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81. ストリガの銅像(金貨316枚)

「このればー、……あんのうん。でーたがありません」


 シルキーが、壁に張り付いたレバーを見つけた。

 マスターが持っていた地図には、そんなもの表示されていない。


「お宝の気配がしますね」

「罠かも」

「うーん、自動生成に任せたからダンジョン本人(・・)次第なんだよなぁ」


 性格の悪いダンジョンだったら罠の生成に魔力を回すだろうし、聖人君子のようなダンジョンだったらレアアイテムを置いてくれると言うことだろうか。


「自分で設定できるなら、宝箱しかないダンジョンを作ったらよかったんじゃないですの?」

「それができたら苦労はしねえよ」


 マスターの話によると一定のルールはあるらしい。

 付近の生き物を元に魔物を作り、鉱物を元に武器や箱を作るのだ。


「しかし1万枚程度でこんな難易度になっちまうとは思わなかったぜ」

「金貨1万枚を持てる人がどれだけいる事か……」


 ま、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うし……と言いながらレバーに手をかけるマスター。残りの全員は後ずさっていく。

 あたしも影から見守る事にした。


 花火なんか目じゃないほどの大爆音が響いた。

 マスターは肉が全て燃やし尽くされ、真っ白い骨だけが残った。


「う、嘘……」


 あたしは駆け寄った。そこにあるのはただの骨。

 マスターは、呆気なく死んでしまった。


「マスター……マスタあああああ!!」


 涙がぼろぼろ溢れる。

 あたしを置いて先に行ってしまった。

 何もない暗闇の中へ。


 次も、人間に生まれてくるだろうか。

 あたしとまた出会う事はあるだろうか。


 そんな事を考えながら泣いていると、トリアナに頭を軽く撫でられた。

 彼女はこんな事を言って、あたしを困惑させた。


「えーっと……いつもの事ですのであまり泣かないでください」


 え?

 いつもの事って……。


 振り返って見上げると、三人ともなんとも複雑な顔をしていた。


「ますたぁは、今はしんじゃってますけど、すぐもどるです」


 もどるって、なんだ。

 アリスが、マスターの亡骸を指さす。


 骨の隙間から肉がぐねぐね動いて増え始める。

 見るに堪えない光景だが、唖然としてしまって目が離せなくなった。


 5分も経つと全身の修復が終わり、マスターはゆっくりと目を開いた。


「あー、久々に死んだぜ。ただいま」

「おかえりなさい」


 あたしは常識が全部ひっくり返されたような感覚になった。

 目を見開いてマスターを見ていたらしい、彼は苦笑いしながらぼやいた。


「あー、なんだ、言い忘れてたけど俺は何回かまでなら死んでも生き返る」


 何を言っていいかわからなくなったあたしは、ぱくぱくと口を動かす事しかできなかった。




*




「マスターも人が悪りぃ。死んだら次があるかもーって話をしといてさ」

「こんな奴俺以外いねえから」

「居るかもしれねぇだろ」


 マスターの死がきっかけで、何かが吹っ切れたあたしはどんどん口調が変わってった。あとマスターとの距離も近くなった。

 シルキーとは張り合う事があったけど、アリスとトリアナはちょっとだけ離れたところでニコニコしている事が多い。


 二人とも見てるだけでいいのかよ、あたしが取っちまうぞ!

 ……なんて、取り合いみたいな事をしてもしょうがないなんてわかっている。


 ちょっと譲ってくれてるだけなんだなって薄々思ってたし二人ともマスターが好きなんて事も、重々承知していた。

 喋り方は乱雑になったけど誰よりも甘えてた。

 四人の妹みたいな存在になった気分だった


「ま、休憩にもなったし新しいのが湧く前に進もう」


 レバーがあった部分に目をやると、壁が崩れて道ができている。


「壁の向こうに道が……」

「隠し通路って奴か? 罠に見合うだけのものがあればいいな」


 マスターが一回死ぬのに見合うだけのアイテム。

 金貨100枚分くらいとの事だ。

 高いような安いような……。


 そこは、他の道と比べて細くなっている。人二人は並んで通れなさそうだ。

 なので、マスターが先頭、続いてトリアナ、私、シルキー、アリスの順で並んで通る事にした。挟まれてもなんとか戦えるように。


 それは杞憂に終わったのだが、通り抜けた先は黄色い石造りの厳かな空間。

 正面奥には更に通路があり、右側に階段、その上には祭壇がある。、


「……なんか、空間が歪んでる気がする、いや、その逆……?」

「いやなふんいきです」

「……離れた方がよさそうですわ」

「この感じ、どこかで」


 アリスは何かに気づいたようだ。

 首をひねって考えている間に、あたしは部屋を見回してみた。


 冒険心がくすぐられる構造をしている。

 石の柱の上に乗っている、燃える松明(・・・・・)

 部屋の中心の魔法陣に刺さった剣。


 祭壇の石棺。

 更には紋章。

 剣を守るように立つ銅像。 


 紋章は、歪みを表す(・・・・・)Sに剣での切断(・・・・・)を表す縦棒一本。

 丁度『$』こんなマークだ。


「……マスター、狙ってました?」

「え? ……あ」

「う……」

「おいおい……狙ってねえよ」


 そう、ここは。


「……ここ、是正者の総本山だ」


 マスターによるとダンジョンは、近くにある建物や地下室を喰って自分のものにしてしまう事があるらしい。

 ここリデレは純血の是正者が多数存在する是正者の街。


 父さんが仕事の為に通っているのもここのはず。


「こいつは、僥倖かもしれねえぞ」

「ぎょうこう?」

「偶然うれしい事が起こるという意味ですわ」


 シルキーが難しい言葉の意味を聞くと、トリアナが補足した。


「嬉しいかどうかはまだわからないですけどね」

「じゃあさっき通ってきた道はダンジョンが作った道じゃなくて」


 是正者達が普段使っている道?

 という事は、今ここに居るのはまずい可能性が高い。


「いや、偶然にも誰も居なかったんだし何かしらするなら今なんじゃ」

「慎重に行きましょう、急いては事を仕損じます」

「近くにはだれもいないです」


 みんな落ち着きを欠いている。

 ここは、是正者の一族である私が意見しなければ。

 こほん、と咳払いをして裏返りそうな声を出す。


「とりあえず、是正者で一生懸命な奴はそうそういない。今すぐどうこうしようなんて人もそういない。ここは後回しにして一階の制圧をした方がいいと思う」


 全員あたしの方を見た。

 注目されるとちょっと恥ずかしいからやめてくれ……。

 ちょっとした沈黙の後、四人とも同時に声を出した。


「一理ある」

「それもそうですね……」

「てぃな、さすがです」

「いい子が入ったものですわね」


 トリアナに、丁寧に頭を撫でられた。


 そうと決まれば即刻退散。

 入ってきた道を、マスターが精霊魔法で岩を操って埋めておく。


「あとは印でもつけておくか」


 マスターが書いたのは髑髏マーク。


「いつもリザンテラには先手を打たれてばっかりだ。今度はこちらから出る」

「そうですね。何度も殺されそうになった相手です」

「ゆだんせずにいこう」

「わかりました」


「……」


 あたしは、何も言えなかった。




---




 ……。


 リザンテラね。

 父さんの名前だ。忘れたってのは嘘。言いたくなかっただけ。


 マスターがこの街を目指した理由は、是正者へダメージを与える為だった。

 是正者が数多く輩出されるこの街は、そこそこ有名なのだ。

 それで、彼らの目標になったんだろう。


 マスター達は何度も襲撃を受け、仲間を二人失った。

 歪んでいるというだけで。


 あたしも同じなのになぁ。


 考えるところはいっぱいあったけど、基本的にマスター以上に信頼している人はリデレには居なかった。

 だから両親が殺されるのが我慢ならないという事にはならなかった。




 ……ん? どうして考え込んでるかって?

 ま、色々あんだよ。


 この後一階のボスへ行ったんだっけ?

 『ボス』なんて言葉もマスターに教えてもらったんだっけな。


 リタ、どんな奴がいたと思う?


 ……強そうな動物?

 掠ってすらねぇな! 答え言っちまうぞ?


 いいか、そこに居たのは魔王。

 一階から魔王が居たんだ。

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