこいつ、さっきパック達が話していた奴と同じ名前だ。
奴らもまさかこんな早く俺が帰れるとは思ってなかっただろ。
もぬけの殻っつーのがこの城の事だったってのは想定外だったが。
んで今からはその親愛恋慕を探さにゃならないようだな。
テセウスかパックのキーアイテムのようだし。
反応がなくなってしまったので口を横から引っ張りながら返答を促す。
「まだ喋れる?」
「ひゃ、ひゃい!」
「……親愛恋慕が今どこにあるか知ってるか?」
センティーレはビクッと震える。
なんでこんな聞き方をしたのかと言うと、もうすでに回収している可能性があるからだ。
一旦両手を離してやって手錠で後ろ手に繋ぐ。
どちゃっと倒れた後にもぞもぞと起き上がり、正座の格好になった。
「し、し、しらにゃい」
「本当か?」
呂律が回っていないな。
猫背の状態で正座しているのでかなり低くなっている彼女の顔を、俺も片膝ついて更に下から睨めつける。
触れ合うくらいに近づいているお蔭で首元と顔から汗が噴き出す様子も見える。視線があちらこちらへ飛ぶ。……汗をかいているのは先程までの運動のせいもあると思われるが。
「言うなら早い程有利だぞ。先日メノって奴に処した罰はこんなんだった」
買ってある映像を『直接』見せてやる。
彼女の口から漏れる空気の量が増えていく。
ふ、ふーふー、……ふひ、ひひひ……。
自嘲気味なこの感じはゲロってくれそうだ。
……人間限界を超えて追い詰められると笑っちゃうって本当なんだな。
少しだけ可哀想になった。
まぁあんな奴に支えてるんだ。自業自得ってやつだろう。
「知らないならやられ損になるが、知ってるなら話しちまえば情状酌量の余地はあるな?」
「もう、ここにはない……」
なんだって?
「……すでに回収して『旅する小箱』で送っちまった、よ」
「手間かけさせやがって。……骨折り損になるのは嫌だから知ってる事全部吐け」
するとこいつは、俺が戻ってきた時持っていこうとしたらしき壺を右手で指さした。
その、俺の所有物である壺の中を覗くと小箱が入っている。
オルゴールのように蓋が蝶番になっていて、それを開くと光る被膜が底を覆っている。
マジックアイテムか、旅人系の能力でよく見るヤツだ。
「誰か要らないペンをくれ」
「はい」
メイドの一人に羽ペンを取ってもらい、それを箱の中に入れると少しずつ吸い込まれていって、ものの数秒で消えてしまった。
「これは小さいモノしか送れないのか?」
「……」
シェアリングボックスという名前の通り、これはアイテムの送受信をするためのものだろう。
しかし返事くらいしてくれ。
「さっき見せた映像もう忘れちまった? 実体験してみるか?」
「ひ、い、やだ! 話すからやめて!」
二度手間は嫌いだ。
数分間のやり取りの後、俺はまとめる為に聞き返した。
「ふむふむ、この箱で送れるのは小さな無生物のみ、収まらない物質でも棒状ならば送る事ができる。転送先には受ける専用の箱が置いてある、と」
「そ、そう」
「あっそ、じゃもっと有用な情報を吐いて欲しいんだけど。
例えばパックがやろうとしてる事とか、親愛恋慕の能力とか」
「……それは、し、知らない」
これ以上しらばっくれる理由がないから本当に知らないんだろうな。
ロックされている可能性もあるし。
だが、知ってるだろう情報には見当がつく。
「じゃあ、お前の親父について知ってる事全部吐け」
「……お、親父」
「お前シルキーに似すぎてんだよ雰囲気が。テセウスなんだろ親父」
「知らない」
ダメか。まぁ知ってる必要はないだろうしロックされてるよなそりゃ。
とりあえず諦めよう。
「えーと、まず城中から生ごみとか枝なんかを集めてほしい」
「わかりました」
「あとこれ」
首を傾げるメイドに、マジックアイテムの布を二枚渡す。
奇術師の掌とはためく旗。
「指示通りに投入してほしい」
「わかりました。
「あとは誰か、こいつをカントカンドへ送っといてくれ」
「……ええと、お言葉ですがマスター様」
「なんだ?」
ファイブだかシックスが声をかけてくる。
「カントカンドには管理者が居ません、現状維持はしていますが実質閉店状態です」
「……ナンデ!?」
カタコトになってしまった。
メノは? イージスとロズへの牽制にもなる駒の一つなのに。
「メノはアリス様たちと行動を共にしているようです」
「な、な……」
なんで?
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「そろそろ順調にいけば親愛恋慕が届く頃合いか」
「ソウか、ではワシが見に行こう」
「いや、俺も行くぜ」
テセウスを窘めて俺も旅する小箱の管理室へと足を向ける。
あれだけの魂がありゃ事足りんだろォよ。
これで、あとはマスターの御仲間連中に差し向けた概念使いがどれだけ健闘してくれるかだな。
まずは奴らの魂の解放をして『力』を世界に解き放つ。
テセウスやマスターと決着をつける可能性もあるが……まぁ問題ねぇ。
あとは、マスターの金とフェイト次第だ。
正当な手段で行かねえと何言われるかわかんねえしな。
……そもそも何が正当かなんて決まってねえんだが、まぁ念には念をだ。
この戦いで概念使い達はほとんどが負けて死ぬだろうよ。
マスターの仲間達も……まぁ一人二人くらいは削られて欲しいとこだが。
だが何かを成して死ぬのなら、それは必要な事だ。
メサイア、いや、メビウスは残念だった。
フェイトの話によると、何をどうあがいてもメビウスがあの辺りのタイミングで死ぬ事は決まっていたらしい。
決まっていた死。そんなん悲しすぎるじゃねーか。
だから、死に場所を用意してやった。
こちらの有利に話が展開するようにな。
アイツとは、もう話はつけてあった。
死ぬなんて信じちゃいなかったが、それでも戦う事を了承したんだ。
当て馬扱いなんてしてねえ。
アイツは一人の人間として戦って死んだんだ。
死んだら終わりだ。だから悲しい。だから泣く。
なんも間違った事はしちゃいねえ。
卑怯だとか常識だとか。
そういうのもただの大多数の意見、暗黙の了解って奴だ。
勝つ為に本気になる事の何が悪りぃんだ。
マスター、てめーはまだ甘いんだよ。
無言で歩きながら、思考の海に沈む。
こうしていると、落ち着く。
考えが周り、次自分が何をするべきか冷静に考えられんだ。
目下、親愛恋慕。
続いて邪魔者の排除。
あちらへ行く準備、そして……。ん?
「……テセウス、なんか臭くねーか?」
「ワシは何も感じぬ」
「てめー鼻まで無機物に置換してるからわからねぇだけじゃねーのか」
アホなやり取りしてねぇで早く開けんだよ!
テセウスが管理室の扉を開けると、むわっとした臭気が部屋から溢れだしてきた。
「なんだこれは、山のような……」
「……ゴミの山ですな」
生ゴミ。木の棒。折れた杖。欠けた剣。
そんなものが、天井に設置された旅する小箱から溢れだしてくる。
マジかよ、センティーレの奴何やらかしたんだ……。
そんな事を思っていると、最後に布が巻き付いた長い棒状のものが降ってきてゴミの山に突き立った。
その布は勝手に広がり、風もないのにはためき始めた。
これはまるで旗のようだ。
その布部分には嘲るような字体でこう書かれていた。
「親愛なるパックへ。プレゼントフォーユー! マスターより」




