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83. 異常な解体屋(時価)

「シルキー、二階には宝箱ある、よな?」


 そう、一階には一個たりともなかった。

 マスターともあろう者が、魔王と魔物を作るだけでダンジョンを作る時の全てのお金を使い果たすとは思えない。


「あります、……そこ!」


 ……。

 指さす先には。


「……井戸でしょ」


 石製の丸い囲いに屋根がついていて、その中には水が張っている。

 どう見ても井戸だ。


「あれ?」

()ぁかせておけぇ!」


 ものすごい勢いで魔王が突っ込む。

 上がった水しぶきでシルキーだけびしょ濡れになった。

 ぷるぷると体についた水滴を払う。

 かわいいなぁ。


 あたしは上着を脱いでタオル代わりにと渡した。


 ソロモンが飛び込むや否や物凄い量の蒸気が上がり、中を満たしていた水はあっという間に蒸発した。


「炎の魔法を無詠唱で使ったのかしら」

「そうだ!」


 声を響かせながら返事をするソロモン。覗き込むと、確かにその底には金色に輝く大きな箱が。

 お目当ての品が入っていればいいが。


「ますたぁがいないから、あけてみないと中みがわからないです、ぶるる」

「普通はそうなんじゃねぇかなぁ」


 開けるぞ! と叫びながら蝶番を指で破壊し蓋ごと外して宝箱を開く。

 すると、黒い錠剤のようなものが箱から飛び出してくる。

 罠か!?


 ……と、思ったが何も起こらない。


「それは、水にとけるとどくが出ます。たすかりましたです」


 今取りに行ったのがソロモンじゃなきゃ一人ないし全員毒にやられていた。

 マスター、自分で探索するダンジョンの難易度くらい低くしとけ。


 いや、ある程度の厳しさは外敵対策にもなっているのか?

 もしかしてこの状況も想定済みなんじゃ。


 ……そこまで頭回るかよ。と頭をぶんぶん振って考えを払拭する。


「中身はなんでしたか?」


 トリアナが収穫について尋ねる。


「でかい盾だ! 置いていくぞ!」


 あれを持って上がるのは骨だな、置いて行った方がいい。

 グレード次第では持っていく方がよさそうだが……。


三等級(ミドル)!」


 それだけ言うと、ソロモンはぴょーんと井戸の底から飛び出してきた。

 身体能力も飛びぬけてるのか。

 ダンジョン内でしか力を振るえないって言うのもわかる気がするな。


 ……しかし。


 ソロモンに、ラルウァの面影を見た。

 そうは言っても、同じと言える部分は緑色の髪だけだ。


「どうしたボケッとして! 行こうぞ!」


 シルキーとトリアナは歩き始めている。

 シルキーに追従するようにして、火の玉が飛んでいる。ソロモンの魔法だろうか。


 あたしは緑髪の魔王に声をかけられて、慌ててついて行った。


 手を慎重に掴まれ、同じく慎重に引かれる。

 それでも少し肘が痛いくらいだが、加減をしようという意識は伝わった。


 探索を続ける。


 魔物が出れば、誰よりあたしを守るように動く。

 罠にかかれば、あたしに影響が出ないよう立ち回る。

 何より、つかず離れず。


 階層最奥、次の階への護り手が現れれば率先して特攻し。


「悪いな!」


 あっという間に片づける。主に拳と蹴りで。

 ……どうしたことだろう。




 三階の回廊を進む。

 道中、何気なく置かれた宝箱から異常な解体屋(ピーカレッカー)という一級品魔法武器が出たのだが……。


「……せいれいとっこうがついてます。マスターには見せたくないです」

「ですわね……」

「精霊に何かあったのか! 気を回すべきか!」


 何かしらあったのだろうが、それに言及すべきではないと思ったから、黙っていた。

 しかしこの、俗世間離れした生まれたばかりの魔王は。


「何故精霊特効を見せてはいかぬのだ! マスターは元々精霊なのか! それとも大事な精霊でも失ったか!」

「っ……」

「ちょっと貴方……」


 いつも喜色満面なシルキーの顔が、見る見る悲しさに染まっていく。


 シルキーが唇を噛んで涙を堪えている。

 眉根を寄せて、目を瞑った。

 見ていられない。


「おいソロモン、女の子を泣かせたらダメだろ」

「……はっ! 申し訳ない!」


 頭を地面に叩きつける。

 止めようと思ったが早すぎて間に合わなかった。


「その謝り方もちょっとどうかと思うぜ、色々教えてやるから常識を覚えろ」

「理解したぞ! よろしく頼む、ティナ!」


 ……?


 強烈な違和感があたしを貫いた。

 なんだ?


 笑顔を向けてくる魔王。

 ……あたしは、こいつに一度でも名乗ったか?

 一応笑顔を返すが、ちゃんと笑えているだろうか。


 マスターにまとめて呼ばれた事はあったが、明確にあたしがティナだとわかる情報はソロモンに伝わっていないように思える。


「なぁ、ソロモン」

「なんだ! 言ってみろ!」


 口を開く。声が出ない。

 何を言おうか、何から聞こうか。


「……その肉体の記憶、残っているのか?」

「残っていない、と断言はできない。だがこの体と我は本質的に違うものだ!

 例えるなら、人の肉と骨をグチャグチャに叩き潰して作った肉団子を人型にし、それに魔法をかけて動くようにしたようなものが我だ」


 それでは、記憶が残ってるはずがない。

 じゃあなんで……。


「人というのは、『魂』『力』『体』の三つの要素が集まってできている!

 精霊や魔人は『体』がない。魔物には『魂』がない。

 そして、人間には『力』がない。そういう事になっている!」


 それだけ言うと、こちらを覗うような視線を向けてくる。


「……続きを」

「記憶というのは基本的に『体』の脳という器官に格納される。

 しかし精霊や魔人は経験や知識、場合によっては出来事を覚えている」


 体がなくても記憶が残っている事があるという事か。

 でもそれは、今回のケースに当てはまらないんじゃねーのか。

 壊れた体に記憶が残ってるなんて、ありえない?

 でも、まさか、もしかして。


「魂と力と体を繋ぎ合わせて一つにするものが『器』だ。これらは原則一人一つ」


 魂はソロモンのもの。

 力はソロモンとマスター。

 体は……壊れた後ソロモンのものになった。


 ……器? 器にラルウァの記憶が残ってる?

 聞こう。聞くしかない。


「……ソロモンはあたしの事覚えているか?」

「……もちろんだよ、ティナ」


 ふとした感じで投げたその言葉への返答は、理解の範囲を超えていた。


「ラ、ラルウァ……?」

「どうしたティナよ! また我は粗相をしてしまったか!」


 幻聴か、勘違いか。

 それとも。




---




 リタ、どうした。怖くなったか?

 お前、歪ませるために器を壊されたんだったな。マスターに。


 あの人は、味方につければ基本的にはいい人だけど根本的に常識がズレてる。

 離れるなら今のうちだぜ? ……なんつってな。


 もう遅いんだろ? 虜なんだろ。

 ならいいじゃねえか。信じてやれよ。


 あたしは信じてる。

 ただもうちょっと早く出会いたかったけど。


 あたしもトリアナもソロモンもラルウァも、一緒に笑いあえる世界に行きたかった。


 今からじゃもう無理だよ。

 トリアナは表に、あたしは裏に。ソロモンとラルウァは……。


 あぁ、うん。勿体ぶってるわけじゃねぇんだ。今から話すよ。


 ……もう眠いな。でも最後まで話してぇ。

 ギリギリでマスターが、帰ってくるかもしれねぇからな。

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