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61. 盟友

「……ひっく……ひっぐ……えぅ…………」


 テーブルにそっと置かれた二つの結晶。宝石。二色のダイヤモンド。

 赤と紫のそれは、確かに俺がフレイとルビィに渡したものだ。


 やっぱりシルキーにだけは、黙っていた方がよかったか……?

 いや、でも知っていて欲しかったんだ。


「ルードダンジョンで、助けてもらったんだ。二人の力が無ければ……。

 俺も、リタも、トリアナも、フレイとルビィに助けられたようなもんだ」


 シルキーは、宝石を見たのがショックで泣いてしまったが、もう立派な大人だ。すぐに泣き止んでくれた。

 そんな彼女を抱きしめる。

 あの頃と比べたら、シルキーの背は変わらないのに俺の身長は30センチ以上高い。

 中身も、成長できていんだろうか。


 子供のまま家を飛び出して、大人げなく会社を捨てて、大人になれないまま人生すら捨てて。

 そんな俺が再び歩み始めたこの生では、ちゃんと大人になれただろうか。


 シルキーは、しっかり二人の死を受け止めて、ちゃんと立ち直った。

 俺は、向き合えているだろうか。

 表面上の悲しみだけしか見てないんじゃねえか。


『そんな事ないです』


 共有で思考を見られていたのか。

 すまねえな、不甲斐無いマスターで。


 シルキーは目を閉じて、優しく首を左右に振った。

 睫毛が保っていた涙が、朝露のように弾けて飛んだ。


「このだいや、わたしがもらってもいいですか?」

「いいけど、高いぞ? …………なんつってな」


 ちょっとからかって励まそうとしたんだが、シルキーはいたずらっぽい顔をしながらするすると服を脱ぎ始めたので、すぐ冗談だと明かした。

 もう普段の調子だな。大丈夫そうだ。


 シルキーの首輪にそっと触れる。

 真ん中についていた水色のダイヤを右にちょっとだけずらし、その右側に、紫と赤のダイヤを配置して固定した。非対称(アシメ)な方がお洒落かろうと思ってな。


「どうですか?」

「似合うと思うぜ」

「俺も、……そう思う」


 ……リタ、お前がぼろ泣きでどうする。


「俺がおかしく(・・・・)なってる間、すぐ傍で守ってくれたって話だろ……。

 一言くらい、礼を言いたかった……」

「礼なら、いつでも言えるさ。シルキーのそれに、言ってやれ」


 リタはぷにぷにの掌を合わせて、一心に祈りを捧げた。


 部屋が少しどころでなくしんみりしてしまったな。

 話す事はこんだけだ、と仕切り直して声を上げる。


「あいつらも、いつまでも悲しんでる俺らは見たくねえだろ。

 今からお出かけだ」

「……いこ! わたしも元きだします!」


 ぐしゅ、と最後に目を擦り上げてから笑顔を向けるシルキー。

 俺は静かにしていたフィルと、まだ祈っているリタに声をかけた。


「なあ、西の大陸にでかい城ってあるか?」

「……俺が前住んでたところか?

 ……答えないつもりはないけど、先に聞きたい事がある。

 なんでそんなに城が要るんだ? なんでそんなに禁忌に拘る?

 なんで、金を集めるんだ?」


 至極真っ当な質問だな。

 リタは入ったばっかりだし、……思えばロズにも話してない。


「そりゃーな」


 俺は一旦区切った。

 そして、勿体つけるようにゆっくりと口を開いた。


「……世界を買うためだよ」




---




 俺は、設置した扉同士の距離を0にする事ができる。

 これは、今は滅びた旅人(トラベラー)という職業の者が、莫大な魔力を消費して使っていた技術だ。


 それを金銭術に取り入れて長距離移動に使っている。


 俺が配置している扉の数は、意外と少ない。


『シルバーケイヴアジト内』

『ルード帝国立ホテル102号室』

『レッドチリ砂漠』

『エレニアディロウホテル102号室』

『カントカンド貧民街マスターの店』


 そしてここ、アトラタ城改めマスターキャッスル1号。

 ……え? 1号はやめろって?

 バッカヤロ、この絶妙なダサさ加減がいいんだろ!

 おめーら平成だろ! 昭和のセンスを甘く見るんじゃねえ!


 全く何言ってるかわかんねえ? ……そうだよな。たまに寂しくなる。




*




「まぁ、2号を買いに行くか。

 ちょっと海渡ってゲランサあたりまで行ってくるわ」


 ちょっとどころの騒ぎではない移動距離だが、俺なら位置交換法でどこまででも行ける。

 ホテルの一室を長期で借りて、そこに扉を置いたらみんな来れる。

 だからとりあえず一人、はちょっと嫌だからもう一人連れて行く。


「アリスとトリアナは掃除、フランとロズは荷物運び。

 リタはシルキーの指示で荷出し準備。仕入れは終わってるからな。移動費はサイフから出してくれ。

 フィルは俺と行くぞ」


「はーい」


 という声が折り重なる中一人、


「いやったああぁぁぁ! マスター! よろしくね!」


 そ、そんな嬉しいか? そこまで喜ばれると毎日指名したくなっちゃうよ、おじさん。いっぱい貢いであげようね。

 じゃなくて、俺も嬉しくなる。

 最近あんまり一緒に行動する事なかったからなぁ。寂しかったのかも。


「まぁ、向こう行っていい城見つかればそのまんま買って扉を置くよ。

 見つかんなきゃホテルの一室に置こう。

 ありゃ便利だしあっち向けの商売も視野に入るからな」


 思い思いの返事を返される。らじゃーとか了解とか。

 別に兵隊じゃねえんだから矯正しようとは思わない。

 個性があるっていい事だろ。


「んじゃ、各自仕事にかかってくれ! 解散!」

「はーい!」


 割り振った仕事に早速取り掛かって行く光景を見て、満足感に包まれた。

 いや、まだ何も終わってねえ。俺らの仕事が一番重いんだからとっとと取りかからないとな。


「マスター、行こっ!」

「うぉ、ちょっと、ちょっと待って!」


 腕を掴まれぐいぐい引っ張られる。

 足元の床がずりずりスライドして行き、それが俺のバランスを奪いつつ彼女の移動を助けている。


「気軽に技能(スキル)を使うな」

「いっちばん気軽に使ってる人には言われたくないな~」


 確かに。

 そう思いながら、俺はマスターキャッスル1号の屋上(・・)へ引っ張られていくのであった。


 黙ってても俺の移動方法をわかってくれてんだなーと、無言で感心した。




---




 結論から言うと、城を出て海を渡りきるまで30分もかからなかった。

 フィルに海を割ってもらって、視界ギリギリまで位置交換法で飛ぶ。


 精霊魔法でレヴィアタンを呼んでもよかったが、正直上位精霊や魔神の力を借りるのは躊躇われたんだ。

 そこでフィルの浸食世界(タッチザワールド)が光る。


 フィルは世界に歪みを起こし、その結果として現象を操る事ができる。

 歪みを起こすと言っても、俺の神名騙りやアリスのオーバードライブほどじゃない。本当にごくごく小さな歪みだ。


 世界とは、しゃぼん玉みたいなものだ。触り過ぎると壊れてしまう。

 だからこそ是正者達にフィルは最も危険だと考えられているんだが。


「えへへ、マスターと二人きりだ。久々だなぁ。幸せだな~」


 でれでれしながら俺に纏わりついてくる子犬のようなフィルを見ていると、そんな気持ちは微塵も湧いてこない。

 どこが危険だって? 言ってみろよ!


 そんな不毛な事を考えながらサバンナのような大地を交換移動し続けていると、視界に村が入った。

 つまり(・・・)、村に到着した。


 特に何もなさそうな、狩猟民族系の村だ。

 ダンジョンも鉱山もなしでよくやってるよ。


「フィル、ここはなんだ?」

「セダの村だね。西の大陸最東端の集落。特に見所はないから東ゲランサ辺りまでどんどん飛んでいいかも」


 なるほどね。わぁったよ。

 そういうわけで村の中をトコトコ通り抜けて反対側から再び移動を再開。


 しようと思った俺の視界の端に、チラリと金色の軽鎧を纏った男が映った。


 ……げ。


 『ギャランク』だ。なんでこんなところに。


 急いで二回連続視界限界まで飛び、見なかった事にしたのだが。

 ……気づかれていたら嫌だなぁ、気配くらい売って来ればよかったか。




---




「盟友よ、何故逃げるのだ……」


 寝食を共にし、机を並べ勉学に励んだ仲であろう。

 道こそ違えてしまったが、我らは友と言える仲であったと断言できる。


 『ウラリス』で知り合い、時にぶつかり、時に戦い、時に競った。

 あそこでの学生生活は、輝かしく思い出深いものだった。


 友よ、お前とまた語りたい。

 口論で、剣戟で、拳で、魔法で、戦略で。


 その為に我は、こちらに付いたのだ。


 『最低の』、共にウラリスに通った、記憶を操る催眠術師の商人。

 パック=ニゴラスの側に。


「……パック、こちらギャランク。案の定来たぞ」

『やっとか、おせーんだよなぁいつもこいつはよォ』

「エレニアの城も、買えたらしいな」

『アァ? パクったみたいなもんだけどよォ。

 あんなオンボロ、釣りエサにもならなかったぜ」


 我とマスター殿を戦わせてくれるならば、どんな憎い者にも手を貸そう。

 我の生きる楽しみはもう、そこにしかないのだ。


 勝利と終わりが同時に来たらん事を願う。


『じゃあよ、共鳴瞬移動ができるようになったら早く帰ってこいよォ』

「意を得た」


 次の共鳴まであと2刻ほどだ。

 ゆっくり待つ。

 盟友よ、先に行って待っていろ。

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