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62. 金銭術コンボ(金貨93枚)

「酒如何っすかー! ヤンダ産の新鮮な蒸留酒入ってるよー!」

「ミストラの卵10個で銀貨1枚! おらもう1個オマケだ! 持ってけ!」


 東ゲランサに到着した俺たちは、市場を歩いていた。

 西側出身のリタは、口調が粗野だって事気にしてたけど、この辺から共通語だというのにだいぶ怪しい言葉遣いになっている。


「賑わってるね~、ちょっと色々見てみたい気分」

「と言いながら見てるじゃねえか」

「えへへ、ばれた?」


 フィルが笑顔を向ける。かわいいじゃねーか。

 ……まぁ見て回ってもいいけどあんまり目立つんじゃねえぞ。

 いつだって俺たちは狙われてきたんだし、今回も目的は城だ。


 しかし……、んー……。

 さっきギャランクを見たんで感覚強化(リインフォースメントセンス)を使ってんだが。


 見られている。……そこかしこから。

 どーしたもんか。


 まぁ、世界中に喧嘩売って回ったようなもんだから恨まれこそしてるだろうけど、奴隷商人としてはそこそこ上手くやってきたつもりだ。


 西大陸に来たのは初めてだぞ。

 ここまで敵意を向けられる謂れはない。


 ……そうだな。

 こっちから動こう。


「わっ! 敵襲!?」


 フィルを異次元倉庫に一旦格納。

 位置交換法で、明らかにこちらを見ている奴の部屋に飛び。


炸裂恐怖(バーストフィアー)!」

「ぇ、ひっ!?」


 問答無用でマクロボックスをブチ込む。

 こっちも洒落や酔狂で出てきてんじゃねえんだ。

 こちらに何度も視線を送っていた修道服姿の女性は腰を抜かしている。早速尋問開始だ。


「おい。誰に雇われてんだ?」

「……ぁ…………」

「……?」


 顔を覗き込んでみた。

 目が虚ろになる。

 ……操られてる? いや、今スイッチが入ったみたいだが。 


『あー、あー。テステス。聞こえるかよォ』


 ……。

 こいつかよ……。

 いやらしく特定の語尾を伸ばすこの癖。

 どう考えても奴しかいない。


 パック=ニゴラス。24歳。

 最低の奴隷商人。催眠術師の家系の長男。


「その喋り方、クッソ懐かしいな。一年ぶりか? 死ねよ」

『連れねえなぁライバルよォ』


 こいつはいつもこうだ。

 勝手にライバル扱いして似たような名前名乗って俺の邪魔をしてくる。

 やる事成す事安っぽいし俺の劣化みてえなもんだし、名乗ってる名前が似てっから俺と間違えられたりする。


 俺が敢えてやってねえ事すら手を出したりする。

 仲間ですら記憶を操ったりとかな。

 アリスの記憶も一部持ってかれたままだ。


 最低の野郎。


「俺は遊びでやってんじゃねえんだよ!

 クソみてえなちょっかい出してくんじゃねえ! もう関わるな!」

『そう言うなよ。城探してんだろ?』


 どこまで調べられてんだ。


 ……何が目的だ、こいつは。

 いや、目的はわかってる。俺に勝ちてえんだろ。


 何をしたいのかがわかんねえ。

 俺に勝ってどうすんのかも。ただ達成感の為にやってんのか?

 聞いても答えねえだろうしそんな仲でもねえけどよ。


「何が言いてえんだ」

『最近よォ、塩が高えよな』

「は?」


 相変わらず要領を得ない話をする奴だ。

 その情報は一応入ってきてる。塩鉱山が次々崩落しているせいだ。


『俺が塩鉱山を潰して回ってんだけどな』

「……」


 呆れて声も出なかった。塩が無くなったらおめえも困るだろうによ。

 金儲けの為に手段を選ばなくなったら商人は終わりだ。

 最低を通り越して終わってる。


 ……いいから続きを話せや。


『こっちの大陸にカロン族ってのが居てな、外骨格を持つ人間なんだが。

 殻状の骨にナトリウムを貯め込んで、魔法を使わねえで爆発を起こすんだがよォ。

 そいつが、塩を高く買ってくれんだ』


 …………オチが見えてきたな。


『流通させてる塩の相場を上げる為に鉱山を潰して回ったのによォ、こっちの大陸じゃ通じねえんだ。

 中央大陸じゃ高騰してっから値上げするぜっつったら買ってくんなくなったんだよォ。交渉人の態度が気に入らなかったから……殺した。

 ……なぁ? 最悪っぽいだろ?」


 おめえから見たら、俺はそんな風に見えてんのか。

 俺は目的の為なら手段は選ばないが、限度はある。

 ちょっと、頭に血が昇ってきたぜ。


『ついでに城も落とした。カロン族の長は吊るし首にした。

 男は全員殺して女子供は奴隷にした。どーだい?俺スゲェだろォ?』




 気のせいじゃないな。

 俺の頭から、突然血管の切れるような音がした。




 無詠唱で技能を連打する為に普段の10倍の金貨をぶち込む。


 身分偽装(ディスガイズ)技能借用(スキルバロウィング)金銭代用(サブスティテューション)遠隔売買(リモートディール)


 カード化した白飛沫とかいう名前の忍者のフィジカルロバーをアレンジして、パックを一時的にこっちに呼び出す用意。

 対象が隷属していないと使えないので目の前の修道女をまず奴隷にするか。


絶対服従(アブソリュートオビーディエンス)!! 人体借用(フィジカルロバー)!!!!」

「は? ……アァ!? どこだここは!?」


 修道女の胸のあたりからパックの上半身が現れた。

 マクロボックスを開いて、恐怖をブチ込む。


炸裂恐怖(バーストフィアー)!」

「ぃぎっ……レ、レジストしたぞごふっ」


 ぶん殴った。

 だが、全く効いていないようだ。


「そんなもんかよォ、きたねえ手段使いやがって、早く離せ!」

「もうかなりキレたぜ。

 てめえの腐った精神の奥底にまで後悔を叩き込んでやる」


 と、言ったものの、殴ったところで高が知れている。

 俺の弱点は、俺自身の能力が戦闘に向かない事にある。

 いくらでも武器の在庫はあるし、購入能力は万能だ。


 しかし、俺が一人で戦うとなるとただの商人だ。

 龍殺しの能力を偽装で手に入れたとして、本職の龍殺しと戦えば負ける。

 神名騙りを使えばどうしようもないくらい歪む。


 だから、それを、俺らにしかない力で補うのだ。


歪みの力と禁忌の力(ディストーテッドオーバードライブ)




 全身を虹色の輝きが包む。

 しゃぼん液の被膜が、頭から体まで覆っているようだ。


 リタ、ちょっと借りるぞ(・・・・)

 体が少し膨らみ髪が鬣みたいに逆立った。

 爪は敢えて顕現させない。殺すつもりはねえから。

 頭の鬣は栗色で固定された。肩の筋肉が盛り上がる。


 パックは震えていた。

 まるでライオンに間近で遭遇した新人ハンターのように。


「や、止めろッ! その状態で殴られたら……まだ死にたくねえ!」

「カロン族の長もそう言っただろ。知らねえけどよ」

「ああくそっ、なんで能力が出ねえんだ」


 催眠術師も契約者と同じで精神的優位が条件だからに決まってんだろ。

 此の期に及んでも謝りやがらねえんだな。

 ……お前が謝るまで、殴るのをやめねえ。




*




 56回殴ったところでフィジカルロバーが切れ、パックは消えた。

 満足とは行かねえが、懲りてくれたらいい。


 俺だって人くらい殺す事はあるし、その対象がクソ野郎だったら祈りすらしねえ事もある。

 でもやっぱ、見境無くなったらダメだ。


 ……決めた。パックの奪った城ごと、全部奪いに行こう。

 同窓の連中をカードにするのは抵抗があった。


 でも殺すよりはマシだろ。いい加減やっちまおう。

 変なこだわりのせいで遺恨を残してたんだ。ここで、摘み取る。


「……マスター、終わった?」


 フィルが倉庫から顔を出す。

 うーむ。始まったって言った方が正しそうだが。


「まー一応、終わったっちゃ終わったかな、パックって商人に釘を刺した」

「パック=ニゴラスだっけ。アリスの報告に居た人、商人だったんだね」


 そう、アイツにはほとほと呆れ果てた。

 ちょくちょく俺の前に現れてはケチな喧嘩を売って去って行く。

 ただそれだけのウザい奴だったんだが……。


 フィジカルロバーでこっちに呼んだ時、殺しておけばよかったか?

 いや、それじゃ気に入らなかったから殺したとか言ってたパックと同類だ。


 俺は違う。理由を持ってやらねば。俺は殺人鬼じゃあねえんだ。

 黒法師とか、リザンテラとか。本気で俺たちに危害を加えに来るようなやつじゃなきゃ、殺したりなんぞしたくねえ。


 やれやれ、とフィルに向き直る。


「……マスター、その姿は?」

「これがオーバードライブだ。フィルも似たような事はできると思う」

「へぇ……歪みの力を使うんだ? ボクと同じだね。……なんか嬉しいな」


 にへへ……と笑うフィルを見て、なんとなく脱力した。


 俺は、気負いすぎてるのかもしれない。


 この世には、いくらでもクソ野郎が湧いている。

 その全員を懲らしめて廻るのが俺の仕事じゃあねえ。


 っつーか、世界から見たら俺たちの方がよっぽどクソじゃねーのか?

 歪みで世界を弄り回したり、人を勝手に奴隷にしたり。

 矜持とか正義とか、俺の主観でしかねえしな。


 まぁ悩んだって仕方ねえ、っていつも俺が言ってるし、その俺が悩んでたら意味がねえ。


 思う通り生きるべきだ。

 それができる人生を貰ったんだから。


「それより、この格好どう思う? 変装とかにもなるんじゃねーか?」

「ちょーっと目立ちすぎかな。まっきんきんだし、光ってるし」


 だよなぁ、と肩を竦めながらオーバードライブを解除した。

 ま、とりあえずカロン族を解放しに行く。

 その近くまで移動してから扉を置こう。


 地図を広げて、ゲランサを探す。

 その左下、つまり東ゲランサの現在位置からすると西南西。


 そこに、ライトーン城という城を発見した。

 詳しく見てみると、カロン族によって統治されていた国の象徴らしい。

 国名はカラク。


 目標は、ここだ。

 とりあえず、着いてから全員呼びだして戦闘の準備をしよう。


「この修道服の女の人はどうするの?」

「放置! 同じ状態の奴らがこの国にはいっぱい居るだろうから、とりあえずパックを倒してから対処する」

「りょーかい」


 そんなわけで、俺たちは東ゲランサを後にした。




---




「……体が重い」

「どうしたんですか? りた」


 いや、よくわからないんだけど俺の力がすごい勢いで抜けていく。

 な、なんだこれ。立っていられない。


「……大じょうぶです? 休けいします? おくすりいります?」

「ああ、頼む」


 多分ちょっと疲れが出ただけだ。30分でほとんど荷物を運んだからな。

 褒めてもらうのが楽しみだぜ。


 シルキーから受け取った粉薬(・・)を飲む。

 水と一緒に流し込んだ。……ふぅ。

 ほんの5分くらいで元気が戻ってきた。力が流れ込んでくるのを感じる。


 それと同時に、全身にカッカと熱が入る。

 胸が疼く。吐息が熱い。

 さっきとは違う体の感覚に、戸惑いを隠せない。

 ど、どうしちまったんだ俺は。


 穿いている俺のホットパンツに手が伸びる。

 そしてそのまま、指を侵入させていく。

 そんな、シルキーが目の前に居るのに、こんなところで…………って。


「この薬じゃねえよ!!!!」


 ニヤつくシルキーを尻目に、受け取った薬包紙を。

 思いっきり地面に叩きつけた。

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