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96. フランカレドの命(金貨31枚)

 歩くたびに、ガシャガシャと地面が割れる。

 ソリチュードの限定空間ってこんな感じだったっけ?

 なんか違う気がするっしょ。


 薄かったガラス状のそれが、段々厚みを増して割れなくなってくる。

 段々と、遠くの方にピカピカ光る黒い山が見えてきた。


 なんすかあれ?

 その付近まで一気に飛ぶ。

 そこにあったのは……。


「おーおー……まぁ、分が悪かったっすね」


 真っ黒焦げになった死体。

 骨だけになった死体。

 チリの山。

 骨の山。


 二刀を構えて、立ったまま息絶えている少女。


 視界に広がるのはそのようなものたち。

 黒い山は、混じる不純物から推測するに、溶けたナイフ。


「空間が消えてないって事は、まだ生きてるんすね」


 岩のように溶け固まった砂が転がって行き、埋もれた何かしらがうめき声を上げる。

 独り言を言ったつもりが、返事を返された。


「シラセか。こ、ここだ。滅ぼされるかと思ったよ」


 ガラリと音を立てチリと骨の山から這い出てくるのは、灰色髪のオッサン、ソリチュード。

 愛称はソリさん。

 んー? 傷はないけど……知ってるよりなんか。


「老けたっすか?」

「……やっぱそう見えるか?

 私の寿命、あとどんくらいだろうね?」

「んー……10秒ってとこっすかね」


 ニッと笑顔を向ける。

 逆に、顔から色が抜けていくソリさん。


「なんか言い残した事はあるっすか?」

「これは、嘘だ! まだ余力はある! パックの指示かい!? 私はまだやれる! マスターだって一捻りできるぞ!」

「それは困るっしょ。うちはもう、パックを裏切るつもりっすから」


 ソリさんの顔が絶望に染まる。

 ……今のうちめっちゃ悪役っぽいっすね。


 ま、でも、マスターが悪役っすからね。

 別にいいっすよ。


 うちが愛した人は、もういないっす。


 でも、愛しの子であるフェイトもまだ生きてる。

 ジョニーの子の、大事なマスターもなんとか生きてる。


 もう、パックには好き勝手させないっすよ。


「そろそろ10秒っす。未練はないっすね」

「い、嫌だ! 諦めないぞ、お前如きにやられる私ではない! そう、そうだ! どうして私に勝てると思っているのか。寿命が近いとは言え私は概」


 セリフが長いっす。


「唸れ、骨喰い! 概念断ち(コンセプトレンダー)!」

「ち、ちょっと待てェ!」


 なんすか。


「命乞いなら聞かないっすよ」

「……取引をしようか。フランカレドはほぼ死んだ。けど恐らく今なら生き残ってる僅かな細胞から再生ができるはずだ。時間が経つほど確」

「今すぐ治したら考えるっす。」


 骨喰いを首筋に当てて少しずつ押し込んでいく。


「待て、待て! そこを見ろ! 治した!」

「なら、もう用済みっすね」


 命を斬った。

 細胞が生きてるだの、なんだの。


 死んじゃったらそれで終わりっす。

 フランカレドも、正直期待してない。

 間に合えば助けたかったっすけどね。


 ……あとはこの世界から出るだけ……。

 ほっときゃ勝手に消えるんすけどね、この手の限定空間は。


 ってあら!?


「う……」


 立ったまま死んでいた少女の足元に、死にかけの少女が倒れている。

 ところどころパーツが足りていない。


 肉がなかったり穴が空いていたり、瞑ったままのその左眼から流れる血は、その内側のダメージを想像させる。


「あー! ハンパな事されると困るっす!」


 ギリギリで生かしておいて交渉の種にしようとしたんすね……。

 だからああ言うのは話し合いの余地を残さず殺すのが一番なんすよ。


「フランカレド、さん? 生きてるっすか!」

「うぅ、げほっ……げぶっ!」


 口から大量の血を吐く少女。

 内臓も足りてなさそうっす。


 『死』を斬ったりとかして助けてやりたいっすけど……。

 できるかどうかわからないっす。


「あーもう、どうやるんだっけ、概念断ちは命しか斬ったことないから覚えてないっすよぉー!」

「コンセプトレンダー? ……さわりだけでいい、おしえてくれ!」


 な、なんすかいきなり!

 死にかかってるんすよ、って言うかさっきまで死んでたっしょ!

 よ、よくこんなボロボロの体で掴みかかってくるっしょ……。


「……命を斬りたいなら、まず命を『見る』んすよ、そんで」

「わかった、こうだ!」


 少女は、自らの死体(・・・・・)が持っている桜色の刀を手に取り。

 自分の身体に突き立てた。


「ちょ、なんで、いや、何してんすか!」


 深々と刺さったその刀は、その周辺の傷口を少しずつ癒していくように見える。

 ある程度繋がったところで一気に引き抜いた。

 抜かれた後の腹の穴からは血が一滴も出てこない。


 な、なんすかこれ……。


 というか、まだ解説の入口も入口っすよ。

 一を聞いて十を知るとかそんなレベルの話じゃないっす。


「……わたしの『しにつながるきず』というがいねんをせつだんした。わたしの『しそのもの』のせつだんはまりょくがたりなかった」


 概念断ちって『概念的存在』とか『概念防御』持ちを倒すための技術じゃなかったんすか……。


「そっちがおもだな。だがおうようしだいでこんなこともできるようだ」


 ……心を読まれた?

 ちょ、こんな才能持った味方が消えるとこだったんすか!?


 ヒヤリハットっつーんすかねこういうの。

 もうちっと必死になりゃよかったっす。


「なんか、君めちゃヤバイっすね。マスターに選んでもらったんすか?」


 興味本位で聞いたが、帰ってきたのは予想外の答えだったっす。


「ほんとうはあのまましぬつもりだったんだがな、あんなにしんけんなかおですくってくれたら、おんがえししたくなるだろう」

「あのまま? マスターに救われたんすね?」

「そう。わたしはたまごのままほろびるうんめいにあった。そこにさっそうとあらわれてすくってくれたマスターは、ひかりそのものにみえた。」


 フランカレドは軽く咳き込んで、血の混じった痰を吐いた。

 治り切ったわけじゃなさそうっすね。


「マスターにも信頼されてるんすね?」

「ぶきももたせてくれた。ロズのせわもかんせつてきにまかされた。みずからいうのはきはずかしいが、きっとぜんぷくのしんらいをえているだろう」


 なら、迷うことはないっすね。

 じゃあ行くっすよ、と言いながらジャケットを被せる。

 流石にその格好じゃ寒いっしょ。


「きもちはありがたいが、わたしはねつによわい。はだかがいちばんらくなのだが」

「……なんか変な子っすね」


 マスターの周りにいる子たち、フィルとかシルキーとかはよく知ってるっすけど、フランカレドが一番変みたいっす。


「おまえみたいなうらおもてのないやつはすきだぞ」


 気に入られたみたいっす。

 ……まぁそれはありがたいっすけど、その心読むのあんまり感心しないっしょ。


「どくしんじゅつではないのだが……」


 ほらまた。

 ……心を読める術を読心術と言わないならなんなんすかね。


 まぁ、そんな事より早いとこ出るっしょ。

 閉じゆく世界を斬って、元の場所に戻る準備をする。


「そーいえばさっき、解説の途中で概念断ちを理解したっしょ? あれも能力なんすか?」

「あれは、完全発揮(パーフェクション)というアビリティ。かんぜんなぶきしゅうじゅくとかんぜんなスキルはっきができる」


 はー、なんすかそれ。万能っすね。

 うちも欲しいっす、完全発揮。

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