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84. 龍を解体するもの(途轍もなく高い)

『誘い込むぞ! 先行ってろ!』

『いえ、私が残ります』

『いいから! 奴隷残して先に退くとかマスターの風上にも置けねえだろ!

 格好くらいつけさせろ!』

『……わかりました、ご無事で!』


 マスター達が退却を始めた。

 シルキーは共有(リンク)でマスター達と繋がっている。

 全員繋ぎ続けると魔力の消耗が激しいらしいので、あたしたちとは時折繋いでくれる。


 マスターとアリスが時間を稼いでくれている間、こちらもより深くまで急いで進めなければならない。

 そんなあたしたちはと言うと。


 湿った地面に足を取られていた。

 照りつける太陽か何かが恨めしい。

 なんなんだあの光は。


「なんで地下に湿地帯があるんだよ。明るいし!」

「明るいのは魔力で光源を作っているからだ! 我の魔力を使っている!」


 供給を断てよ、と思ったがそれはできないらしい。

 勝手に持っていかれる設定だとか。


 四階。下へ降りる階段を通ってきたはずなのに、どう見ても外のようだ。


 明かりは魔力だとしてじゃあなんでこんな地上みたいなのを作るんだよ。

 伊達や酔狂じゃねぇんだから。


「湿地は……昔この辺りが湿潤な地方だったからでしょうか?」

「ダンジョンに常識が通用すると思うな! ハハハハハハ!」

「さっきからくつがぐしょぐしょです」


 どっち向いても適当だなこのパーティ……頭痛くなってきやがった。

 っつーかシルキーは飛べるだろ! なんで飛ばねぇんだろ。


 ここんとこ使えそうな装備があんまり出てこねぇしホントに大丈夫なのか?

 それに……。


 箱にすら入ってねぇアイテムが、進行方向に見えてきやがった。

 ダンジョンすらやる気ねぇんじゃないか。


 静かで厳かなその空間は、生き物の立ち入りを禁止しているようだ。

 実際はそんな事ないのだろうけど。


 とりあえずシルキーに剣の鑑定を依頼する。


「……あそこに刺さってんのなんだ?」

龍を解体するもの(どらごんでぃぞるばー)です。特等級(すぺしゃるぐれーど)

 そうとうふかくまでささってるみたいです。」


 ぱたぱた羽を動かして浮きながら様子を見ている。

 彼女は額から汗を垂らしながらすぐ返答をしてくれた。


 ……そうか、飛ぶより歩く方が体力の節約になるのか。

 どちらにせよきつそうだが。

 本格的にまずくなったらおぶってやろう。


 武器の方は、比較的当たりか? でも絶対命中みたいなの方が嬉しいよな。

 しかしシルキー、その指の隙間から見るのなんだ? あざとすぎないか?


『ぜん方てきえい! さんばーどが七体! 人ごをりかいするのでしゃべったらだめです! りんくをつなげます』

『なるほど、索敵してたのか。了解』

『わかりましたわ』

「わかったぜぇ!」


 ソロモンだけは大声で返事をした。

 わかってない。アホだ。

 ソロモン(アホ)は、足元にあった岩に片足を乗せ、それを起点に跳躍した。岩は粉々に砕けた。

 

 空中に舞い飛ぶその黒い群れは、光を反射してぬらぬらと虹色に輝く。

 そのうちの一体を一瞬にして引っ掴むと、ぶん回して二体を叩き落す。

 掴んだ一体をクッションにして、泥の地面に着地した。


 クッションになった一体は首から嫌な音を立てて動かなくなる。

 まさに問答無用、喋っても喋らなくても変わりないという事か。


 パワータイプのアホだ。


 生き残ったサンバードとやらは、があがあ声を上げながら飛び去って行く。


「残ったのは逃げていくようだ! また射程に入れば我が狩ろう!」

「たのもしいです!」


 全く。作戦も能力もあったもんじゃねえ。

 んで、あそこの剣。どうすんだ。


「出ている刀身だけでもあたしの身長の倍くらいあるぜ、引っこ抜くとなったら巨人じゃねえと無理だろ」

「我に任せよ!」

「あっ無理矢理抜くと折れてしまうかも……」


 パッキィン!


 ……。

 柄に飛びついて無理矢理引っこ抜こうとしたところまではよかった。

 刀身に対して縦に力を込めたのもよかった。

 悪かったのは、強すぎた力。


 その湿地帯をどこまでも響き渡るかのような大きな音を立てて、地面に接地している部分からぽっきり折れてしまった。


「……あーあ」

「……だうんぐれーどしました、とっぷくらいです」

「…………申し訳なし!」


 泥の地面に頭を叩きつけそうになってから一旦止まり、剣が突き立っていた石製のレンガ部分に移動してから再度頭を叩きつけた。

 ヒビが広がっていき、聖域めいたその剣の安置所は粉々に砕け散った。


 やっぱりソロモンと言えど汚れるのは嫌なんだろうか。


 ドラゴンディゾルバーについてだが。、

 龍族と爬虫族に対する強制切断概念付与は失われたが、それでも強力な龍族特効は残ったらしい。

 将来、龍を相手取る事があるのならばまぁ見つかってよかったと思える。


 どんどん武器を探しつつ地下を目指さねば。






 少し気になった事があったので、シルキーにリンクを繋いでもらいマスターに質問をした。


『ソロモンが居ればアイテム集めは後でもいいんじゃねえか?』

『いや、できればソロモンの力は借りたくない。不確定要素があるんだ』


 やはりマスターはわかった上でやった(・・・)んだ。

 大体知っていた。マスターは見た目通りじゃなくて相当な策士だと。

 わかった上で聞く。


『……ラルウァの事か?』


 返答は早かった。あたしにはもう看破されている事をも視野に入れていたかのように。


『……そうだな、ティナも接敵時はソロモンと一緒に居てくれよ』

『わかったよ。信用してる』


 その言葉はマスターにしたものか、それとも自分自身に言い聞かせていたのか。自分でもわからなかった。


『なんのはなしです?』

『あとで話すよ』

『むー、わかりましたです』


 よく張り合っていたシルキーがわからなくて、自分とマスターだけが知っている秘密があるというのは、ほんの少しだけ気分がよかった。




---




 ……ドラゴンディゾルバー、今でも愛用してるってマジか?

 アリス? そんな顔するなよ、止められなかったのは悪かったって。


 あれ、マスターは折れてる事に気づいてない? ホントか?

 先端欠けてるどころじゃないんだぞ、シルキー曰く下手したら折れた先の部分の方が長いって……。

 え? 根本しか残ってないみたいなもの? マスターそんなの振ってんの?


 まぁ……あんま長くても振れないか。あの長さでも長そうだしな。

 ……シラセって奴が言ってたって?


 『自分にあってるのを使うのが一番っす』……かぁ。

 こっちの場合は事故だけどな。


 黙っとこうぜ、いい事ないし。

 知らぬが仏、言わぬが花って言うらしいしな。

 ……仏ってなんだろうな。


 な、みんなの秘密だ。

 どーでもいい事でも秘密にしたら仲良くなれるもんさ。


 アリス、シルキー、フィル、ロズ、フラン、リタ。

 あたしらの間になんかあったら思い出せ。

 ドラゴンディゾルバー、じゃ長いか。

 『剣の話』でどうだ。


 くだらねぇか?

 ……否定してくれんのか、ありがとうな。

 あの剣が、折れてるのを知ってるのはあたしらと、トリアナと……。


 ふああ…………へへっ、カシューも聞いてんじゃねーか。

 乗りかかった船だ。全部聞いてけ。


 遠慮すんなよ……。

 マスターと命を守りあった仲だろ、それならあたしらは仲間でいいだろ。


 んん、あとちょっと、……のめり込むと時間って、早ええな。

 みんな、聞いてくれて、優しいな。


 地下五階の一番奥で、マスターを待ってさ。

 そんで、そんで、それから……。

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