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59. 消滅した自宅(金貨390枚)

 俺は死んでいたから、動けなかった。

 皆が戦い、フレイとルビィが倒れる中、何もできないのがもどかしかった。


 戦いのさなか、死んでみて(・・・・・)わかった事がある。


 死んでいても、共有(リンク)が生きていれば、次の命に繋がるまで意識は残る。

 命が全部無くなった時も意識が残るかの実験はしたくねえ。

 そんなん死ぬでしょ。


 意識があっても、俺の体はぐちゃぐちゃだったから何も見えはしねえ。

 しないが、共有で繋がっている人は視界も繋がんだ。

 全員分の視界を同時にモニターできるのは便利っちゃ便利だな。


 一番不安だったのはシルキーだ。

 戦力にならないと言うのにアリス達に預けたのも、ただアレを見られたくないという勝手な気持ちからだ。


 今すぐに異次元倉庫に匿いたかったが、死んでいる時は能力も技能も使えねえみたいだ。

 とにかくもどかしい。


 5分間何もできはしないが、シルキーを見守る事にした。




* 




 シルキーは『赤い視界』に集中する時、右手の人差し指と中指の間からものを見る。

 ちょっとあざとく感じていたが、本人は集中する為にやっているのだ。

 至って大真面目なんだ。


 かわいい。


 ……それは置いといて。

 数々の、感覚として流れ込んでくるその情報の濁流をいとも簡単に泳ぎ進み、必要な情報だけを見つけ出すそのセンス。

 天性のものだ。


 とある貴族屋敷の3階に目標をつけ、そこを目がけて突き進んでいく。

 階段をゆっくり昇る。踏みしめる石製の床がぱらぱらと崩れる。


 お、音を立てるなよ。


 シルキーは壁の後ろから詠唱を始めた。

 気づかれていないだろうか。ハラハラする。


情報攪乱(いんふぉでぃすたーばんす)!」

「は……へ?」


 ……完全に杞憂だったようだ。

 このオミッサ、俺の拒絶追放でどっかに飛ばされたハズなのにもう合流できたというのが不思議でならなかったんだが、どういう絡繰りなんだろう。


「やたっ、れじすとされなかった! じょうほうぬきぬきしましょうねー」


 シルキーって一人でもこんな感じなのか……。

 掌を手前にしてピースを作り、その間からオミッサを見るシルキー。


 次の瞬間。




 世界が変わった。

 ピンク色の雲が流れ、藍色の空が四方を、空を、地面を覆う。

 雲間から数々の目が、大小様々な目が、色取り取りの目が、こちらを見る。


 俺とシルキーは裸で空中を漂っている。


「……どこだここは」

「ま、ますたぁ? なんで……」


 手を取り合って離れないようにする。

 辺りの景色は、生理的嫌悪を催すような光景が広がり続けている。

 だから、俺がシルキーをガン見しているのは彼女が全裸だからではない。


 断じて。


 シルキーは恥ずかしそうにちょっと目を逸らしたがその先は目、目、目。

 焦って俺の方を見返してきた。


「やぁ。また会ったね。君たちの時間では一年ぶりかな?」


 ……二度と会いたくない概念(ヤツ)筆頭が現れた。

 オラクルファウンテン以来か。


「そうだね、あれ以来だ」


 シルキーは縮こまって俺の腹に顔を埋めた。

 そんなに見たくないのか……。

 気持ちはわかるがトワから見たらいかがわしい行為をしているように見えるぞ。


「……僕は本当はどうでもいいんだけど、こんな手段で『あっち』の情報に手がかかるとは思わなかったって言うから仕方なくブロックしに来たんだ。

 ただ君は拒絶追放がどういうスキルなのか理解した方がいい」

「どういう事だ」

「自分で考えなよ。1から10まで教えてもらえると思うんじゃない」


 トワの感情は読めない。そもそも顔がねえ。

 何を言わんとしているのか、伝わってこない。


「余計な事をするなって話だよ。

 ……この部屋のデザインも、どうだい。

 二度と来たくないって気持ちにならないかい?」


 なったなった。

 そもそも会いたくもなかったわ。


「つまり、オミッサから情報を抜くなって事だな」

「結論だけ言うとそうだね」


 そういう事ならしょうがない。

 ……おいシルキー。

 へばりつく場所がちょっと下過ぎないか。おーい。帰るぞ。


「ふぁい」


 肉を吸うのをやめろ肉を。

 鍛えてんだから。歯型ついたら困る。


 トワは泡立つ体で肩を竦めているように見えた。

 そして、徐々に消えていく俺たちの体に向かってこう言った。


「別に知られたところでどうこうってわけじゃないんだけどね」


 じゃあ放っといてくれよ、と思った。




*




 同時刻。


「はあああああッ!」


 アリスが吠える。最前列に居たメイス持ちの精霊使いが槍の切っ先で首を飛ばされ死んだ。

 転がるその首を踏みつぶして脳漿をぶちまけさせた。


 そこまでやるか? とも思ったが、なるほど。

 今転がっている死体は全員頭が潰されている。

 これが復活しない条件なんだ。


 トリアナが接敵しているリザンテラの方からベルの音と一緒に赤い閃光が走るが、新たに復活する者は誰も居なかった。

 彼女は下級精霊魔法ででかい現象を起こして戦うが、なかなかリザンテラには決定的なダメージを入れられない。


 残りは、5人と1匹。

 リザンテラとスラテリ。

 杖を持ってる奴。鎌を持ってる奴。短剣を二本持っている奴。

 そして。


「バルルルルルル! バルゥ!」


 闘牛のような興奮した声を上げる角の生えた白馬。

 そんなユニコーンみたいな見た目して獰猛にも程があんだろ。

 それとも伝説通り近くに処女(おとめ)が居ないから暴れてんのか?

 ……ごめん俺のせい。


 とか言ってる場合じゃない、ユニコーンに向かい合ってると言うのに短剣持ちが背後から迫る。

 アリス後ろ! と思う前に横へ飛んだ。うまいぞ!


 小さな茶髪の短剣使いに、白い角が突き立った。

 ああ、可哀想に。将来有望そうな美少女だったのに。

 腹を突き上げられ背中から血を吹き出しながら少女は声を出した。


「このあたしに、歪みの癖して攻撃しやがったな」


 短剣二刀を角に向かって振るう。

 アリスの槍を何度受けても折れなかったそれは見事に両断された。


 そして、あろうことか角と、それが刺さっていた傷口が。

 亜空間に引きずり込まれるようにして、傷口という概念ごと消滅した。

 オイオイまだあんなの残ってんのかよ。


 トリアナの方はと言うと、割といい勝負をしているように見える。

 三閃必中をモロに食らっても、俺に隷属した時ついた『超回復』のお蔭で、死に至らしめられるほどのダメージを受けない。


 ……大勢は決したんじゃないか?

 あとはリザンテラさえ殺せれば、禍根無く普通の生活に……。

 戻れるかとも思ったんだが、折角買った家はなくなった。


 また、この大破壊の犯人として扱われたらまともな生活どころじゃない。

 別の国を探すべきか……?


 ……リザンテラ。

 ここまでの大破壊を起こしておいて、俺たちが殺しそこなってしまえばまたのうのうと生きて、次の禁忌の子を殺しに行こうとするだろう。


 それはダメだ。絶対に許してはいけない。

 殺さねば。


 いや、そんな程度の気持ちじゃダメだ。

 もっと、心に刻まねば。

 必ず殺すと。


 絶対に、絶対に、絶対に殺す!

 殺してやる!


 思考に集中していると、意識が呼び戻される感覚がする。

 やっと来たか。時間が!


 脳の感覚。痺れはあるが良好。

 組み上がったばかりの肉体の感覚にくらくらする。鼻血が出る。

 しかし無理矢理体を起こし、強引に足で全身を支える。


 悪くない。いける。

 俺が完全に立ち上がるのと、アリスが微笑みながら倒れるのはほぼ同時だった。


「あとは、頼みました」


 わかった。あとは任せろ。

 アリスを安全な倉庫にとりあえず入れる。ベッドにそっと落とした。

 俺は、馬も短剣使いも、残りの連中も全て無視して大声を上げた。


「リザンテラァァァァアアア!!!!」


 俺の叫びと街からの警報が、同時に瓦礫の山に響き渡った。

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