7. 全裸のアリスを見る権利(お金では買えない)
オーケーアリスありがとう。続きは俺が話そーか。
ん?この俺があんな程度で気絶するわけないじゃねーか。
話の最中ずっと、下から堪能させてもらったぜ。
なんてったって俺の命令でアリスは穿いてな
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引き続き私が話しますね。いい話をしたつもりの私がアホでした。
マスターはちょっと離して置いておきましょう。
え?シルキーも喋りたい?……シルキーは出番がまだちょっと先だし、言葉が少し苦手なところがあるので厳しいでしょうね……。
それに、目的を違えてはいけません。
マスター、私であるアリス、シルキー、ここには居ないけどフィル。みんなの事を教えてあげたいのです。
新入りである貴女に。
私たちはいつまでも街の入り口でまごまごしていたわけではありませんでした。
急いで貧民街を探します。
一晩中歩いて疲労があったとは言え、まだ休むわけにはいきません。
危険も多いですが貧民街に行く理由はいくつかありました。
一つには、奴隷階級が多く住むため目立たない事。
一つには、一般市民が寄りつかなくパトロールも少ない為。
一つには、廃墟に避難できる事。
貧民街でないところ、つまり市民街と富裕層区は区画も整理され、新しい建物が立ち並び、法によって秩序が保たれています。
貧民街にはそれが全てありません。カントカンドの領地でありつつ統治されていないのです。
そんなところが存在する理由は何故か。
それは、奴隷の産出地であるから。
『無法地帯から合法的に奴隷を仕入れる』為に、ほとんどの街に存在するのです。
吐き気がしますか?そうですね、もっと気持ち悪い話しましょう。
貧民街をしばらく放置すると子供が増えますよね。
高値のつく子供が生まれれば、奴隷階級を脱出できる親も出てきます。
その子は奴隷のままですし、奴隷階級の方々は大体子沢山です。
奴隷を脱出する者が居れど、奴隷が絶滅することはありません。上の階級から落ちてくる方もいらっしゃいますしね。
貴族階級を金で買えるほど高く売れる子供を埋めれば一挙脱出です。そりゃ多く産もうとしますよ。
まぁ高く売れる子がそうそう生まれてくるわけがないですけど。
男は傭兵に、女は侍女になって最下層だけでも脱出を目指す者も居ますね。
どうしようもなくなって人攫いや盗賊に成り下がる人も居ます。
奴隷は金銭で買えば合法ですが、攫ってしまっては犯罪です。市民街にも影響が出るような犯罪は取り締まられます。
まぁ逆に言えば中だけで何が起こっても、街は知らぬ存ぜぬと言うわけなんです。
中で男が種馬として飼われていても。
女が性奴隷として扱われていても。
気持ち悪い話は終わりです。次行きましょう。
……切り替えられませんか?慣れましょう。
マスターから気持ち悪い事された時の為に。
それが無ければマスターは基本的にいい人ですから……。
まぁ最悪なんですけど。
そういう事も嫌いじゃないんですけど。
私たちは、辺りの気配に気を付けながら貧民街を奥へ奥へと進んで行きました。
つけられていないか、窓などから見られていないか、慎重に慎重を重ねて進みました。
建物が全体的に崩れ、二階が雨ざらしになっているような建物だらけの区画まで来た時には、どこまで行くんだろうと不安になったものです。
ここは雨風が凌げない建物しかなく、好き好んで住むような人は居ない。
その中でも、区画の巨大な壁の隣に塀のみが残っていて、あとは瓦礫の山になっている家をマスターが見つけたんです。
塀と壁との隙間で遮蔽が取れる上に狭い。
子供でなければ中へ入って自由に動くことはできない、という理論でそこを拠点にする事にしました。
あたりを見回し本当に誰も居ないかを確認して、そっと飛び込む。
中はまるで、絵本で見た秘密基地のようでした。
子供心にワクワクしたのを覚えています。
「じゃ、早速始めるか」
そう言ったマスターは、ポケットから銀貨を地面に置きました。
5枚区切りでわかりやすいように配置し、全部で29枚を並べました。
「な、何を始めるつもりです?」
「……お着替えタイムを」
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「まずは首輪を外します」
「無理ですよ、だって契約が……」
俺はいけると確信していた。
あ、割り込んでごめんなアリス、俺の見せ場だから代わってくれ。……ありがとう。
俺のメルケミーの根幹となるアビリティの存在を、なんとなく察していたからだ。
そう、アビリティって言うのはな……。
……あ、うん。そう。それ。あってる。
シルキーは賢いなー、撫でてやろう。
何故、精霊術師でも魔法使いでもない俺がサラマンダーを扱えたり、冒険者でも地図作成者でもない俺が地図を扱えたりしたのか。
それは、身分偽装というアビリティのお蔭だった。
いや、こん時はその事は知らんかったんだけど、あとでステータスカードを見た時にわかった。
うんそう。シルキーに出会った後。泉んとこでが最初だよ。
「イァラムダ=オウェンスの名に於いて命ずる。契約者の名の元に、汝との契約を破棄せん!」
ぱきんという音がして、アリスの首輪が緩む。
契約破棄の手数料は……銀貨4枚か。400円と考えるとまぁ……高くもなく安くもないが役所っぽい金額だな。
「え……?」
アリスは何がなんだかわからないって顔してたな。
ほら、そんな悪趣味な首輪取ってやるよ。
とか言いながら首に手を回し、そっと外してやった。
これで名実ともに自由になった。法的にも正式に契約は切れてる。
なんせ『イァラムダ=オウェンスが自ら契約を切った事になった』からだ。
「な……なんで……?」
「お金の魔法さ」
アリスは目に涙を浮かべて今にも泣きだしそうだったから、ウィンクしながらお茶らけてみた。
なんですかそれは、と言いながら笑うアリスの頬を一筋の流れ星が駆けて行った。
やっぱ女の子は笑ってなきゃな。泣き顔も嫌いじゃねえけど。
取った首輪は放り捨て、ずっと中身が気になっていたアリスのステータスカードを見る。
『アリス』1500G 12歳 ♀
階級:奴隷 守護魔法使い
父 階級:貴族 神殿守護騎士 ウォルター=リドル伯爵
母 階級:冒険者 魔法使い シニエル=リッチ
所持アビリティ
【守護魔法】
【身体強化】
スキル使用履歴
拒絶追放
反射の盾
光の大盾
シニエルに子供ができたという事を知ったウォルターは
多額の金銭を支払いそれをひた隠した。
シニエルはその金銭で豪遊し、使い切った後
生まれてきた娘を高値で売り払ってまた豪遊した。
今は行方不明。
アリスは物心ついた時から檻の中に居るが、
一般常識と貴族並の立ち居振る舞いは身につけさせてある。
身体異常なし。病気なし。性経験なし。
これだけの情報で全てだ。金貨1500枚の理由がわかった気がした。
なんてったって性経ストップストップ!!わかった、わかったから。真面目に話す。
なんてったって父が伯爵なんだもんな、こいつを強請ったらいくらでも金が出てきそうだ。
守護魔法の威力も見た。何より若くてかわいい。
そりゃ高値が付く。
ついでに言ったら守護魔法使いなんて聞いたこともねえ。
俺と同じ金銭術師なら極まれに居るんだが、やはり4段階も離れた身分の差で、しかも禁忌の子供を作ろうなんて人は少ねえんだろーな。
「ま、これでアリスは自由の身になったわけだが、イァラムダが諦めるかどうかはわからんな」
「どうでしょう。私を手に入れた時は合法的に買ったらしいですけど、その話が信用に足るものではないので私にもなんとも言えませんね」
アリスにステータスカードを返す。
指に挟んでぴっぴっと二回振ると、燃えるように消えてしまった。
今までは首輪と繋がってたから消せなかったんだよな。
こん時は消し方がわかったから恥をかかなくて済むなって思ってたんだけど、別にアリスの前で恥かいたところでなんでもないんだよなぁ。
やっぱ見栄はあるんよ。
あと完全に俺のステータスを見なかったのは失敗だった。
まぁそれは後の話だが。
「さーて、あとは俺だけど」
「マスターさんの指名手配は消せませんよね……」
「さんは要らない、俺もアリスって呼ぶからマスターって呼んで」
立場が対等なのにご主人様呼ばわりさせることができるこの名前に生まれて初めて感謝した。
「はい、マスター」
「よろしく、アリス。ところで……そうだな」
俺の指名手配を消す方法はいくらでも思いつく。
俺は、その中で一番金銭効率の高いものを選択したんだ。
「服飾職人の名の元に―――」
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俺は皮の服を脱ぎ、現れた布の服を着た。
冒険者の装備で一番安いものだ。それでも銀貨を使った。どうなってんだこの世界の物価は。ちょっとデフレを起こしてほしいって思ったね。
アリスのコケット社製使用人服は目立つ。まさしく手配の格好と同じなのだ。着替えてもらわねば。
浄化清掃を行う為にとりあえず脱いでもらう。俺の皮の服を着てもらう為に同時に洗う作戦だ。銀貨1枚で済むし。
ここで30分間の問答があったが割愛しとくか。
アリスの反応がすごく面白くてな、顔を真っ赤にし―――次行こうか。それが振り下ろされたら流石に俺でも痛い。
日が出てそこそこ温かくなってきたとは言えクリーニングの間は寒かろうと思って、灯火蛍を買い切りで召喚した。銀貨6枚だ。
いつでも呼び出せていつでも消せる便利なやつだ。精霊の中でもかなり安い方。
手をかざせば温かく、水くらいなら1リットル直火で2.3分あればなんとか沸騰させられる。これは後の実験でわかった結果だがな。
「どうしたアリス、もっと近くに来い」
「大馬鹿です……」
空中で水を纏ってくるくる回る俺たちの服を横目にアリスの方を見る。
桃をミルクで煮たスープのような、薄桜色の肌を全身に纏うアリスの姿は、まるで彫刻のように美しい。
靴と靴下以外何も身に着けていないのだ。
首輪もつけてもらいたかったなぁと思っていたがそれは『今』では意のままだ。当時の俺に教えてやりたいね。
誰も来ないだろうかと胸と下を抑えながら、きょろきょろ風の通る上と左右を見渡し続けていた。
可愛かったなぁ、カメラが欲しかった。初めての野外露―――
―――いやアリスさんちょっと待ってこれは必要な説明ですよ!ほら見てシルキーがわくわくしてる!続き!続き行くから!
脱水、乾燥まで22分。灯火蛍で乾かすのに5分。その27分間は至福のひと時だった。
12年間我慢してきたんだ、これくらい役得だろう。
え?生まれた時から我慢してたのかって?当たり前だろ。男として生まれたからには……な。
皮の服を着せたが、かなり縮んでしまったようだ。俺が着ていた時は膝下まであったんだが、股上ギリギリくらいまでしかない。
下着もないので、内股になって前を必死に引っ張りながら壁を背にしていた。これもまたいい……。
「せ、せめて下着を……」
即決で綿の下着(銀貨10枚)を買った。
あ、区切りがいいからって振り下ろすのは―――
ここからはアリスが話す事になりそうなので、忘れないように血文字で地面にメモっておいた。『この時点であと銀貨6枚だったよ』