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8. デラックスルーム(金貨2枚銀貨40枚)

 そう、もう銀貨6枚しかなかったんです。

 お金は稼がなければなりません。

 しかし、私の疲労はピークに達していました。

 でもマスターは元気そうです。


「徹夜は慣れてるし、アリスのお蔭で元気が出た」


 元気って……さっきの話か、と思い目を細めて嫌な顔をしようとしました。

 けれど、そのニコニコとした表情に毒気を抜かれましたね。

 逆に少し微笑んでしまったのを覚えています。


 徹夜に慣れてる? というのも疑問に思いました。

『生まれる前の記憶がありその頃の体験だ。』とか言われましたね。

 何を言ってるのかよくわからなかったです。


 問い詰めたら結局曖昧にされました。

 生前の名前を聞いても教えてくれませんでしたし。

 正直半信半疑でしたっけ。今では、一応信じていますよ。



*



「私は……もう動けません。魔力もないですし疲労もひどいです」

「わかった、あとは俺に任せてここで静かに休んでてくれ」


 私は崩れた家屋の、平らな石を持って来て椅子にし、そこに座りました。

 少しは休めるはずです。

 マスターも疲れているはずですが、まだ動く気です。

 辺りを見回します。屋根はついていないので、倒れかかっている家屋の壁の隙間から青空が見えます。雨は降りそうにないのでそこだけ安心です。


 周囲はどこからも射線が通ってません。都合のいい場所を見つけたものです。

 マスターは、この崩れた家屋に入ってきた時の隙間から顔を出し、左右を素早く確認すると、さっと飛び出してどこかへ向かいました。

 私はうとうとしながらそこでマスターの帰りを待つことになりましたね。



*



 先ほどマスターは、自分の指名手配を消す最も金銭効率の高い方法を取る、と言っていました。


 はい、ここで一体マスターは何をするつもりだったでしょうか。

 どうぞ。はいシルキーさん。

 私の? 下着を脱がす?

 ……そういう感じではありませんね。最近マスターの影響を受け過ぎです。


 はい、マスターさん。

 ってなんでもう起きてるんですか!

 私を? 優しく押し倒した!?

 どこでそんな記憶と書き換えてきたんですか!?

 この先の展開知ってますよね!?私の話聞いてました!?


 もう、怒らせるマスターが悪いんですからね!

 『輝け、潰しの棒(メガトンロッド)!』



 ……はぁ。



 驚かれましたか新入りさん?

 マスターですか?買い置きの命(ライヴズストック)というアビリティを持っているので、買ってある命がなくなるまでは何回死んでも適当な感じで復活するんですよ。

 ズルですか?そうですよね、チート(ズル)です。でも、私たちはマスターの苦労を知っていますし、今の生活を手に入れるまでに何度も苦汁を舐めました。


 だから今はちょっとくらい、死ななくて、なんでも買えて、なんでもできて、なんでもわかって、誰でも仲間にできる。それくらいの事は許してあげてほしいんです。

 甘やかしすぎですか?


 そうかもしれないですね。


 マスターは、貧民街で何かを探しました。

 指名手配されてはいましたが、人相までは流れていませんでした。

 服装も変わっていたので、特に見とがめられることはなかったそうです。


 そこから一睡もしていないのに精力的に調査を続け、マスターは数時間かけてようやく条件に合う奴隷を見つけました。

 そのまま、喜び勇んで声をかけました。

 その『金髪碧眼の奴隷』には、こう言ったそうです。


「自由はないが、ご飯が食べれて、あったかい布団で眠れるところに行きたくないか?」


 正解がわかりましたか?



*



「これを着ればいいの?」

「そう。この首輪をつけてね。あと下着は脱いで」

「すーすーする……」


 そのやり取りを寝ぼけ眼で見ていた私は、目の焦点が合った時とてもびっくりしました。

 まるで鏡を見ているかのような、薄桜色の肌をした使用人姿の金髪碧眼少女が居たのですから。

 服装も前までの私と同じ、とても目立つコケット社製使用人服を着ていましたね。


「ステータスカードも偽造済だ。顔もそっくりだろ!」

「……誘拐したんですか?」

「交渉って言った方が正しいかな。母親には許可貰ったしこの子もご飯食べたいってさ。警備隊詰所へ行ってくるわ」


 マスターを見送って数十分後、私と似た姿の女の子は居なくなっていましたが、代わりに小さな袋を抱えて戻ってきました。

 その袋の中にはもちろん……。


「金貨……150枚?」

「148枚だな。俺の指名手配を消させる為に一芝居打って金貨2枚握らせたらあっさり取り消してくれたぜ。あの女の子も保護してくれた。アリスだと信用してくれたみたいだ」

「すごいです……」

「俺のステータスカードも偽造して身分証明に使った」


 マスターの手にはカードが一枚。名前の欄には『チェシャ=クロック』と書かれていました。……今思えば発音しづらいしセンスないですね。


 しかし、その手際には感動したものです。

 何せ、まだ逃げだしてから一日すら経ってないと言うのに指名手配され賞金首になり、それを即日解除しつつお金も作ったんです。

 あの奴隷が私でないと気づくのにはどれだけかかるでしょうか。


 マスターは恐らく元の村の人達に庇い立てなどされないでしょう。

 名前がバレていたという事は村にも調査が行って、怪しい人物の情報を共有されたのですね。

 悪評は再び立つかもしれないし、私にも奴隷商会の手が伸びるかもしれません。

 なのでアムニ村に戻ることもできず、近いうちにここも立たねばなりません。

 でも、しばらくの間は大丈夫そうです。実際、すぐには追手がかかることはありませんでした。


「マスター、これからどうするおつもりですか?」

「目下、宿が取りてーな。とりあえず眠たい」


 それはそうですね。マスターはずっと寝ていませんでしたので。

 私も仮眠を取った程度だったので、眠気はありました。


 ただ、私が着ていた皮の服の裾が短すぎて下着が丸見えもいいとこでしたので、往来の人が少なくなるまではその拠点から動けませんでした。

 暗くなってもひやひやしたものです。

 マスターの嗜虐的な表情が今でも目に浮かぶようです。




*




「だ、誰も来てませんよね?」

「あそこの影から浮浪者が見てるぞ。ほら」


 そちらに目をやると、確かに老人の姿が。目は虚ろです。

 裾は限界まで伸ばしているのに、白い部分が見えてしまうのがわかります。


 うー……見ないでください……。

 そう思いながら必死でお尻を突きだして中腰になっていると、マスターは私の後ろに回って、しゃがみました。


「ほらー、お爺さんに見られちゃうぞー」

「マスター!?」


 私は背中側の裾を引っ張りました。

 おへそまで丸見えです。


 お爺さんがすごい勢いで立ち上がって、そのまま倒れました。


 そんな辱めを受けながら、目的地の宿へ向けて歩いて行ったのです。




*




 今にして思えばお金があったんですから何か買ってもらえばよかったですね。

 確かその時、マスターの態度が少しおかしかったような……。

 わざと気を逸らして、そのままの格好でホテルまで行くように仕向けられたような……。

 最悪ですね。


「とりあえず一番でけえホテルに泊まろうぜ!」

「……生前お金遣いのせいで自殺に追い込まれたという話をされたのはマスターではありませんでしたっけ?」




---




 あれ!?俺この時点でその話してたっけ!?そこまで話してたっけ!?

 時空歪められてない?記憶違いじゃねえ?

 …………えー、そうかなぁ。


 え、何? そんな事より蘇生が早いって?

 バカ言え、早いっつっても5分くらい何もできねーんだぞ。

 命がなくなるまで殺され続けたら死んじゃうのに抵抗できないんだぞ。


 普通の人は一回で死ぬ?まぁそれを言われちまうと……。

 いやでもずっと殺され続けた経験はあるけどな。

 あんときはヤバかったなー。この一年後くらいの話だっけ?


 で、結局どうしたかって?

 泊まったさ、ピンク色の看板で怪しい雰囲気の宮殿みてえなとこ。

 いやぁいい経験だった。


 お香が炊いてあってさ、部屋が昼なのに薄暗くてランプがついててさ。

 シャワーが湯で出てくんの。水のシャワーすら珍しかったのによ?


 あとはベッドがすげーでかいの。3人くらい横に並んで寝られそーなくらい。

 ふっかふかでさぁ。生まれてその方12年間麻の布に包まって寝てたから、まるで嘘のように気持ちよかったわ。


 気持ちよかったっつったら、お香に当てられたかわかんねーけどなんと、このアリスがめちゃくちゃ乱……痛い! 痛い!!

 や、やめ……。

 まさかアリスから誘……痛いってホントに!痛い!!


 あ、そう、痛いと言えばア……痛い!!

 アリスもその時は初めてだったから最初痛い!!


 死んじゃう!!

 ちょっと待って強い!! 思った以上に強い!!


 減っちゃうから!! 命高いんだから!!

 無くなっちゃうからぁーーーー!!!!!!


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