表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/138

88. 如何に

 全てが繋がっている共有(リンク)で、何かが起こり始めました。


 ティナの崩れかけた器から魂の情報が零れ出します。

 そう、感じました。


 マスターとソロモンが、眉根を寄せて沈痛な面持ちになっています。

 これは……そういう事なんでしょうか。


 リンクが繋がっていれば意識は残る、らしいです。

 実験したわけではなく、マスターの体験だけなので実際にどうなのかはわかりません。


『ますたぁ……これはもう……』

『諦めるな! まだ、方法は……あるはずだ……』


 マスター達の会話を意識の端で聞きながら、リザンテラへと猛進する。

 ただでさえ実力は及ばないのです、集中しなければ。


 召喚したアスフォデルスを打ち振るって、少しでもオーバードライブを持たせる努力をします。

 効果を見切っているのか、受けすらしてくれません。


 それでも、全ての攻撃を防ぎ時間を稼ぐのが最低条件。

 その上で5分間の価値を高める。それがこの戦闘の目的です。

 最低でも命ひとつくらい貰わねば。

 私が動けなくれば完全敗北です。


『器があれば、魂と記憶を引っ張ってきてティナの存在を保つ事は可能だよ』


 ソロモンが、動き始めたフェルミルに高速接近。

 鏡面加工の短刀を持った右手と首元を掴んでそのまま壁際に追いやる。


 今の思念はソロモン……?

 さっきまでの増長した態度はどこへやら。

 彼女の真面目な思考が脳に共有される。


 ソロモンは攻撃ではなく体を押さえつけて、抱きつくような格好で走り込んだ。


「わ、ちょ、何のつもりよ!」

「ごめんね、仲よかったのにね」

「え!?」


 そのまま壁に叩きつけて、めり込ませた。

 ダンジョンの壁が軋みを上げる。


 フェルミルの全身あちこちから血飛沫が飛び、骨が砕ける音が鳴る。

 それこそ、壁に描かれた絵のようになった。

 2000年前の神々の戦いを習った時の事を思い出しますね。


 埋め込まれたフェルミルは抜け出そうとあがきますが。


「……で、出れない……え?

 もしかして、ずっとこのまま!? 嘘でしょラルウァ!」


 爆炎でも切断でも貫通でも死ななかった彼女はあっさりと無効化された。

 ソロモンはそのまま、崩れてしまったティナの体へ向かいます。

 そこには、トリアナが既に寄り添っていました。


「器があれば、と言いましたわね」


 ソロモンはこくりとうなづく。

 共有により、ソロモンとトリアナの思考が流れ込んでくる。


 ……。

 ……。


 2人の決意は固かった。

 特に、ソロモンの様子はまるで別人のものです。


 いや。

 今までのはただ口調を変えていただけだったのかもしれません。


「マスター、任せてください。我に、いや、私に」

「お前、ラルウァのまんまなのか? 俺らの敵なんじゃ」

「まんまじゃないよ。ソロモンっていう魔王に乗っている(・・・・・)のが私なだけ。本質的にはもう私はただの魔王ソロモン、なのだ」


 がははと声を上げるその顔に、笑みはない。


 マスターによってラルウァの体はソロモンに作り変えられた。

 ただ、記憶の欠片と自我の欠片は残っている。


 ソロモンはラルウァの意思を、意志を、遺志を汲んでラルウァになっているのです。


『いや、トリアナが背負う必要なんてない。俺が……』

『……マスター、長い眠りから覚めた時自分の身体のベースが女の子になっていたら、やじゃないですの?』

『それは……』


 俺は別に構わないけどそういうのを言う場所じゃねえ、という思考が流れてきます。

 この能力、隠し事しづらいところに問題がありますね……。


『とにかく、私がティナを守ります。なんてったって一番お姉さんですから』

『……りょーかい、です』

『じゃ、あとは全部任せるよ。

 私ももう死んだみたいなものだし、むかーしティナとよく遊んだから……器を繋ぐために一緒になれるなら全然構わない』


 ただ、裏になっちゃうのはこの先ちょっとだけ可哀想かなと、ぽつりと呟くような思考が発されました。


『ちょっと待てソロモン、このダンジョンはどうするんだ。それに、お前は』

『マスターには悪いけど、新しい魔王を作ってもらう。そうでなきゃダンジョンが命を保てなくなって勝手に崩れるよ」


 私はとにかく、リザンテラとストリガのどちらかを無力化、もしくはティナには悪いですけど殺害をしようと躍起になりました。

 5分という時間は短い。しかし、なかなかアスフォデルスによる吸収ができない。


 突けば回避され、薙けば跳び避けられる。

 当たりさえすれば、擦りさえすれば、5秒は延びるというのに。


 そうこうしている間に、私の魔力が底をつきそうになりました。


 ちらりと後ろを見ると、トリアナとソロモンがティナの残骸の近くで手を繋ぎあい、詠唱をしています。


 トリアナの表情はしっかりとしていましたが、悲愴的な涙が頬を伝っていました。



---



 そうして、トリアナとティナは一つの器を共有するようになり、その繋ぎに必要な莫大なる魔力をソロモンが、内から補うことでどうにかこうにかティナの存在は保たれたのです。


 ……ストリガたちとの決着はどうなったのか。それは、覚えていないんです。何故かシルキーも。


 しかし、リザンテラはこの戦いでは生存していました。同様にストリガも恐らく。

 いたずらに是正者を刺激する結果となったこの戦いの後に、彼らとの抗争が始まります。


 それらから逃れるために我々はウラリスへと向かうのですが……。


 ……シルキー、寝てしまいましたね。続きはまた明日以降と言うことでよろしいでしょうか。

 どうしました、カシュー?


 謎が多い、と?

 そうですね、人の記憶というのは曖昧なものです。私の解説にも言葉足らずなところがあるでしょう。


『もう1人誰かしら味方が居て、大立ち回りをした結果全員が生存して帰ってこられた可能性』ですか?


 それは絶対にありませんよ(・・・・・・・・・)

 私とマスターと、シルキーとトリアナとティナとソロモン…………と……。


 いえ、それだけです。

 ……記憶の混濁があるようです。恐らく、もう眠いからでしょう。

 もう、早朝どころか朝です。今日のところは眠りましょうか。


 ……喋っている私も、違和感があるのです。うろ覚えで申し訳ありません。

 いいえ、カシューが謝る必要はないですよ。

 悪いのは私か……。




 パック=ニゴラスか、です。

七章はこれにて終了です。

謎だらけですが八章から解明されていきます。今しばしお待ちを……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ